『0からの』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
みんな0からのスタートだと思っている
ほんとうは
50からのスタートのひともいる
マイナス100からのスタートのひとだっている
みんな0からのスタートだと思っている
0からの
スマホやPCを買い替えた時、使い方をまた1からの覚えなきゃな、と誰もが思うだろう。この場合、0から、という人はあまりいないのではないだろうか。
機種は違えど、スマホ、PCあるいはその他の電子機器等の経験が全く無いわけではない。その経験の分が、無意識に0とは言わせないということではないだろうか。
他にも、例えば似たような仕事に転職した場合も、また1から覚えます、という方が多いと思う。
こう考えると、たとえ再スタートのきっかけが挫折だったとしても、0からの、ではなく、1からの、と口にした方が、経験があるから大丈夫、と自分に言い聞かせ、心持ちがだいぶ穏やかになるのではと思う。
では、0からの、が常時そぐわない言葉かというとそうでもない。全く未経験のものの新鮮さを楽しもうと思えば、こちらのほうが良い。
新しい挑戦、新しい趣味、新しい街等々。未経験、つまり0からだ。だが決してネガティブなイメージはない。むしろワクワクが際立つ。
似たような言葉だけど、意識的に使い分けたほうが良さそうだ。
という話を年上の彼女にした。
私とはどっちなの。
どっちとは。
0から、それとも1から?
恋は初めてじゃない。当然ながら。では先の理屈でいえば1からが答えか。だが、声が詰まる。不安が喉を締める。僕はとんでもない過ちを犯そうとしているのではないか。
私は0から、よ。
そうなのか。
そう。1の経験、いらないから。彼女がきっと睨む。
なんで悩むの。必要なの?今までの女。
いいえ、と急いで答えた。僕も0から、です、と加えた。
ゆめゆめ忘れてはならない。恋はいつでも0から。いや、いつでもというか、彼女に対しては、という意味だと伝えたほうが良いか。いや、あまりしゃべりすぎるとかえってまずくなる恐れが。
さて、どうしようか。
人が死んで残すもの(テーマ 0から)
※ 人の死による体の腐敗など、不快になる表現が含まれています。
1
築30年を超えた木造の安アパートの2階に、一人の男が住んでいた。
男は職場を定年退職後、しばらく特にやることもなく年金と貯金の切り崩しで暮らしていたが、貯金が底をつく前に病を得て、病院に通いつつ、日々、小説などを読みながら生活していた。
しかし、長年の暴飲暴食、不規則な睡眠時間など、生活習慣の乱れが彼の体を少しずつ傷つけており、それが表面化してからはすぐに病が重くなった。
特に腎臓・肝臓が悪くなっており、吐き気、食欲不振、頭痛、むくみなどの自覚症状が出ていたが、男は年齢のせいだろうとあまり深刻に捉えておらず、病院からもらった精密検査の紹介状も、部屋に置きっぱなしにしてしまっていた。
男は気にしていなかったが、気にしていなくても病気は進行する。
複数の病状が進行していた男は、しかしそれが明確にされる前に、ある日誤嚥による窒息で突然死してしまった。
男は、自分の死は、平均寿命などからまだ10年以上先だと思っていたため、意識が亡くなる直前まで、自分が今死の淵にあることを気が付かなかった。
『生存性バイアス』と呼ばれる感覚で、平たく言うと『自分は今まで死んだことがない。だから大丈夫だ』といった、非論理的な考えであった。
男は特に救急車などを呼ぶことなく酸欠から意識を失い、そのまま死んだ。
2
男は死んだ。意識はすでにない。
人間の身体は、血液と筋肉と骨などによって構成され、体の各部に栄養・酸素などが供給されることで維持される『仕組み』だ。
心臓が止まり、死亡した体は、自然法則に従って変化していく。
血液が重力に従って体の下側に降りていき、逆側は血の気が引いた状態になり、体温が室温まで低下した。
死後硬直を経て、目や皮膚など表面が乾燥したが、死後2日も経つと内蔵から腐敗していき、腐敗臭が漂うようになった。
しかし、アパートの隣室は空室で、まだ男の死は気づかれない。
死後3日で腐敗ガスによって体が膨張し、本人かどうか判断が難しくなった。
死後10日が経過し、腐敗ガスや体液が体外に噴出したことで臭いは強烈になり、ようやく同じアパートの住人が管理人を呼び、管理人は警察に連絡し、男の死体は発見された。
3
男には定期的に連絡を取り合う人間がいなかった。
両親はすでに世になく、兄弟は県外で働いていたため、年に1回連絡する程度の縁になっていた。
アパートの管理人は保証人になっていた兄弟に連絡するとともに特殊清掃業者にも連絡して、腐敗した死体と部屋の清掃の対応を依頼した。
死体は腐敗して長く、床に体液が広がり、ハエやウジが発生していたため、管理人は素人の手に負えないと判断した。
兄弟が県外から駆けつけ、清掃業者が部屋を片付ける。
男の存在は、兄弟が葬儀を行い、役場で手続きをして、電気ガス携帯電話の解約を行い、火葬されて墓地に埋葬されることで、急速に消えていった。
葬儀は家族葬であったため身内のほかは参列者もおらず、年賀状発送のリストを見つけた兄弟が死亡について一報を出し、そのうち何人かが男の墓参りに来た。
最後に、10年後には兄弟も亡くなり、彼をはっきり覚えている人が居なくなることで、彼の人生は完全に終わった。
男の生きた形跡は、最も長く残ったのは墓石に刻まれた名前と墓の中の遺骨であった。
4
男は死に、体は火葬されて灰と骨になり、水分は蒸発し、同じ意識を構成することは二度とない。
しかし、人間の体の構成元素は、酸素65%、炭素18%、水素10%といった具合であり、その他は数%以下だ。
原子のレベルまで考えると万物は流転しており、彼の人間としての人生は終わったが、彼を構成していた物質は、別のものを構成する一部として、それこそ死の直後から、0から再スタートしている。
骨だけは骨壺に入っているため墓で長く残ることになるが、微生物や水分や炭素は、バラバラになって別の生き物の一部になったり、空気中を漂っていたり、その辺の道の土に含まれていたりするだろう。
そもそも、構成元素というなら、生きているうちから、新陳代謝や便によって体外に出ているし、食べ物として口から入っている。
すべてのものは、0からスタートしているとも言えるし、引き続いているとも言える。
ただ、こうして我々が考えることができる「意識」は0になってしまうのだろう。
だから人は死を恐れるが、世に永遠に生きる人間はいない。
皆、等しくいつか0を迎えるときが来るのである。
来年度から、心機一転!
一旦リセットして頑張るぞ!
彼女が事後にあった
ニュースにも取り上げられる程の大事故だった
彼女、頭を打ったらしく覚えていないらしい
関係がまた0からになった
ちょうど良い
初めての投稿。
まだ何を書けばいいのかわからないけどデザインが素敵なアプリに出会えた。
年明け1通のハガキが届いた。
年賀状もLINEで済まし、一人暮らしの我が郵便受けに入るのは、専ら水光熱費のお知らせやDMだ。
見慣れない形状に驚きつつ、おもむろにそれを取り出す。
ハガキだと思ったそれは、正確には圧着葉書だった。
宛先が我が家であることを確認。
差出人は-
「日本学生支援機構」。
訝しみながら開封し2つの数字を確認する。
貸与額と同額の返還額。
無造作に郵便受けに放り込まれていたのは、奨学金返還完了証だったのだ。
思い出すのは、大教室で受け取った分厚いA4の返還開始に関する案内文書。
それとは比ぶべくもない小さなハガキを、それはそれは大事に握りしめた。
毎月27日に記帳されていた重たい数字はもう出てこない。
「0からの」はじまり。
そうだ、お祝いがまだだった。
誇らしさと共に、お気に入りのあのお店にハンバーグ食べに行こうか。
一緒にワインも頼んじゃおう。
振り出しに戻ったって、また違った進み方ができる。
【0からの】
0からの
生まれ変わったらどうなるんだろう。
人が生きてる上で誰しもが考えたことがある問だと思う。
もう1回人生を歩み直したい人、同じ人生を繰り返したい人、人間以外の生物で生まれたい人、生まれたくない人、様々な人がいると思う。
だが私は思う。
人生一度きり。
今の私達にもう一度はないのだ。
この1度の人生悔いが残らないは無理だ。それでも足掻き良い人生だった。と感じられるような最期をつかみ取りたい。
0からの、意識的に生まれ変わることは可能だと思う。
今の自分に納得がいかなければ今、自身を再構築し、0からやり直せばいいのだ。
最期を決めるのは自分なのだからどうせだったら全部挑戦していこうではないか。
ゼロからイチへ。
言うだけなら簡単だがそう簡単にはいかない。
無から有を生み出す難しさは味わったものにしかわからないのだ。苦しくて身悶えるように懊悩し祈るように構想を組み立てる。
しかもできあがってからでしかリアクションはわからない。
何度も辞めることを考えたは、結局作るのが好きなのだ。
0からの始まり
高さ
平面
座標
どこまでいくんだろう
時にマイナス
掛け算
割り算
平方根
倍になって一喜一憂するだろう
そしてまた0に戻る終わり
人生
私が目を開けると、3人の人がこちらを覗き込んでいた。
そのうちの1人がまず口を開いた。
「初めまして、気分はどうかな?」
「?、、初めまして、特に異常はないかと思われます」
「そうかい」
何故だろう。
私が答えた時、奥にいる男女2人が残念そうな顔をした。
異常がないのは良いことではないのか?
「君はアンドロイド、つまり人型のロボットだ」
「私のことは君をつくったマスターだと思ってくれ」
「はい、マスター」
「言語については日本語が既にプログラムされているが、それ以外に関してはほとんど何もしていない」
「これから少しずつ色々なことを経験して、知識などを増やしていってくれ」
「わかりました」
「この2人が君の面倒を見てくれる」
「慣れないこともあるだろうが、彼らに教えて貰いながら頑張ってくれ」
奥にいた2人が私に声をかける。
「初めまして、これからよろしくね」
「よろしくお願いします」
「はは、敬語じゃなくていいよ」
「僕たちは君を子供だと思って接するから、君も僕たちを親だと思って接してくれると嬉しい」
先に挨拶した女性も男性の言葉にうんうんと頷いている。
「わかりました、、じゃなくて、わかった!」
私の言葉を聞いて2人は優しく微笑んだ。
そしてマスターが最後に
「それじゃあ月に一度だけは定期的に来てくれ」
「元気でな、あんまり迷惑をかけすぎるなよ」
と言ったのを聞いて、ベットから起き上がって着替え、荷物を既に持ってくれていた2人と部屋を出た。
****
その“アンドロイド”は知る由もなかったが、同じ頃隣の部屋には20歳くらいであろう少年が1人椅子に座っていた。
彼といる隣の部屋には会話やドアの開閉音がはっきりと聞こえた。
「君はアンドロイドなんかじゃないのにね、、」
「あと何回繰り返せば、こんな日を迎えなくてよくなるんだろう」
少し間を置いて少年が呟く。
「僕は何十回、何百回だって君を振り向かせるから」
「また、0からのスタートだ」
彼には、4年前に記憶が1年おきにリセットされてしまう難病を患った恋人がいた。
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『0からの』
0からの
僕は何も出来ません。
運動も勉強もです。
出来ないと逃げるのではなく
レベル0からレベル1へと努力しようと思います
まぁ僕は努力も出来ませんが
追記
これはマジの本音で書きやした( ˙▿˙ )☝
『同情』
育てていたペットが亡くなったり
バラエティー番組を見て笑ったり
夏に定番のホラーを見て怖くなったり
当たり前の心の変化はきっと
多くの人が似た感情を得る。
亡くなったペットの姿が見えたり
夢に本物の芸能人が出てきたり
見るよりも実際に経験した怖さを
この周りが海で囲まれている国の
何人の人が同情してくれるだろう。
天国からの贈り物
今の現実世界に皆が声をそろって言ってくれる
お父さんってとてもいい人だった
残してくれたお人好しの父の思い出
父は誇りある
父を尊敬
ありがとうございます
終わってしまった世界を、ゼロになってしまった世界を、あてどなく歩く。
どこまで歩いても、見えるのは荒野だけ。
生き物の姿はない。
『この世界に本当に希望はあるのか』
隣を歩く男がぽつりと零す。
終わったまま変化のない世界を見て、弱気にでもなったのか。
だが、ここで弱気になっている場合ではない。
『たとえ全てが終わってしまって、もう何も残されていなかったとしても。
まだ私たちがいる。まだ、光は失われていない。
私たちの手で、始めから--ゼロから、希望を紡いでいくんだ。
ゼロからのスタートも悪くないだろう?』
挑発するように笑ってみせれば、そうだな、と幾分か覇気の戻った声が返ってきて。
そうして今後も、歩みは止めず。
希望を探して二人旅を続けていくのだ。
0からの
スタートって言葉しか思い浮かばないから
意外と大丈夫なんだろうね
久々に たまに 初めてでいいから
1回くらい そんな自分にお世辞しとくか
【0からの】
もうとっくに日が沈んだ夜の研究室に、学生が二人、残っていた。
坂本優と中島ちさとだ。
二人は黙々と自身のデスクに向き合い、パソコンを見ている。
優は確かにパソコンを眺め、文字を打ち、論文を滞りなく完成に近づけていたが、実のところ、頭は他のことを考えてやまなかった。
彼の頭の中はそんなことよりも、隣にいる彼女のことでいっぱいだったのだ。
最近、どうにも優はちさとと一緒にいる事が億劫になりつつあった。
隣に彼女がいると、言い表せない緊張感があるのだ。
「私たちさ」
最初に静寂を破ったのは、ちさとのほうだった。
「うん」
優はパソコンから目を離さず、答えた。
どこかで実験装置が動いているからか、機械的な音がする。
優がエンターキーを押すと、プリンターが起動した。
「そろそろ、節目だと思うの」
「節目?」
ちさとの言葉に、優は疑問を覚える。
節目とは何か。
何か、自分たちの間にそういう区切りというものが作られていたか。
優にはどうも思いつかなかった。
「付き合ってから、もう三年でしょ。節目だよ」
「もう三年か。節目なんだね」
三年がどのように節目なのか、いまいちわからなかったが、もう三年かと優は思った。
大学二年の時に付き合い始めて、三年。
今は大学院生だ。
「そろそろ、リスタートが必要だと思うの」
「リスタート? 0からやり直すってこと?」
「そう」
ちさとはせきを切ったように語り始めた。
人間には厄介な機能が備わっているということを、彼女は雄弁に語り始めた。
人間には適応能力があること。
つまり、慣れるのだ。
どんなに楽しいことも。逆に辛いことも。新鮮なことも。
三年の間に、二人はいろいろなことを経験してきた。
同時に、慣れてしまった。
デートは何回もした。
食事も何度も行った。
同じ話を幾度となくして、その度に笑った。
彼らはすでに、新鮮に慣れ始めている。
彼らはまだ、互いの顔を見ない。
パソコンを見つめている。
可愛らしいと思っていた彼女。しかし、慣れてしまった。
話すたびに顔を見たいと思っていた感情が、今では薄れつつある。
「やり直すとして、どうやったらできるのさ。頭でも殴って、記憶喪失にでもなるか? 脳細胞が死ぬのはごめんだ」
「違うよ。脳細胞は殺さないから安心して。そうね……強いて言うなら、思い込むのよ」
「思い込む?」
「そう、思い込む。私たちは今初めて互いの心を知り、付き合い始めた。互いに両思いで、好き合っていて、今日ようやく叶った恋」
「なるほど。要は三年前の感情を今ここに持ってくるわけだ」
「そう。互いに目を瞑って、私が手を叩いたら、同時に目を開ける。そうしたら私たちは0から始まってる」
「そう簡単にいかない」
「いかないことでも、無理やり突き通す事が重要になってくることもあるのよ」
ようやく、二人は顔を見合わせた。
ちさとは人差し指を口に当て、妖麗に笑っていた。
「とりあえず、やってみるか」
「ええ」
二人は目を瞑った。当然ながら優の視界は真っ暗だ。
目の前のちさとは今どのような状態なのか、優は気になった。
本当に目を瞑っているのか否か。
多分瞑っているだろう。
彼女が言い出したことだ。
しかし、なんだか不思議な感を彼は覚えた。
ちさとが気になるのだ。
目を開けたくてしょうがない。
さん、にー、いち。
彼女は唱えて、パチンと手を叩いた。
優は目を開けて、彼女を見た。
彼女はほぼ同時に瞼を開けるところだった。
「私、これからあなたと付き合うことになるのね」
モゾモゾと恥ずかしそうに、ちさとが言う。
優は不覚にもドキッと心臓を跳ね上がらせた。
脈が速くなる。
「ああ。実感が湧かないが……そうだな。これからよろしく頼む」
「好きよ、優」
「俺も好きだ。たぶん、ずっとこの気持ちは薄れないだろうな」
ちさとはポッと頬を赤らめて「私も」と言った。
プリンターが機能を停止し、印刷された紙が束になっている。
いつのまにかどこぞの装置は電源を落とし、ちさとと優は一緒になってパソコンを覗いていた。
『0からの』
大昔、0を発見した人がいました。
インドの数学者です。
この発見で、数学は飛躍的な進歩をしたのだそうです。
いわば、数学は0からの学問と言えそうです。
(グロ表現、また他にも気持ちの悪い表現があります。
無理だと思った瞬間に読むのを辞めるのをおすすめします。)
男性の犯罪者の一握りの数。それも凶悪犯と言われた者達の中で、何となくの共通点として母親への異常なほどの執着が見えた。
「聖なる母の為」「母のお腹の中へ戻りたい」「私の真の理解者は母しか居ない」と、分かりたくもない、けれど何となく分かるような気がする言葉をつらつらと吐いて、まるで自慰行為が終わったあとの様に恍惚とした表情をする眼前の男の中に、母の姿を探す。
男のどこか冷静で、だけど興奮した双眸でこちらを見つめて話す姿は、まるで神の前で祈りを唱えるかの様で気味が悪い。
「母のお腹の中へ戻りたい、というのは比喩か?」
「まさか。母のあの美しい白雪のような柔い腹を裂いて、邪魔な臓器を取り除き、赤く温い海の中に潜って眠りにつきたいのですよ」
遂に胸の前で手を握り合わせた。祈りのポーズだ。
この男には、まるで神が、いや、母が目の前に見えているのだろうか。そう思えるほどに、男の双眸には私が写っていない。
「気持ちが悪いな」
そう零した私に、鼻で笑う男。その目には少しだけ私がうつっていた。
「みんなそう言うのさ。最初はな。だけど生きていく内に、世間に蔑まれる内に気付くのさ。嗚呼、俺の真の理解者は母だって、なぁ」
「ふぅん。なんか、お前さぁ。母で童貞捨てましたみたいなこと言いそうだな」
気色が悪い、と思っていることを隠しもせずに声色にのせると、それを受け取った男は嬉しそうに双眸を煌めかせた。
「そう! そうなんだよ。俺は、受け入れてもらったんだ!これこそ、愛だろう? 」
胃から何かせり上がってくる。その衝動を抑えるために目の前の男を殴ろうと拳に力を込めようと握りしめたその瞬間、男を呼ぶ声が聞こえた。
「ははっ。もう時間か。お前のお迎えは何時なんだろうなぁ?」
「もう何年も来てないが、そろそろだろうな」
軽口を叩く男は、これから首に縄を掛けられるとは思えないように軽い足取りで扉へ向かう。
「そうかぃ。まっ、後悔ないようになぁ?」
そう言った男の背中を見ながら、私は丸まって目を瞑った。
◇
女とは、0なのだと思う。
0が無ければ1は生まれず、しかし0は何にだって形を変える。
それは母であったし子供でもあった。愛でもあり、憎しみでもあり、それでいて神でもある。
対して男は、1のまま。結局大人になれど、母の前では幾つになっても子供なのだ。無償の愛を受け取って、愛というベールに覆われて安心を得る。柔い腹を裂いて己を受け入れて欲しいと許しを乞うのだ。
全員とは言わない。が、やはり凶悪犯にはそういう者が多い。
私の母、私だけの母。その中の人間性など、微塵も興味がなく『母』という存在だけを求める。
凶悪な自分を抱きしめて、許して、愛してくれる。
母の腹へ、というのは何度も聞いたが、父の陰茎、いや精子に戻りたいと言ったものは一人もいなかった。
可笑しい事だろう。腹を痛めてくれた者と、ただスッキリしただけの男、という違いだろうか。
分かりたくもない。
母を愛して、その中にある自分への愛を恋慕と錯覚でもしたのだろうか。強き母の中に、弱い女を見つけて興奮でもしたのだろう。嗚呼、気持ちが悪い。
違うだろう。母とは、そうではないのだ。ただ純粋に愛をくれる人間なのだ。純粋無垢で、美しく、私のような者が汚してはいけない。
この一生出られぬ檻の中で年月をかけ入れ替わり立ち代り入ってくる男達と話して、やはりと、私は確信を持つ。
母とは愛そのものなのだ、と。
そして、その事に気付いてるのは、私だけ。
─────────
私が死ねないのは、母が悲しむから。
腕を裂くのは簡単。五年前の私よりも大人になった私ならば、もっと深く切れる。けれど、しないのは母が悲しむから。
首を吊るのも簡単。縄の結び方なんて調べればどこにだって簡単に載っているし。けれど、しないのは母が悲しむから。
誰かに殺されたいと願うのは、母の悲しみや憎しみや後悔を向ける相手が出来るから。
逃げ、だと思います。
死への恐怖は無い。遺書を書けば後悔なく直ぐに死ねる。
母への感情というのは、難しいと思うのです。
母の腹へ戻りたいなんてことは思わない。
けれど、母の苦しみは出来るだけ取り除いてあげたいとは思う。
ただの母だ。
私に対して「嫌い」の一言も言えず(言わず)、その癖お前が死んだら三番目に悲しいと言う。
弱く脆く、強い母だ。
そう願う、私がいる。
───
0からの『愛』