夜空の音

Open App
11/25/2025, 1:18:05 PM

落ち葉の道

風が吹いて、冷たい風が頬をさする。足元は赤と黄のカラーロード。
後ろからピヨピヨと音を鳴らしながら弟が母と手を繋いで歩いていた。
私は黄色い帽子を被って、青いリュックを背負っていた。
鼻にツーンと匂いを感じた。金木犀だ。
歩行者天国なこの道は、ずっと木々が生きていて、カラーロードが続いていた。
カサッと音がして、帽子を脱ぐと、まだ色づき切れていない葉が乗っていた。ほんのり赤の葉が、黄色い帽子の飾りのようだった。
幼いながらに、このカラーロードを美しいと感じた。

カサカサと音を鳴らしながら、このカラーロードを歩く。
今は紺のリュックを背負っている。
帽子は無くて、制服に身を包む。
今もツーンと鼻に匂いを感じ、金木犀を避けて歩く。それでも白いスニーカーはほんのりと黄色く染まってしまっている。
風が強く吹き、木々が歌い出す。
その歌の中から、笑い声が聞こえた。男の子の集団が、赤や黄の葉を手に騒いでいる。その1人に、私の好きな彼がいる。
彼は私に気づいて、こっちに走って来た。その姿に胸が高鳴るのを感じる。彼は黄の葉を握りしめている。
笑いを隠しきれない様子で彼は私の頭に触れ、離れる。
離れた手には、赤の葉がある。
「何つけてんねん」
彼は左右の赤の葉と黄の葉を見て、ニカッと笑う。じゃあな!と言い残すと、友達の元へ駆けて戻る。
私の顔はきっと、足元に散っている赤の葉と同じ色をしているだろう。

11/24/2025, 12:00:30 PM

君が隠した鍵

君は、冷たい人だ。
君は、何を考えているのかわからない人だ。
いつも笑っている君の目は、いつも笑っていなかった。誰も、それに気づいてはいない。

柔らかな物腰に、綺麗な言葉。凛とした立ち姿。そんな君に惹かれる男は多かった。
君に近づいて、気づいた。優しい雰囲気に、緊張の糸が張り巡らされていることに。ふとした時、丸い目が冷たく、つり目になることに。その瞳に、光がないことに。
それが、君の素の姿なのだと悟った。でも、君はその姿をこんなにも近づいたのに、隠し続けている。
あんなに大きく優しい母のようだった君は、小さく震える子どものように思えた。
君は、いつも仮面を付けていた。何重にも重なる仮面の下は見えない。そして、心が傷つかないように鍵をかけ、凍らせていた。

それに気づいてからは、君の心を温めようとした。
君の鍵を探した。

君自身もわからなくなった鍵の在処を探し続けている。

11/23/2025, 11:24:04 AM

手放した時間

「勉強に集中したいから、別れて。」
彼はそう言った。
「わかった、勉強がんばって。」
そうして、私は1人目と別れた。

「さよなら。」
酔いつぶれて、暴言を吐いた彼の寝顔を横目に、机に鍵を置いて家を出た。
彼はむにゃむにゃと寝言を言っている。
そうして、私は2人目と別れた。

「別れたい。私の事怖いんでしょ?」
仕事中の私を怖いと言った彼は、なぜか私の袖を手放そうとしない。
「怖いと思われてるの知ってて、付き合いたいなんて思うわけないでしょ?怖い仕事の私も私なの。それを受け止められないんでしょ。」
でも....としょぼくれてる彼の手を振り払った。
そうして、私は3人目と別れた。

「別れて欲しい。」
私はLINEでそう打ち込んだ。
「なんで」「いやだ」
彼は私に噛み付いて離さない。
私は最終手段に出た。
「好きじゃなくなったの。」「浮気した。だから別れて。」
恋愛感情の好きなんて、思ったことないくせして、さも、今までその感情があってそれが失われたかのように。
そうして、私は4人目と別れた。

「ごめんなさい、ごめんなさい!嫌いにならないで!」
彼はなんと言ってたのだろう。
「もうでて行く!だから、ごめんなさい....!」
何も分からなくなった私は、気づけば友人の車に乗っていた。
手元には荷物が1式揃っていて、私は彼の家を出てきたことに気づいた。
そうして、私は5人目と別れた。

みんなが、恋愛感情の好きを持ってなかった。でも、大切だった。だから、元気にしてるか未だに心配する。5人目の、あなた以外。

11/20/2025, 10:26:54 AM

見えない未来へ

「次は2週間後頃ですね、いつがご都合つきますか?」
「じゃあ、2週間後の12月4日にお願いします。」
「はい、12月4日に予約おとりしますね。お時間は何時頃がいいですか?」
受付のお姉さんは綺麗な髪をしている。染めているのか少しブラウンがかったその髪は毛先をワンカール。大人しいメイクは目元のラメが上品に光り、小ぶりなピアスが髪の隙間からきらりと光っている。
対する女は、手入れしていない髪を隠すように1つに束ね、深く帽子を被る。その下にはマスクで顔を隠した眉毛を書いただけの顔がある。
「午後でお願いします。」
「それでは今日と同じく16:00はいかがですか?」
「大丈夫です、お願いします。」
女は慣れたように返事を返す。このやり取りを何度も繰り返しているのがよくわかる。
「はい。それでは12月4日の16:00にお待ちしてますね。」
受付のお姉さんはにこりと綺麗な笑顔を浮かべて、お大事に。と女に告げる。女は、ありがとうございます。と呟いて、そそくさとその場を後にした。

22:00。
夜と夜中の堺のこの時間、女はやっとお風呂に入って寝る準備をした。
「おやすみ。」
同居する両親に挨拶をして、1杯の水が入ったコップを片手に自室へ向かった。
部屋の椅子へ腰掛けると、ひとつため息を吐き、今日もらった袋からパキパキと手馴れた様子で多くの薬を手に出す。
それを水とともにごくりと飲み、顔をしかめる。
「....まず。」
日記を取り出した女は、淡々と文字を綴る。書き上がったものを1度目を通し、今日も楽しいことを書けなかったと落胆する。
パタンと日記を閉じ、定位置へ戻すと女はベットへ向かい、電気を消し、布団に潜り込み、スマホを充電した。
真っ暗な部屋の中何度も目を閉じ、目を開け、また閉じる。それを長い時間繰り返した。慣れた日常でも、やはり心は沈み込んでしまうらしい。女はなんとなく手首の古傷に触れ、ため息を吐く。
薬の効果は全く感じられない。昨日も、今日も、明日も。ずっと変わらない。

11/19/2025, 1:00:37 PM

吹き抜ける風

金曜日の夜。今日も俺はバイクを走らせる。
低くバイクをうならせながら、風をきって走るこの時間が俺は好きだ。何もかも、全てを置いて行ける気がするからだ。この時間だけは俺は自由だ。
トロトロ走る車も、ノロノロ走る原チャリも、その間をすり抜けながら追い越していく。
黒い服を着た俺と、黒いボディのバイクは夜の風のようだ。
バイクは改造を重ね、原型を留めていない。俺のバイクだ。俺だけのバイクだ。唯一無二のバイクだ。
そんなバイクが、そんなバイクを乗りこなす俺が、イケてると思っている。

久しぶりの金曜日。久しぶりのいつもの道を久しぶりに風になってバイクに乗った。
今までより、スピードが出ていた。この感情をどこかに置いていきたかった。
久しぶりにできた彼女は、俺のバイクの運転を心配していた。イケてるのではなく、危ないのだと言った。だから、俺は金曜日の夜をやめていた。
でも、別れてしまった。
大事にしたかった。大事にできなかった。
これまでないくらいにバイクはうなり、スピードが出ていた。身体が浮いた。そして、強い衝撃が全身を襲った。
俺とバイクは、風になってそのまま死んだようだ。

Next