突然の君の訪問。
「来ちゃった」
真夜中のチャイムに眉を顰め
玄関ドアを開くと君がいた。
「いくらなんでも汚すぎじゃない?」
驚く僕を尻目に、横をすり抜けて
勝手に部屋の感想を宣う君の背中を見て
取り敢えず当然の疑問ぶつけてみる
「どうして‥?」
思ったよりも掠れた声に自分でも
驚いた、聴き取れるかどうかも怪しい
質問に彼女が答える。
「んー、いやさ、寂しくて変な事してないかなって思ってさ」
彼女の答えに内心ドキリとしながら
なるべく冷静に努めた。
寂しく無いわけがない
突然君は居なくなったのだ。
同棲の約束を取り付け、親御さんたちに
挨拶も済ませ、部屋の内覧までしていたのに。
「てか、お酒飲み過ぎじゃない?好きだったっけ?うわっ炊飯器ぐらい洗いなよ」
当時の事を思い出してた僕に
少し怒りながら君は言う。
ダメだな、俺は
ついにこんな幻覚まで見始めて。
「‥言っとくけど、幻とかじゃないよ?」
都合の良い幻聴まで‥
「空耳でもないからね?」
ちょっと静かにして欲しい。
「今、失礼な事考えたでしょ、そんな顔してた」
その後も、部屋の汚さに文句を言いながら
どこか楽しそうに彼女は振る舞った。
でも途中で、気付いた
あぁこれ無理してる時の顔だって。
「あのね、ビックリしたと思うけど、ちょっと顔が見たかっただけなの、神様も粋なことするよね」
それは
「2回も喪失感味わうなら、神様は残酷だとも思うよ」
彼女は悲しそうな顔で呟いた
「‥やっぱ、来ないほうが良かったかな」
そんなことは無い、驚きはしたが
嬉しいに決まってる。
「行かないでほしい」
背を向ける俺に、彼女は寄り添っていた。
ひんやりと、背中に彼女を感じていた。
「‥ごめんね、こうなるってわかってて、私のわがままで来ちゃったの」
「‥いや、嬉しいよ、俺も会いに行こうとしてたから」
「だめ!それはだめだよ!」
彼女は怒って、僕の背中を叩いていた
虚しく、通り過ぎる手が僕の胸から見えていた。
「私はさ、これでもう未練ないから、だから君も私の事忘れて欲しいの」
そんなの勝手だ
「俺は、君が居なければ何も無いんだ、生きる意味も希望も」
彼女は泣いていたと思う
俺も泣いていた。
「私は、それでも生きてほしい、わがままばかりだけど、私の事を忘れて、私の分も幸せになってほしい」
それができれば、俺は
「無理だ、君のいない世界に未練なんて無い」
それから、暫く押し問答が続いたが
彼女の方が時間切れになってしまった。
「ごめん‥もう行かなきゃいけないみたい」
「まって、まってくれ、2度もおいて行かないでくれ」
「これで最後だからさ、申し訳無いけど私の言いたいことだけ言うよ」
「愛してました、本当に、だから幸せでいて欲しい、お願いね」
彼女はそう言うと、あっという間に消えてしまった
俺は、うずくまり泣きながら
「ずるいぞ、そんなの、俺だって、俺だって‥」
慟哭は誰に聞かれることもなく
意識を手放すまで続いた。
「来ちゃった」
「‥いやそれは無いだろ」
突然の彼女の2度目の訪問
アレだけ昨日泣き喚いたのに
「これ、また泣かせにきたのか?」
彼女は、何故かドヤ顔で
腕を組んでいた。
「ふふーん、それがだねー、このままだと君、悪霊になるから責任取ってこいと、守護霊に任命されたんです!」
なんじゃそりゃあ‥
「‥いや、良いのか?」
「だめ?」
「‥だめじゃないけど」
「でしょ?取り敢えず」
ご都合主義?俺もそう思う、でも正直
もう立ち直れそうな位、嬉しさで溢れていた
「掃除、しようか?」
8/28/2024, 1:52:00 PM