『麦わら帽子』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
麦わら帽子
ひまわり畑の真ん中で、夏の陽射しに当てられて。
向日葵のように微笑む君には黒髪がよく映える。
麦わら帽子の鍔から落ちる影さえ、美しくて。
夏なんて嫌いだ。それでも君と一緒なら、
この瞬間なら続いて欲しい...なんて、勝手なことだけど。
夏の暑い日差しをしのいでくれたり
はたまた、身にまといオシャレになったり
使う用途はいくらでもあるのかもしれない麦わら帽子
買い物から帰ってきたら、同居人の姿が無かった。
荷物を片付け、二階の私室を覗くがそこにも姿は無い。じわりと浮かぶ汗を拭いながら階下に戻り見回すと、裏庭に続くドアが開いていた。
猫の額ほどの小さな庭に、麦わら帽子を被ってしゃがみ込む後ろ姿があった。白いシャツにうっすら汗が滲んでいる。図体のでかい男がいるせいで、ただでさえ狭い庭が余計に狭く見える。
「おい」
「·····あぁ、おかえり」
しゃがんだまま振り返った男は、麦わら帽子のつばをほんの少し持ち上げて微笑んだ。
「不用心だな、鍵が開いていたぞ」
「まだ店を閉めるには早いかなって」
言いながら立ち上がる。男の頬に汗が伝うのを見上げながら、私は持ってきたペットボトルを差し出した。
「ありがとう」
「今日はもう閉めたらどうだ? この暑い日にチョコレートを買いに来る客なんかいないだろう」
「そうしようか」
男が水を流し込む。大きく動く喉元をぼんやり見つめていると、蝉の合唱がシャワーのように降り注いで、頭の奥がぐらついてくる。男の傍らにはむしった草が山になっていた。
「あ」
ペットボトルをこちらに返しながら、男が不意に声を上げた。視線を追うと土の上で蝉が仰向けになって死んでいる。白く変色した腹が、既にだいぶ時間が経っていることを伝えていた。
シャベルを拾い、蝉の死体を片付けようとした私の手を男が止めた。
「いいよ、そのままで」
「·····」
「そのうち蟻が全部食べてくれる」
私達の会話を非難するように、蝉の合唱が大きくなった。
「熱中症になる前に戻るぞ」
「うん」
夏が終わる。
今年は雨が少なかった。
雨の代わりに降り注ぐ蝉時雨が、私達を覆い隠してくれているのかもしれない。
店内に戻ると男は私に麦わら帽子を被せて、不意に唇を重ねてきた。
「なんだ突然」
「なんとなく」
子供のように笑う男に麦わら帽子を突き返すと、彼はそれを被ってふふ、とまた笑った。
END
「麦わら帽子」
「迎え火」
ずっと捨てることが出来なくて、上京するときの荷物にそれを入れてしまったのがいけなかった。
東京のジメジメとした梅雨と夏で、カビが生えてしまったのだ。
頑張ってカビを取り除こうとしたけど、結局全部取りきることは出来なかった。
しかし、あちらで捨てるのは抵抗がある。
だから帰省する際に荷物に入れたのだ。
かんばを焚く。
この辺りでの、お盆の風習だ。
じーさん ばーさん
このあかりで おいで おいで
迎え火と独特の香りに、歌う。
日中、それなりに暑くなるものの、日が傾き始めると気温が下がり、吹く風もひんやりとしている。
東京の大学に進学したのは、この町では見ることが出来ない違うものを見たいからだとか、視野を広げるためだとか、言っているけれど、本当はあの子との思い出しかない町に住み続けるのが辛かったから。
同い年で気が合ったから、ずっと一緒だった幼馴染の女の子。
ある年の夏、お揃いで買ってもらった麦わら帽子をこっそりと交換した。
なぜそんなことをしたのかは覚えていない。
でも、交換したことがお互いの家族にバレていないことが楽しかったのは覚えている。
いつの間にかサイズが合わなくなったけど、麦わら帽子を捨てることはできなかった。
それはきっと、あの子も同じだったのだと思う。
「ねぇ、今年は帰ってくるの?」
こんな時、どんなに仲が良かったとしても所詮は他人なのだと思い知らされる。
本当の姉妹だったらよかったのに。
家族だったらよかったのに。
じーさん ばーさん
このあかりで おいで おいで
「このあかりで……」
あの子の名前をこっそりと呟く。
「おいで、おいで……」
視界の端に何か白いものを捉えたけれど、視線を向けたら消えてしまうような気がした。
────麦わら帽子
町役人の河田谷五郎が外国人の帽子を真似して、1872年につくられたそうです。
伝えることのすごさが伝わりました。
それを私は今伝えました。
伝統が続いていく理由のひとつですね。
リストカットしてる私が、もし避難所にいて
その傷跡がバレた時
なんで死にたいやつがここにいるんだとか
死にたい奴のために物資を無駄にしくたねぇみたいな
そんなことを言われるんだろうか
そんなことを考えながら、
今日も切るのだけれど。
みんな自分が大事だし、
自分が大事じゃない人もいるかもしれないけれど
リストカットは延命に繋がるものだからといっても
やっぱり死にたがっていることに変わりはないと
腕を伝う血を見ながら
思うのである。
ほんとに死にたいならとっくの昔に死んでいるし、
もしそういう状況になった場合
少なからずある一定多数から
避難されるのも目に見えている。
あーあ、くそだなじぶん
麦わら帽子
麦わら帽子を深くかぶって君は微笑んだ。とても愛おしかった。守ってやりたいと思った。
なんでこんな事になったんだ…
俺が弱いから…
弱いからこんなことになった。
そんな事を考えていたら、前から彼女の麦わら帽子が飛んできた。私は泣きながら帽子を抱きしめた。
その帽子はまだ暖かかった…
◤◢◤◢WARNING!◤◢◤◢
飛んだ、とんだ。
エキセントリックな色味の羽虫が
麦わら帽子を繭を弾いて飛んだ。
母は台所に座り込んで
ピンクの象とずっと笑いあっている
父は口から轟音を放ち
小学生の様に障子を破いて回っていました。
私は幸せです、大丈夫。
私は見散る事は泣く
しかし、とても
しあわせだと、足りぬとは
辛せなことなのだと理解します。
我々、子どもと呼ばれる心の未熟な幼さたちは何時だって全てを残酷なまでに純粋に見続けては在り続ける事を学んでいるのだと生まれ落ちる前からずっとずっと知っているのです。
だから、私は�����
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ー 麦わら帽子 ー
「麦わら帽子」
赤毛のアンが浮かぶ。
孤児でそばかす、痩せっぽっち
空想好き、
キラキラした女の子。
世界中から愛されている女の子。
あの本を読んだ中学生の私は
アンの生き方に憧れたっけ。
麦わら帽子かぶって三つ編みにして
残念だったのはメガネかけてたことだけどね〜
もう私はマリラの世代になったけど(笑)
永遠の少女アンは麦わら帽子が似合う。
海を知らない少女を前に麦わら帽の我は両手をひろげていたり
山に囲まれた盆地に小さな村があった。そこにはたくさんの畑や田が広がっており、とてものどかな土地だった。
一つの畑に、白いワンピース姿の少女が立っていた。彼女は海を知らない。村を一度もでたことがないから。彼女の一番の友達は麦わら帽子をかぶって両手をひろげている「かかし」だった。「かかし」は思った。我なんかが友達でなく、海にでていって新しい友達をつくってほしいと。
『麦わら帽子』
青空と緑の海と小麦色の麦わら帽子。夏になると絵画のようなこの色彩を君と思い出す。
里帰りだと両親に連れてこられた片田舎。
ゲームばっかりしていた俺は、何も無い田舎道をポツポツと歩いていた。母さんめ…今時の都会っ子に田舎で外遊びなんて、無理ゲー過ぎる。どう遊べばいいのかすらまったく分からないのに。
まぁ、テキトーにぶらついて時間を潰すか。なんて考え無しに俺はとりあえず気の向くままに足を動かしているのだ。
しばらく歩いていると俺の体にビュウっと風が降りかかった。釣られて顔を横に向ける。と、そこにはボウボウに伸びた野原の草がまるで波のようにザアザアと揺れていた。
ぼうっとそのまま草の海を眺める。何も無い田舎道の中、大きく広がるその海になんとなく目が奪われた。
と、一層強い風が俺の顔を打ち付けた。思わず目をつぶる。風は一瞬で俺の体を通り過ぎたかと思うと後ろの野山に勢いよく駆けていった。
ザザア、ザザア。まるで本物の海みたいな波の音に誘われて、閉じていた瞼を上げる。一瞬視界に日の光が溢れた。かと思うと、目の前には雲ひとつ無い真っ青な空と、その下にどこまでも続く緑の海がある。
ふと、青い空に一匹の蝶が舞っているのに気が付いた。小麦色で、つけられた真っ赤なリボンが風に煽られ、ひらひらと靡いている。ゆらゆらと空から落ちてくるそれは、蝶ではなく可愛らしい麦わら帽子だった。
突き抜けるような青い空
ザアザア揺れる緑の海
ふわりふわりと舞い降りてくる麦わら帽子。
まるで絵の中のような風景に一瞬息をのむ。
羽のように俺の足下に落ちた麦わら帽子を、俺は気が付いたら拾っていた。
…この数分後に、俺は息を切らして帽子を探す君と出会うことになる。
絵画みたいな、この色彩の中で。それは、夏に必ず思い出す俺達の一番色鮮やかな記憶だった。
麦わら帽子
真夏の太陽の下、
私は白いワンピースと麦わら帽子を被って、
大好きな君と魚を取りに川へ行く。
「でっけえの取れた!!」って言う君は
私の知る世界で1番輝いてた。
目の前の魚に夢中な君を見る私は
どんな表情をしてるんだろう。
どうか、私の夏が君の夏でありますように。
【麦わら帽子】*長文、微修正
(勇者と元騎士、元騎士の友人視点)
アルヴィン・コールリッジといえば、伯爵家の長男でありながら闇魔法に適性を示した忌み子だ。次期伯爵は弟のダリルだと言われている。
ならば早々に家から出してしまえば良いのに、コールリッジ伯爵は長男が可愛いらしく、彼が十五歳になっても手元に置いていた。
そのコールリッジ家の長女ベアトリスとアシュベリー子爵家の長男エヴァンとの縁談が持ち上がった。
つまり。俺がアルヴィンの義弟になるわけだ。
初めて会った婚約者は幼さはあったがとても可愛らしく、俺はベアトリスと二人で庭園を歩いた。リボンで装飾された麦わら帽子がよく似合っていた。
「その帽子、とても素敵だね」
お世辞というわけでもなくそう褒めれば、ベアトリスははにかんだ笑顔を浮かべた。
「ありがとう。お兄様からいただいたの」
選んだのがアルヴィンなのかと思うと、なんだか面白くなかった。
コールリッジ伯爵はアルヴィンを騎士学校に入学させた。おかげで俺は奴の同級生だ。
妹によく似た金髪だった。身体は大きい方ではなかった。闇にしか適性がないのか、決して魔法を使おうとしない。
アルヴィンは努力を惜しまない奴だった。忌み子だからと雑用を押し付けられ、課題を増やされ、不自然な痣を作っていることすらあった。
ベアトリスが兄について手紙であれこれと聞いてくる。たまに会った時もアルヴィンの話をさせられた。婚約者を心配させないような話題を選ぶのが大変だった。
寮を抜け出し、同級生と三人で平民街に遊びに行った時だ。仲間のひとりが財布をすられたのか落としたのか。とにかく酒場の支払いができなくて、俺たちは途方に暮れた。
ツケにすることもできず、店主に凄まれて青い顔をしていたら、後ろから声がした。
「いくら足りないの?」
アルヴィンだった。
何故か金髪が茶髪になっていたが、それだけで見間違えるわけもない。
「なんだ、アル。お前が払ってくれんのか」
店主はアルヴィンと顔見知りらしかった。
「あんまり高くなければね」
「銀貨一枚だ」
「はい。これでいい?」
アルヴィンが自分の財布から銀貨を出して、俺たちは解放された。他の二人は礼すら言わずに逃げていった。
「ありがとう。助かった。金、必ず返すから」
アルヴィンは微かに微笑んだ。
「あれくらい構いませんよ」
俺はアルヴィンと寮まで並んで歩いた。勝手に抜け出したことをどう言い訳しようかと思っていたら、アルヴィンが「内緒にしてくださいね」と言って、認識阻害の闇魔法をかけてくれた。おかげで見咎められずに部屋に戻れた。
初めて経験した闇魔法は、別に何も怖くなかった。
後で聞いたのだが。アルヴィンはいずれ家を出る時のために、平民になっても困らないよう、庶民の暮らしを学んでいたらしい。ふらっと出かけた俺たちよりもずっと平民街に慣れていたのだ。
それ以来、俺はアルヴィンと話すことが増えた。金はちゃんと返し、気付けば友人と言ってもいいくらいの立場になっていた。
騎士になってからもアルヴィンは時々不自然な怪我をしていた。手当てをしてやったこともある。それでも次第に、周りには味方が増えていった。
そして、勇者が召喚された。ベアトリスよりも幼いくらいの少女だ。あまりにもか弱かった。
その少女が城から追放された時。アルヴィンは追いかけていってしまった。
困った義兄だ。俺たちの結婚式までには帰ってきてくれるといいんだが。
半月も経たずに、やはりあの少女が勇者だったという噂が流れた。俺は周りの騎士たちに声をかけた。
「あいつ、たぶん追手がかかるよな。手配書の似顔絵、俺たちで細工してやろうぜ」
絵描きはアルヴィンの顔なんて知らない。同僚だった騎士に人相を聞きに来るだろう。
─────────────
お題【太陽】で出てきた『似ていない手配書』は騎士たちの仕業だったというお話
【麦わら帽子】
あの夏の君は向日葵だった
ーNo.6
【お題:麦わら帽子 20240811】【20240818up】
幼稚園の時の夏の制服、帽子が麦わら帽子だった。
それから小学生に上がってからの数年は、夏外で遊ぶ時は帽子を被りなさいって言われて、大抵は麦わら帽子を被っていた。
高学年になると麦わら帽子は何故か恥ずかしくて、普通の帽子を被っていたけれど、まぁ麦わら帽子の方が涼しかったのは確かだ。
中学、高校と夏に帽子を被った記憶は少ない。
どちらかと言えば、冬に寒さとお洒落で被っていた記憶ばかりだ。
で、今だけど。
「夏って言ったら、スイカと花火に蚊取り線香でしょう」
「いやいやいや、ビールに枝豆、そして冷や奴だよ」
「夏?ゲリラ豪雨じゃないっすか?」
「夏はフェス一択っすよ!」
「海!プール!水着の女の子!」
「安西さん、それセクハラです〜」
「えっ、マジで!」
みんなでワイワイ騒ぎつつも、視線は画面で手は忙しなく動く。
お盆ソレなに美味しいの?状態の我社では、世間の連休中も普通に出勤して残業している。
何故なら八月は繁忙期だから。
それでまぁ、世間の連休に浮かれている人々と自分達の境遇の差に絶望しそうになっていたところ、何とか気を紛らわせようと始めたのが、『夏と聞いて思い浮かぶもの』という、あまり頭を使わずに済む話題。
「私は麦わら帽子かねぇ」
八人居るメンバーの中で、最年長の大場さんが呟くように言った。
「あ、私も昔はそうでした。でも今は麦わら帽子のイメージが変わっちゃって⋯⋯」
「あー」
「うん、確かに」
「『夏!麦わら帽子!』じゃなくなったな」
「うん?どういうことだい?」
大場さんの年齢だとこれはわからないかも知れないけど。
他のメンバーは皆頷いている。
そうだよね、こう言うの好きな人たちが集まってるもんね、うちの部署。
「『海賊!麦わら帽子!』とか、『麦わら帽子!ルフィ!』っていうイメージに変わったな」
「そうそう、そうなのよ」
「言われてみると、そうだね。海を背景に麦わら帽子が描かれたイラストがあるとして、何を連想するかって言われたら」
「海賊」
「ルフィ」
「ONE PIECE」
「って、なっちゃうよね。ONE PIECEを知らない頃なら確実に『夏』ってなるけど」
皆のその様子に大場さんは腕を組んでコクコクと頷いている。
「なるほどねぇ。そう考えると、そのONE PIECEって言うのは凄いね。一部とはいえ、人間のイメージをガラッと変えたんだから。私にはできない事だ」
「本当、凄いっすよね。これが日本だけじゃなく世界での話だし」
うんうん、凄い話だ。
そしてそれが、自分たちと同じ日本人がやってのけている事に、勝手に誇りを持ってしまう。
作者の先生と知り合いでも何でも無いのにね。
人間て意外と単純な生き物なのかもしれない。
「ふむ、で、福留さんの今の『夏と聞いて思い浮かぶもの』は?」
「今はそうですね、カキ氷です」
「フラッペも美味しいですよね」
「マンゴーとか堪らない」
連日の猛暑で食べたくなるけど、家に帰る頃にはお店は閉まっている悲しさ。
お陰で近所のコンビニでガリガリ食べる冷たいアレとか買って帰る毎日ですよ。
「あ、カキ氷のシロップって味は全部一緒って話し知ってる?」
「違うのは匂いだけなんだっけ?」
「そうそう」
「いつも思うんだが、ブルーハワイって何味なんだろうな」
「えっ、ハワイの味じゃないんすか!」
「ハワイの味って何だよソレ」
「ブルーハワイは、今はラムネ味が主流らしいっすよ」
「ラムネ味⋯⋯、そうなるとラムネ味って一体⋯⋯」
どうでもいい事で盛り上がりながら夜は更けて行く。
手は忙しなく動き、視線は画面に釘付け。
このまま、あと数時間は会社に拘束されるのだ。
きっと今日も、終電ギリギリの時間まで帰れないだろう。
無事解放されて家に帰って、レンチンしたコンビニのお弁当を食べるのではなく、金髪のぐるぐる眉毛のコックさんの美味しい手料理が食べたい、とか思う程度には私の疲労は蓄積しているようだ。
あー、この忙しいのが終わったら、美味しい食べ物食べ歩きするぞー!
━━━━━━━━━
(´-ι_-`) サンジさんの飯、食べたいなぁ (✽´ཫ`✽)
━━━━━━━━━━麦わら帽子━━━━━━━━━━
君と初めて会ったのは川の綺麗な山の中だったね。
私その時、お母さんに誕生日に買ってもらった麦わら帽子が風に飛ばされて木の枝に引っかかって泣いてたよね。
その時君が「どうしたの?」って声掛けてきてくれたよね。
事情を話したら「任せろ!」って言って色んな方法で取ろうとしてくれたよね。
時には木から落ちちゃったり、川に落ちたりしたよね
それでも、君は私のためにずっと頑張ってくたね。
私、凄く嬉しかったの。それと同時に君のことを尊敬したし驚いた。
初めて会った子の為に、ここまでやってくれる子なんて見たこと無かったから。そこが君のいい所なんだよね
夕方になって帰らなきゃと思って諦めた時、君は麦わら帽子を取って笑ってくたね。
私は今でもその麦わら帽子を大切にしてるよ。
だって、この麦わら帽子は
君と私を結びつけてくれた幸せを運ぶ麦わら帽子だからね
俺は、世直し系ユーチューバーHIROSHI。
世にはびこる悪を成敗し、社会に平和をもたらす正義の味方だ。
決め台詞は『悪よ、滅しろ』。
その言葉と共に、あらゆる悪を滅ぼしてきた。
だが悪を成敗するのは並大抵のことではない。
稀に、向こうから抵抗されこちらが怪我をすることもある。
そのため俺は、悪を滅するときは、木刀を持ち歩くことにしている。
一方的にやっつけることが出来るからだ
たまに『やり過ぎ』など言われるが気にしてしない。
悪い事をする方が悪いのだ。
そして今日も悪を滅するため、この地にやって来た。
ここは悪名高き『きさらぎ駅』。
この駅は、罪なき善良な人々を惑わせ、この地に縛り付ける。
個人の都合などお構いなしにだ。
悪である。
言い逃れできないほどに悪である。
ならば滅せねばならない。
と思っていたのだが、今の今まで先延ばしにしていた。
なぜなら、きさらぎ駅はネットでのみ語られる伝説上の駅。
どこにあるのか分からない……
だが、オカルト好きのファンからの情報で、ここまで来ることが出来た。
脱出できないと専らの噂だったので、脱出手段も用意してもらった。
準備はバッチリ。
あとは滅するだけだ。
最初に狙うのは改札口の駅員。
きさらぎ駅で働いている人間だ。
きっと悪に違いない。
俺は愛刀『洞爺湖』を握り締めて、ホームから駅の改札口に向かう。
歩いていくと、改札口に一人の男が椅子に座って、うたた寝しているのが見えた。
どうせ誰もいないと思って、油断していたのだろう。
職務怠慢という悪に怒りを覚えるが、男が寝ていることは幸運だった。
襲う際、抵抗されるとこっちが怪我をすることがあるからだ。
俺は、男を起こさないよう足音を立てず、男の背後を取る。
そして洞爺湖を振りかぶり、決め台詞。
「悪よ、めs――」
「甘い」
男は急に振り向いたかと思うと、俺に体当たりしてきた。
意表を突かれた俺は、あっけなく地面に倒れ、組み伏せられる。
狸寝入りだと!?
なんて卑怯な奴なんだ。
脱出しようともがくが、腕は完全に決められており、動くことすら困難だった。
俺の正義の道も、ここで終点。
あっけないもんだ……
悪の手先に捕まった正義の味方は、碌な扱いを受けない……
きっと俺は口には出せないような拷問を受けるのだろう。
なってこった。
世直し系ユーチューバーHIROSHI、ここに死す!
せめてもの抵抗で男を睨み付けたようと、顔を上げる。
どんな醜悪な顔をしているのか、見てやろうじゃないか。
しかし視界に入ったのは、驚愕に目を見開いた男の顔だった。
「もしかしてお前、HIROSHIか?」
「そうだが……
もしかしてファンか!?
なら、すぐに解放してくれ」
「なんだよ、分かんないのかよ。
俺だ、TADASHIだ」
「タダシ……?
え、TADASHIアニキ!?」
俺が驚くと同時に、拘束が解かれた。
自由になった俺は、体をさすりながら立ち上がる。
いつもなら文句の一つでも言ってやるところだが、そうもいかない。
なぜならば、目の前にいるこの人は、伝説の世直し系ユーチューバーTADASHIなのだ。
俺がこの道を志したのはこの人の影響だし、世直しのイロハを教えてくれたのもこの人。
俺の頭が上がらない、数少ない人物である。
「久しぶりだな。
お前、変わってないなあ」
アニキは、邪気の無い笑みを浮かべながら、俺の肩を叩く。
アニキの笑顔にどこか違和感を覚えるが、その前に聞くことがあった
「お久しぶりです、アニキ。
こんなところにいたんすね」
アニキは数か月前、急に動画を上げなくなった。
世間は、世直し中の事故で死んだとか、あるいは警察に捕まったとか言われた。
俺も真相を確かめようと、連絡を取ろうとしたが音信不通。
家に行ってももぬけの殻。
心配していたのだが、なるほどここにいたのか……
どうりで連絡が付かないわけだ。
「ああ、世直しで来たのはいいが、戻れなくてね。
それ以来、この駅で働いている。
といってもする事なんて、ほとんどないがな」
「せいぜいお前みたいに襲ってくる奴らの対応くらいかな」と、アニキは笑顔で応える。
だがアニキの反応に違和感を感じる。
一体何がおかしいのか……
もしや!
「あの、アニキ、こんなことを聞くのも失礼だと思うんすけど……」
「『老けた』て言いたいんだろ?」
「うっす」
アニキは笑顔から神妙な顔つきになる。
「どう話したもんか……
よく分からなんだが、ここと元の世界は時間の流れが違うらしい。
俺がここに来てからもう10年は経ってる」
「じゅ、十年!?
アニキがいなくなったの、せいぜい三か月位っすよ」
「ははは、そりゃ若いわけだよ」
「うう、なんか調子狂うっす……」
興奮する俺に、冷静に対応するアニキ。
この落ち着きが、大人の余裕か……
「それよりもアニキ、帰りましょう。
本当は世直ししに来たんすけど、後でいいっす」
「帰りたいのは山々だが、方法が分からない」
「大丈夫っす。
これで帰れるっすよ」
俺はバッグの中から、脱出装置を出して見せる。
脱出装置を見たアニキは眉をしかめた。
何か言いたそうだったが、特に何も言わなかった。
「戻ったら、世直ししましょう。
アニキがいなくなってから、悪が調子に乗っているんです」
「それなんだが……」
「アニキ……?」
アニキが言い辛そうに口ごもる。
アニキの態度に、俺は嫌な予感がした。
「俺、世直しは止めようと思うんだ」
「何を言っているんすか!?
アニキほどの男が世直しを辞めるなんて、熱でもあるんすか?」
「HIROSHI、俺気付いたんだ。
あんなのは世直しじゃなくて、ただの迷惑行為だ」
「アニキ!?
それは本当の正義が分からないアンチの妄言だって、いつも言ってたじゃないですか!」
「ここは何もないところだけど、時間だけはあってな。
自分を見つめなおして、きちんと生きようと決めたんだ。
ここで働いているのも、その一環さ」
アニキの言葉に、俺は膝から崩れ落ちる。
「アニキ、変わっちまったんすね。
俺が知っているアニキはもっと
でも今のアニキは丸くなった。
世直し系ユーチューバーTADASHIは死んだんだ……」
俺が愕然としていると、アニキは申し訳なさそうに口を開く。
「悪いな、HIROSHI。
俺も一児の父親だ。
無茶は出来ん」
「え、子供!?」
新しく出てきた新情報に、俺は頭がクラクラしてきた。
さらに新情報が入ると、俺の頭は爆発するかもしれない。
「MASAKOを覚えてるか?」
「アネゴっすか?
忘れるわけないっす。
俺が独り立ちするまでの間、飯を食わせてくれたすからね……
最近見ないけど……まさか!」
「ああ、俺が来てからすぐこっちに来てな。
俺を追いかけてきたそうだ。
ソイツと結婚して、子供もできた。
女の子だよ」
今でも覚えている。
アニキとアネゴは、お似合いのカップルだった。
自分の居場所は、アニキの隣だと言って憚らなかったけど、本当に追いかけてきたのか……
凄いな、アネゴ……
さすがアネゴだ……
うん、アネゴらしい……
駄目だ、頭が回らない。
俺はもう限界だ。
「俺、もう帰るっす」
「そうか」
「やる気のない返事っすね。
アニキは帰りたくないんすか?」
「戻れるなら戻りたいな。
娘に色々な物を見せたいんだ」
「ただの親ばかじゃないっすか」
「写真見るか?
可愛いぞ」
「別にいいっす」
アニキが写真を写真を撮りだそうとするので、はっきり拒否する。
あくまでも予感だけど、ものすごく長くなりそうだからだ
俺はもう帰りたいので、アニキの惚気話に付き合う時間はない。
「それで……
どうやって帰るつもりだ」
「これを開くと、外に出るゲートが出てくるんすよ」
「なあ、HIROSHIよ。
言おうか言うまいか悩んでいたんだが、やっぱり言うぞ。
それ、おもちゃじゃないのか?
だいたいゲートが出てくるってなんだ?
SFだぞ、それは」
「何言ってんすか、アニキ。
これは信用できる筋から入手したんすよ」
「絶対騙されてるって」
「使えばアニキも納得してくれるっすよ。
オープン!」
『プリキュア! デリシャスタンバイ! パーティーゴー!』
脱出装置から、起動音が鳴り響く。
これでゲートは開くはずだ……
今、プリキュアって言った?
え?
騙されたの、俺……
俺が呆然としていると、アニキは俺の肩にそっと手を置く。
「なに、ここも悪くないさ。
今まで迷い込んだ人もたくさんいるし、意外とにぎやかだよ。
ネット回線が貧弱なのは頂けないがね。
女の子もいるし、きっと気の合う仲間を見つけられるさ」
「いやっす!」
「時間ならたっぷりある。
納得できるまで悩むといいさ。
俺も来たばかりの頃は悩んだけど、今じゃここに骨を埋めようと思っている」
「俺は……俺は……!」
「人生の終点にするには物足りないかもしれないが、人生そんなもんさ」
「こんなところで終わるのは嫌だーーーー!」
俺の叫びが、きさらぎ駅に虚しく響き渡るのだった
麦わら帽子
つばのある帽子は顔を隠したりする暗い雰囲気がかもしだされたりするけど
麦わら帽子は写真も絵も笑顔ばっかりで顔がよく見えていて
太陽みたいに向日葵みたいにすごく、
すごく綺麗だ
麦わら帽子、見ぃつけた。
夏の落とし子、見ぃつけた。
からから。からから。
自転車が走って、セミが鳴くよ。
じじじじじ。
みみみみみ。
本や映画でしか見たことのない夏。
森に行きたい。
きっと虫だらけで、鬱陶しくて、最高で最悪だ。
麦わら帽子
真夏の空に、綺麗に咲いたひまわり。
麦わら帽子に、純白のワンピース。
漆黒の長い髪に、白い肌。
暑そうに車椅子に乗っている君に、僕は問う
「どう?」
君は、麦わら帽子に顔を覆われたまま、こちらを向かずに「綺麗だ」と言った。
その頬には涙がつたう。
僕と君が最初に会ったのはここ、病院だった。
体調が優れず入院していた祖父のお見舞いに行った時、
僕は病院の屋上にふらっと立ち寄った。
その時君が今も日光を遮っている麦わら帽子を風に飛ばされたのが始まりだった。
咄嗟に僕が帽子を追いかけて、帽子を掴んだ。
君に近づき、君に渡すとひまわりより明るい笑顔で「ありがとう」と言った。
その後、話し込み仲良くなった。
それから僕は何度も屋上へ立ち寄った。
君がいると思ったから。
でも、けして君に会いたくて行ったわけじゃない。
そう言い聞かして。
屋上の花壇に咲いていたひまわりを、君は愛おしそうに見つめながら言った。
「来年も見れるかな」
ふっ、と僕の方を見る彼女の顔はなんとも言えない表情をしていた。
確かなのは、拭いても残っていた涙の跡。
僕は、そう聞かれてもまた何も言えず目をそらす。
僕だって君に言ってやりたい、「絶対に見れる」。
なんて、
そんなこと言えるはずがない。
見れるかなんて、僕より君のほうが知っているだろうに。
何も言えない、できない僕はただただ最初に会った時よりかか細くなった手を握りしめた。
君は同情されるのを嫌がったね。
でもこれだけは君に言える。
これは同情じゃない、
『愛情だ。』