ドドド

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9/13/2024, 1:36:37 PM


         夜明け前。

カーテンの隙間から射す灯り

孤独な部屋
塞いだ耳のせいでよく聞こえる、自分の呼吸

重たい心、やめてしまいたい人生、過去、未来


組んだ足、不快な暑さに汗ばむ夜
手癖で手繰り寄せる煙草の本数は心許ない

軽いのは財布だけ、コンビニすら躊躇する
こんなはずでは、と思える程の野望は無かったな


マンションの廊下から見下ろす道路
ゲームなら迷わず跳べるのに

夜明け前、新聞の配達、排気ガス


さよならは誰にも言わない
おはようも誰にも。

9/11/2024, 3:12:50 PM


         カレンダー

ピークアウトした筈の鬱が戻ってきた

およそ一月半前の事
私は、死に場所を求め、地元に帰ってきていた。

友人、知人、誰にも声を掛けず
あの日になったら……あの日までは、と
カレンダーを睨めつけながら
今日までのうのうと生きてしまった。

最近では、少し前向きになっていた気もする
しかし今、身体も心も重く、ひたすらに
ただ、しんどい。



日課にしていたことをいくつかやめた
ここに書き連ねることすらも

自分で始めたことなのに、やめてしまった

躁鬱というのは、厄介で
知らない人から言わせれば気分の上下なんて
誰にでもあるでしょう、と思うだろうが
実際はそんなレベルの話じゃないのだ

特に躁が危ない

なんせ感情のコントロールが効かない
全てに苛つき、当たり散らし、台無しにする
今まで何度もそうしてきた。

鬱は感情が薄くなる
なんにも感じないわけじゃないが
極端に鈍くなるのだ、興味を無くすとも言える
私が健康なら、この文章も推敲していただろう
だが今は、そんな気は微塵も起きない

どうでもいいのだ


今日、QUEENのボヘミアン・ラプソディを
聴いていた、良く分からないが、涙が流れた
まだ泣けて良かった

手が震える、息が苦しい
楽になりたい。


これは、誰に向けているのか
わからない、しかしきっと
たぶん同じ気持ちの人がいるはずだ

あなたは、元気ないですか
僕と同じですね、良かった
お互い一人じゃないんですね


答えは返ってこない


躁の僕は、悪いやつだと思いますよ
カレンダー見ながら暗い顔している僕に
文句ばかり言うんで、悪いやつでしょ


鬱なら鬱らしくしていなければ
何も保証はされないんですが

それを決めるのは鬱の人じゃないんですよ
おかしいですよね


安楽死がもしあったら、皆喜んで受けますよ
日付が決まれば、カレンダー相手に
指折り数えて、当日に花丸でもつけましょう

あぁ、あの子達は元気かなぁ。


8/30/2024, 10:40:00 AM


          香水。

あ、香水変えたでしょ?
前よりちょっと高いやつに。

バイト先の先輩の香織さんは鼻が良い
香水は勿論、シャンプーを変えても当ててくるのだ
僕に寄って鼻を利かす仕草は犬のようで
密かに恋心を抱かせるには充分な可愛さがあった。


ただ、余りにも
鼻が良すぎる時があって
前日の夕ご飯まで当てられた時は
少し怖くもあった。


変わったのは、夏になってから。


あれ程僕に話しかけてきたのに
一切香織さんは関与してこなくなったのだ。

それだけならまだしも、気が付くと僕を
不満げに見つめてくるのだ。


恐る恐る話しかけ
昨日の夕ご飯何かわかりますか?
と問いかける。

すると不機嫌そうに
犬じゃないし、わからない
と答えたきり、黙ったのだ。



帰り際に店長に声をかけられた
お前、スマホ変えたのか?

そう、数週間前
海に行った時壊してしまったのだ
お陰でアプリなんかも全て引き継ぎ出来ず
色々やめてしまった。


ふと

そこで気が付いた
あぁそうか、香織先輩って
もしかして‥。


しかし、そんな予想とは裏腹に
また香織先輩の名犬ぶりは復活した。

いや、なんなら以前より鋭く
よく買うコンビニのスイーツすら
当ててきたのだ。


僕は見た。


夜中のうちにゴミを捨てた後
途中で飲み物を買うのを忘れ
戻る時。

僕の捨てたゴミ袋を無表情で漁る
香織先輩を。


香織さん、何を‥

思わず漏れた声を聞くやいなや
逃げていった香織先輩を。


次のバイトで一緒になった時
気不味い僕と裏腹に
香織先輩は普通に、いつも通りに
あんまりコンビニ弁当ばかりは良くないよ?
と話しかけてきた。

僕が曖昧な返事しか出来ないでいると
じっ、と僕を見つめていた
その瞳の黒さが恐ろしかった。


帰宅後、少しアルコールを取り
微睡んでいた。

玄関のドアが開く。

鍵、掛けたはずなのに。


香織先輩が居た。

ホームセンターの袋から
ロープとガムテープを取り出し
口元を歪め僕に言った。


あの香水、私の元カレも使ってたの
もう居なくなっちゃったけど
こんなトコに居たんだね。

一つもわからない事を言いながら
ゆっくりと僕の方へ‥。




8/29/2024, 2:06:31 PM


    言葉はいらない、ただ・・・

抱きしめて欲しかった、俯いて待っていた。

自ら行けない弱さを呪った。



地方都市なんてコトバがある以上
同仕様もないほど人工が減り
高齢化で財政を食い潰すだけの集落もある。

そんな所に限って
健康を謳って寿命を延ばす取り組みが盛んだ。

私はコレを緩やかな自殺と呼んでいる
が、税金で賄われてる以上
行かないと損なので利用をする事にした。

そして癌です。


ステージがどうとか
何処そこに転移とか
全く耳に入っては来なかったが
余命半年の部分だけははっきりと聞こえた。

家族を呼び、再度説明を受ける中
目に見えて落ち込む両親を見て
可哀想だなって思った。

本当にそうとしか思えなかった。


どうして、助かるの?手術は?

私が聞かなくちゃいけないことは
全部両親が聞いてくれたが
最終的に助かる見込みもないのに
高額な医療を受ける気は無かった。


泣きながら、目の前で祈る母。
俯いて肩を震わす父。

謝る私。


最後にしたいことはないか
食べたいものがないか
色々話した後に帰っていった。

明日から自宅だが
今日だけ入院らしい。


なんだかな
改めて後少しですよ
と、云われると
案外何もでてこない物だ。


ただ、抱きしめて欲しかった。

最後までに言えると良いなぁ。



8/28/2024, 1:52:00 PM


       突然の君の訪問。

「来ちゃった」

真夜中のチャイムに眉を顰め
玄関ドアを開くと君がいた。

「いくらなんでも汚すぎじゃない?」

驚く僕を尻目に、横をすり抜けて
勝手に部屋の感想を宣う君の背中を見て
取り敢えず当然の疑問ぶつけてみる

「どうして‥?」

思ったよりも掠れた声に自分でも
驚いた、聴き取れるかどうかも怪しい
質問に彼女が答える。

「んー、いやさ、寂しくて変な事してないかなって思ってさ」

彼女の答えに内心ドキリとしながら
なるべく冷静に努めた。


寂しく無いわけがない
突然君は居なくなったのだ。

同棲の約束を取り付け、親御さんたちに
挨拶も済ませ、部屋の内覧までしていたのに。

「てか、お酒飲み過ぎじゃない?好きだったっけ?うわっ炊飯器ぐらい洗いなよ」

当時の事を思い出してた僕に
少し怒りながら君は言う。


ダメだな、俺は
ついにこんな幻覚まで見始めて。

「‥言っとくけど、幻とかじゃないよ?」

都合の良い幻聴まで‥

「空耳でもないからね?」

ちょっと静かにして欲しい。

「今、失礼な事考えたでしょ、そんな顔してた」


その後も、部屋の汚さに文句を言いながら
どこか楽しそうに彼女は振る舞った。

でも途中で、気付いた
あぁこれ無理してる時の顔だって。

「あのね、ビックリしたと思うけど、ちょっと顔が見たかっただけなの、神様も粋なことするよね」

それは
「2回も喪失感味わうなら、神様は残酷だとも思うよ」

彼女は悲しそうな顔で呟いた

「‥やっぱ、来ないほうが良かったかな」

そんなことは無い、驚きはしたが
嬉しいに決まってる。

「行かないでほしい」

背を向ける俺に、彼女は寄り添っていた。

ひんやりと、背中に彼女を感じていた。


「‥ごめんね、こうなるってわかってて、私のわがままで来ちゃったの」

「‥いや、嬉しいよ、俺も会いに行こうとしてたから」

「だめ!それはだめだよ!」

彼女は怒って、僕の背中を叩いていた
虚しく、通り過ぎる手が僕の胸から見えていた。


「私はさ、これでもう未練ないから、だから君も私の事忘れて欲しいの」

そんなの勝手だ
「俺は、君が居なければ何も無いんだ、生きる意味も希望も」

彼女は泣いていたと思う
俺も泣いていた。

「私は、それでも生きてほしい、わがままばかりだけど、私の事を忘れて、私の分も幸せになってほしい」

それができれば、俺は
「無理だ、君のいない世界に未練なんて無い」


それから、暫く押し問答が続いたが
彼女の方が時間切れになってしまった。

「ごめん‥もう行かなきゃいけないみたい」

「まって、まってくれ、2度もおいて行かないでくれ」

「これで最後だからさ、申し訳無いけど私の言いたいことだけ言うよ」


「愛してました、本当に、だから幸せでいて欲しい、お願いね」

彼女はそう言うと、あっという間に消えてしまった


俺は、うずくまり泣きながら
「ずるいぞ、そんなの、俺だって、俺だって‥」


慟哭は誰に聞かれることもなく
意識を手放すまで続いた。




「来ちゃった」

「‥いやそれは無いだろ」

突然の彼女の2度目の訪問
アレだけ昨日泣き喚いたのに

「これ、また泣かせにきたのか?」

彼女は、何故かドヤ顔で
腕を組んでいた。

「ふふーん、それがだねー、このままだと君、悪霊になるから責任取ってこいと、守護霊に任命されたんです!」


なんじゃそりゃあ‥

「‥いや、良いのか?」

「だめ?」

「‥だめじゃないけど」

「でしょ?取り敢えず」


ご都合主義?俺もそう思う、でも正直
もう立ち直れそうな位、嬉しさで溢れていた


「掃除、しようか?」

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