香水。
あ、香水変えたでしょ?
前よりちょっと高いやつに。
バイト先の先輩の香織さんは鼻が良い
香水は勿論、シャンプーを変えても当ててくるのだ
僕に寄って鼻を利かす仕草は犬のようで
密かに恋心を抱かせるには充分な可愛さがあった。
ただ、余りにも
鼻が良すぎる時があって
前日の夕ご飯まで当てられた時は
少し怖くもあった。
変わったのは、夏になってから。
あれ程僕に話しかけてきたのに
一切香織さんは関与してこなくなったのだ。
それだけならまだしも、気が付くと僕を
不満げに見つめてくるのだ。
恐る恐る話しかけ
昨日の夕ご飯何かわかりますか?
と問いかける。
すると不機嫌そうに
犬じゃないし、わからない
と答えたきり、黙ったのだ。
帰り際に店長に声をかけられた
お前、スマホ変えたのか?
そう、数週間前
海に行った時壊してしまったのだ
お陰でアプリなんかも全て引き継ぎ出来ず
色々やめてしまった。
ふと
そこで気が付いた
あぁそうか、香織先輩って
もしかして‥。
しかし、そんな予想とは裏腹に
また香織先輩の名犬ぶりは復活した。
いや、なんなら以前より鋭く
よく買うコンビニのスイーツすら
当ててきたのだ。
僕は見た。
夜中のうちにゴミを捨てた後
途中で飲み物を買うのを忘れ
戻る時。
僕の捨てたゴミ袋を無表情で漁る
香織先輩を。
香織さん、何を‥
思わず漏れた声を聞くやいなや
逃げていった香織先輩を。
次のバイトで一緒になった時
気不味い僕と裏腹に
香織先輩は普通に、いつも通りに
あんまりコンビニ弁当ばかりは良くないよ?
と話しかけてきた。
僕が曖昧な返事しか出来ないでいると
じっ、と僕を見つめていた
その瞳の黒さが恐ろしかった。
帰宅後、少しアルコールを取り
微睡んでいた。
玄関のドアが開く。
鍵、掛けたはずなのに。
香織先輩が居た。
ホームセンターの袋から
ロープとガムテープを取り出し
口元を歪め僕に言った。
あの香水、私の元カレも使ってたの
もう居なくなっちゃったけど
こんなトコに居たんだね。
一つもわからない事を言いながら
ゆっくりと僕の方へ‥。
8/30/2024, 10:40:00 AM