夜空の音

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記憶

なんとなく目が覚め、時計を見るとあと5分で起きる時間だった。
少し早めに布団から出た私は、疲れの取れていない重い体を動かし支度を始めた。就職を機に引っ越した友人と1年振りに会う約束をしていた。
身体に残る睡眠薬を漢方の力で相殺し、カフェインを身体に流し込んだ。

電車の人混みに気持ち悪くなりながら、待ち合わせ場所に到着した。そこには、友人がいた。
『ひさしぶり!』
足取り軽く、彼女の元へ駆けたが、彼女はピクリとも反応しない。
イヤホンをしてるのかもと思いながら、隣に立つ。
『お待たせ。』
しかし、彼女はまだ反応がない。
『ねぇ....。』
私は彼女の肩に触れようと手を伸ばした。
その時、初めて彼女は私を見た。
「....どなたですか?」
予想だにしなかった返答に、言葉が続かない。
その時、通行人が私のそばを通った。
避けきれず、ぶつかったはずの通行人は何も無かったかのように歩き去っていった。
『....そっか。』
昨日、寝る前に願ったことが叶ったのだと気づいた。
毎晩、寝る前に願ったことが叶ったのだと気づいた。
私という存在は、この世界から、みんなの記憶から、消えていた。

3/25/2025, 3:52:28 PM