モンシロチョウ
菜の花畑を舞っていた。
ユラユラと。
おばあちゃんと女の子が椅子を並べて座っていた。
女の子が駆けてくる。
逃げなければヤバいのかも知れない。
けれど、もう少し菜の花畑を待っていたくて
まだ、ちょっと足の遅そうな小さな女の子になら掴まらないだろうと、菜の花の黄色い花弁にしがみつきながら食事をとっていた。
女の子はそっと私の羽をつかんだ。
あっ、しまった掴まった。
女の子は私の顔をまじまじと見つめた。
「お願いします、離してください」
私は女の子の目を精一杯見つめた。
すると、女の子は。
「気持ち悪い、チョウチョの目ってブツブツいっぱいあって気持ち悪い」そういって振り回すように離された…。
「酷いわ、私は蝶よ!気持ち悪いだなんて」
「勝手に掴まえて、振り回した挙げ句に」
私は腹立ち紛れに、女の子の顔めがけ羽ばたいてやって、白い鱗粉かけてやった。
女の子は、怖がって逃げて行った。
私は、また菜の花畑を自由に飛んでいた…という夢を見た。
狐狗狸さんで前世はモンシロチョウと出た日の夢だった。
2024年5月10日
心幸
忘れられない、いつまでも
「もう一度、目が見たかった」
生涯忘れられない別れの言葉を私は聞いた
その人は子供のような顔をして子供のように泣いた。
何もかもが薄ぼんやりと頭の中から消えて行くその人は、泣きそうになりながら自分の頭を叩く、パニックになりながら不甲斐ない自分に壊れ散った自我の破片を拾い集めようとした皺だらけの小さな手は血に染まっていた。
愛を覚えていますか?
「あー、あー、あー」赤ん坊のように泣き叫ぶその人を突き離しても突き離せない赤い絆は、その人の小さな体に真一文字に刻まれていた。
愛を覚えています。
鮮明に痛々しいほど愛しい(かなしい)ほどに
その人は何時も謝っていた。
その人は何時も笑っていた。
その人は優しかった。
その人は温かかった。
その人は腹かっさばいて
私を産んだ。
私に命をくれた人
その人は
子供に帰り
愛しさ(かなしさ)の縁で
夫に呟いた
「もう一度、目が見たかった」
いつまでも、いつまでも
生涯忘れられない
愛の言葉を私は、その人に教えてもらった。
2024年5月9日
心幸
一年後
一年後のことなんて分からない…。
一年は短いようで長いと思う、歳を重ねるほどそう思う、大人になると一年はあっと言う間だとか聞くが実際もう夏か、もう年末かとは思うのだがそれでも見送ることの多い人生だったり事故や病気の多い人生だったりするものだから
大人になればなるほど一年後のことなんてどうなっているかなんて分からないのだと思うのだ。
去年は確かに父母と共に桜を見たのに一年後には一人だった。
去年は確かに階段を駆け下りていたのに一年後には走れなくなっていた。
あんなに好きだったのに一年後には前世からの敵同士みたいになっていた。
一年後のことなんて分からないから、今日が人生の最後の日なのかも知れないと思うことにする、そうすると満開の桜も散る桜も入道雲も風に揺れる稲穂も落ちる霜も降る雪もあなたの笑顔も奇跡みたいに美しく見える。
2024年5月8日
心幸
初恋の日
五月雨は緑色 悲しくさせたよ一人の午後は
恋をして淋しくて 届かぬ想いを暖めていた
好きだよと言えずに 初恋は
ふりこ細工の心
放課後の校庭を走る君がいた
遠くで僕はいつでも君を探してた
浅い夢だから 胸を離れない
夕映えはあんず色 帰り道一人口笛吹いて
名前さえ呼べなくて とらわれた心見つめていたよ
好きだよと言えずに 初恋は
ふりこ細工の心
風に舞った花びらが 水面を乱すように
愛という字書いてみては ふるえてた あのころ
浅い夢だから 胸を離れない…
胸を離れない…
ザァー
静かにレコードの回転は終わっていた。
机に突っ伏して その歌声を聴いているようないないような、そんな1983年の午後17歳は、この歌の世界にいた。
その頃は女子より男子の方が純な気がした。
ちょっと焦らすような
それでいて、イライラするような感じ
なんか、なんかボケてる彼は冗談しか言わなくて、変な悪戯を仕掛けて来て、しょうもなくて笑いながら自転車のペダルを踏んだ。
それでも、何故か突然
真顔になったり、腕を引っ張ったり
肝心なところで、男の子だったり女の子だったりな二人だった。
いつも、光と影の中でじゃれあって
悩みも相談して いつの間にか
なにかに傷ついていた、そんなとこよく似ていた二人だった。
そのうち、互いに世界が広がり
レストランのバイトのように
人も入れ替わり
人混みに押されて
傘の波は離れて行った。
次に誰か好きになっても
恋も2度目なら
少しは上手に 甘い囁きに応えたい
なんて 上手なこと言えなくて
いつも、あんなにピュアに恋することを教えてくれた貴方には叶わないわ。
1番綺麗な風に 貴方と吹かれていたから。
とかなんとか言って
セピア色の写真を見つめている。
短ランにボンタンの貴方の横には、三原順子になりたかった十七歳のわたし…
いつか何処かで会っても変わらないでねって変わらなきゃ駄目なんだから。
それが、生きるってこと、写真の中の貴方は変わらないけど、私は変わったわ。
もう、会える自信が無いかも知れない。
私だと気づいてくれるかしらね、優しい時が互いに流れて、30ウン年ぶりの再会に心躍る
週末は同窓会、同窓会は初恋の日🌷
2024年5月7日
心幸
明日世界が終わるなら
僕はひとりで
アスファルト蹴飛ばし投げ捨てられた空き缶のように地面を転がった。
互いの嘘を見破るまでが、愛だと言うのなら
いっそ、世界を終わらせようか。
世界が終わるまでは、終わることもない。
全て嘘だと知っても、それは、それほどまでに
僕を失いたくないと願ってくれた、君の心が流した泪だと知っているから。
世界が終わるまでは、終わることもない。
だから、安心して、それは、それほどまでに
僕は君を失いたくないと願っているから、僕の心は何時も君を呼んでいるから。
世界が終わるまでは離れることも終わることもない。
明日世界が終わるなら
聞かせておくれ、君の後悔を
僕なら、変わらない。
やつれ切った心まで壊されても
君の嘘も後悔も、君の心が流した泪だと知っているから。
人は弱く
いつも形を求めていて
かけがえのないものを見失う、欲望だらけのこの街で、忘れ去られたバーボンのように溶けた氷がテーブルを濡らしていた。
互いの嘘を見破るまでが愛だと言うのなら
いっそ、墓場に抱いて行こうか。
星屑の嘘も君の輝きは奪えない
それは、それほどまでに傷ついた
君の心の要塞だから…
僕は知っている。
明日世界が終わるなら
聞かせておくれよ
蕾の花が似合いの
君の心根を。
僕は待っている。
世界が終わるまでは離れることも終わることもない。
僕の信じるものは
君の精一杯の嘘だから。
2024年5月6日
心幸