『世界にとっての悪、私にとっての救い』
「知ってるよ、あの人がやったことは悪いことだって」
窓の外を見る。空は雲一つない青空で、とても綺麗だった。私たちを包むこと空気とは真逆だけどね。
名前を呼ばれる。その声の方向に顔を向けると、彼女は悲しそうな顔をしていた。
「そんな顔しないでよ」
そう言い、ふっと笑う。目を閉じれば、あの人の顔が浮かんだ。
「でもね、私にとっては限りなく善いことだったんだ」
【善悪】
『妹と弟と姉』
「あ!流れ星!」
空を見上げていた弟が突然声を上げた。その声に空を見上げるももう流れ星はない。……まぁ、当然っちゃ当然だが。
「…もうないじゃん」
拗ねた声を出す妹をまぁまぁと宥める。
「今から皆でお願いしてみよっか」
「…でも、願い事は流れてる間にしなきゃいけないんでしょ?」
「んー、そうだけど。願うだけ願っても損にはならないでしょ?だから、ね?」
手をギュッと合わせてお願い事をし始めた弟と妹を見てから私も手を合わせる。
どうか、どうか、この関係がずっと続きますように。
【流れ星に願いを】
『ルールを守ったから』
「はぁ…疲れた〜!」
そう大声で喚く姫様。その退屈色に染まった瞳がすぐさまこちらに向く。
「ねぇ…」
「ダメです」
「なんで〜!?まだ何も言ってないじゃん!!」
姫様は私の襟を掴み、勢いよく揺らす。頭が痛くなるのでやめて欲しい。切実に。
姫様と王様で決めたルールがある。地球から帰ってきたら、仕事を終えるまで何処も遊びにいかないと。私は、姫様がそのルールを守るよう見張れと王様に言われているのだ。
「仕事を終えるまで何処にも遊びにいかない。そういうルールのはずです」
「え〜、ルールって……」
不満そうに机に伏せた姫様。だがすぐに何か思いついたように顔を上げた。
「仕事を終えるまで何処にも遊びにいかないって……仕事が終わったらいっていいってこと…?」
「……ルールはルールですので」
それを聞いた姫様の目が輝く。
そこからの姫様の行動は早かった。今までのんびりとやっていたのが嘘みたいに、仕事を爆速で終わらせた。普段もこのぐらいのスピードでやってほしかった…。
「…はい、大丈夫です」
「やったー!終わったー!」
両手を上げて喜ぶ姫様は本当に嬉しそうだ。
「じゃあ行ってくる!」
「……姫様!」
走り出した姫様を呼び止めると、姫様は目を丸くして立ち止まった。そんな姫様の手に巾着を乗せた。巾着の中からジャラと音が聞こえた。
「これは地球で使えるお金でございます。王様から預かっておりました。
……お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
「…!ありがとう!行ってきます!!」
今度こそ姫様は走り出して行ってしまった。
「……幸せになってください、姫様」
沈黙が訪れた部屋で私は頭を深く下げた。
【ルール】
『晴れのち、曇りのち、雨』
プルルルル、プルルルル……
携帯が軽快な音を鳴らして着信を知らせる。画面に写った名前を見て心臓が跳ねる。持っていたカップを机に置いて電話に出た。
「はい!もしもし!」
「…久しぶりね」
「はい!お久しぶりです、先輩!!」
電話を掛けてきたのは先輩だった。
「今、大丈夫?」
「はい!今日は非番なので、家でゆっくりしてた所です!」
「そう…悪いわね」
「いえ!先輩から電話を掛けてもらって嬉しいです!」
「そう…」と先輩が薄く笑った声が聞こえた。
「先輩が電話だなんて珍しいですね?どうしたんですか?」
「……辞表を出してきたの」
「……え?」
先輩の言葉に衝撃を受ける。スマホを握る手に力が籠る。
「やっぱり私には内勤は合わなくてね……」
「そう、ですか……」
「……それを伝えたくてね、じゃあ…」
「…先輩!!」
何か嫌な予感がし、大声を出して先輩を呼び止めた。「…何?」と聞く先輩に震える声で問う。
「また、会えますよね…?」
先輩はしばらくの沈黙の後、「会えるわよ」と言った。
「私これからやることがあるから。じゃあ」
今度こそ切れてしまった。暗くなってしまった携帯電話を見る。私の心は黒い雲に覆われているようにどんよりとしていた。
緊急要請があり、出勤を余儀なくされた。なんでも、逃走犯が捕まったらしい。
制服に着替えて玄関に向かう。ガチャリと開いた扉から入ってきた人物に目を見開いた。
「せ、先輩……?」
驚いている私を見て先輩はふっと笑った。
「ほら、会えるって言ったでしょ?」
【今日の心模様】
『生きる意味を』
「姉ちゃん…」
か細い声に顔を向けると、目に涙を浮かべた弟が立っていた。「どうしたの?」と私が聞く前に彼が口を開いた。
「俺たちは生まれたこと自体が間違いだったの?」
ヒュッと喉が鳴った。急に息を吸ったからか喉が痛い。いや、それよりも弟のそんな顔を見てる方が痛い。心がズキズキと痛んだ。
「どうして?どうして、そんなこと聞くの?誰かに何か言われた?」
「……」
弟は言いにくそうに顔を伏せたが、私にはわかってしまった。
「…またあいつらに何か言われたのね?」
弟は頷くことも言うこともしなかったが、無言は肯定ということだ。私は弟の前に立ち、手を取った。弟の視線が私に向けられる。
「いい?よく聞いて。私たちはこれから生まれる妹や弟たちを守るためにここにいるの。
生まれたことが間違いかだなんて関係ない」
「妹たちを守るため…?」
「そうよ、これからはそれだけを考えて。それを…生きる意味にして」
「…うん……」
何の慰めにもなっていないが、今の私に言えることはこれしかなかった。弟は頷いた後、私の胸に顔を埋めた。そんな弟の頭を撫でる。
私の弟にこんなことを言うなんて…あいつらは後で処理しないとなぁ……
【たとえ間違いだったとしても】