吹き抜ける風
金曜日の夜。今日も俺はバイクを走らせる。
低くバイクをうならせながら、風をきって走るこの時間が俺は好きだ。何もかも、全てを置いて行ける気がするからだ。この時間だけは俺は自由だ。
トロトロ走る車も、ノロノロ走る原チャリも、その間をすり抜けながら追い越していく。
黒い服を着た俺と、黒いボディのバイクは夜の風のようだ。
バイクは改造を重ね、原型を留めていない。俺のバイクだ。俺だけのバイクだ。唯一無二のバイクだ。
そんなバイクが、そんなバイクを乗りこなす俺が、イケてると思っている。
久しぶりの金曜日。久しぶりのいつもの道を久しぶりに風になってバイクに乗った。
今までより、スピードが出ていた。この感情をどこかに置いていきたかった。
久しぶりにできた彼女は、俺のバイクの運転を心配していた。イケてるのではなく、危ないのだと言った。だから、俺は金曜日の夜をやめていた。
でも、別れてしまった。
大事にしたかった。大事にできなかった。
これまでないくらいにバイクはうなり、スピードが出ていた。身体が浮いた。そして、強い衝撃が全身を襲った。
俺とバイクは、風になってそのまま死んだようだ。
11/19/2025, 1:00:37 PM