「……起きたくない」
冬の特に1月の早朝は布団から出るのが億劫になる。賃貸の家は風は凌げど寒さは凌げず,外気温がそのまま流れ込んでくるようで。日の出前の時間であればなおのこと。冬のいと寒きに,なんて思える教養なんか持ち合わせていない自分には朝練なんて拷問にも近い苦痛である。
「嫌だなぁ」
別に部活そのものが嫌いなわけじゃない。大変なことはあってもそれを楽しいと思えるくらいに充実している。成長している実感もあるし結果もではじめている。
だから嫌なのはたったひとつ
「……あいたくない」
つい先日までは顔を見るだけで幸せだった同じ部活のその人。好きな人であるなら尚更,想い人を見つけたのなら喜ぶのが筋なのに。あの人の幸せを願えない自分がいる。
「寒い」
心が身体が寒いから。些細なことですら気になってしまって仕方ない。どうしてあの笑顔の先は自分じゃないの? そんな風に妬んでしまって 醜い自分が嫌になる。
「どうせなら凍りついちゃえばいいのに」
雪にも氷にもなれない寒いだけの日なんて嫌いだ。
テーマ: 寒さが身に染みて
それは本当はずっと傍にあった。すぐ隣 手を伸ばせば届く位置に。いつだって真横にあった。
そう気づいたのは今さらで。それはとうに遅すぎて,確かにあったはずの救いはもうここには存在しない。
盲目の瞳では燦々と降り注ぐ光が眩しすぎて瞼を伏せたままでいた。温かいはずのそれは寧ろ烈火のようで身を焦がしてしまうから,見えないふりをした。
だから ね。闇夜の中 最後に一つだけ残った一筋の光は柔らかくて優しくて,どこか怖いんだ。蜘蛛の糸を切ってしまった彼の二の舞になりそうで。
それでも,仄暗い世界に射した光は美しいから。
«一筋の光»
そこは閉ざされた世界で 小さくて閉鎖的,部外者の侵入を拒む未完成で不完全かつ出来上がった空間だった。
まだ幼かった私にとって"学校"という名の牢獄は1日の半分を過ごす場所。けれど,牢獄の名に反して無法地帯なそこは気にくわないものを排除するために 囚人たちが結束して私を虐げる。
彼らにとって私はいらない それどころか害を及ぼす異物であったのだと思う。そこには特別な意味などありもしない。ただ単純に外から侵入した何かを許容できるように仕組まれていなかったから。
だから私は いないもの であった。
『どうして』
そう 何度問うたか。
『ごめんなさい』
魔法の言葉も無意味で。
「離れてても友達」
ねぇ いまさら。あなたの言葉なんか信じられないよ。きっと一生。
テーマ ; «忘れたくても忘れられない»
それは今を生きている人間の中で,当たり前の日々を過ごし なおかつ幸せを抱えている。そんな幸福で恵まれた一部の大多数の人達だけが持つ傲慢な願い。
有り難味なんてほとんど感じてなくて,誰も彼も当然のようにその残酷な言葉を大した意味もなく口にしている。
……かく言う自分すらも無意識に。
"あいつ"にはもう来ない日なのに。そんなことも知らずに言ってしまった。
『また明日』なんて。もう謝罪も言えやしない。遅すぎた後悔は届くことはない。
テーマ ; «明日もきっと»
「さようなら」
その言葉が君の別れの挨拶。『またね』でも『バイバイ』でもなくて,必ず『さようなら』と君は言う。
まるでこれが永遠のお別れみたいな そんな挨拶を君はいつも選ぶ。次,なんて また,なんて約束できないとでも言うように。
ん と発音する時のように結ばれた唇。伏せられる睫毛。真っ直ぐに揃えられ伸ばされた指先。そのどれもがいやに丁寧な動作で妙に不安な気持ちを掻き立てる。
スっと ふとした瞬間に消えてしまって,これが本当のお別れに 別離になってしまうんじゃないかって。考えすぎだと臆病だと笑ってくれていい。むしろそうしてくれたのならどれ程気楽になれるのだろうか。
あぁ,でも。きっと君は……
否定してくれないのだろうね。
それはきっと初めから定められた運命。赤い糸はいつか解けて跡形もなく消え去ってしまうから。
それも遠くない日に。
テーマ ; 別れ際に