麦わら帽子
真夏の空に、綺麗に咲いたひまわり。
麦わら帽子に、純白のワンピース。
漆黒の長い髪に、白い肌。
暑そうに車椅子に乗っている君に、僕は問う
「どう?」
君は、麦わら帽子に顔を覆われたまま、こちらを向かずに「綺麗だ」と言った。
その頬には涙がつたう。
僕と君が最初に会ったのはここ、病院だった。
体調が優れず入院していた祖父のお見舞いに行った時、
僕は病院の屋上にふらっと立ち寄った。
その時君が今も日光を遮っている麦わら帽子を風に飛ばされたのが始まりだった。
咄嗟に僕が帽子を追いかけて、帽子を掴んだ。
君に近づき、君に渡すとひまわりより明るい笑顔で「ありがとう」と言った。
その後、話し込み仲良くなった。
それから僕は何度も屋上へ立ち寄った。
君がいると思ったから。
でも、けして君に会いたくて行ったわけじゃない。
そう言い聞かして。
屋上の花壇に咲いていたひまわりを、君は愛おしそうに見つめながら言った。
「来年も見れるかな」
ふっ、と僕の方を見る彼女の顔はなんとも言えない表情をしていた。
確かなのは、拭いても残っていた涙の跡。
僕は、そう聞かれてもまた何も言えず目をそらす。
僕だって君に言ってやりたい、「絶対に見れる」。
なんて、
そんなこと言えるはずがない。
見れるかなんて、僕より君のほうが知っているだろうに。
何も言えない、できない僕はただただ最初に会った時よりかか細くなった手を握りしめた。
君は同情されるのを嫌がったね。
でもこれだけは君に言える。
これは同情じゃない、
『愛情だ。』
8/11/2024, 2:53:52 PM