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雪国の地方では、冬と言われれば白よりも黒をイメージするらしい。一度、知り合いにその写真を見せられてひどく納得した。
私は幼い頃からの親友、丸々と太ったクジラのぬいぐるみを抱きながら、しんしん、と音もなく降る雪を見つめる。このまま、私の体も心も全部、雪の下に沈んでしまえば良いのに。

「風邪、ひいちゃいますよ」

襖閉めても良いですか?と律儀に続けた彼に私は首を振る。その向きは左右。
彼は苦笑を一つ溢すと、炬燵の上に湯気が立つマグカップを一つ置いた。カップの表面は白と黒がマーブル状に渦巻いている。たぶん、ココアだ。

「熱いから気を付けてくださいね」
「うん、ありがと」
「どういたしまして」

ポソポソと雪のように小さな声だというのに彼は律儀に拾い上げた。熱いから、と彼に言われた通りちょびっと飲むと舌が痺れるほどに甘かった。ココアを飲む私を見る彼の瞳はココア以上に甘い。

「なに?」
「んー?かわいいなぁ、と思って」

呼吸が止まる。かわいい、という言葉が喉に詰まって飲み込めない。端に追いやろうとすれば、彼の視線は私の手に移る。

「ハンドクリーム持ってきますね」

するりと彼は水のように席を立つ。
ココアを炬燵に戻した私はそのまま床に仰向けに倒れ込む。限界だった。

彼の優しさは毒だ。慣れてしまうと、それなしではいられないほどに中毒症があるそれはいつかきっと私を殺してしまうのだろう。彼の手で殺されるのなら本望だけど、こんなふうにじわりじわりじゃなくて、一気にガッと殺して欲しい。でなければ、

「好きになりたくないのに」

自身のうちに生えた恋の芽を摘み取ることを彼は許してくれないのだ。

12/17/2025, 11:24:20 AM