Shamrock / 村雨

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1/23/2025, 12:38:45 PM

[※hrak二次創作/Mr.成代/FGO×hrak]

《諸注意》
※最早別人(キャラ崩壊)/型月産Mr.(秩序・中庸)/原作には無い特殊設定有り/尻切れトンボ/リハビリ品/


※嫌な予感がしたら[次の作品]をタップ推奨



作業BGM:『C.r.u.s.h.e.r.-P/E.C.H.O』


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 ──いつからこうなったんだっけ?


 幼少期から漠然とした違和感を抱いていた。
 世界人口の約八割が当たり前に"異能"を使えるという"異常"。そして隠すこともせずに大っぴらに見せびらかす姿。極め付けは誰もが"ヒーロー"とやらに憧れる精神性。まるで洗脳教育でもしているかのような有様で薄気味悪かった。

 ──気持ち悪い。
 "ヒーロー"と"ヴィラン"に向ける民衆の目が気持ち悪い。実際に目の前で起こっている騒動を見世物として楽しんでいる姿が悍ましい。
 どうして笑っていられるんだ。
 見えないのか、すぐ近くでぐったりと血を流して倒れている人間が。戦闘の只中に取り残されて恐怖に染まった誰かの目が。
 分からないのか、蛆虫のように群がる野次馬のせいで"ヒーロー"が全力を出せなくなっているのが。"ヴィラン"が精神的に追い詰められて後戻りできなくなっているのが。

 ──気持ち悪い。
 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いッ!



『────アレ、いらなくない?』



 まるでその姿が、



『ふう。やっと止まった。最期までしつこかったな、コイツ』



 "妖精"、み、たい、で────。







「────圧紘くん?」

 近くで聞こえた可愛らしい声にはっと目が覚めた。酷い夢を見た。汗がひどい。心臓がうるさい。一瞬自分がどこにいるのか分からなくて目線を彷徨わせると、金糸の少女に顔を覗き込まれる。

「…………トガちゃん? 何で、ここに……」
「はぁい、トガなのです。圧紘くんが魘されてたので起こしちゃいました。大丈夫?」
「あぁ、うん……起こしてくれてありがとうね。大丈夫。変な夢、見ただけだから」
「本当ですか? ウソじゃない?」
「ホントホント。ごめんなぁ、煩かっただろ」

 まだいつものヘアスタイルにセットされていない頭を撫で、そのまま手櫛で軽く髪を梳いてやる。手袋をしないまま触るのはもしかしたら初めてかもしれない。引っ掛かりのない柔らかな金糸を梳き続けていると目の前の少女──トガヒミコは口元に笑みを浮かべた。

「それこそ大丈夫なのです。でも仁くんと荼毘くんがちょっと心配してました。起こして良いか分からないって言ってたのです。なので私が来ちゃいました」
「そっかぁ。……トゥワイスは分かるけど、荼毘が心配するのはイメージできねェなぁ」
「飼い主さんの足元をウロウロする猫ちゃんみたいでした」
「ふはっ、何ソレ。一気に想像しやすくなったんだけど」

 ソワソワと真顔のまま落ち着かずに彷徨く荼毘を想像してみる。なるほど、言い得て妙だ。逆にトゥワイスに関してはあの姿のままで想像できた。きっと目尻を下げて、泡を食ったように心配する。あの男はヴィランでいることが不思議なくらいにその性質は善人だから。本当に、あの男は環境に恵まれず、運も悪過ぎた。
 寝起きで鈍いままの頭で思考を巡らせていると、トガは何を思ったのか静かにこちらの上に乗り掛かり、左胸の辺りに耳をつけて抱き付いてきた。側から見たら事案案件だが、本人にその手の思考は一切無いことは今までの行動を見れば分かる。だからこそ、どうして引っ付いて来たのか分からない。

「……眠くなってきたのでこのまま寝るのです」
「んんっ……ちょ、こらっ、部屋戻りなさいって」
「イヤです」
「イヤかぁ……もう。後でちゃんとアイツ等に説明しろよ?」
「はぁい。でもみんな勘違いしないのです」
「えぇ、そうかぁ……?」
「はい」

 トガに引っ付かれた箇所から体温が混じり、うとうとと眠気が戻って来る。子供体温って凄い。さっきまで眠ることすら億劫だったのに、今は薄寒さが遠退いて指先まで温い。

 ──あぁ、だめだ。ねむい。

「……おやすみ、トガちゃん」
「おやすみなさぁい、あつひろくん」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 その呼吸が寝息に変わったことを確認してそっと顔を覗き込む。普段は目出し帽と仮面で隠れている顔は青白く、閉じられた目の下には隈ができていた。
 Mr.コンプレスは全国指名手配の怪盗であり、連合のメンバーも彼を紹介した義蘭もその認識だった。────神野から離脱して、ある程度落ち着くまでは。

 ヒーローがコンプレスの名前を言ったとき、仮面を付けて顔が見えないはずの彼の様子が気になった。そのときは理由なんて分からなかったが、後に引っ掛かりを覚えていた荼毘が調べてみたところ、コンプレスがアングラヒーローとして活動していたことが判明した。つまりヴィラン連合へはスパイとして潜り込んだ訳である。そのヒーローがヴィランとして名前を呼ばれたということは────捨て駒にされた、ということだ。
 ヴィランである自分たちですら同情する程度には酷い話だと思う。真面目に任務を遂行しようとしていたコンプレスを、碌な情報を持って来ないからとヒーロー側──この場合は『公安』だろうか──は早々に斬り捨てた。自分たちの話を聞いて、本当に欲しかった言葉を本心から口にしてくれた優しい人を、簡単に、呆気なく捨てた。コンプレスはあのとき、どんな気持ちでオールマイト達を見ていたのだろう。
 そっと頬に触れてみる。ひんやりと冷たくて、その奥にある僅かな熱が無ければ死体かと見紛うほど温度が無かった。

 ──静かに扉が開く気配がする。起こさないようにか極力音を立てずにベッドまで来た男は、こちらの様子には特に触れずに眠るコンプレスの顔を覗き込んだ。

「……今眠ったので起こしちゃダメですよ」
「分かってる。……にしても酷ェ顔色だな。隈もあるじゃねえか」
「さっきは指先まで氷みたいでした。魘されてたときは汗も酷かった気がするのです」
「それでも引っ付いてるのはなかなかだと思うぜ。……何か言ってたか」
「圧紘くんはイヤな臭いしないので気にならないのです。……『気持ち悪い』とか、『クソ妖精』とか言ってました。あと『頭オーロラかよ』とも言ってたのです」
「どんな夢だよ」
「分からないのです」

 男──荼毘は継ぎ接ぎの手をコンプレスの首に当てた。そのまま指をかけて力を込める……なんてことはなく、ただ当てただけ。他人よりも体温が高いらしい彼の手のおかげか、先ほどよりも僅かに表情が緩んだ。

「ねぇねぇ、荼毘くん」
「……何だよ」



「──圧紘くん、私達が貰っちゃって良いよね?」



「……」
「あの人達、圧紘くんのことを捨てました。だからもう良いよね、私達"だけの"『ミスター』で良いんですよね?」
「──あぁ。俺達『ヴィラン連合』の『仲間』だ」
「んふふ、やったぁ。じゃあ圧紘くんは"私達"の"ヒーロー"なのです」
「……そうだな」





[瞳をとじて]







 ──もう絶対、返してあげない。



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習作(例の如く勢い)

最近またアニメ追い始めた身ではあるのですが実は登場回までまだ追い付いておらず、二次創作知識とネット情報で書いているため解像度めちゃくちゃ低いです……
(※トガちゃんの呼び方についても原作で使われていない場合はこの話の中だけの設定として下さい)

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1/19/2025, 6:05:01 PM

[※hrak二次創作/A成代/FGO×hrak]

《諸注意》
※最早別人(キャラ崩壊)/型月産A(中立・中庸)/尻切れトンボ/リハビリ品/


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[ただひとりの君へ]

作業BGM:『D.E.C.O.*.2.7/罪iとi罰(リメイクVer)』


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 ──お前が生きていたのなら、どんな大人になったのだろう。


 今は遠い冬の夜。焦土と化した街でお前は他の人間と同じように、目の前で骨も残さずに息絶えた。
 伸ばした指先に自分と同じ白く細い髪の感触は無く、触れた瞬間に灰となって崩れ落ちた。病弱故に青白い頬も、温度を伝えるよりも先にはらはらと撫でた通りに輪郭を無くしていった。自分とは違う翡翠の瞳は濁りきり、片方が溶けて眼孔から零れ落ちて原型を留めていなかった。双子なのに、自分よりも少しだけ小さい身体だった。

 ──享年五歳。
 片割れは、弟は、たった五歳で命を落とした。苦しくはなかっただろうか。熱くはなかっただろうか。痛くはなかっただろうか。せめて痛みを感じずに済んでいたら良い、などと、"災害"で焼け落ちて無くなった記憶から、僅かに残った片割れのことを掘り返す。
 ……あれから何年、何十年経っても、そう思わずにはいられなかった。

 世界が焼却されて、必死に取り戻して。そうしてまた、漂白されて。
 血反吐を吐きつつ、悪夢に魘されながらも走り切った人生を思い出す。
 ──赤錆色の髪に金の瞳の少女と、黒髪に碧い瞳の少年。
 遠い日に、一方的に別れてしまった人達と同じ色を持つ、よく分からないまま連れてこられただけの、魔術なんて知らない"双子"の高校生。
 そして施設で育ち外の世界を全く知らない、"そうあるべくして作られた"薄紫色の髪の少女。
 多少戦闘経験があった自分が同行していたとはいえ、血生臭いものとは縁遠い生活を送っていた彼等を戦場へ行かせなくてはいけなかったことが酷く心苦しかった。繰り返すたびに嫌な順応をしていく姿に、かつて慕っていたどこぞの誰かを重ねて心臓が軋む心地になったことは一度や二度じゃない。
 ──『世界を取り戻す』なんて酷く重い役目を、あの場に彼等しかいなかったとはいえ自分よりも歳の若い子供に背負わせたことが、未だに、どうにも、心残りだった。



 ──お前が生きていたのなら、どんな大人になったのかな。
 お前も大概お人好しだから、『正義の味方』なんてものに憧れて、その道を目指すのかな。別にそれでも良いけど、目指した人の成れの果てを見た側からすると、心配する気持ちの方が強くなるのは許して欲しいよ。だって唯一の肉親だから、誰かのために自分の心を切り売りするよりも幸せになって自分の人生を歩んでる姿が見たいって思うじゃないか。

 でも、おまえはもう、どこにもいないんだね。





 二度目の生を受けて、隣を見たときにお前にそっくりな子供がいたんだよ。最初はお前だと思ったんだ。でも何でかな、すぐに違うって思って思わず蹴り飛ばしてしまったんだよ。そんなつもりは、一切なかったのに。
 慌ててその片割れを抱え上げて、ようやく自分がおかしいことに気が付いたんだ。腕の中の子供は恐ろしく細くて小さいのに、自分はその子供よりも不自然なほどに大きかったから。まるで片割れの分の栄養まで横取りしたような有様で、自分でも気味が悪くて仕方なかった。
 普通に生きれるようになるまでいろいろ、本当にいろいろしたよ。きっと側から見たら後ろ指をさされるような悪事だってやってみせた。そうしないと生きてはいけなかったし、片割れを生かすことはできなかったから。時々お前と重ねてしまったせいか、お前の名前を自分の名前だと片割れが認識してしまって途方に暮れたし……正直、虚しかったよ。生きていたのだって惰性で、片割れがある程度自分で生きていけるようになったら密かに自害しようと思っていたのだから。


 ……けれど、多分最初から、生まれたときから間違えていたんだろうね。
 いつの間にか"俺"は世間から魔王なんて呼ばれていて、周りをシンパという名の"化け物"達が群がっていた。その中にはかつて"異能"を取り除いて欲しいと懇願してきた人間や過去に俺を"買った"狂人も複数人混じっていて、逃げ道はとうの昔に、丁寧に潰されていた。両手は既に夥しい血と罪で穢れていて、元に戻れる筈も無く。

 そうして気付けば数百年。誰かの異能──"個性"を騙し討ちの如く奪わされたせいで、今日の今日まで変わらぬ姿まま生かされている。
 老いて寿命で死ぬこともできず、護衛という名目で側を離れない狂人共のせいで自害もできず。頼みの綱は変質したらしい片割れの個性──"OFA"で幕を引いてもらうことだったが、それも狂人共の横槍で尽くOFAの継承者達は命を落としていった。……唯一俺の頭を潰し、横っ腹に個性を撃ち込まれながらも生存してみせたオールマイトも、いつその命が刈り取られてしまうか分からなかった。
 意識を取り戻したときの絶望感は凄まじかった。やっと幕を引けると、攻撃を喰らう寸前までオールマイトに拍手喝采を贈りたいくらいに内心舞い上がっていたものだから、余計に。
 いつになったら終われるのだろうか、などと意味の無い自問自答を繰り返しながら、遥か遠い過去に思いを馳せる。



 お前や、お前の仲間達はお前のことだと思っていたかもしれないけれど、俺が『自分の弟』だと思っているのはお前じゃないんだ。

 今も昔も、あの冬の日に、焼けた冬木で命を落とした片割れだけが────『ヨイチ』だけが、おれのおとうとなんだよ。







 ──お前が生きていたのなら、どんな大人になったのかな。
 ここまで堕ちた俺を、[殺して/救けて]くれたかな。
 それとも見捨てて離れて行くかな。
 今となっては答えは分からないし、どちらでも良いけど。



 どうしてかな、すごくおまえにあいたいよ。





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凄い久々の習作(※勢いだけで書きました)

余談として、この型月軸のA成主の名前は『言峰零治』としています。(ゼロに"おさめる"/ゼロに"なおす")
ついでにですが、

型月軸の弟→兄のことが大好き。両親からの暴力を覆い被さって庇ってくれたり、名前をくれたり、寂しいときや辛いときには手を握ってくれたから。兄にも名前を贈りたかったけどその前に聖杯の泥を被って燃え尽きて灰になってしまった。でももしかしたら肉体が無くなった今でも[星/兄]に追い付こうと足掻いているかもしれない。

という裏設定があったり無かったりしますが書ける気がしないので供養としてここに書いときますね()

いつか支部に投げる、かも(予定は未定)


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10/29/2023, 9:27:56 AM

[※hrak二次創作/オリ主/Sky×hrak]

《諸注意》
※最早別人(キャラ崩壊)/ネームドキャラの親戚位置に居る設定のオリ主(に辿り着かなかった)/尻切れトンボ/リハビリ品/


※嫌な予感がしたら[次の投稿]をタップ推奨


side:抹消(のつもり)
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 ──子供の頃の話だ。
 今思えば、夢でも見ていたんだろうなと思う。ただそれでも、あのクリムゾンレッドの蝋燭に灯る淡い炎が忘れられなかった。



『──おや? 珍しいな、ニンゲンなんて』


 『迷子か?』と小首を傾げながら、先の見えない暗がりからカンテラを片手にソレは現れた。

 混じり気の無い白い髪と暗い褐色肌のソイツは、顔を覆う仮面の向こうから黄金色の目を覗かせていた。民族衣装に似た身形をしていたせいか、見た目は中性的で声を聞くまで男だと認識できなかった。そのときの俺はと言えば、自分の手も見えないくらいの闇に怯えて身動きが取れなくなっていたんだったか。事実カンテラと共に男が現れるまで心細くて泣きそうになっていたのだし。当時7歳未満の子供だったにしては、まぁ我慢強い方だったと思う。


『うん? ──あぁ、なるほど、"引っ張られた"のか。にしても"裏世界"の方に落ちるなんてお前も災難だったな』

『……うらせかい、ってなに?』

『裏世界は…………ソファの裏とか、束ねたカーテンの中とか、そんな感じの場所……っていうのかな、あれ。……説明ムズイな。──あ、ルイス・キャロルの『不思議の国アリス』とか読んだことはある?』

『ウサギをおいかけて、あなにおちるやつ?』

『そうそう。今のお前は"アリス"みたいになってるってこと。ただ彼女と違って穴の中で迷子になってたみたいだけど。……とりあえず、ここは真っ暗で何も無いし、表に連れて行くよ』


 そう言って俺の手を優しく、けれどしっかりと掴んだ男は、明かりを消したカンテラを背負うと外套を"羽撃かせた"。
 驚いて思わず目を瞑った俺を見て、男はやわらかい声で『目を開けてみな』と言った。言われるがまま目を開けると、一面の星空と月明かりに照らされた青紫色の砂漠が広がっていた。


『運が良いな。最初に見るのが《星月夜の砂漠》なんて』


 『"王子様"の導きかもな』と、男はゆっくりと地面に降りると俺の手を緩く引きながら、砂漠の奥にひっそりと佇むバラの庭園へと足を進めた。



【暗がりの中で】



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【定期】着地点見失いました(タイムアップ)
いつか書き直したい(切実)

星の子の容姿は現時点では特に決めてないです。

9/6/2023, 9:58:31 AM

[※hrak二次創作/成代?/twst×hrak]



『ねぇねぇ、ホホジロザメせんぱぁい』

 背後から伸し掛かってきたデカい図体の後輩は、相変わらず何の基準で付けたか分からない渾名で俺を呼んだ。聞く人が聞けば恐怖に震えるだろう猫撫で声で、何でかは知らないが腕を前に回してこちらに抱き付く他寮の人魚は、これまた猫の真似事でもするように頭を僅かに擦り付けてくる。頭撫でろってか。視線は手元の端末に向けながら反対の手でターコイズ色のサラサラとした髪を梳いてやると、背中に張り付いている後輩は満足そうな声を出した。

『毎回思うけど何でホホジロザメ?』
『んーと……小エビちゃんが『サメも臆病な性格だ』って言ってたんだよね。オレらからしたら天敵って印象しか無いから結構びっくりしたんだけど、イグニハイド寮生のセンパイもそういうところあるじゃん。だからホホジロザメ』
『……分かるような、分からないような』
『あとねぇ』
『まだあんの?』



『ホホジロザメセンパイって、いっつもオレらの考えてること大体察してるでしょ? ──サメってさ、第六感があるんだって』



 ────ほら、センパイにぴったりじゃん。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ──何で今、思い出すかな。

 目の前にあるのは沢山の貝殻で作られた風鈴。夏休みの自由研究で、クラスの"誰か"が作った"拙い作品"だった。……いや、『拙い』は言い過ぎか。エレメンタリースクール──小学生の作る作品にしては、かなり出来が良くて手の込んだ代物ではあるのだし。我ながら何様だとは思うが、なまじ『前の人生』でいろんな意味でレベルが高い連中と連んでいたせいもあってどうも自然と求める基準が高くなりやすい。良くないことだな。
 ふぅ、と息を吐いて作者を確認した。『誰か』なんて惚けてみたけれど、本当は誰の作品かなんて分かっている。

 名前の欄には、まだ慣れていない筆跡で『爆豪勝己』と書かれていた。

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 あっちはどう思っているか知らないが、俺達は世間一般で言う所謂『幼馴染』というやつで、アイツは『個性』も派手で何でもできる『才能マン』というやつだ。その代わり口も悪ければ性格も残念……というか、みみっちい。別に悪いヤツではないしヒーローに憧れるような可愛げはあるけれど。ただまぁ誰にだって生理的に受け付けない人間ってのは居るもので、カツキ──『爆豪勝己』──は同じく幼馴染の『緑谷出久』に対してはかなり暴力的だった。お前らチビのときは一緒に遊ぶくらい仲が良かったのにな、何でだろうな。まぁ斯く言う俺も緑谷のことは苦手だけど。『良い子』ではあるんだろうけれど、一挙一動から漂う『RSA』臭が、もう、なんか…………俺には無理だった。閑話休題。

 何が言いたいって、"多少"思春期とか反抗期のアレソレで暴力的ではあるものの親から一心に愛情を注がれて育ったそんなヤツが、漫画の一話で出番が終わるモブキャラみたいな俺と何で10年も連んでいるんだって話で。
 ……何を考えているんだろうな、本当に。



 同じような声で、同じような獰猛さで、同じようにときどき甘えを見せてくるカツキは、容姿は全く似ていない癖にどこかあのウツボの人魚を思い起こさせた。
 あぁでも、超が付くほどの気分屋な後輩と違って、カツキは割と静かな方かもしれない。付き合いが長いからかは知らないが、俺やもう一人に対してはそんなに声を荒げたり威嚇したりはしなかった。
 緑谷に関しては論外です、関係修復は自分でガンバレ。イカれてる自覚も無ければ、幼馴染を色眼鏡で見続けている今のお前には無理だろうけど。

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「"ケイ"、お前ピアス開けたんか」
「ん? ──あぁ、うん。でも開けてから学校で付けれねぇってこと思い出したわ」
「ハッ、バカかよ」
「ホントそれな」

 何となく、本当に何となくで開けた。多分後輩が付けていたものとよく似たピアスを露店で見たからかもしれない。ターコイズブルーでコーティングされた、鱗型に加工されている貝殻と銀の金具の三連ピアス。ここまで来ると呪いみたいだな、あのクソ論外。どうしてくれる。

「……そのデザイン似合わねぇな」
「あー、やっぱり? たまたま目に付いて衝動買いしたけどコレジャナイ感が凄くてさ」
「んなジャラジャラしたもんよりシンプルな方がテメェに合ってるわ」
「あら、お前意外と俺のこと見てんのね」
「やるなっつっても平気で未成年喫煙する癖にツラだけは無駄に良いからな」
「ゔ、っ、うーん…………ソウ、ネ。煙草に関してはごもっとも」

 本人は貶してるつもりなんだか何なんだかよく分からないが、カツキから見ても俺の顔は比較的整っている方だと認識していることは分かった。突然ぶち込まれたせいで変な返しをしてしまうくらいには驚いたが。お前それどういう感情で言ってんだ、聞きようによっては『ツラが良いから見てる』ってことになるぞ。言ったら高確率で喚き出すから黙っているけど。耳元でしゃらしゃらと鳴るピアスを外して制服のポケットに突っ込む。指先にライターが当たったが、素知らぬふりをした。

「おい、行くぞ」
「あ? どこに?」
「テメェのセンスじゃ、また似たようなの買いかねねぇだろ」
「あはは……仰る通りで」


【貝殻】



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リハビリ品。(訳:タイムアップ&着地点見失いました)

成り代わったのは巷で『刈り上げくん』って呼ばれてるあのモブです←

7/5/2023, 9:09:56 AM

[※grbl二次創作/狡知成代/Fate×grbl]



──『空の底』とやらには何があるのかしら? ……なんてね。


 頭上のパンデモニウムを見上げながら、蝙蝠のような六枚羽を広げる。正直二千年も稼働し続けていた身体での戦闘は厳しいものがあった。ましてやそこに異物も取り込んでいるのだから体力の消耗も激しいし、擬似的なバーサーカー状態は精神的にも負荷が大き過ぎた。もう何も考えたくない、泥のように眠りたい。そんな思いで空に身を投げ戦線離脱を図ったのだが……まさか自決と捉えられるとは思わなかった。頭上からどこぞの医者と同じ声で、あの男が言いそうに無い怒号を浴びせられて面食らったと同時に笑いが止まらなかった。いやはや、お前そんな話し方できたんだなぁ、サンディ/■■■。

 まぁ、そんな中でも創造主様の下へ自分の"分身"を送った俺は褒められて良いはずだ。何故って? ──『俺』はファーさんのこと、大嫌いだからね。本当なら勝手にくたばってろって言いたいところなんだが、二千年前にそれをしたら強制的に『死に戻り』をさせられてね。また最初から──"生まれたところから"やり直しをさせられた訳だ。何回、何百回見たんだろうね、ファーさんの顔。正直うんざりだ。
 この世界はどうもアドリブを許さないタチらしい。シナリオ通りに進めないと強引にリセットして強制リトライさせてくる。何回かはルシフェルや空の民が望んだようなルートにも進んだんだが……結局はコアを破壊されて"戻された"。まさか異物混入させてまで殺しに来るとは思わなかったけどね。……ただ、それで心が折れたのは確かだ。抗うのも馬鹿らしくなって、流されるままにここまで来てしまった。

 ──『空の底』には何があるのかしら?
 多分大半の人間は『あの世』とか『幽世』なんて言うのかもしれない。それもきっと間違いではないんだろう。何せバブさんがそこで何かしらの能力を手に入れていたみたいだから。でなければルシフェルに一撃で致命傷を負わせるなんてできる訳がない。
 でもね、俺としてはバブさんのことは嫌いじゃないんだ。寧ろ好ましいと言っても良い。だってあの人、──他の世界線の俺に対してはどうなのか知らないけど──『俺』にはちょっと甘いんだよ。何せ与太話として話したことを信じてくれたしね。何度死に戻ってもバブさんだけは必ず応えてくれる。だから、まぁ……空の民に封印させる方向にしたのは、少し悪かったなと思っている。いくら穴だらけの術式とはいえ、内側から破壊するのにはバブさんでもかなりの時間を使う代物だから。閑話休題。

 さて『空の底』の話だったか。……俺としては『幽世』なんてものじゃないと思っている。だってそうだろ? ──いくら四大天司の力が作用しているからって"島が空に浮く訳が無い"。『俺』の知っている『世界』ってヤツは、踏み締める大地があって、その外側には果ての無い"青い海"が広がっていて、空は眼下ではなく頭上に広がっているものだ。『ソレ』を知っているから、俺はファーさんの終末計画に便乗して世界を壊そうとした。そうすれば、元の形に戻るんじゃないかってね。
 『俺』の予想としては、一度真っさらになったものを元の形に戻そうとして、残り少ないリソースで無理やり人類史を再現しようとした結果、致命的なバグが発生してできたのがこの歪んだ世界なんだと思っている。そこから現在で言う星の民が『汎人類史』の僅かな資料から創り出したのが、俺達『星晶獣』という生体兵器って訳だ。まぁ、どこまで合っているかは分からないけどね。





 空へ身を投げたとき、本当は『かえりたい』って思ったんだ。

 遥か下の『空の底』、『幽世』よりも更に深い場所に沈んでいるであろう『汎人類史』へ。

 かつて俺が"人間"だった頃の世界に、人類最後のマスター達が命を懸けて走り続けた世界に、カルデアに、ただ、かえりたかった。





【神様だけが知っている】2023.07.05



 ──この歪な世界へ己の骨を埋めろと、それが俺への罰だと、そう言うのですか。



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※本家の狡知の堕天司ではありません
中の人はまともな感性を持った型月民(魔術使い)でした
(ただし死に戻りと2000年フル稼働でSAN値減少状態)

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