言葉にできない違和感がその門から染み出している。風に揺られてギィギィ嘆くような蝶番の音が響き渡る。美しい装飾の跡が月日に彩られたサビとくすみに化粧され、その中にたしかに美しさが垣間見える。ハタハタとその上に鳥が止まって音に重ねるように嘴からさえずりを放ち始めるとますます違和感が脳を刺激する。悪意の塊のようなその音は苦しみを引きずりだすように刺激するのに吐き気のするような美しさを感じて嗚咽が出た。よろよろと荷物を抱えて門へと近づいていく。無意識の中で理解したかのようにくすんだ色のベル二手をのばす引くと何とも言えない音が重なる。ガタガタと抱えた荷物が震えたところで目覚ましの鳴り響く音に助けられた。昨日の夢は門の前までだった、明日はどこまで近づくのだろう。あの門の向こうが思い出せない。
春爛漫の桜の下を歩く美しい景色の中に紛れ込む自分という異物に耐え難い気持ちになる。ああ薬を飲み忘れたなと自分の思考に差し込む影に困惑を強く感じるあからさまに負の感情が湧き上がる。ふと降り積もる桜吹雪の中で輝くような光の乱反射に取り込まれるようにこちらに向かって歩いてくる影。カチャカチャとアスファルトを蹴って小さな獣が歩いてくる。かわいいもこもこはこちらのことなど気にもせずに脇を通り抜けていった。何だったんだろうあの生き物、すっかりと頭の中に入り込んだ影がどっかに行った。ある意味助けられたのかもと振り返ってどこにもいないその獣の姿を桜の中に探している。幻覚だろうという理性がささやく。
誰よりも、ずっと怨んでやると決めたのに憎みきれない。端からすれば一人相撲で恨んでる困ったことに逆恨みで、忘れたほうがいいのはわかっているのに、忘れられないこの恨みわざわざ意識を向けずにいるほうが精神衛生上もいいはずなのに一体どこまでしつこいのか愚かしいったらありゃしない。そんな言葉を聞かされてまるで告白のような執着はまるで惚気を聞くようで、すっかりとあなたへ送りたかった思いが小さく胸の中で沈んでいった。
人生が進むたびに薄暗さを増していく。沈む夕日のように淡々と時は過ぎ去り晩年が見えてくる。濃淡はあれど乏しい色彩で染まりながら景色が変わっていくと、そう感じていることこそが感性が萎んでいるのかもしれない。黄昏時の朱に染まる世界を眺めて同じ色に染まる自分の姿がその世界に融けていく。それでも心の中の薄暗がりまでは染まることなく影だけがそこにある。世界に染まりきれないものを抱えるようになる。
君の目を見つめるとゾワゾワとした気持ちが這い上がる。不快感と後ろめたさとどこまでも見惚れる光景に、なんの感慨もなく何処までも冷ややかに視線を向けるそれは、ずいぶんと悪意の塊を投げるようで愛するようで興味深い。その感覚は面白いのだけどどこまでも知らない世界の話。興味の対象にするには面倒くさいタイプだろうな。愛する何かを眺めるときはそのうちきっと良い目をするのだろうな。勝手に眺めてそんなことを思う。