夜空の音

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1/2/2026, 11:25:39 AM

今年の抱負

「それじゃぁ、1人ずつ今年の抱負を聞かせてもらおうか。」
お酒の回った席で、祖父が言い出す。
毎年の事だ。
だがその一言に、私たち子どもに僅かな緊張が走る。

「下から行こうか、今年の抱負は?」
最年少のいとこに照準が定められる。
「ともだちたくさんつくります!」
小学生らしい、かわいらしい抱負だ。祖父はうんうんと頷きながら、その隣へ目を移す。

「今年の抱負は?」
「勉強頑張ります。」
少し緊張気味に中学生のいとこが答える。
「頑張るじゃないだろ。」
祖父は容赦ない目でいとこを睨む。お酒を飲むと手が付けられない暴走ぶりだ。
「どう頑張るんだ?」
「っ定期テスト、毎回合計400点以上取れるように勉強します。高校受験も、偏差値60以上の学校に行きます。」
いとこの手を見ると、膝の上でギュッと固く手を握りしめていた。
「それくらいは普通だな、もっと上を目指せ。」

祖父は続いて私の弟に照準を向ける。
「俺は....大学の𓏸𓏸っていう分野に興味があるから、それについて調べて勉強します。」
私たちには𓏸𓏸が専門用語すぎてわからない。
祖父は満足そうに、がんばれよ。と言う。
相変わらず、男に甘くて女に厳しい。

「それで....お前は?」
最後に、私に目を向ける。
「私は、仕事で2年目になるから、4月に入ってくる後輩に頼られるような先輩に....。」
「そんなの聞いてない。」
心の中で、ですよね。と思う。
「お前、結婚は。彼氏は。」
無遠慮な目つきで私を上から下へ見る。
「いません....。」
「お前次何歳になるんや?」
「24です....。」
別れてすぐの私には、この話題はしんどい。でも、それを言い出せる訳もなくて。
「お前な、前から言ってるだろ?彼氏はまだかって。」
「....はい。」
「24だろ、早く結婚しろ。女の幸せは結婚なんだ、女の仕事なんてどうでもいい。」
「わかりました。」
お見合いをするか?と言い出した祖父の言葉は聞かなかったことにした。

中学生になった時から、彼氏はまだかと言われてきた。
20歳から、結婚はまだかと言われてきた。
早く曾孫を見せろと言われてきた。
昔からの、時代錯誤したセクハラ発言。
これだから、正月は嫌いだ。祖父に会いたくない。

1/1/2026, 11:19:44 AM

新年

「いらっしゃいませ、こんにちは。」
新年早々に長蛇の列を目の前に、ため息を吐く暇すら無くキリキリと動き回る。
「お先にお飲み物失礼します!」
不安定なドリンクが倒れないように気を配りながら、下に手を添えながら袋を渡す。
「お客様、申し訳ございません。お食事が少々ご準備に時間がかかってしまっておりまして....。進んだ先、右手にありますゼブラゾーンでお待ちいただけますか?」
少しイカついお父さんドライバーは、ムッとしながら頷く。流れていく車へ頭を下げながら、手元だけ次のお客様の準備を始める。

「ゼブラ上がったから、持ってって!」
「はい!」
反射的に返事を返し、目の前のお客様に失礼しますと声をかけてその場を離れる。
かなりの量で、3袋に詰められた物を前に、よくゼブラに送ってから3~4分で用意できたなぁと舌を巻く気分だった。
「ぬけます!持っていきます!」
小走りに同僚の間をすり抜けて裏口にまわる。
「お客様、大変お待たせしました。申し訳ありません。こちらお食事で」
「おっそいねん!ざけんなよ!!」
お父様、ご乱心....。なんて良くあることすぎて心の中ではあらまぁ程度に思っていた。
「大変お時間お取りしてしまいましたね。誠に、申し訳ございません。」
すみません、申し訳ありません、そう言いながら手に持つ袋を渡していく。奪い取るようにしながら受け取るのを見て、あぁ、中のものぐちゃぐちゃなるのに....とため息を吐きたくなった。
最後の袋を奪われた時、いちばん大きく揺れた袋はお父さんの顎に直撃した。
「大丈夫ですか?!」
心配は不要だったようだ。
「....お前のせいで、ぶつけた!ふざけんな!」
「も、申し訳ございません....。」
反論する訳にもいかず、素直に謝罪を口にして頭を下げようとした。その時、何となく嫌な感じがして、思わず車から離れた。
間髪入れず、少し視線を下げてた私の視界には、先程まで足があった場所をタイヤが滑って行った。
「お前死ねよ!クソが!」
お父さんは怒鳴りながら車を運転して消えていった。

「すみません、戻りました!」
「遅かったけど、なんかあった?」
建物に急いで帰り、元の場所に立つと店長が心配してきた。
「あ〜....えと、死ねとお怒りでした。高校生が行かなくて良かったです。」
帽子をグッと深く被り直しながら答える。
「お客様こんにちは、ただいまご準備しておりますので少々お待ちくださいね。」
周りがギョッと心配の言葉をかける中接客を続ける。そして、大丈夫ですよ、よくあるんで。と笑って見せた。


その数時間後。少し店も昼時をすぎて落ち着いてきた。
「お客様、前の窓口へお越しください!」
離れた場所で止まってる車に、身を乗り出して声を張る。
ノロノロとやってきた車に1つお辞儀をして、
「いらっしゃいませ、お客様のお会け....」
思わず言葉を止めた。

揺れている。
そう判断した直後、フライヤーがエラー音をけたたましく鳴らし出した。
目の前のモニターはゆっくり右へ左へ振り子のように振られている。
高校生も、主婦も、戸惑ってその場を動けずにいる。
厨房の外国人は叫び出した。

「会計、カードで。」
車に乗ってるの気づきにくいらしい。
「え、あの....地震なんで、お待ちください....。」
「え?」
申し訳ないとも思いながらも、これ以上この人に構っていられない。
時間帯責任者か、店長か、誰が対応してるかと周りを見渡す。店長は、いない。時間帯責任者は、3人もいるのに全員フリーズかパニック中。
まともに、頭を回せてる人は居なさげで....。
「厨房!火元から離れてください!こっち、前出てきて!」
仕方ない、これで事故が起きるよりはマシだ。
「君ら!モニターからも離れて!揺れてるから落ちるかもしらない!
お客様、窓から離れてください!」
ジワジワと動き出す傍らで、外国人は叫び続けている。
「Come here!Come front!」
なんとか頭の中で組めた英単語を彼らに叫ぶ。

揺れが収まると、今度は油やフライヤーが点火できなくなった。
レジも止まった。
時間帯責任者と店長はバタバタとしていて、高校生や主婦は呆然とその場に突っ立っていた。
私は店長らに相談する余裕が無いのを見て、無断で客席に破損や怪我人が居ないか確認するように指示をした。商品の受け取り待ちのお客様に、揺れの影響でエラーが多く発生していて時間かかっていると説明をするように指示をした。ドライブスルーに走って、コーンを立てた。デリバリーのおじいちゃんとドライブスルーに入ってこないよう規制した。

仕事が終わる時間になった頃には、私は疲れ果ててお昼のお父さんの事なんて忘れていた。ただ。
新年早々、何してんだろ。
そう、タバコの煙と共に、やっとため息を吐いた。

12/30/2025, 10:32:47 AM

星に包まれて

寒さに耐えられなくて、毛布を引き上げる。
すると、彼が私をチラッと見た。目を逸らして、小さくため息をひとつ。
不快にさせてしまったと、頭の中はプチパニック。
そんな姿を見て、彼は私の頭を優しく撫でた。何も言わずに、エアコンの温度を上げて、包み込むように抱きしめる。
ツンケンした彼の、所々に現れる優しさは、星のようにキラリ、キラリと輝いて見える。

12/29/2025, 10:16:20 AM

静かな終わり

ホールにヴワァンと音が響く。
最後の1音が、ホールいっぱいに響く。

ピタリと終わったその音楽は、少しの時間の静寂を作り出す。

そして、その後ワッと湧き上がるような拍手がホールを包み込む。

12/27/2025, 11:05:26 AM

凍てつく鏡

「鏡よ、鏡....。世界で1番、美しいのは....だぁれ?」
震える手で鏡に手を伸ばしながらつぶやく。
鏡は何も言わないただの鏡になってしまっている。

「鏡よ、鏡....。世界で1番、美しいのは....わたくしよ。」
その言葉を最後に、氷に閉じ込められた。
遠くぼやけていく視界で、鏡も氷漬けになっていくのを見送った。

『わたくしは、なにが間違ってたのでしょう。
あの娘さえ、いなければ。
全て上手くいったのに。
あぁ、まだ死にたくない。』

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