雨に佇む。
ザァザァと落ちていく雨を見ながら
心の奥がざわついた。
台風が来ていた、大きな、とても強い台風だ。
だと言うのに、僕は職場で途方に暮れていた
傘が無くなったのだ。
確かに、持ってきていたはずだった
お気に入りの黒に白い幾何学模様の入った
目がチカチカしそうな傘だ。
派手だが、これなら間違われるはずが無いと
買った傘、無くなった理由はそういう事だ。
つまり、僕のとわかったうえで
盗んだやつが職場にいるのだ。
まぁ、僕は喋る方ではない。
仕事は仕事と割り切って、付き合いも
ろくにしてこなかった。
だとしてもこれは酷いだろう。
なんせ台風だ、横殴りの豪雨は
もしかしたら傘をさしても無駄かもしれない
しかし、あるのとないのでは違うだろう。
これは、困ったな。
走って帰っても良いが、その場合スーツは
びしょ濡れになって、明日が困るのだ。
いや、家に何着もあるのだが、困った事に
このスーツが一番仕立てが良い
明日は得意先が来る予定だから
家にあるようなスーツでは心許ないのだ。
そもそも
来るのか?いや、来れるのか?
そう思わないでもないが、得てしてこういう時は
来るのだ、困った事に。
大体、自分が風邪をひくかもしれない。
これだけの雨だ、打たれれば体温を奪われ
体調を崩す事も往々にして有り得るのだ。
困ったな。
何が一番困ったって。
あるのだ。
誰かの傘が。
恐らく、もう社内には人が居ないはずだ
だと言うのに一本、誰かの傘がある
そして傘を盗まれた僕が一人いる。
この傘を借りれば
先程の悩みなど雲散し
明日に備える事が出来るのだ。
いやしかし、それでは
僕の傘を盗んだやつと同じレベルに
なってしまう。
盗まれたから盗みましたが免罪符に
なる訳がないのだ。
雨を睨む。
僕は佇む。
そこに天啓。
そうだ、タクシーを呼べば良いじゃないか。
雨に佇ずむ。
8/27/2024, 12:03:09 PM