海へ。
海岸を望む小高い丘の駐車場
ボロボロのアスファルト
ほつれ始めた金網のフェンス。
白い車についた雨垂れの後を拭いて
家族旅行が始まった。
毎年の事だが、今年も旅行なんてものに
縁がなかった夏休み。
忙しい両親の手を煩わせるわけにもいかず
自宅の部屋でとっくに無くなったアイスの棒を
齧って腐っていた。
盆が明け、ようやく仕事が落ち着いたから
海にでも行こうか、と慣れない家族サービスを
提案する父に対して
クラゲだらけで泳げもしないのに?
と嫌味で返してしまい少し後悔した。
まぁ、少しは夏らしい事
したかったし、連れてってよ
と手のひらを返したのは
決して母の睨みが怖かったからでは無い。
持ち直してご機嫌になった父を尻目に
水着あったかなと私も準備を始めた。
色々クローゼットやタンスを漁っていると
何かに使おうと取っていた小瓶が出てきて
思い付きで手紙を用意する事にした。
テレビや漫画ではよくあるが
こういうのやってみるのも
思い出になるかもな、と
考えての事だが、困ったことに
書くことが無かったので
取り敢えず、大好きな家族と海に来た記念です
パパありがとー!等とノリで書いた。
海へ到着して驚いたのが
予想よりも人が多かった事だ
皆クラゲなんか平気らしい。
しかし私は芋洗い状態になるのも嫌だし
打ち上げられたクラゲを見て
早々に諦めた。
父がしょんぼりした顔で
ごめんなーなんて言うから
つい、だから言ったのに
なんて悪態をついてしまった。
母の顔は、見れないが
多分怒ってる、なんか
熱気?圧が凄い。
気を取り直して、持ってきた瓶を
取り出し、私の目的はこれだから良いよ
と、見せ付けた。
父も母も、ほぉーっと関心があるようだ
やったこと無いなー
青春ぽい!とかなんとか‥
いや、私は青春真っ只中だよ。
立ち上がり、勢い良く瓶を人のいない方へ
ぶん投げると、狙いが逸れて
岩礁にぶち当たり割れてしまった。
あっやば
てか人に当たらなくてよかった。
考えなしにやるもんじゃないな
と思っていると、母も危ないわねー急に
普通そっと海へ流すもんじゃないの?
と言われ、確かにそうかも、と思った。
失敗したなーと思ってると
ちゃっかり水着に着替えてた父が
海へ入り、予想外のバタフライで
泳いでいった。
はっや
え?何、なんであんな泳ぎ上手いん?
と、母に聞くと
水泳部のエースだったのよーと
笑顔で答えた。
全然知らなかったな
そういうの、興味無かったし
ちょっと意外な事実で面白いな。
母の青春話を聞いてると
父が戻って来ていた。
そういえばこの人、なんで突然
泳ぎだしたんだろ?
と疑問に思ったが、手元を見て理解した。
私がしたためた、濡れた手紙を持っていたのだ。
!?
いやいやいや!ダメだって!
何持ってきてるの!?
え?だって折角書いたんだからちゃんと
やりたいだろ?
そういえばなんて書いてあるんだ?
ダメー!早く流して!
海へ!!!
8/23/2024, 2:05:19 PM