瀬尾はやみ

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窓越しに見えるのは

駅から歩いて10分、家賃6万5千円のワンルームに僕と湊は住んでいる。
起きると陽はすでに高いところに昇っていた。窓辺から差す日光で部屋は蒸し暑い。

湊は眉根を寄せて、寝苦しそうな顔をしている。
「……かわいい」
つい呟いてしまった。こんなに部屋の中は暑いのに、大事そうにブランケットを抱きしめていて、時おりじっとりと額に張り付いた前髪を払うように寝返りを打つ。

愛おしい、かわいい、守ってあげたい。どれも正しいけど、ぴったりとくる言葉ではない。心の奥底から湧き上がるような感情は言い表せない。

「……起きてたの?」
ゆっくりと瞼を開け、まだ眠たそうな視線が俺を捉える。本当にかわいい。
「起きてた。よく眠れた?」
「微妙、とにかく暑かった」

湊の視線は窓の向こうに向く。生命力の溢れた緑の葉っぱ、すっきりと青い空。夏だなあと感じるには十分すぎるくらいだ。

「今日なにする?」
「なんにもしたくない」
それも悪くないなと思った。いるだけでしんどくなるような外の世界を、湊と眺めていられるなら。

7/1/2023, 1:13:57 PM