『Kiss』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
*光*
あなたの負担がどのくらいなのか
近くにはいないから
いえ...きっと近くにいても 何ができるのかは分からないけれども
その負担を少しでも軽くできるのなら
小さな小さなサイン そうして発信し続けてほしい
その小さな小さな光を
私がちゃんと受け止めて 集めて
あなたが必要なときには あなたの足元を
迷わないように照らしてあげるね
Kiss me。
これは英語が苦手な私が、唯一覚えられた言葉。
あなたに言うためだけに覚えたの。
だからあなたもオーケーとアイラブユー以外は言わないで…。
私だけのものになってよ…。
<好きってちゃんと伝えなよ>
雑貨屋「天使のkiss」木のプレートに店の名前が手書き風に彫られている。その横の木製のドアのドアノブをひねると、古びた重いドアは音を立てて、ゆっくりと開く。ドアに取り付けたベルがチリンチリンとなり、店の奥から小柄な彼女が出てくる。
「あきちゃん、こんにちは」
「みゆき、昨日言ってたブローチなんだけど」
「うん、ブローチ?あきちゃん、買うことにしたんだ」
こっち、とみゆきは歩き出す。ぴょこぴょこと跳ねながら歩くので、小柄なのもあって、リスのように見える。
狭い店内を気をつけて進み、ブローチやヘアゴムやネックレスなどが集まった一角につく。みゆきが、木のお盆に乗ったブローチの中から、ウサギが花を一輪持っている陶器製のブローチを取り出した。全体的に薄い桃色で統一されていて、優しい感じがする。
「いいよね、これ。優しい色使いでとってもすてき」
「うん。良いなと思った。でも、男がつけるのには向いてないよな。だから、部屋に飾ろうかなって思ったんだけど、高いし。もったいないし。で、1日悩んで買うことにした」
「そんなの、あきちゃんの好きなようにすればいいのに。あきちゃん、昔っからこういうの好きなのに、私意外の人には言わないんだから、私も苦しいよ」
背伸びして、ニットにうさぎのブローチを通した。
「ちょっと..」
白色のニットに、ブローチが鮮やかな光を落とした。
「私からのプレゼント。お代は払わなくていいから。ちゃんと付けて、これから先も大事にして」
頬にキスされる。やんわりと熱を感じた。
「好きってこと、ちゃんと伝えなよ」
何ヶ月か前の会話を思い出した。
「天使のkissって、なんでこんな名前なんだ」
「知らないよ。親が建てた店だし」
柔らかい唇がわずかに残した頬の熱。
あれは間違いなく天使のkissだった。
今日も明日も明後日も
たくさんハグして
何度もキスをしようね。
だいすき
『Kiss』
「Kissが上手だね」
そんな褒め言葉を聞く度に、Kissしたことを後悔した。
安い褒め言葉に似つかわしい女なのだと自覚させられるし、上から目線なのも気に入らなかった。
そもそも、その評価は誰得なのよ?
わたしが聞きたいのは、そんな言葉じゃないのにッ!
今日のお題:Kiss
君のくちびるに触れた
あたたかくて
やさしくて
何故か
君の心をのぞいたような
気分になって
それで
僕は君と別れた。
『Kiss』
彼の真っ白なワイシャツの襟首を掴んで引き寄せ、顔を埋める。
つま先立ちをしながら、やっと届いた彼の鎖骨に口付けをして…
…やっとできた。キスマーク。
「キスマーク付けたいのか?…出来てないなぁ」
首苦しい…と、モゾモゾしながら体を元に伸ばした彼は、はだけた襟周りを見下ろしながら言った。
「えぇ〜!?そんなぁ〜!」
せっかくキレイにグロス塗ったのに…。ちょっぴり大げさにリアクションする。
「グロス?だから、あんまり色濃く付いてないしなぁ…あー、ベタベタしてる」
唇の形には付いたはず!と、またしっかり確認しようとしてたのに。肌着の上からスタンプするように付けていたはずのそれを、彼は困惑しつつもう親指で拭いとってしまった。
もう!と頬を膨らませて、ちょっと不満ですよ、とアピールする。
「そもそも、あれじゃキスマークというよりリップマークだな」
ケラケラと彼が笑いながら、あの温かい大きな手で頭を撫でてくる。
子供扱いしてくれちゃって…
「も〜!じゃあ、ちゃんと吸ってキスマーク付けるから!」
「できないだろ」
「じゃあ付けて!!」
「しない」
そう問答しながら、彼は姿見を見ながらいつものようにネクタイを締め、スーツのボタンを閉じた。
ああもう、出掛けてしまう時間だ…
不満げな私に、姿見から振り返った彼が近付いて、あやすように頭をポン、ポンと撫でる。
「じゃあな。行ってきます」
玄関へ歩いていく彼の背に向かって、いつもの言葉をかける。
「…行ってらっしゃい」
ドアがガシャン、と閉まる重い音が聞こえる。
…行ってしまった。『キスマーク』、付けたかったのになぁ…。
毎朝、彼は私とは違う世界へ行って、夜になるまで帰って来られないのなら。
彼は私の物だって、私は彼の物だって――本当は、会えない間もずっと周りに知らしめていたい。
彼は、私にキスマークを付けるような事はしない。それなら、彼に付けていたいのに。誰からも見えるように、しっかりと。
今度は、拭っても落ちないリップを探して、やってみようかな。
2人っきりで、教会でkissがしたいな。
2人だけの約束と、2人だけの世界の中で…
「Kiss」
1000年先の世界に残るように、この歌を残します。
「君からの 愛が伝わる くちづけで
千年の梅の木に 想いを伝えてみる
初めてできた歌を」
「これからは私が、姫様をお守りいたします」
片膝をつき、手の甲に軽く口づける。
見上げた先には、初めて見たときから変わらない、慈愛に満ちた笑顔が待っていた。
……本当はこのまま手を引いて、あの薄桃色の唇に勢いよく口づけてしまいたい。口内を優しく撫ぜて、あの双眸が熱で揺れるさまを見たい。
そうなったら、姫様は一体、どんなお声で私を呼んでくださるのだろう。どんな愛の言葉を零してくれるのだろう。
——王族との身分違いの恋なんて、しょせんは空想でしか叶わない。
「ありがとうございます。貴方のこと、頼りにさせていただきますね。よろしくお願いします」
それでも空想で終わらせたくないと知ったら、貴女は告げたその言葉を後悔なさるだろうか?
お題:Kiss
君だけに、君しかできない
最高なキスを送るね。
まだまだ未熟だけど、君を一途に思う心と君に対する愛は本物だよ。
※2023.2.5 編集。ちょっとずるかったので一話追加しました。
随分と静かな晩だった。
雪解けにはまだ早く、底冷えのする寒さがしんしんと降りてはいたが、それでも、澄んだ空に浮かぶ月を戴きたくなるような、そんな夜だった。
だからあの人なら、一人庭に出て、空を見上げていると思った。
「ここに居られたのですか」
果して、その勘は当たっていた。ただ違うのは、彼はその視界に、月ではなく街を収めていたことだった。
「全く。いい加減ご自身の立場ぐらい、理解して頂きたい。護衛もつけずにこんなところで」
「五月蝿い。こんな晩に、鎧をつけたむさい男を側に置けと言うか、お前は。煩わしくてかなわんわ」
そう言って、心底嫌そうな顰めっ面を私に見せるのだから、私は肩を竦めるより他に仕方がない。
「せめてコートぐらい着てください。風邪を引かれては困ります」
「はあ、この世話焼きめが」
「それが仕事です」
暫しの沈黙。この人は何を思っているのだろうか。隣に立って、その視線の先を追えば、私にも彼と同じものが見えようか。
「……東の砦を、落としたそうです。隣国は、じきに降伏するでしょう」
「…………ふむ。言った通り、勝ったであろう?」
「ええ。全く、信じられませんよ」
彼が、世界征服という大それた野望を、胸に抱いているのは知っていた。それでも、東の隣国を攻め落とす、と言った時には誰もが驚いた。隣国は大国だ。そんなことは出来やしない、と影で嗤ったものも多かった。
しかしこの一件で、彼の評価は覆った。この方ならば、或いは本当に、世界をその手に収めてしまうかもしれない。そんな期待が国中に行き渡るのに、もうそうはかからないだろう。
「東の隣国が領土となれば、我が国はいっそう豊かになるでしょう。そうしたら、今度は南へ攻めるのですか。それとも、西岸から海の向こうの異民の地を目指しますか」
何れにしても、成せれば世界征服に大きく近づくことになる。
「阿呆か。暫く戦はせぬ」
思わず、彼の方を見た。
「なんだ」
「…………いえ」
世界征服は、お止めになられたのですか。言える筈も無い言葉を確かに自分は呑み込んだ。
ああそれなのに、貴方は豪快に笑ったのだ。
「まさか。ただ戦争はいかんな。何分、金がかか
る。金をかけず領土が広がるのなら、それに越したことはない……そうだな、南とは、まずは国境を無くす事からだ。お互いの民が自由に行き来して、法の枠組みでの国境が曖昧になれば、いくらでも取り込む方法はあろう」
「……では、それで国を一つ落とすのに、何年かかるのですか」
「どれだけ早くとも、五十年はかかるだろう」
耳を疑った。五十年だって?
「早いな、確かに。戦を起こせば、そうして勝てば。たった一瞬この世を統べる、それだけであれば、血生臭いのも良かろうよ。だがそれではつまらぬ。それならば、この世の民を一人残らず根絶やしにし、空の大地に旗を立てればそれで良かろう。それと、何も変わらぬであろう」
「ではこの世が統一されるのに、一体何年かかるのですか!」
──ああ。
「千年、だ」
貴方は、私に夢を見せてくれるのではなかったのか。
「千年後、この国の玉座が、世界で一番高くなる」
「…………それは貴方の手で成し得るものじゃあ無い。誰も、誰も! ……それを証明できないじゃありませんか……」
他人事だ。何をそんなに熱くなっているのか。言葉にしてみて初めて気付く。
思っているよりも悔しかったのだ、自分は。目の前の人物が凄いことを知っているから。
「容易い事ではない。むこう千年、後に信念を託し、必ずそれが報われると、疑わぬものしかこの座にはつけぬ。……だが、人は確かなものにすがりたくなるもの。一抹の疑念を抱き、目先の欲に目が眩めば、そんな人間が一人でもいれば、夢は決して叶わぬ」
ああ、語る言葉に血が通う。
「──だからこそ面白い。揺るがぬ一つの意志を、他ならぬ、『俺』の意志を、後世に残すのだ。それこそ、千年先も、人を魅了する、夢を! 言葉を!! ──それが成されるという、絶対の、自信を」
そして、遥か遠くを見据えたその目が、私の眼を真っ直ぐに射抜いた。
「故に、それが叶ったのであれば、それすなわち、手柄は俺のものだ。全て、俺の名の元に集い、俺の名の元に勝鬨を挙げ、そして俺の名の元に、世界を一つにせんと足掻くのだから」
ずるい人だ。冷めかけた心が、再び、いや、今まで以上に燃えている。あらゆる感情が胸の上で膨れ上がって、何故だか無性に喉を焼く。
「……千年越しに、貴方は、再び玉座に、座るのですか」
ああ、貴方のその顔を、私は決して忘れない。
「誓おう。私は、世界を手中に収めて見せる」
伸ばされた手は一真に月の光を浴びていた。私は直ぐ様頭を垂れ、その手に接吻を捧げる。
「もうとっくに、この身は国のものでありますが。私の全てを、貴方様に捧げましょう。唯、貴方様の、思うがままに。そして願わくば、千年先も揺るがぬ意志の、礎と成らんことを」
【1000年先も】 【Kiss】
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もう一本、お届けします。 by麦粉
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愛してる。情熱的な言葉を紡いで、呆けた顔に唇を埋める。たっぷり二秒数えて、その瞳を見ながら名残惜しそうに離す、その顔が上気していたら成功。こちらも恥ずかしそうに目を伏せられたら尚良い。
結婚しよう、そう切り出すのは、キスをしても相手が混乱しなくなった辺り。なるだけ真摯に言ってやる。今から大切な事を言います、というムードが何より大事で、雰囲気作りの出費はけちらないこと。
潤んだ瞳で了承されたら──その関係は終わり。
あとは、架空のウェディングコンサルタントを紹介して、金をいただいたら用無し、即とんずら。
そうして、また新しい人を見つけて、情熱的な愛を囁く。
楽なものだ。ルックスが特別良い訳ではない。それでも、人をたらすのは上手かった、それなりに人の欲しい言葉が分かったから。優しく、甘く、寄り添うように、欲しい言葉を的確に言ってやる、唇を寄せながら。そうしてそれは、見せかけの愛に上塗りされる。
ああ、もう、何人と唇を交わしたかも覚えちゃいない。どうでも良かった。
ただの、飯の種以上にはならないのだから。
「悲しいやつだな」
弾けるように顔を上げた。パイプ椅子が、僅かに軋む。
こいつ、このワン公が。鼻で、嗤いやがった。
うるせぇ、うるせぇよ! 後ろの制服に押さえつけられる。
俺だって、俺だってなあ!
……本物のキスってのがあるなら、知りてぇよ。
【Kiss】
kiss my withered heart.
あなたは『愛』を渇望していたわ。
なぜかって?それは、今まであなたは愛に飢えていたの。あなたはお腹の空いた狼よ。狼なの。
だから、私があなたのその飢えを治してあげようって言ってるの。
私の口付けだけで、あなたが欲しがっている『愛』があなたに伝わるのならね。
私は、もうとっくにあなたを愛しているわ。
お題「Kiss」
「投げキッスを恵んでください」
「嫌です」
私の土下座付きのお願いは、即答で拒否された。
彼は私の恋人。恋人という関係ではあるが、私としては、推しとファンの関係。手の届く場所にいる推しみたいな、そんな存在。
だから本来直接要求をするなんておこがましいのだが、うちわに「ファンサして」とか「あいしてる」とか書いて振ってても無視されるのだ。
だから仕方なく、土下座ということで甘んじている。
「そんなんじゃファンが離れていっちゃいます! いや、でもツンデレ方向にいくならたまに恵んでくれる方がいいかも……それに拒否するコウくんかわいい……」
「先輩に投げキッスのために土下座させてるの見られてる時点で、ファンどころか友達も離れていきますよ……やめてください」
「だって……! そうしないとファンサしてもらえないかなって……!」
「僕はアイドルじゃないんですって……あと、一般人がうちわ振られてるの頭おかしい状態なんでそれもやめてください……」
「困った顔もすてき……」
「話聞け」
「命令口調も良い……」
土下座したまま拝んでいると、目の前からため息が聞こえた。
呆れたような顔。睨め付けるように私を見つめるコウくん。
最高としか言えなかった。
コウくんという幸せに浸っていると、コウくんとは違う声が聞こえてきた。
「まーた桜庭いじめてるんですかー? 先輩」
八重歯を見せて笑う女の子。この子はコウくんと同じクラスの佐藤さん。コウくんとは仲良しのようで、家宝レベルの写真を撮ってきてくれる。
聞いたところ幼馴染のようだ。
「佐藤も言ってやってよ……僕はアイドルじゃないんだって……」
すがるように佐藤さんを見つめるコウくん。最高に可愛い。
捨てられた子犬のようなコウくんを、佐藤さんは容赦無く切り捨てる。
「先輩は私のお得意様なんだから。桜庭側にはつきませんー」
「お得意様って……」
「ところで先輩、新しいの撮れたんですけどいかがです? 150円で」
「買い、だね」
「なに人の写真売買してるの……!?」
私の差し出した小銭を受け取り、佐藤さんは「まいど!」といい笑顔を返す。この子も可愛いけど、私には心に決めた推しがいるから揺らぐことはできなかった。
佐藤さんから封筒を受け取ろうとすると、横から手が伸びてきた。封筒ではなく、私の手首を掴む。
声にならない悲鳴をあげた。
失神しかけているなかで、ぼんやりとコウくんの声が聞こえる。
「僕は! 先輩と! 普通に恋愛したいんです! こんな……お互いの写真を他の人から買ってるのは……普通じゃないんです……!」
そっか、恋人だもんね、そうだよね。
頭の中の冷静な私が目を回しながら言っている。
お互いの写真を買ってるなんて、たしかに恋人とは言えないのかも。と、思ったところで気づく。
「えっと……お互い、ですか?」
「あ」
コウくんは固まった。すぐに目をうろうろさせて、「それは……その……」ともじもじしている。そんな姿も愛らしい。百点満点。
思わず拍手を送ろうとしたところで、佐藤さんが私の肩を掴んできた。
「先輩には内緒だったんだけどねー、実はこいつも先輩の写真、あたしから買ってるんですよ」
によによとした顔が隣にくる。途端にコウくんの顔が熱でも出したかのように真っ赤になった。
「おまっ……、それは言わない約束って……!」
「いま自分で口滑らせたんじゃーん。もう取り返しつかないって」
じゃあお邪魔虫はこれでー。と言って、佐藤さんは教室に戻っていった。
残されたコウくんは真っ赤のまま俯いていた。
私も顔を上げることができなかった。
コウくんが私の写真を買っている……?
裏紙に使うとか……? いや、150円払ってなんでわざわざ光沢紙を裏紙に使うか……?
私と同じ理由なんて都合のいい話はないはずだし、何よりみんなのコウくんが私だけを見てしまったらそれこそ抹殺されてしまうしさすがにないだろうし……
やっぱりいざってときに裏のツテで私を社会的に抹殺……?
色々考えていると、震える声が聞こえてきた。
「先輩のせいですよ……」
「な、なにがでしょうか……?」
「先輩が! どこに出かけても隣を歩いてくれなくて! ツーショットも撮らせてくれなくて! なんなら会話もかしずきながらするから! 先輩との写真欲しくても自分で撮れないから! あいつをたよるしかなかったんです!」
なにか、私に都合の良すぎる文句が飛んできた気がした。これがツンデレを習得したコウくんの力か……。
私は廊下にひれ伏す。
「だからそれやめてってば!」というコウくんの怒声が聞こえる。耳が幸せになる。
幸せすぎて意識が飛びかけていたが、こんなんでもコウくんが恋人と認識してくれているので、私もそれ相応の返事をしなければならない。
いつまで経っても、コウくんに幸せをもらってばかりではいられないのだ。
私は立ち上がってコウくんの前に立った。
恥ずかしさで潤んだ瞳に「かわいい!」とキレかけたが、どうにか抑えた。
深呼吸をして、気合を入れる。
「コウくん」
「はい……」
「一緒に……写真、撮りましょう」
コウくんが目を丸くする。可愛すぎて連写したいくらいだった。もうダメだが、後少し耐えなければ。
「あそこのダンボール、被っていいなら、いくらでも」
「ダメです!」
コウくんが勢い任せに私の頭を叩く。
怒った顔も、自分の力の強さを自覚できてないところも好き……。
意識が遠のく中、私はコウくんへの愛に満たされていた。
気づいたら保健室で寝ていた。
ああ、廊下で倒れたんだっけ。
ぼんやりとした頭で考えて辺りを見回すと、すぐそばにコウくんが座っているのが見えた。
目が合う。
不安気なコウくんも可愛い。
コウくんは、小さな声で言う。
「殴ってすみませんでした……あんなに強くやるつもりはなくて……本当にすみません……」
「ご褒美だったので大丈夫です、むしろありがとうございますというか私が目覚めるまで待ってくれてたとかもう幸せの骨頂すぎて近いうちに死ぬんじゃないかと思うくらいで」
「死なないで! そうやってすぐ僕を持ち上げないで!」
慌てているコウくんもかわいい。
実際に思ってることを言ったりやったりしてるだけなのだが、コウくんは、私がコウくんを持ち上げたくてこんな行動をしていると思っている。
コウくんがみんなから愛されているのは確定事項であるから、コウくんの素晴らしさを私がみんなに伝える必要などないのに。
ちょっぴり、コウくんは自己肯定感が低い。
そんなところもかわいいのだが。
「先輩は……本当に僕のことが好きですか……?」
弱々しい声がした。コウくんは下を向いたままだ。膝に拳が握られている。
「もちろん大好きです。そろそろグッズ作成に取り掛かろうと思ってたくらいで……」
「それは……恋愛感情じゃないですよね?」
コウくんが私をじっと見つめている。
その視線だけで死にそうではあったがどうにか耐えた。
たしかにコウくんは私の推しである。何をするにも全力で応援したいし、ファンサもしてほしい。グッズが出れば買うし、写真集出ないかなとか思っている。
だけど、ちゃんとというのもあれだが、ちゃんと、恋愛感情だって抱えている。
でも、彼は推しだ。神聖な存在だ。私なんかが触れていい存在ではない。それはコウくんへの冒涜だ。
だから逃げるしかない。
コウくんに告白されて、舞い上がって了承してしまったが、恋人になれたといえどコウくんを穢してはいけないのだ。
「恋愛じゃない気持ちもたくさんありますが……恋愛の好きはちゃんとあります」
「じゃあなんで……」
「コウくんを穢してしまうから」
コウくんは目を丸くした。かわいい。と思っているうちに、コウくんの体から怒気が溢れてきた。
こんなに怒ることなんて今までなかった、と喜ぶ反面、怒らせてしまったと不安になる。
コウくんは何か言おうとして口を閉じた。
すう……はあ……。何度か深呼吸をして、私に向き直る。
まっすぐな瞳はとても美しくて、とても格好良かった。写真におさめたい気持ちを押し込んで、コウくんの言葉を待つ。
「穢すのは……先輩が僕に触ってしまうと?」
コウくんの問いかけにとりあえず頷く。
コウくんは椅子から立ち上がり、ベッドに膝を乗せた。
急に距離が近くなる。
固まっていると、コウくんは私の顔にぐっと顔を近づけて囁く。
「なら、僕から先輩に触るのはありですよね?」
答えるまもなく、コウくんの顔が近づいてくる。
思わず目をつむった。唇に柔らかな感触がして、すぐなくなった。
ゆっくり目をあけると、イタズラっぽく笑ったコウくんが私を見下ろしていた。
「どうせなら、投げキッスじゃないキスを要求してくださいよ」
すとん、とコウくんが床に足をつける。
「そろそろ昼休み終わるので、僕は行きますね。帰り、よかったら一緒に帰りましょう」
そそくさと出ていくコウくん。
見たことのないコウくんの顔が、触ったこともないコウくんの唇の感触が、かけられた覚えのない息が私の体に蘇る。
急に体が熱くなってきた。
「格好いいよ……コウくん……好き……」
私は頭を抱えて、布団にうずくまった。
おわり。
心も唇も乾いて
喉は焼けて
涙すら出ない
どこまでいっても混ざらないふたつの色の
冷えきった砂漠の夜に
疲労はつのって
ただ横たわる
砂のようにぼろぼろの
肌をなでながら
用済みの私は砂に埋もれようとするけれど
どうにもきみばかりに砂が積もっていく
世界の真ん中にあるという
遠くの海を
いつか夢見て
かろうじて
息ができるのは私だけ
唇を寄せられるのは私だけ
【Kiss】 #11
人通りの少ない建物
目を開けて呆然としたまま
私は君と唇を重ねた
その後
頬に手を添え
何度も何度も頭を撫でながら
優しく抱きしめてくれた
そんな君との恋は
儚く、そして呆気なく終わった
まるであの日のキスのようだった
Kiss
僕はKiss というワードを聞いてイタズラなKissという漫画を想像しました。僕自身全く読んだことはないのですが、書店の古本コーナーにいった際に見かけたのを思い出しました。
君のところから離れよう。
私はそう考えた。君のところから離れたらどうなるだろうか。
というか、君のところから離れた方が、いい気がしたんだ。
そう考えていた、深夜二時。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
翌日─
君は唖然としながら私にまた問いかけてくる。
「ホントに言ってる?」
「そうだよ。君とはもう話さない。じゃあね。」
と言って、手を振る
私からやめたはずなのに、もう一度やり直したい気持ちでいっぱいだ。
どうして。
私は君と一緒にやりたかったこと、したかったことはもう無いのに。
あっ、
やり残したことといえば、
最後に君に、
キスしたかったな。
そんな未練を噛み締めながら、
私の思い出をポイッと、ゴミ箱に捨てた。
ーKissー
おはよう、のKiss。
行ってきます、のKiss。
ただいま、のKiss。
おやすみ、のKiss。
そのどれもが私を『幸せ』にしてくれる、
そして、私には勿体ないくらいの、
至高のお菓子のようで。
もうやめなきゃ、って思っても、
また食べたくなっちゃう。
欲しくなっちゃう。
するとあなたは応えてくれる。
嫌な顔ひとつせず。
ミルクチョコレートのように甘い笑顔で。
そして、私は、またあなたに溺れてゆく……
〜Kiss〜
【kiss】
そっと触れていた。
私は初めて恋をした。あのときは大分前だけと鮮明に覚えている。家で暇つぶしに小説を読んでいると、チャイムがなった。誰かわからずにドアを開けてみると彼女がいた。小学校のときに私は引っ越しをしてあの子と別れた。その子が目の前にいるなんて信じられない。涙が止まらない。
気づいたら私はそっと触れていた。
時には引いてみるのも手だって言うけど
したところで相手に勘違いさせちゃうだけ。
「うざい」とかって思われるよりはマシだけど
やるにも、なかなか勇気がいるんだよ?。