渚雅

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12/19/2024, 1:21:42 PM

──331.5 + 0.6t



冬は、嫌いだ。

日が短くて天気も悪くて、曇天か雨かどちらにしても蒼穹は遠い。雪は綺麗ではあるけれど音もなく降り積るそれはどこか近寄り難い。

どうしようもなく温もりが恋しくなるけれど触れ合う熱は傍にはなくて。毛布を握りしめて巻き付けては深く息を吐くばかり。それすら白い水蒸気に変わって、視覚すらも熱を奪い去ってゆくよう。

震える指先でタップしたその連絡先は繋がらなくて。さみしい、なんて零れた言葉はただ静寂に飲まれた。


12/9/2024, 3:00:32 PM

かつて、小さな子どもだった頃は、世界は自分を中心に回っていて。至極当然のように誰かに甘えて寄りかかっては、優しく手を引かれては守られていた。

そこには危険なんかほとんどなくて、たとえ転んだとしても手を差し伸べて慰めて手当をして、失敗も貴重な経験だと見守られていた。

安全で快適な箱庭のなか自由でのびのびと遊んでは日々を繰り返して、それを肯定されて生きてきた。



けれど、今は。──ひとり。

仕方がないことなのだ。守られるべきは小さな、か弱い存在であって 独り立ちの済んだ個体がいつまでも巣に蹲っているなど赦されるはずもない。

羽を手に入れ風を読んだその日から世界は広がってしまったのだから。それだけの知識も実力も確かに授けられているのだから。


でも、それでも。

どうしたって、触れる熱のない指先が凍えてしまう。大人だって孤独は寂しい。正解なんて分からない。進むべき道も知りはしない。情報の波に惑わされてしまう。

ただ歳を重ねただけでは、足りない。なにもかも満たされなくて恐ろしくて目の前すら見えない。本当に何もわからなくて身動きができない。そんな夜がある。


だからお願い。叶うのなら どうか。
どうか、手を繋いで───



テーマ; 【手を繋いで】

10/29/2024, 3:00:42 PM

もしも、あの日。
もしも、あの時。
もしも、あの場所に。

戻れたら。やり直せたら。


そんな非現実があり得るとしたら、そうしたら、何か変わるのだろうか。何か変えられるのだろうか。

後悔を、失敗を、未練を。取り返すことを、その努力をきっと精一杯行うのに。それなのに、やはり、時間は巻き戻りはしない。過去は過去だ。




けれど。未来──現在から続くその時間は、確かにこの手で描き換えることができる。

後悔は遅すぎる。それでも、かつて舐めた辛酸を糧に成長する権利は今ここだけにあるのだから。せめて、

せめて。躊躇わず己の望みの方へ一歩踏み出すと決めた。




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テーマ; 【もうひとつの物語】

10/29/2024, 4:54:33 AM

ふと、疲れてしまう時がある。

たぶんそれは、普段目を逸らしている『疲れ』というものを認識してしまった瞬間なのだと思う。


吐いた息が溜息になってしまうこと。視線が下を向いてしまうこと。朝起きるのが億劫になってしまうこと。食事すらも抜きたくなってしまうこと。

日々を丁寧に一歩づつ歩んではいても、どうしたって、どうしようもなく、蹲って殻にこもってしまいたくなる。そんな瞬間がある。


(呼吸ってどうやってしたっけ)

無意識に前を向いて。無意識に努力して頑張って。無意識に限界を視界外へ追いやる。

その、無意識だって、労力は必要なこと。それは変えられようのない事実で。でも気づいてしまえば動けなくて。そんな瞬間に自分が今何をしたいのかが理解できなくなる。

やらなくちゃいけないこと。するべきこと。片付けるべきもの。したほうがいいこと。etc....... それらはわかる。動け、と 脳は指示を出してくる。

でも、やりたいこと、目標、夢......そんなものを見失って。自分の立ち位置がわからなくなる。


(そもそも、なんで、息、しなきゃいけないの)

Should,
Must,
Need,

主語すらない。理由も知らない。望みもない。なのに何故……


(……わからない、や)

答えは未だ知りもしない。

それでも、盲目の目で眩いばかりの朝日を認識した。今日がまた始まる。


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テーマ; 暗がりの中で

10/24/2024, 11:32:48 AM

「───」

そう、言えたらどれほど良かっただろう。
たとえ何が変わらなかったとしても、己の中のその想いをあの人へ伝えられていたのなら。そんな今があったのなら、それは、もっとずっと……


そんな意味のない空想を今だ捨て切れず、過去を振り返っては変わらない後悔を慈しむ。言わばこれはただの自己憐憫。たられば、なんて今からでもなにかを行う勇気もない癖に。



「同窓会……」

参加する気はなかった。それでも、もう少し考えよう、とそんな珍しい気紛れによって、もう7日ほど机の上に放置されたその葉書。

隣合うひとつの二重線とひとつの丸でなにかが変わるというのなら。そんな風に勇気を振り絞って、卒業以来初めての顔合わせに一歩踏み出す。


(グループで、来るって言ってた)

就職に進学とバラバラの進路を志した割に、何故か細々と残り続ける文明の利器の中の微かな繋がり。ときたま意味もないやりとりが唐突に行われては沈黙を繰り返すあの頃のままの時間。それが後押しをしてくれるから。


「今回は、言おう」
『行かないで』

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