祖父母の家にあった壁掛けの時計。1時間ごとに短い音楽のなるそれが幼い頃から好きだった。
真夜中でも鳴り響く鐘のような音はともすれば不気味さすら漂わせるにも関わらず、静寂の中たったひとつ鼓膜を震わすその響きが心地いいと感じた。
揺れる振り子を好き好んでただ眺めている時間さえあった。一定のペースで行ったり来たり忙しないそれをじっと見つめていると、考えても解決しない自分の悩みを忘れられた。
一人暮らしを始めたワンルームに時計はない。アナログの壁掛け時計どころか卓上のデジタル時計すらも。初めから設置されていたテレビも撤去した。
スマートフォンひとつあれば時間の把握に困ることはない。アラーム機能もあればカレンダー機能もある。実用性で考えるのならば、アナログよりデジタル。そもそも用途の被った時計は不要だった。
それでも腕時計を買うと決めて、数多の中から選んだのはただ回る針が時間を示すだけのシンプルなシルバーの時計だった。なんの機能もない、ソーラー充電だけが
テーマ:【時計の針が重なって】
朝一番の教室はどこか不可思議な空気を纏っている。
誰もいない早朝の静寂の中、たしかにそこは普段通りの場所なはずが まるでよく似通ったけれど別の理の平行世界に迷いこんでしまったかのような、まるで見知らぬ空間に放り出されたかのような、そんな目眩がしそうな錯覚に陥る。
(温度がないから、か)
響き渡る笑声も、微かな靴音も、絶えず広がるざわめきも。日中であれば当たり前にそこにある諸々とすべて隔絶された一時。
妙に現実感がなくて神聖な恐ろしささえ感じられる空気。ほんの1時間もすれば少年少女の煌めきで眩いばかりの明るさに満ちるこの場所が、誰にも知られず静けさに揺蕩うこの瞬間が訳もなく愛おしかった。
テーマ:【誰もいない教室】
煩わしいと思っていた。
関わらないで、ほっといて欲しかった。
一人でいることに孤独を感じることなんてありもしなかった。そのはずだった。それなのに
「寂しい、なんて」
当たり前に隣にあった熱を距離感を。自ら拒絶していたそれを恋しく思う日が来るなんて思いもしなかった。
特段会話がなくたって目と目が合えば微笑み合う程度のそれだけのクラスメイトとも友人とも呼べない関係性が、それでも確かな繋がりであったなんて気がつきもしなかった。
「過去の自分が聞いたら失笑ものね」
大人になれば煩わしい関わりなんて綺麗さっぱり清算できるとそう思っていて。実際問題、仮初の蜘蛛の糸の如く脆くてか細いクラスメイトという名の強制力はその役目を終えたというのに。
あんなにも求めた、誰にも関与されず邪魔されない世界は何処か寒々しかった。
(こんなに弱かったっけ)
群れることは確かに嫌いだった。
周りに合わせるのも好まなかった。
自由に好きなように自分の意思を貫いていたかった。
そんな生き方を邪魔されることが我慢ならなかった。否定は好ましくはないけれど構わない。陰口は耳障りだけれど右から左。賞賛や同意が欲しいわけでもなかった。ただ、思うがままに自らの選択に責任を負いたかった。
地元を、親元を離れて。
自分ひとりで稼いで家事もして己の力だけで自分好みの生活をして。人の目も気にせずに自由気ままにふらり電車に乗って旅に出て。家に籠って料理してお菓子を作って本を読み耽って趣味に没頭して。何もかも望んだ通りに、干渉されず丁寧な暮らしを実践してるというのに。
「不満はないはず、なんだけどな」
仕事はやりがいがあって順調で。社内の人間関係も良好で周りからの覚えも悪くない。貯金も貯まってきていて欲しいものは大抵買える。行きたかった美術館も商店街もオシャレなお店にだって思い立って出かける毎日。手作りの食事もバランスは取れていて小洒落たスイーツもセットでまるでカフェのようなクオリティ。十分に恵まれていて
書き途中
テーマ:【ふたり】
"夢"だとか"目標"だとか
一見は抽象的な癖に、やけに型にはまっていて。誰かさんの世間の理想を求められる答えを、それが正しいとばかりに一方的に持つべきであれと押し付けられるある種の宗教は心底理解不能だった。
定義不足にもかかわらず、不正解は無遠慮に押し付けられ。答えはないと言いながら、模範解答以外に理由を求め、挙句顔を顰めて否定する。自由を掲げながら、子供の無邪気さを要求しながら、体裁を必要だと暗に伝えてくる。
「パーツが欲しいのならそう言えばいいのに」
それが正しさだと、ルールだと 明確に定められるのならこれほど楽なことはない。責任の所在は規則に、しいては定めた誰かに帰結するのだから。決められた範囲の中はすべて許される。白か黒だけの単純な世界。
言質はとらせない。選択権は委ねさせる。なのに選択肢は実質的に一択で、あなたが言ったのでしょうと 困ったらそう詰寄るだなんて。それはあまりに大人気なく卑怯だと思った。
守られる立場においてルールがあることは当然だと考える。ギブアンドテイクだと言われたって受け入れる。それができる程度には自己も判断能力もあるつもりだ。なのに子供扱いして都合良く操ろうだなんて、それは侮辱に等しい行為。
「夢は自由だと仰ったのはあなた方ではないの」
彼らの言う世界に、本当の"夢"というものが存在しているとはとても思えなかった。
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テーマ:【ここにある】
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テーマ:【心の羅針盤】