瀬尾はやみ

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7/9/2023, 1:19:51 PM

 小説や漫画を読み終わったあと、映画を見終わったあと、あるいは舞台を観劇したあと、エンドロールに流れる曲を考える。
 誰にも言ったことないささやかな趣味だけど、これが本当に好きだ。登場人物の心情や行く先を考えたり、結末に納得がいかなければどんな終わりにするかを考えたりする。その延長線上にエンドロールに流れる曲を考える。
 
 この世に創作物に触れたことがない人はいない。だけど、その先や登場人物のついて深く考える人は少ないことを知った。こんなにも楽しいのに! と思うけれど、逆に異端者を見るような目で見られるので、あまり言わなくなってしまった。

 創作物に触れるのと同じくらい、音楽を聴くことも好きだ。外出する時はイヤホンは欠かせないし、家ではスピーカーで音楽を流している。音楽がないと生きられない。それくらい好きだ。

 その二つが重なり合って生まれた趣味がエンドロールに流れる曲を考えることだった。いつから始めたのか忘れたけど、気がついたらそれが当たり前になっていた。
 バラード、ラブソング、ヒップホップ、ロック。この世にはいろんな曲がある。誰の目線からみた曲に当てはめるのか、ストーリー全体を表しているものにするのか、それを考えるのがすごく楽しい。創作物に触れたらここまでするのがワンセットだ。
 
 やめられないのはきっと両方の解像度が上がるからだと思うし、自分に新しい価値観が生まれる気がする。するだけで生まれているかは分からない。生産性はおそらくない。
だけどわたしはこの当たり前をやめられない。
 

7/6/2023, 1:30:16 PM

友だちの思い出

最近できた友だちと出会ったのはインターネットのなかだった。
わたしはその友人の描く絵に惚れ、友人はわたしの書く話が好きだと言ってくれた。

 ネット上だけのやりとりで半年くらい経ったころ、お互いに好きなアニメがテーマパークとコラボすることになって一緒に遊ぼうとなった。
 
待ち合わせをした駅で友人を見つけたとき、その場から逃げたくなるような不安に襲われた。友人はとてもおしゃれで、もし同じ教室にいたら絶対に話さないタイプの人間だった。話が続かなかったらどうしよう、退屈な思いさせたら嫌だな。なにを話したらいいか分からなかった。
 対面で話をするということはネットでは分からなかった部分が見えてくる。その人の話し方とか、外での振る舞い方とか。それはわたしも同じで、相手がわたしを知れば知るほど幻滅される可能性が高くなるということだ。
 
 緊張しながら過ごしていたが、解散するころにはすっかり打ち解けていた。夜7時くらいの解散だったが、帰りたくないと思ったほどだ。会うことができて本当に良かった。
 わたし達は価値観、好きな音楽、映画、アニメ作品、どれをとっても似ていて、話が尽きることはなかった。唯一似ていないのは服装だけだった。

 きっと街中で会ってもわたし達は仲良くならなかっただろう。だけど話をすることでこんなにも分かり合える人間がいることが嬉しく感動した。人は見かけによらないし、話をすることは大事なんだと経験することができた。これが、わたしの友だちの思い出だ。
 
 友人は今度の休みにも会う約束をしている。早く約束の日にならないかな。

7/1/2023, 1:13:57 PM

窓越しに見えるのは

駅から歩いて10分、家賃6万5千円のワンルームに僕と湊は住んでいる。
起きると陽はすでに高いところに昇っていた。窓辺から差す日光で部屋は蒸し暑い。

湊は眉根を寄せて、寝苦しそうな顔をしている。
「……かわいい」
つい呟いてしまった。こんなに部屋の中は暑いのに、大事そうにブランケットを抱きしめていて、時おりじっとりと額に張り付いた前髪を払うように寝返りを打つ。

愛おしい、かわいい、守ってあげたい。どれも正しいけど、ぴったりとくる言葉ではない。心の奥底から湧き上がるような感情は言い表せない。

「……起きてたの?」
ゆっくりと瞼を開け、まだ眠たそうな視線が俺を捉える。本当にかわいい。
「起きてた。よく眠れた?」
「微妙、とにかく暑かった」

湊の視線は窓の向こうに向く。生命力の溢れた緑の葉っぱ、すっきりと青い空。夏だなあと感じるには十分すぎるくらいだ。

「今日なにする?」
「なんにもしたくない」
それも悪くないなと思った。いるだけでしんどくなるような外の世界を、湊と眺めていられるなら。

6/30/2023, 1:11:03 PM

赤い糸

積極的に結婚したいわけではないけど、結婚しないと決めたわけでもない。

朝起きて昨夜のうちに買っておいた菓子パンを食べ、最低限の化粧をし、職場に向かい、きっちり給料分の働きだけして、帰路につく。
流れに身を任せて日常を過ごしている。

ルーティーン化した日々は省エネルギーで生きられるけど、これでいいのかなと恐怖にも似た不安に襲われることがある。

最近友人が結婚した。めでたいなと思う反面、変わらない日常が死ぬまで続くのかなあ、なんて考えてしまう。

もし赤い糸が見えたなら、その糸を辿って終着点に向かうだろう。その人は自分の人生を変えないかもしれないし、死ぬほどつまらない人間かもしれない。

だけどその先にあるなにかを知りたい。

6/29/2023, 12:54:31 PM

入道雲

「もうすぐ雨が降るな」
隣でブランコに揺られながら湊が言った。空を飲み込んでしまいそうなほど大きな雲は意識しなくとも視界に入る。
「全然そんな感じしないけど」
「多分、一時間かそこらで大雨が降って、また何もなかったように晴れる」
湊は確信を持った口ぶりだった。今は晴れてるのに、と思うけど湊が言うならそうなのだろう。好きな人の言葉は手放しで信用できる。
「傘持ってきてないよ」
「俺もだ」
「どうする?」
湊はどうするのだろう。手段を問うというより、判断を彼に委ねたかった。うーんと湊が考え込む。大人しく家に帰ろう、なんて言いませんように。
「本屋に寄りたい」
「本屋?」
「おすすめの本を紹介しあって、明日までに読んで感想を言い合う」
わっと胸が踊るような提案だった。だから湊が好きなのだと改めて思い知る。
「うん……!すごくいい!やろう!」

本屋に向かう途中ぽつぽつと雨が降り始め、着くころには本降りになっていた。
「ちょうど降ってきたね」
「うん、本格的に濡れなくてよかった」
ざあざあと地を叩きつける雨音は室内にいても、はっきり聞こえてくる。
「これ、やむかなあ」
ぽつりと漏らすと
「雨が止むまでずっといたらいい」
と湊が言った。ああ、こういうところが好きなんだよなあ。

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