『1件のLINE』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
【1件のLINE】2023/07/12
最近、新しくスマホを買い替えた。
機種はよくわからない。けど、明らかに
私が持つには勿体無いぐらいいいスマホ。別に私は連絡ぐらいしかしないし、こんなにたくさんの機能は要らないんだけどな。
-でも、あんなこと言われちゃったら、買うしかないよねえ。
「ねえお母さん、そろそろガラケー卒業したら?」
唐突に、少しスマホに依存している娘からそんな提案をされた。今ですらスマホの画面と睨めっこをしている。
-提案じゃなくて、要求かな。
「なんで?」
理由はなんとなく想像がつくが、一応聞いてみる。
「なんでじゃないよ。今の人はもう大体スマホだよ?なのにお母さんはまだガラケー使ってるし。学校からの連絡だってメールできたりするんだから、連絡来ないとこっちが大変なんだけど。」
やっぱりそう言う話よね。
最近になってメールでの連絡が多くなったり、同年代の知り合いもスマホを使い始めた。ここらで使っていないのも私ぐらいだ。
でも、だからと言って紙での連絡が来ないわけでもないし、今までだってなんの問題もない。今も特に方針が変わる動きも見えない。
娘がいきなりそんなことを言い出すとは思えなかった。
「本当にそれだけ?」
横目で娘の様子を伺う。女手ひとつで育てたからか、重度の反抗期である娘は、拗ねたようにこちらから目を逸らした。やっぱり何かあるのだろう。
「…だって、友達に笑われたんだもん。」
なるほど。そう言うことだったのね。
確かに、ある程度スマホが出回ったこの時代、ガラケーを持っている母親なんて、彼女らからしたらあり得ない話なのだろう。そこまで気にすることなのかとも思うが、彼女はよほど嫌だったらしい。
「はあ…仕方ないわねえ。」
そう言って私は、40を過ぎた今、スマホデビューを決意したのである。
今日は帰りが遅いわねえ。
雨が降る様子を窓越しに眺めながら、1人ため息をつく。
もう少しで本降りになるから、早く帰ってきて欲しいのだが、どうしたものか。私は心配しながら台所へ向かう。その時、何やら無骨い四角い物体が目に飛び込んできた。
そうだ、スマホで連絡すればいいじゃないか。
私はスマホ画面を開いて、緑色のアイコンを押す。娘曰く、スマホを持つ人々は、大体このLINEとやらで連絡をとっているんだそうだ。
わたしはなれないうごきで日本語のキーボードをゆっくり押していく。
「今、どこにいるの?」
30秒くらいかかって、初めての娘へのLINEを送った。少し鼓動が大きくなっているのがわかる。
私はって続けにもう一件LINEを送ってみた。
「雨、結構降りそうだから、早く帰ってきなさい」
-なんの連絡もない。
どうしたのかしら、部活で何かあったとか?
私は何度もスマホへ一瞥をくれる。その時、スマホの振動音が聞こえてきた。
いつのまにか私は携帯を握りしめて画面を開いていた。
-あれ?LINEってどこだっけ?
まだなれてないせいで、返信を見れないのがまどろっこしい。
ようやくLINEを開いて、娘の、最近人気らしいアイドルグループの画像のアイコンをタップする。
画面には、たった一文。
「どもだちとご飯食べてくから、帰り遅くなる。」
たった一文。
たった一件のLINE。
はめあたしはため息をついて、スマホ画面を閉じ、無造作にソファーの上に放り投げる。台所にある写真立てを見つめて。
そこには、まだ若かりし頃の新米ママの私と、その私に抱きついている満面の笑みの小さく可愛い娘がいた。
無題
窓越しに見る世界が私にとって多少安心するものであるならば、ファインダー越しの世界を見るのはどうだろう?
ずっと写真を見るのは好きだった。そこまでのめり込んだ事はなかったが。特に旅行先でファインダー越しに見る世界は素晴らしいと思う。何よりその時の空気感をそのままに好きな様に切り取る自由が心地良い。ただ困るのは、時々自分が何を撮りたいのか何を感じているのかが全くわからなくなるという事。あの無の感覚が私を混乱させ不安になる。
写真を撮るなら私が何か感じたもの、浮かんだイメージに近いものを撮りたい。一番撮りたいのはもちろん彼。空、それから動物、あとは妹夫婦や姪、甥、木と水のある風景とか、ぐっときた人物のポートレートを撮りたい。
つまりこの世の中にある、私の特別好きなものは勿論の事、その瞬間瞬間の自分の中に感じた「素敵」をもっと素敵に撮りたいんだとそういう事だと思う。そしたら生きていくのも、少し怖くなくならないかな?あー..でも隣に彼がいてくれて、一緒に笑えたらそれだけでもパワーを貰えそう。
もし出来るなら、親の写真も撮ってみたい。もうちょっと心身が整ったらそこも考えて見ようと思う。
63 1件のLINE
「来週からあなたが『檻』にはいることになりました。よろしくお願いします」
そんなLINEが僕のスマホに届いた。
ああ、今年は僕なのか、と思った。
僕のいる村では、一つしかない中学校の教室すべてに檻がある。
畳一枚分くらいの、小さいとも大きいとも言えない檻だ。
クラスの中から年に一週間だけ、誰か一人がそこに入って授業を受ける。
一日中ずっとだ。トイレの時は申告して鍵を開けてもらう。体育は休む。給食も檻で食べる。檻の中から手を挙げて問題を解いたり、友達と談笑したりしてもいい。ただ檻に入るだけだ。
いつからそうなっているのかは分からないけど、ここではそれが普通だ。
一週間檻に入っても、特に対価はない。ないけどこころなしか、苦手科目の評定が上がっていたりすることが、あったりなかったりするらしい。
断れば村八分になる。村の外に他言すれば、もっと恐ろしいことになる。
ただそれだけのよくわからない風習だ。
かつては電話や回覧板で回していた『檻』のお知らせも、最近はLINEになった。便利な世の中になったなぁ、とお父さんやおじいちゃんは言う。
理由は分からないが、この村はすごく、潤っているのだ。大人はいつも、よくわからないお金をたくさん持っている。
だから大人も子供も、タブレットやスマホを持っている。だけど絶対に『檻』の風習のことは、外には漏れない。
何の意味があるのかは分からない。だけどとにかく、僕は明日から檻に入る。
過去の記録に想い入れもなければ興味もないけれど、1件だけ、ずっと消せずにいるメッセージがある。
親友だった彼女が最期に送ってきた言葉。
『がんばれ』
単純に、私の試験を応援してくれるLINEだった。私がこのメッセージを見たのは、試験が終わって、彼女のお兄さんから彼女の事故を聞いて病院に向かう電車の中。
『試験終わった。いい感じかも!』
涙を堪えてそう返した。こんなにも、既読の小さな文字を気にしたのは後にも先にもこの時だけだった。
既読の文字は未だついていない。
1件のLINEをずっと待ち続けている。
【今どこ?】
そっけないわたしのメッセージにいつ返信が来るだろうか。
どこでもいい、どこかにいてほしい。
家とか車の中とか学校とか、旅行先でもいい。新しい友達の家でもいい。本当はわたしのすぐ隣にいてくれたら一番だけれど、どこでもいいから早く返信をちょうだい。
ずっとずっと同じ画面を見つめている。やがて電源が落ちて、画面に映るのはくたびれたわたしの顔。もう一度画面に光を灯して、ブルーライトをひたすら浴びる。
もうLINEを送ったのは1年前なのに。返信は一向に来ない。既読すらついていない。
ああ、早く返信をちょうだい。じゃないとわたし、眠れない。
今日のテーマ
《1件のLINE》
ほんの20~30分の仮眠のつもりだったのに、目が覚めると部屋の中はだいぶ薄暗かった。
夕方なのか、明け方なのかも分からない。
だいぶぐっすり寝入った感覚があるのと、真っ暗ではないから夜ではないということが分かる程度である。
枕元を手探りで辿ると、すぐに目当ての物――スマホが手に触れた。
手繰り寄せて、側面にあるセンサーに指を当てて指紋認証で起動させようしたがウンともスンともいわない。
そういえば寝る前に動画を再生していたんだったと思い出す。
電池残量がそう多くなかったことも。
電源ボタンを押しても反応しないところをみると、電池が切れてしまっているらしい。
時間の確認すらできないことにため息を零し、これまた手探りでケーブルを手繰り寄せて充電する。
電池残量はやはり0%を示していて、この状態でも時間は表示されなかった。
仕方なく、欠伸を噛み殺しながらのっそり起き上がる。
凝り固まった体を解すべく大きく伸びをすると、背骨や肩がまるで小枝を折るようなパキパキとした音を立て、ぼんやりしていた頭に血が巡ってきて思考がクリアになってきた。
外はいつのまにか雨が降ってきていたらしい。
雨音から結構降りが強いことが窺える。
学習机の上に鎮座しているデジタル時計の時刻は11:45。
横になったのは1時間ほど前だから、大幅に寝過ごしてしまったわけではなかったようだ。
部屋が暗かったのも雨のせいで、夕方や明け方ではなかったことにホッとする。
夏休みは始まったばかりとはいえ、惰眠を貪って一日無駄にしてしまった、なんてことにならなくて本当に良かった。
エアコンは入ってるけど、設定温度はそんなに低くはしていない。
おかげで寝ている間に汗をかいたらしくやたらと喉が渇いていた。
ベッドのヘッドボードに置いてあったペットボトルのスポーツドリンクを飲もうとしたものの、残りはほんの僅かでほとんど空に近い。
下に降りて冷蔵庫から冷えた飲み物でも出して飲むかと、スマホと空のペットボトルを持って部屋を出た。
平日の昼間とあって家族はみんな出払っている。
無人だから当然エアコンは入ってなくて、階下はむわっとした熱気に満たされている。
リビングのエアコンを入れ、ソファの脇に転がっている充電ケーブルをスマホに繋ぐ。
充電は5%くらいまで復活していたから、ケーブルに繋げた状態でなら電源が入りそうだ。
電源を入れて起動を待つ間に、ペットボトルを捨てて冷蔵庫から麦茶をコップに注ぐ。
ちょうど昼時だしそろそろ昼飯にするかと思いつつ、麦茶のポットをしまいながら冷蔵庫内を物色するが、すぐに昼食として食べられそうなものは入っていない。
この雨ではコンビニに買いに行くのも食べに出るのも億劫だ。
冷凍食品をチンして食べるか、カップ麺にするか。
自分で何か作るという選択肢はない。
作れと言われれば作れなくはないけど、面倒臭さの方が優る。
どうしようかと考えながら、無事に起動したスマホを指紋認証で開けば、各種アプリの通知がいくつも表示されていた。
その中にLINEの通知を発見して急いで開く。
『今日、予定ある?』
可愛らしいキャラクターのスタンプが添えられたメッセージは、夏休み前にできたばかりの彼女からのものだった。
送信された時間は今から15分ほど前。
勢い込んで了解の返信を送ると、彼女から喜びを示すようなスタンプが送られてきた。
姉や母親に見られたら延々からかわれること間違いないけど、今は家に1人きりなので思う存分ニヤニヤしてしまう。
『もうお昼食べちゃった?』
『まだ 今なに食おうかって考えてたとこ』
『だったら駅で待ち合わせて一緒にお昼食べない?』
『いいよ 雨だけど平気?』
『バス停がすぐ近くだから大丈夫 そっちは平気?』
『全然』
つい2~3分前まで「この雨の中、買いに出るの面倒臭ぇ」と思っていたことなど棚の上どころか空の彼方まで放り投げて返信する。
1人でダラダラしながら味気ないカップ麺や冷食を食べるよりも、多少雨に濡れたとしても可愛い恋人と一緒に食べる昼飯の方が断然美味しいに決まってるし、昼食後はデートというオプションまで付くんだから断る理由などありはしない。
待ち合わせの時間と場所を決めて応答を切り上げ、大急ぎでシャワーを浴びて着替えを済ませ、スマホとモバイルバッテリーと財布をボディバッグに突っ込むと、靴を履くのももどかしく外に出た。
雨はさっきより小降りになっていて、東の空は明るくなっている。
きっと程なく止むことだろう。
一旦中に戻ってビニール傘ではなく折り畳み傘に持ち替えて、俺はバス停に向かって駆け出した。
タイミング良くきたバスに乗り込んで外を見ると、窓の向こうに虹が見えた。
すかさずカメラを起動して写真を撮り、それを彼女へLINEする。
ちょうど彼女もバスに乗ったところらしく、そのままメッセージのラリーが始まった。
彼女からの1件のLINEに端を発した『恋人と過ごす楽しい夏休みの1日』はまだ始まったばかり。
テンション爆上がりの俺を乗せ、バスはゆっくりと駅へ向かっていくのだった。
夏の夜の明け方、
冷たい抑揚のない声が
部屋に響く。
僕は、呼吸するように不自然に光っている
物体を開き、そして、閉じた。
もう、5年前も前になるかな?
夏休みを利用して、大学時代の部活の同級生や先輩後輩たちと、人によっては30年ぶりの再会を果たした。
今回を機に、毎年の様に集まろうと言う空気になり、後輩の女の子が、LINEグループを作ってくれたんだ。その時は、これから毎年皆に会えると思いとても嬉しかった。。。
そんなある日、その女の子から一通のLINEが来たんだ。
〇〇君が、同じ市内に住んでいることが分かった。だから、次回からは彼も参加してもらって楽しくやろうと。。
彼は同じ部活の二人下の後輩であった。
そして、若くして亡くなった僕の前妻と同級生でもあった。
彼は、彼女と僕が結婚する前に、、、
いや、やめよう、こんなこと書くのは。
亡くなった彼女を汚すことになる、、、
LINEで楽しそうに彼をメンバーの一人として迎え入れた彼女には何の罪もない。彼と僕が、いや、そう思っているのは僕だけかも知れないが、2度と会いたくない人、そして恐らく死ぬまで許したくない人、それが彼だったんだ。彼女は、彼と僕の関係性など、先輩後輩だったこと以外、知る由もない。
そしてこのグループLINEが、私にとって、とても厄介なものとなってしまう。
2回目の再会は、仕事の急な用件と言う理由でドタキャンしてしまった。勿論、彼に会いたくないからだ。でも、彼は
その会に参加した。普通に。
だから、彼は何も感じていないのかも知れたい。彼女が亡くなった理由に、少なからず自分が関係しているとも知らずに。
僕は彼には会いたくない。
目の前に彼が現れた場面を想像したくないんだ。
みなさん、一生会いたくない人いますか?
⭐️今年の夏、三年振りに大学の同窓会が復活した。そして、同じ日、部活の皆んなとの会も開催予定だ。
お願いだから彼が参加しないで欲しい。
でも、オレは何も言えない。
彼が来ることになったらどうしよう。
俺たちが離婚することになったその日、彼女の口から、聞くべきではないことを聞いてしまった。それは勿論、自業自得。そのことで、オレは何年もの間、悩み苦しんだ。
そして、彼女は7年後、亡くなった。
彼女も苦しんでいたと思う。
真相はわからないが、オレと結婚さえしなければ、まだこの世にいただろう。
彼女の両親に会ったのは、それから20年後だった。
『1件のLINE』
毎日同じ人とくだらない会話を繰り広げている。
つまらない放課後も上手くいかないテスト期間も親に怒られっぱなしの受験も
**
高校には同じ中学の人は私しかいない。親友だと思っていた人から自分にはよく分からない言葉と絵文字でLINEがくる。もう友達できたんだ
「ずっと一緒だと思ってたのに」
LINEの通知を確認する。
マナーモードに設定しているから通知がきても音は鳴らない。
数多い宣伝通知の中にきみが送信してきた内容を見る。
「今日はどうだった?夜ご飯何がいいかな。」
「今日はさ、ー。嫌になっちゃう。笑」
たわいない内容。疲れた僕はそれを見てホッとする。
君の愚痴を聞くのもその質問に答えるのも何の苦労はない。
だけど、直接声を聞きたいな。そう思う日だった。
部屋を白く染める灯火をじっと見つめる黒
昂った喜びは落胆の警告を塗りつぶす
あなたからの「ごめん」に風船はしぼんだ
もうやめよう。
昨日の疲れは残るくせにもしかしたら…がやめられない
繋がった絆の糸は重い鎖に変わってた
それでも、手を結ぶ夢にたゆたう
#1件のLINE
朝目覚めると1件の通知が来ていた___
眠たい目を擦りながら画面をじっと見る
大きな欠伸をひとつ
スマホをベッドに放り投げ
横にあるカーテンを開ける
うん、今日もいい天気
近くで蝉の声が聞こえる
汗ばんだ体を洗い流すため
私はベッドから降りた
未読の通知を残したまま
【_____】
『1件のLINE』より
向かいの家で事件があった。
蒸し暑い空気に混じった濃い鉄の臭いに、鼻の奥がツンと痛くなる。
外の様子を、二階の自室のカーテンの隙間からそっと覗いてみた。
紺色の制服を着た警察官が、向かいの家の門に貼られた黄色と黒のシマシマのテープを潜っていくのが見える。
なんだかドラマみたい。 不謹慎だが、そう思った。
しばらく眺めていると、グゥと腹が鳴る。
時間を確認すると、疾っくの疾うに昼飯時は過ぎていて、おやつの時間に近かった。
外に食べに行くのも億劫なので適当に出前を頼みながら階段をトロトロ下りる。
便利な世の中になったなぁ、と出前が来るまでの間、一階のリビングで暫しゴロゴロ。
ふああ、と大きな欠伸と伸び一つして、フローリングの上をコロリと転がった。
テーマ「1件のLINE」
くだらない通知を一つずつ消していく。最後にバッジはゼロになり、誰からの繋がりもなかったようにしんと静まり返る。深夜2時に、音はもう鳴らない。
他のすべてを軽視し、流し、私はいつも、あなたの連絡だけを待っている。
#一件のLINE
<金を貸させてくれ
おう久しぶり〜
急にどした?>
貸してじゃなく??>
<金を貸させてくれ
そういわれてもな>
ていうか会えなくない?
地元にいないよね?>
いまどこ?>
<塾
地名で頼む>
<マレーシア
遠いなー>
あったよね同窓会に
行けないみたいな>
シンガポールかそれは>
<金を貸させてくれ
戻ってきた>
てかいくら貸してくれるの?>
<96208円
半端だな>
そっちのお金換算
だとキリがいいとか?>
<お釣りを支払ってくれ
えーと>
そっちが100000円渡して、
こっちが3792円支払う>
ってこと?よね?>
<計算し直してくれ
え、間違ってる?>
合ってるじゃねーか>
<96208円貸させてくれ
いやでも外国にいるんでしょ?>
無理じゃない?>
あーでも電子マネーでとかあるか>
<お釣りを支払ってくれ
そっかお釣りが欲しいのか>
電子マネーだったら直接96208円
送ればいいもんな >
…なんでそれじゃダメ?>
<金を貸させて、お釣りを支払ってくれ
マレーシアに来いってこと?>
<来ないでくれ
そっちが日本に来るの?>
<来させないでくれ
じゃあどうすんの>
<考えさせないでくれ
なんなんだよお前!>
こっちばっか考えさせて>
こっちはお釣りの計算とか
電子マネーの案とか出したのに>
そっちは塾行ってるだけじゃん!>
計算くらいやれよ塾行ってんだから!>
こっちだって暇じゃないんだよ!
バイトだけど働いてるんだよ!>
服の専門学校行きたくて
弁当屋で学費貯めてて>
全然仕事慣れなくて
今結構しんどいんだよ正直!>
今日
お前の言ってること意味不明
だし、てか学生時代もそんな
親しくなかったよね?
もう付き合ってられないよ>
日付変わっちゃったし>
朝早いんだよ弁当屋>
もう疲れた…>
<空を
<空を見てくれ
ベランダに出てみると、こんな田舎でも久しく見ていない満点の星空が広がっていた。遠く離れたマレーシアにいるクラスメイトも私と同じ空を眺めているのかな、と思うとなんとなく心が暖かくなったり、同じ空とはいうけど国内ならともかく実際には日本とマレーシアは1時間程度の時差があって、その場合その表現は適切なのか、まあでも時差が14時間あるアメリカ(フロリダ)と比べたらマレーシアなんて隣にいるようなものかと思ったり、何にせよ全ての人々が同じ空の下にいる事実につながりを感じて心強くなった。
そして私は、星空に向かって3792円を放り投げた。そうしなければならないと思った。するとひゅうと風が吹いて3000円をさらい(小銭は落ちた)、すぐに遠く夜の闇に消えていった。
次の日の朝、ポストを覗くと97000円が入っていた。それは率直に怖かったが、学費の足しにしようと前向きに考えることにした。そう、前を向こう。未来はきっと待っている。今日の空気は少し冷たくて、空は青く広がっている。私は一人じゃない、心でそう唱えた。そして自転車を漕ぎ出して、私の一日が始まった。
<頑張ってくれ
【1件のLINE】
アイコンにバッジがついている。
1件だけなのは明白だが、その赤い丸と白い数字は私の心をざわめかせる。
先程開いたばかりのLINEに再び手をかける。
こうして私は常にバッジのない状態を維持している。
1件LINEが、人を幸せにする。
あの人からのLINEは、その1件が嬉しい。
いつも、こっちのぬか喜びだけどね。
送った方は、ただ連絡を入れただけ。
届いた方だけ、浮かれてる。
「突然だけど、今日会えない?」
平穏な日常に突然送られてきた一件のLINE。
その宛先は---元恋人からだった。
「はあ……」
マリアナ海溝よりも深い深いため息をついて、その文面を見る。
これが私の友達とかだったら胸を弾ませながら会いに行ったはずなのだが、思い出したくもない名前だったので、胸がひどく重い。
概ね別れて寂しいとか、やりなそうだのそんなノリなんだろう。
人の気も知ったこっちゃない。
お前のそういうところが嫌いなんだよ---と指先に力を込めながら、LINEのブロックボタンを押した。
外に出ていたわたくしは、何かほしいものはないかとLINEを送った。本当に簡単な一文。一分未満で打てて送信できてしまう、何気ないもの。
すぐに返信はなく、買い物ができる店の通りから離れてしまわないように一駅分を歩いた。まだ梅雨明け宣言もなく、蒸した空気に汗が滲む……流れるのを感じては手持ち扇風機の持ち方を変えて。
さすがに猛暑には敵わない。
駅の入り口を見つけてすぐに駅構内へ逃げ込んだ。車両の中は音がするほど冷気が吐き出されていて、ちらほらと長袖を羽織っているひとを見かける。
最寄り駅に着くまで、いつでも反応ができるように電子書籍のページを送っていたけれど、あなたからの返信はなかった。
とうとう玄関前に。
音を鳴らさなかったスマホはカギと入れ替えに鞄の中へ。
「(寝ているのかしら)」
ただいま、と声をかけながら薄暗い廊下を伝ってリビングへ入る。キッチンとリビングのあるそこにはあなたがよく好むソファがあるけれど、空っぽのまま。
買い出したものを片付けながらあなたの痕跡を探してみた。キッチンにコーヒーの香りが漂っているだけ。
それを追うようにあなたの私室。
ノックすれば「んーー…」と生返事。
入りますよ、と声をかけても。
ベッドの端に座るあなたはサイドテーブルにマグを置きっぱなしに、一口も飲んでいないで。じーっと眉間にシワを寄せながら手許を一点凝視していた。
両手で持たれたそれは、かけるならば汗を多量にかいていたことでしょうね。
「何をそんなに熱心に見ているんですか?」
「きみからのLINE」
「おや」
「返信にすべてかけてるの。邪魔しないで」
「あらぁ…」
「……ん、これはよくない。別のにする」
「何かほしいものはありましたか?」
「あった。だからそうやって返信しようとしてるの。きみへの返信、誤字脱字不適切用語よくない。どうせならちょっといい奴って思われたい。全身全霊かけてる」
「なるほど。頑張ってください」
「ん」
そろぉ~と部屋を抜け出す。
なるほど、そういうことでしたか。そういうことならば、わたくしも気合いと覚悟を持って応えなくては。
ボディーシートは大変便利。
クローゼットにかかった服たちを眺めながら完成形を思い浮かべ、吟味してゆく。鞄だって持って行っていた機能性容量重視のものではなくて、おしゃれなものを。
テーブルに置いたスマホが新しい一件を受信するまで、全身全霊をかけましょう。
#1件のLINE
1件のLINE
「あれ、LINE通知来てるよ」
「あーうん」
「え、見ない系? 俺は赤いのついてると気になっちゃうタチなんだけど」
「私も普段はそうなんだけど」
「……なんか嫌なLINE?」
「嫌なわけじゃないけど、うーん、ほら」
「あ、既読つけちゃうんだ。わあ」
「めっっっっっっっちゃ長文なんだよねぇ」
「すごい、スクロールしてもずっと続いてる」
「いろんな話1回で送ってくるし。読むのも面倒で放置してた」
「うん、これは仕方ない」