ドドド

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8/27/2024, 12:03:09 PM


         雨に佇む。

ザァザァと落ちていく雨を見ながら
心の奥がざわついた。

台風が来ていた、大きな、とても強い台風だ。

だと言うのに、僕は職場で途方に暮れていた
傘が無くなったのだ。


確かに、持ってきていたはずだった
お気に入りの黒に白い幾何学模様の入った
目がチカチカしそうな傘だ。

派手だが、これなら間違われるはずが無いと
買った傘、無くなった理由はそういう事だ。

つまり、僕のとわかったうえで
盗んだやつが職場にいるのだ。


まぁ、僕は喋る方ではない。

仕事は仕事と割り切って、付き合いも
ろくにしてこなかった。

だとしてもこれは酷いだろう。


なんせ台風だ、横殴りの豪雨は
もしかしたら傘をさしても無駄かもしれない
しかし、あるのとないのでは違うだろう。

これは、困ったな。


走って帰っても良いが、その場合スーツは
びしょ濡れになって、明日が困るのだ。

いや、家に何着もあるのだが、困った事に
このスーツが一番仕立てが良い
明日は得意先が来る予定だから
家にあるようなスーツでは心許ないのだ。


そもそも
来るのか?いや、来れるのか?

そう思わないでもないが、得てしてこういう時は
来るのだ、困った事に。

大体、自分が風邪をひくかもしれない。

これだけの雨だ、打たれれば体温を奪われ
体調を崩す事も往々にして有り得るのだ。


困ったな。


何が一番困ったって。

あるのだ。

誰かの傘が。


恐らく、もう社内には人が居ないはずだ
だと言うのに一本、誰かの傘がある
そして傘を盗まれた僕が一人いる。

この傘を借りれば
先程の悩みなど雲散し
明日に備える事が出来るのだ。


いやしかし、それでは
僕の傘を盗んだやつと同じレベルに
なってしまう。

盗まれたから盗みましたが免罪符に
なる訳がないのだ。


雨を睨む。

僕は佇む。


そこに天啓。

そうだ、タクシーを呼べば良いじゃないか。


雨に佇ずむ。

8/26/2024, 12:04:28 PM


        私の日記帳。

思春期に入り父親が苦手になった。

嫌い、ではなく苦手と言うのは
同じ空間に居ると必ず、気不味い空気になり
居心地が悪くなるからだ。

それをどう言語化すればいいか分からず
悩んでるのに、平気な顔で勉強はどうだとか
部活はどうだなんて聞いてくるから
無性にイライラして口を利かなくなった。


昔は良かった
肩車は好きだし、大きい背中に乗れば
何処までも連れてってくれる
好きなお菓子があればこっそり買って
置いといてくれる優しいパパだった。

大きくなって、友達が自慢してた
マカロンが美味しいスイーツの店に
連れてって欲しくて
スイーツ食べたいなってアピールした時
安い駄菓子が部屋のノブに掛けられてるのを見て
ガッカリした。

それぐらいから、父親がわからなくなった。


今日、そんな父親が死んだ。

信号無視の車から女の子を庇って轢かれたらしい
女の子は泣きながら私達に謝った
私と良く似た髪型の子だった。


家に帰り、リビングでぼーっとしていると
ママが何か持ってきた。

父親の日記帳らしい。

ママも見たこと無いから
一緒に見よう、と持ってきた。


××年×月×日
子供が産まれた、良く頑張った××!
とても可愛い女の子だ、こんなに小さいのか
凄いな!凄い!来てくれた!ありがとう!


××年×月×日
手に指を近付けると、見た目よりずっと力強く握ってくる!もぞもぞと良く動く、将来はスポーツの道に進むのかも、今のうちに貯金頑張るか!


××年×月×日
パパって言った!パパって言った!パパって言った
絶対に!ぅあーしか言えなかったのに
こっち見てパパって言ってくれた!
こんなに嬉しい事はない!



ママはこの時点で、色々と思い出して
泣いていた、私も少し泣いてたかも。

そこからずーっと見ていたが
わたしの事しか書いてない。


これは、私の日記帳なのだ。


最後の日記を読んだ時
私もボロボロに泣いていた。

私が避けていること、どう接したらいいか
わからないこと、でも部活を頑張っていること
テストが良くなかったから塾に入れようとした
ママを説得し、部活に専念させたこと。

全部、全部私の為にしてきた事が書いてあった。


私は、日記帳の余白にその時や今思っている事を
追記する事にした。

ありがとう、覚えてるよ、嬉しかった
悲しかった、全部正直に書いた。


火葬場で、パパの棺に日記帳を入れた。

ママが良いの?って聞いてきたが
私もパパに伝えたいから、と言うと
ママは、そうね、と泣いた。


パパ、ありがとう
お互い直接言えれば良かったけど
私も、パパに似てるから
ちゃんと読んでね。


私の日記帳は
パパの下へかえっていった。



8/25/2024, 11:33:08 AM


        向かい合わせ。

僕は、ひと言多いとよく、怒られた
目を見て話せと叩かれた
なんだその目はと叩かれた
何をしても、しなくても。

王様の耳はロバの耳
僕にとっての井戸は、自室の壁。

おでこを当てて自責の念仏
不思議と落ち着くから習慣になった。


ある時ふと、おでこを当てる場所が
黒ずんできた事に気付いた。

数年経つ頃には、もう一人の僕になった。

名前をつけた、カイリ
僕の病名と同じ名前にした。

カイリはいつも黙って僕の話を聞いた。

いつも最初は冷たいが、離れる頃には暖かく
ずっと離れたくないと毎回名残惜しんだ。


ある日、カイリにくっついた時
カイリは最初から暖かかった
顔の所が濡れていた、カイリ
泣いてるの?

数日後、僕が出かけている間に
カイリは居なくなっていた。



僕の自室の茶色の壁は、真っ白な壁に
変わっていた、サラサラで最初から少し
暖かい、でもカイリが居ない。

真っ白な壁にするのにお金が掛かったと
僕は髪を捕まれ、平手打ちされた
助けてカイリ。

夜、泣いていた僕の所にカイリがきた。

僕は泣きながらカイリと話した。


わかった、カイリ。

王様は、いらない。

そうだよね。


僕の部屋は真っ白な壁。

でも僕には、カイリが見えていた。

だからいつも向かい合わせで
ずっとおしゃべりを楽しんだ。

お薬を飲むとカイリが悲しんだ
僕も悲しいから、いつもこっそり吐いていた。

カイリが微笑んだ、僕も微笑んだ。


2人はいつも、向かい合わせ。




8/24/2024, 2:06:46 PM


       やるせない気持ち。

好きな人の、大事な人が
自分を虐めてた奴だった話。


虐めってされる側にも原因がある
みたいなのをよく聞くが

じゃあ飲酒運転した奴は飲ませた側にも
責任あるのか?あぁ罰則あるの?
じゃあいいわ。


虐めって言ったって、別に大した話じゃない
裏でリンチされたとか、便器に顔突っ込まれたとか
それ普通に傷害罪じゃん?て言う程酷くはない。

足を引っ掛けられたり、画鋲を椅子に置かれたり
まぁ本人達曰く、つまらない自分を
弄って面白くしてあげているらしい。

まぁ余計なお世話だし、平穏に暮したいのだけど
ちょっとだけ嬉しい事に、クラス1可愛い子が
自分を心配して庇ってくれたりするのだ。

チョロい事に自分は、その子が好きになって
今じゃイジメられたら、これ見よがしに
その子に見つかるようにしてる。

キモい?バカお前、唯一のオアシスの為なら
ピエロでもなんでもなるってもんだろ。


まぁ当然困った事もある、
家に帰ると滅茶苦茶に心配されるのだ、
母子家庭だからかな?ごめんね、とか
謝られるのは本当に勘弁してほしい。

家庭事情なんかアイツらに話すわけねーっての
やられてるのに、理由なんて無いよ、多分
それに、いよいよとなったら全力で抵抗する
勿論、拳で。


そんなある日、母親が笑顔で
「実は秘密にしてたけどー」なんて話しだした
あっ、絶対碌でも無い話だろうなと思ってたら
案の定、再婚するとか言い出した。

いや、別にマザコンじゃないし
母親とはいえ、一人の女なんだから
良い事だと思う、幸せならオッケーです。


でも、その理由として、これで
俺へのイジメも無くなるかも!とか
言い出したから、やるせなくて
家を飛び出した。

嫌なことって重なるよなぁ
たまたま入った公園にイジメっこが居た。

「なんだよお前」って言われたが
「いや、お前がなんだよ、公園はお前の家かボケ」
とか思ってたら胸倉掴まれた。

「家なわけねぇだろ!舐めてんのか!」
って凄まれた、声に出てたらしい
そんな事あるんだなぁ。

まぁでも、俺も虫の居所が悪くて
普通にその後、殴り合いの喧嘩した。

勿論負けた。


「お前、人殴れんのな」
なんて当たり前な事を言われて
「いつかぶっ殺してやろうと思ってたよ」
と答えたら、「こっわ」だってさ
「何もして無い人間イジメれるやつのが
こえーわ」

「‥ごめん、って今更だし
許してくれては言わねぇけど、もうやらね」

わぉ、また声に出てたの?
もしかして:サトラレ?

「‥てかそこは普通に謝れよ
許す許さんは俺に決めさせろし」

今度はちゃんと意識して声に出した。

「そらそうか」
ってなんか笑ってたわ、こっわ。


その後お互い握手して、もう関与しねーとか
今度遊びに行こうぜとか、言い争って
また明日学校でな、という結論に至った。

まぁ悪い気分じゃなかった。

問題は家だなぁ、と考えながら帰宅したら
普通に泣かれた、ごめんなさいとか
そんなに嫌なら考えるからとか
やめてくれよ、別にごねたい理由じゃないよ
急でビックリしただけだ、と伝えたら
今からお相手が家に来るらしく
ちゃんと話し合うことになった。

まぁ、しゃあないか
話は大事だしなぁ。

相手の方も少し遅れてるらしいが
その間に腹は決まっていた。

母をお願いします
優しい人だけど、大人の支えも
必要なんです。

よし、好印象目指す
お小遣いもらえるかもしれんしな。


そうして、家にやってきた相手は成る程
多分母より年上だけど、意志の強そうな
立派な感じがする。

‥のは良いんだけどね。

なんでいじめっ子君も後ろにいるのかな?


連れ子が同級生って
そこは普通、美少女だろ。

なんかニコニコしながら、兄弟よー
今日から貴方も大事な私の子供ね!
とか満開の笑顔で宣う母を
苦み走った顔で見つめる俺達。

やるせなさすぎだろ。


その後、怪我の理由を聞かれて
喧嘩がバレ、滅茶苦茶怒られたし

どっちが兄かでまた揉めたが
なんやかんや、上手くいきそうで
複雑な気分になった。


え?クラス1の美少女?
先輩と付き合ってるって聞いたわクソが。



8/23/2024, 2:05:19 PM


          海へ。

海岸を望む小高い丘の駐車場
ボロボロのアスファルト
ほつれ始めた金網のフェンス。

白い車についた雨垂れの後を拭いて
家族旅行が始まった。


毎年の事だが、今年も旅行なんてものに
縁がなかった夏休み。

忙しい両親の手を煩わせるわけにもいかず
自宅の部屋でとっくに無くなったアイスの棒を
齧って腐っていた。


盆が明け、ようやく仕事が落ち着いたから
海にでも行こうか、と慣れない家族サービスを
提案する父に対して
クラゲだらけで泳げもしないのに?
と嫌味で返してしまい少し後悔した。

まぁ、少しは夏らしい事
したかったし、連れてってよ
と手のひらを返したのは
決して母の睨みが怖かったからでは無い。


持ち直してご機嫌になった父を尻目に
水着あったかなと私も準備を始めた。

色々クローゼットやタンスを漁っていると
何かに使おうと取っていた小瓶が出てきて
思い付きで手紙を用意する事にした。


テレビや漫画ではよくあるが
こういうのやってみるのも
思い出になるかもな、と
考えての事だが、困ったことに
書くことが無かったので
取り敢えず、大好きな家族と海に来た記念です
パパありがとー!等とノリで書いた。


海へ到着して驚いたのが
予想よりも人が多かった事だ
皆クラゲなんか平気らしい。

しかし私は芋洗い状態になるのも嫌だし
打ち上げられたクラゲを見て
早々に諦めた。

父がしょんぼりした顔で
ごめんなーなんて言うから
つい、だから言ったのに
なんて悪態をついてしまった。

母の顔は、見れないが
多分怒ってる、なんか
熱気?圧が凄い。


気を取り直して、持ってきた瓶を
取り出し、私の目的はこれだから良いよ
と、見せ付けた。

父も母も、ほぉーっと関心があるようだ
やったこと無いなー
青春ぽい!とかなんとか‥

いや、私は青春真っ只中だよ。


立ち上がり、勢い良く瓶を人のいない方へ
ぶん投げると、狙いが逸れて
岩礁にぶち当たり割れてしまった。

あっやば
てか人に当たらなくてよかった。

考えなしにやるもんじゃないな
と思っていると、母も危ないわねー急に
普通そっと海へ流すもんじゃないの?
と言われ、確かにそうかも、と思った。


失敗したなーと思ってると
ちゃっかり水着に着替えてた父が
海へ入り、予想外のバタフライで
泳いでいった。

はっや
え?何、なんであんな泳ぎ上手いん?
と、母に聞くと
水泳部のエースだったのよーと
笑顔で答えた。

全然知らなかったな
そういうの、興味無かったし
ちょっと意外な事実で面白いな。


母の青春話を聞いてると
父が戻って来ていた。

そういえばこの人、なんで突然
泳ぎだしたんだろ?
と疑問に思ったが、手元を見て理解した。

私がしたためた、濡れた手紙を持っていたのだ。

!?


いやいやいや!ダメだって!
何持ってきてるの!?

え?だって折角書いたんだからちゃんと
やりたいだろ?
そういえばなんて書いてあるんだ?


ダメー!早く流して!


海へ!!!

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