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1/19/2026, 11:15:01 AM

「またね」
そう言って私に手を振ったあの日からずっと貴方が私の光だった。
君は今何をしているのだろう。
泣いてやいないか、寂しい思いをしていないか。来日も来日もきみのことを考えていた。
この思いが恋へと昇華するのも速かった。きみへの思いが恋慕だと知ったあの日から私はきみに会いたくて、会いたくて、会いたくて。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと再会を待ち望んでいたというのに。ああ。
きみそっくりのガキが私の祠(いえ)を壊すだなんて、なんということだろう。

「おい、おまえ」

ガキが顔を赤らめた。ああ、ああ、気色が悪い。貴方と同じ顔をして、貴方と違う反応をする。貴方は私にそんな顔を見せたことなどないくせに。なんなんだ、このガキは。

「かわいい」

ポツリ、と漏らしたガキの顔がほんのりと赤に染まり、声は高揚している。ガキの反応には身に覚えがありすぎた。貴方に対する私とそっくりだから。

「あ、ごめんなさい。これ、貴女の家ですよね」

どうしよう、とあわてふためくガキはあの頃の貴方を彷彿とさせた。懐かしい。貴方はこのガキと違って今にも泣き出してしまいそうだったけれど。

「祠が直るまで家に来ませんか?」
「さっさと直してくれたらそれでいい」

でも、となお言いつのろうとするガキに私は貴方の話をする。ここで待っている人間がいるから行かないと言えば引き下がると思っていたのに。

「それは多分、僕のおじいちゃんだよ」

ああ、だから顔がそっくりなのか。
もう亡くなった、という言葉に心が痛くなる。おかしい、化物のはずなのに、あるはずのない心臓が痛むなんて。
ガキは私の手を取った。

「約束を簡単に破ったおじいちゃんより僕のほうが貴女を大事にするよ」

私はガキの頭を叩いた。

「二十年早い」
「二十年過ぎたらプロポーズしてもいいってこと?」

なんだ、このガキ。話が通じない。
まぁ、どうせすぐ忘れてしまうだろう。
貴方だって忘れていたのだから。

「好きにしろ」

適当にした返事に後悔するのは、それから一ヶ月後の話だった。

12/23/2025, 11:24:05 AM

祝う声が飛び交う食堂からひっそりと抜け出した私は明かりひとつない地下を歩く。手に持ったゆらりゆらりと揺れる手燭の炎が心もとない。
私は目当ての部屋に辿り着く。本来ならマナー的にノックをしないといけないけれど、このエリアは立入禁止だから私は黙ってドアノブを回す。
部屋の主はまるで私が来るのを分かっていたかのように一対一の席に座り、煙草を吹かしていた。
部屋の主は私に視線に送ると、不敵に笑う。

「やぁ、今日は何人殺したんだい?」

とんだ挨拶である。

「さぁ、五機は落としたから最低五人かな?」

それに答える私も私だけど。

ヘタクソな口笛で称賛した彼女は「流石、私だね」と私へと賛辞を送る。そんな彼女の後ろには透明な筒がある。筒の中にはどろどろのスライムみたいな液体に入った彼女そっくりの顔をした予備達が口に管を繋がれた状態で目を閉じている。パッと見だけで二十体は越えている。

彼女は私で、私は彼女だ。
私は目の前にいる彼女の遺伝子情報を元に作られた殺戮兵器なのだから。

12/17/2025, 11:24:20 AM

雪国の地方では、冬と言われれば白よりも黒をイメージするらしい。一度、知り合いにその写真を見せられてひどく納得した。
私は幼い頃からの親友、丸々と太ったクジラのぬいぐるみを抱きながら、しんしん、と音もなく降る雪を見つめる。このまま、私の体も心も全部、雪の下に沈んでしまえば良いのに。

「風邪、ひいちゃいますよ」

襖閉めても良いですか?と律儀に続けた彼に私は首を振る。その向きは左右。
彼は苦笑を一つ溢すと、炬燵の上に湯気が立つマグカップを一つ置いた。カップの表面は白と黒がマーブル状に渦巻いている。たぶん、ココアだ。

「熱いから気を付けてくださいね」
「うん、ありがと」
「どういたしまして」

ポソポソと雪のように小さな声だというのに彼は律儀に拾い上げた。熱いから、と彼に言われた通りちょびっと飲むと舌が痺れるほどに甘かった。ココアを飲む私を見る彼の瞳はココア以上に甘い。

「なに?」
「んー?かわいいなぁ、と思って」

呼吸が止まる。かわいい、という言葉が喉に詰まって飲み込めない。端に追いやろうとすれば、彼の視線は私の手に移る。

「ハンドクリーム持ってきますね」

するりと彼は水のように席を立つ。
ココアを炬燵に戻した私はそのまま床に仰向けに倒れ込む。限界だった。

彼の優しさは毒だ。慣れてしまうと、それなしではいられないほどに中毒症があるそれはいつかきっと私を殺してしまうのだろう。彼の手で殺されるのなら本望だけど、こんなふうにじわりじわりじゃなくて、一気にガッと殺して欲しい。でなければ、

「好きになりたくないのに」

自身のうちに生えた恋の芽を摘み取ることを彼は許してくれないのだ。

12/16/2025, 11:31:32 AM

親友が僕の知らない人間と歩いている夢を見た。
それだけならよくある話だろう。僕だって他人から聞けば「だからなんだよ」とツッコミを入れていたことだろうし、なんなら親友に向かって「僕というものがありながら、知らない人間と歩くだなんてっ!」と涙ながらに訴えていたことだろう。無論、嘘泣きだが。親友の冷えた眼差しが目に浮かぶ。
さて、たかが親友が知らない人間と歩いている夢ごときで何をそんなに大袈裟な、と思われていることだろう。
たかが夢。されど夢。
親友との登下校。よくある風景の一コマ。談笑する二人。僕にはその光景をよぉーく知っていた。何故なら、見知らぬ誰かは本来ならば僕がいるはずのポジションだからだ。その証拠、になるかどうかは分からないが、親友と交わした談笑の内容、一言一句そのままだ。さて、これは一体どういうことだろうか。悪夢にしては質が悪いと思うのだが。

「『成り代わり』だな」

聞き馴染みのある声。振り向くと、王座の椅子に座るバグ、ここでいうバグはプログラム上の欠陥のことではなく、悪夢を食べるほうがいた。今日は女性の気分らしい。

「きみなら成り代わりぐらい聞いたことあるだろう?」
「二次創作でいっぱい見ましたね」

特定のキャラクターに書き手の自我が入り込み、理想のエンドへと導く夢小説。

「夢は世界が混ざりやすい。これが、物語の一つである世界線にきみは迷い込んだだけさ。放っておいても害はない」

バグは欠伸をする。彼女?彼にとっては喰うに値しない夢なのだろう。だから、目を覚ませばいつも通り。ふむ。

僕は日本刀を形成する。なるほど?夢の中だから自由らしい。
僕は彼らに足早に近づいた。

「親友が好きなのは良いが、そこは僕の居場所だ。邪魔をしないでくれたまえ」

切り捨てた人間は霧散し、消えていく。それと同時に世界は崩壊した。

目を開けた。
親友も寝ていたようで、眠そうに目を擦っている。

「なんか、ヤな夢見てたわ」

その感想に僕は内心、ほくそ笑んだ。

12/15/2025, 11:27:20 AM

「おにぃーさん、世界ぶち壊しちゃおうよ」

笑顔で言う女子高生は僕に向かって手を伸ばす。顔は笑っているけれど、目が笑っていない、とはよく耳にする言い回しは今の状況によく似ている。違うところは笑っていない瞳は明日への光すら見ることができないほどに深い淵のように真っ暗で、洗脳された人間のようにぐるぐると渦を巻いて見えた。

「断ったら?」
「死んでもらうしかないね」

手のひらから火の玉を生み出した彼女はニコニコしている。
かつて、人狼を殺すために神と契約した、生まれながらにして炎の能力を持つ処刑人。
人狼を殺すためだけに生きてきたヒューマノイドロボット。

残念だ、と思う。色んな意味で。

「自分の思い通りにならないからって癇癪起こすなよ、ガキ」

図星を突かれたガキは顔を真っ赤にして炎の手を俺に振りかざそうとする。真っ暗だった瞳に浮かぶのは憤怒を表す赤い光。

なんだ、感情まだあるんじゃないか。

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