瀬尾はやみ

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入道雲

「もうすぐ雨が降るな」
隣でブランコに揺られながら湊が言った。空を飲み込んでしまいそうなほど大きな雲は意識しなくとも視界に入る。
「全然そんな感じしないけど」
「多分、一時間かそこらで大雨が降って、また何もなかったように晴れる」
湊は確信を持った口ぶりだった。今は晴れてるのに、と思うけど湊が言うならそうなのだろう。好きな人の言葉は手放しで信用できる。
「傘持ってきてないよ」
「俺もだ」
「どうする?」
湊はどうするのだろう。手段を問うというより、判断を彼に委ねたかった。うーんと湊が考え込む。大人しく家に帰ろう、なんて言いませんように。
「本屋に寄りたい」
「本屋?」
「おすすめの本を紹介しあって、明日までに読んで感想を言い合う」
わっと胸が踊るような提案だった。だから湊が好きなのだと改めて思い知る。
「うん……!すごくいい!やろう!」

本屋に向かう途中ぽつぽつと雨が降り始め、着くころには本降りになっていた。
「ちょうど降ってきたね」
「うん、本格的に濡れなくてよかった」
ざあざあと地を叩きつける雨音は室内にいても、はっきり聞こえてくる。
「これ、やむかなあ」
ぽつりと漏らすと
「雨が止むまでずっといたらいい」
と湊が言った。ああ、こういうところが好きなんだよなあ。

6/29/2023, 12:54:31 PM