裏返し。
靴下を裏返しのまま脱ぐ
誰でも一度は、したことがあるのでは
無いだろうか?
そして誰かに怒られても、ついうっかり
そんな事を繰り返してしまう人もいるだろう。
個人的には、別に良いんじゃないかと思ってた
そのまま洗って、履く人がちゃんとしたら
良いだけの話だと、そう思っていた。
しかし、裏、というのは一般的に
見せてはいけない所なのだ
うっかりで済ませられない裏も
あると言うことを忘れてはいけない。
ゴムマスク、陰謀論
会社の先輩から聞いた話でそんなのがある
曰く、世の中には権力者に成り代わり
裏から世界を操る人達がいるらしいのだ。
当然僕は、馬鹿馬鹿しいゴシップだとしか
思わなかった、だってそうだろ?
それだけの、力があるのなら
そんな回りくどい事をしなくても
力付くで変えられると思うからだ。
大体、明らかにメリットよりデメリットのほうが
大きいだろう、権力者ともなれば
決して一人で生きてきた訳が無い
周りすら騙さなきゃいけないなら
バレた時のリスクが大きすぎるだろう。
僕は、そうは思いつつも、波風を立てぬよう
適当に相槌をうち、聞き流していた。
最初に異変を感じたのは、その話をまったく
しなくなったからだ、いつも
口を開けば、ワクチンがどうとか
支配層がなんてとんでも話ばかりしていた
人が、世の中の、ニュースでしか見ないような
事しか喋らなくなったのだ。
それだけなら単純に、飽きただけとか
過ちに気が付いたのかと思えたが
その人は、仕事だけは本当に出来たのに
それがミスばかりになったからだ。
歳、と言われれば納得仕掛けたが
技術的な事ばかりミスをすれば
どうにも疑わしくなる。
僕は、もしかしたら
この人ゴムマスクなのでは?
と思っていた。
会社の休み時間
昼食の後は自家用車の中で昼寝をする習慣が
職場にはあった。
しかし、その日はたまたま車の調子が悪く
普段先輩が一人で昼寝している
休憩室で寝ることにしたのだ。
もしかしたらもう寝ているかも、と
思いながら、少し遠慮がちにノックをして
部屋に入ると、先輩は壁に向かい
横になっていた。
部屋は薄暗く、微かに寝息が聞こえるだけ
僕は、少し離れたところに腰を下ろし
スマホを開いた。
日課のゲームが一段落つき
さぁ、寝ようかと言う段階で
先輩が起き上がっていることに気付く。
スマホの明かりで見たその顔は
ゲームでバグった時に見る顔の裏側に似ていた。
筋肉、血管、良く分からない白い筋は
脂肪だろう、とにかく、人体模型のような
顔に驚いたが
すぐスマホに目を落とし
あっ、すいません起きちゃいましたか?
等と軽く会話をしながら抜け出す機を伺った。
眩しいから、寝るなら早く寝ろ、と言われ
いや、普段車の中なので逆に暗すぎて
落ち着かないし、寝たら起きれないかもと
適当にはぐらかし、退室した。
その後、何事もなかったかのように
仕事を再開し、気の所為だったかな?
と思い始めた時
先輩が話しかけてきた。
なぁおまえ、夜目は効くほうか?
どうですかね、最近夜は、暗い所で
スマホを弄ったりしてるので視力は
落ちてきてますが、どうしたんですか?
いや、それならいい。
探りを入れてきたのは
その一回きりだったので
なんとか誤魔化せたのだろう。
しかし、ゴムマスクを
裏返しにするなんて
間抜けなやつがいたもんだ。
地球に来てまだ日が浅いのだろう
僕のが先輩だろうな。
まぁお互い不干渉のほうが
都合が良さそうだが
裏返しに被ってたらどう注意を促すか
僕は、裏返しのままのマスクを
洗濯に放り込みながら考えるのだった。
鳥のように。
あぁ羨ましい。
夏休みの間、皆が何をしていたか
してきたか、興味も無いのに
耳に入るこの状況は、貧困世帯の私には
毒にしか思えなかった。
北海道だの沖縄だのハワイだの韓国だの
ありがちな旅行先だけど
私は1つも知らないのだ。
やっぱりこっちは暑いねー
湿気が違うんだよなぁ
とは、クラス1金持ちのいけ好かない男子の弁だ
暑けりゃクーラーつければいいだろうに、
それに除湿機もあるだろ、
私の家には無いけども。
イライラしながら寝た振りをする私は
汗で腕に張り付いた髪を不快に思いながら
ムクリと起き、下敷きで涼を取る。
大体、不公平だ。
お前達自身が何かしたわけじゃないのに
どうしてこうも私の家は金が無いのか、
いや、ご飯は毎日食べられるし、
学校にも通えてるのだから充分恵まれてる方
だというのは分かる、それにしたって‥
平等に不公平だとして
私がこの夏休み、何処にも行けず
バカにならない様に勉強している間
コイツらは観光地なんかで
勉強もせずバカンスを楽しんでるんだ。
それなら、せめて私がテストで1位をとって
将来ガンガン働いて、バカンスにいかなきゃ
おかしいのに、学力も学年上位なんだコイツらは
思うに、私が苦労している分をコイツらが
人生楽しんでるんだ、自分でした苦労が
他人の幸せに、理不尽にも
世の中そういう風に出来ている。
‥気がする。
はぁ、いや
今だけじゃないんだ
社会に出てもきっと同じ気がする。
その時に私は我慢できるのかな‥
いやあれだな。
見るからいけないんだ
見なければマシなんだ。
いや、見るだろうなぁ‥
いっそ鳥みたいに自由に
何処にでもいけたらなぁ。
地上でで何かしていても
気にもならないだろうな。
あーいいな、鳥。
鳥でも飼おうかなぁ
いつか大きくなったら乗せてくれるかも。
‥夕ご飯は、唐揚げが良いなぁ。
クラス1金持ちの男子
「◯◯さん、今日もずっと自分の世界に入ってたなぁ‥」
やたら広い教室で独り言が漏れる。
自分が嫌われてるのは、何となく
彼女の目を見ればわかる。
しかし、それでも自分は、彼女が気になるのだ。
有名私立の生徒というのは、見栄ばかりはり
如何に自分が優れているかマウントを取るものだ
それが事実かどうかより、それが人に自慢できるか
どうかのが大切だ、だからどうしても
何かを貶める事になる。
クラスの殆どがそんな話の中、
彼女だけは、窓の外の鳥を見ていた。
恐らく、鳥が可愛いとか、鳥になりたいとか
思っているのだろう。
よし‥。
話しかけてみるか‥
緊張しながら、しかし優雅な振る舞いは
崩さず、彼女に声を掛ける。
「鳥、好きなの?」
いきなりの事に彼女はピクリと肩を竦ませ
なんとか答えた。
「あっはい、モモが特に」
そう答えた後、
キョトンとした目でこちらを見ている
彼女にバレぬよう、冷静を装ったが
男は何を言われたか理解できていなかった。
「おもしれー女。」
咄嗟に口についた言葉が
昔見たドラマの金持ちイケメンの台詞と
おなじだったことで男は恥ずかしくなり
その場を去った。
あぁ、今すぐ鳥のように
飛び去りたい。
2人の鳥志願者が番になる日は遠くない。
さよならを言う前に。
38.9度の熱
体の節々が悲鳴を上げる
思わず漏れたうめき声
喉が痒くなり、咳き込んだ。
スマホを弄る元気も出ない
何か連絡が有るかもと見た時に
誰からも連絡が無かったから
もう見る気もない。
あぁもし、このまま悪化して
誰にも知られず亡くなって
葬式で泣くやつが居たとしても
俺は信用しないだろう。
「ピンポーン」
ブザーが鳴った、配達の予定もないのに
もしかしたら、誰か心配して来てくれたのか。
重い体を引き摺るように歩き
玄関を開けた
「あら、お忙しい所ごめんなさいねー
こういう物をお配りしてましてー」
知らない中年女性の手元に目をやれば
有名な新興宗教の冊子が握られていた。
「悪いけど熱、あるから帰ってくれ」
イラつきながらドアを閉めようと手を伸ばすと
「丁度良かったわ!貴方が今苦しんでいるのは
信仰が無いからなのよーこの冊子のね‥」
ふざけるな、と声を荒げようとしたが
直ぐに咳に変わって何も言えなくなった
「貴方のその苦しみを救えるのは神だけなの
でもね、神は今、貴方を見てないのよー」
あぁそうだろうな
そう思いながら、限界に近い体を支えるので
精一杯だった。
どれぐらい話し込まれたのだろう
最後は無理矢理冊子を押し付けて
やりきった顔で女性は帰っていった。
玄関で座り込み、そのまま横になった
自分の息遣いだけが廊下に響いている。
誰にも、さよならも言えず
死にそうとか、俺なんかしたかな。
なんてことを考えながら
人生を振り返り始める。
セルフ走馬灯だな
なんて、よく分からないところに
時々、意識を飛ばしながら
本当に碌でも無い人生だったなと
再確認する。
さよならを伝えたい相手の
連絡先も知らない。
最後なら、そうだな
謝りたいな、でも許してくれなくても良い
ただ伝えたい
いやこれ、何かしらの幽霊になりそうだな。
でも、それでいいか
いや、その方が良いか
形はどうあれ、伝えられたら満足だ
自己満足でも、もういい
さよならより言いたい事なんて
一杯あったのになぁ‥。
あぁ床、冷たくて気持ちよかったのに
今はもう硬いし痛い。
そういえば呼吸、聞こえなくなってきたな。
しんどいけど、うん。
死に方としては、穏やかだし
悪くない、悪くないよな。
さよならを言う前に
それだけは伝えたい。
悪くなかったよ。
空模様。
眩しさに目、閉じてかざした手
雲の1つも見えなくて、
思わず溢れる高揚感
迷わず飛び出す使命感
今日楽しまない、そりゃ有り得ない
オーディオ内から鳴り止まない
真夏を彩るミュージック
そう心震わせるマジック
君、迎えに行こう
風の方へ、辿る道
角、曲がりすぐ
日差し浴び、光る女神
真夏のブルーからブルーへ旅立って
最高の気分からヘブン、辿り着く
空のブルーカラー来る、陽の光
海のシーサイドブルー、弾けてく
あぁ夏が来たな、君と来たな、あぁ
今年は、炎天下
俺と居てくれんか。
ちょっと趣向変えて
陽キャが夏に聴きそうな
J-POPの作詞をしてみました。
馬鹿っぽい?
それ最高の褒め言葉ね。
鏡。
地元で有名なアクアリウム専門店。
店の入口は大きな鏡が対になっていて
合わせ鏡になっている。
小学生の頃。
その鏡の何番目かの顔は、
自分が死ぬ時の顔だという
荒唐無稽な噂が流行った
時間指定があったり、何曜日じゃないと
見えない等、妙に条件が厳しかったのを覚えている。
まぁありがちな話だと、
そこまでして見たいものかと、
全く興味がなかった。
今、このアプリを開き
お題の「鏡」を見て思い出した。
もう随分と、合わせ鏡なんて見てないな、
そう思った僕は、自宅の洗面台に立った。
小学生の時の、少しスカしつつ
少し怯た顔をしていた自分を思い出しながら
手鏡を使い、やってみたのだ。
「!?」
なんてことだ‥
今まで全然気が付かなかったが
僕はあまりのことに死にそうな顔をしていた。
あぁ、もしかしてこう言う事なのか?
鏡の中の男は、悲壮感を漂わせ
青い顔をしていた。
そして手鏡の中には、
禿げ上がった後頭部が映っていたのだ‥。