村雨 / shamrock

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[※grbl二次創作/賢者(塔)成代/twst×grbl /BLD?]

《諸注意》
※最早別人(キャラ崩壊)/空の世界から本家の概念(サイコキラー)を押し売りされた《塔》の賢者成主(冤罪/中立・善/元奮励寮3年)/尻切れトンボ/リハビリ品/

※BLD……?(保険)
強いて挙げるとしたらなCP要素:成主(→)(←←←)7



※嫌な予感がしたら[次の投稿]をタップ推奨


[波音に耳を澄ませて]


▽作業BGM
『未i来i古i代i楽i団 / 吸iっiて、吐iく』
『 〃  / 忘iれiじiのi言iのi葉』


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


 ぷかりぷかりと、泡が上へと浮かんでは消える。
 冷たく薄暗い水の中、抗うこと無くゆったりと底へ引き摺られながら、また一つ泡を見送った。



『──それじゃあ行ってくるよ、ロヴィ』


 おねがい、まって


『帰って来たら、また皆で旅行にでも行きましょうね』


 おいていかないで


『うん。お父さん、お母さん、行ってらっしゃい!』


 どうして、オレはとめなかったんだろう





 ────そうして両親は豪華客船と共に沈み、二度と帰って来ることは無かった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ────あぁ、なんて酷い夢なのだろう。

 いつぞや見たものよりも余程タチの悪い夢だった。まだ朝には程遠いのに。見たのは今は亡き、"前世"の両親の夢だった。

 かつての俺は『歓喜の港』の出身で、音楽家の父と歌手の母の間に生まれた。その頃はまだ"前々世"を思い出しておらず、割と年相応の子供だったと思う。なぜ頭に"割と"と付くかと言うと、家族曰く『ぐずりも夜泣きもしない、全く手の掛からない子供』だったのだとか。港町だったこともあり波の音が子守唄代わりになったのかもしれないと言われたが、強ち間違いではないと思う。今でこそ弄ってボイスレコーダー代わりにしているが、貝殻に耳を当てて音を聴くのは前世からの習慣だった。特に気分が落ち込んだり、眠れない夜によくやっていたし、今も時々そうしている。


 父はNRCの卒業生で、母は人魚とのハーフだった。両親の所属していた楽団はよくコンサートなどに呼ばれていて、幼い俺は両親に連れられていろんな場所に連れて行ってもらった。団員もみんな音楽が好きな良い人たちだったし、割と可愛がってもらっていた自覚がある。だからこそあの"事故"から、今世に至っても抜け出せないでいるのだけど。

 ──あの日、楽団は豪華客船で演奏することが決まっていた。俺は前日に体調を崩していて、熱は下がっていたものの大事をとって陸で安静にしているようにと言われていた。


『それじゃあ行ってくるよ、ロヴィ。良い子にしてるんだぞ?』
『帰って来たら、また皆で旅行にでも行きましょうね。でもその前に、お父さんにご褒美のタルトを作ってもらわなきゃ』
『おいおい、気が早くないか?』
『あら、ロヴィが良い子にしてなかったことなんてあったかしら。もっと我儘言ってくれても良いくらいなのに』
『……それもそうか。それじゃあ、帰って来たら父さんがタルトを焼いてあげよう。"なんでもない日のパーティ"ではよく焼いてたからね。リクエストはある?』
『リクエスト……? えっと、オレ、タルト・タタンが食べたいな。お父さんがいつも作る、リンゴいっぱい入ってるやつ』
『アレで良いのか? イチゴタルトもマロンタルトも作れるぞ?』
『アレがいいの』
『分かった分かった、タルト・タタンな。──っと、そろそろ行かないと。じゃあロヴィ、行ってきます』
『ふふふ……ロヴィ、お母さんも行ってくるわね』
『うん。お父さん、お母さん、行ってらっしゃい!』


 ────それが両親との最後の会話だった。


 次の日の天気は大荒れで、海は大きく波打っていた。港に泊まっていた船のほとんどは転覆し、海辺に近い場所では洪水になっていたという。俺の家は幸い高めの土地に建っていたから被害を免れたけれど、嵐が去ったあとの港町は酷い有様だったことを覚えている。
 そして────。





『──"ロベリア"君、落ち着いて聞いてほしい。君の、お父さんとお母さんが、楽団が乗っていた船が……沖の方で、沈んだらしいんだ』



『は──?』





 その後のことは、あまりよく覚えていない。ただ一つ分かったのは、あの嵐は"妖精族が悪戯で起こしたもの"だったらしい。
 ────ふざけるなと、本気で思った。
 妖精から見れば小さい悪戯でも人間からしたら大災害でしかないと、何故あの"羽虫共"は理解できないのか。……この時ほど激怒したことは無く、殺意を抱いたのもその時が初めてだった。
 周りは痛ましそうに様子を伺うばかりで助けてもくれないし、"彼奴等"がしでかしたことを"仕方ない"と片付けた。俺の両親と、俺に優しくしてくれた楽団の皆の死が、"仕方ない"だって?
 臓腑が煮えくりかえって、気が狂いそうだった。

 ……実際は、助けてくれていたのだと思う。当時の俺に余裕が無く、全てが敵に見えてしまっていただけで。両親が死んでからの俺は妖精族への怒りでおかしくなっていたし、幼い子供が奴らを殺す算段を立てている姿は恐ろしく見えたに違いないのだから。
 ────そこから紆余曲折あって、学園長が俺を養子にしてあの町から連れ出してくれたのだけど。

 俺が未だ"妖精"を嫌っているのは、この出来事から抜け出せないからだ。だから夢から醒めて、全部片付いたあとのドラコニアからの招待にも応じなかった。一人の人間として最低の対応だろうに、学園長──『父さん』は咎めること無く宥めるように、爪を外した手で優しく頭を撫でるだけだった。

 ────『真実の愛』とやらでヴァンルージュが息を吹き返したのなら、どうして俺の両親は助からなかったのだろう。

 一瞬でもその考えが過ぎってようやく、俺は妖精族を一生許すことはできないのだと自覚した。
 とはいえ、"義妹"──『監督生』の友人で妖精族とのハーフである『セベク・ジグボルト』のことまで目の敵にする気は無かったから、本人が気まずそうに話し掛けて来たときは純粋に驚いた。何せ普段から相手を『人間』と呼び、高圧的な話し方をするような男だったから特に。でもそのおかげで妥協点を見つけることができたのだと思う。
 ────最期まで、ドラコニアとだけは相容れることは無かったけれど。




 ────コン、コン、コンと、ノックされる音で意識が戻される。気怠い身体を起こして扉を開くと、癖のある金糸と青い瞳が目に入った。
 はて、この男が深夜に俺のところに来るなんて何かやらかしただろうか。寝起きの鈍い頭で振り返ってみても、特に思い当たることは無かった。

「……シエテ? こんな夜更けにどうかしたのかい?」
「いや……何かお前、今日様子おかしかったからさ。気になっちゃって」
「……心配しなくても、団長との約束は守っているぜ?」
「そうだけどそうじゃなくて、……?」

 そこまで言ってシエテは俺の顔をまじまじと見た。……あぁ、寝汗を拭い忘れた。これじゃ何か異常があると思われてしまう。この男に内側まで踏み込まれるのははっきり言って嫌だった。作り上げて貼り付けたサイコキラーの側面よりも、おどろおどろしく濁り切った中身を見られることの方が耐えられない。あの頃からもう、どうしようもなく歪んで、元に戻れなくなっているから。

「ロベリア……お前凄い顔色悪いけど、どうしたの」
「……夢見が悪かっただけだよ。夢の内容は、覚えてないけどね」

 嘘だ、はっきり覚えている。あの時の怒りも、寂しさも、虚しさも、恨みも、全部、全部全部全部ゼンブぜんぶ、たしかに、はっきりと、おぼえている。わすれるわけがない、わすれられるわけがない、どうして、どうしておればかりがこんな────。
 ……、……あまりよろしくない精神状態だ、早いところ切り上げたい。

「……もう、いいかな。君も早く眠ったほうが──」
「ロベリア」

 名前を呼ばれて、耳を塞がれた。不可解そうに顔を歪めれば、くぐもった声で『聴いて』と一言だけ言われた。訳が分からないまま目を閉じて聴くことに集中すると、ごうごうと血の流れる音が頭に響く。──何だっけ、音が火山に似ているんだとか、昔何かで聞いたことがある気がする。

「生きてるよ」
「……」
「だからそんな……"置いて逝かれた"みたいな顔しないでよ」






[波音に耳を澄ませて]





 『頼むから』、なんて────。
 どうして彼は俺に対してそんなに悲痛そうな顔をするのだろう。どうして切実そうな声を出すのだろう。何かあれば首を刎ねなくてはならない、手を煩わせるだけの厄ネタだろうに。

 ……あぁでも、その表情が君に似合わないことだけは今の俺でも分かるよ。


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長い上にどうやっても怪文書じみた何かにしかならない件(タスケテ)
当初書こうとした話から大分逸れてて困惑

成主だからここまで病む時があるのであって、本家がこうなることはまず無いでしょう。何ならやらかして団長や天星剣王達に刃先向けられる姿の方が想像しやすいような……(失礼)
余談として、入れれなかったですが作中はアウギュステのどっかの宿屋想定です。夏だといつもゾンビと鮫に溢れてる気がしますが。

あと船云々の辺りは、書いてる途中でタイ■ニックが過ぎったので……←

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7/6/2025, 3:12:59 AM