こんな夢を見た
彼が、笑っている。
幸せそうに、笑っている。
私をぎゅっと抱きしめて、こう言った。
「二人で幸せにしてあげよ。」
私はお腹に手を当てて、まだ感じない胎動を感じようとする。
彼は私の手に上から添えて、嬉しそうに笑う。
まだ現実味を感じない私は、不思議な気分だった。私の中に、新しい命がいる。それが、まだ実感がない。
でも、彼が嬉しそうで、それが全てだった。
「幸せに、しようね。」
お金のことや、結婚。考えないといけないことは沢山ある。
でも、今は。
この新しい命の誕生を、素直に祝ってあげたい。
アラームで目を覚ます。
私の目からは、涙が出てくる。
間違いがないように、釘を指していた。だから、こんなことは起きるはずもなかった。
でも、間違いがあれば、今もまだ彼の隣にいられたのだろうか。
タイムマシーン
小学生に上がる前の冬、私は机を買ってもらった。
白い机。
気に入った。
机の下に入るタイヤ付きの引き出しもある。
下段には教科書を。
中段には予備の文房具を。
上段にはよく使う文房具を。
母と引き出しの中に整理して入れた。
そして、母が部屋から居なくなると、私は上段の中身を全て出した。
空っぽになった上段を引き出しに戻して、私はニヤニヤした。
ある日突然、ネコ型ロボットが現れるのを信じてた。
そんな頃が、私にもあった。
海の底
「あたし、クラゲになりたいの。」
そう、彼女は言った。
クラゲが好きな彼女が、そう言った。
「クラゲって、脳みそがないの。ただ、海の中をぷかぷか浮いてるだけ。」
それが好きなのだと、彼女は言った。
脳みそが無ければ何も考えられない。
何も、考えずにいられる。
だからクラゲになりたい。
その言葉は、彼女のSOSに感じた。
もう、何も考えたくないという、心の叫びに聞こえた。
海の底で、何も見たくないのかもしれない。
「私は、カラスになりたい。」
海にも、山にも、都会にも。どこにでもいるカラス。
カラスになれば、どこへだって飛んで行けると思うからだ。
どこかへ消えてしまいたい私と、考えることに疲れた彼女。
似ているけど、似ていない。そんな私たちの、たわいない会話だった。
君に会いたくて
朝起きて、思う。
そろそろ仕事してるのかな、お休みかな。
お昼ご飯を食べてて、思う。
今日は何食べてるんだろ。
ちゃんとごはん食べてるかな。
夕方、太陽が沈むのを見て、思う。
この夕焼け見てるかな。
夜寝る前、思う。
今日一日何をしてたんだろ。
そして、思う。
君に会いたい。
そうして、写真ホルダーを開いて涙を流す。
こんなことを思ってるなんて、絶対、秘密。
この世界は
「おはよう!」
「おはよ〜。」
いつものように、挨拶し合う声が聞こえる。
いつもと同じ景色だ。
ただ、ひとつだけ違うことがある。
隣が、色あせて見える。霧がかかったようにぼやけている。
隣にいるはずの人がいない。
隣にいつもいた人がいない。
隣で笑ってくれる人がいない。
この世界からあの人がいなくなった。
それなのに、この世界は何も無かったかのように時が過ぎていく。
大切なあの人がいなくなったのに、周りは何食わぬ顔で“日常”を過ごしている。
この世界は、残酷だ。