『静寂に包まれた部屋』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
〇〇しないと出られない部屋。
巷で有名なその謎空間に私は閉じ込められてしまった。
何もない、壁も床も天井も真っ白なそこで、何となく正座をしながら私は途方に暮れた。
だいたいこういうのはペアで、男女ペアとかで閉じ込められるのがセオリーなのに。
現在私は一人でここに閉じ込められているのだ。
脱出の為のお題も伏せ字のまま、かれこれ三十分が経とうとしている、気がする。
正確な時間を確認しようにもスマホが文字化けしていて使い物にならないのだ。
やっぱりアナログの腕時計の一つでも買っておくんだったな。
ここを出ることが出来たらセ○コーの時計でも買いに行こう、ムーブメントが日本製のセ○コーを。
奮発して最上位モデルを買うかな、なんて一人で決意していると背後で物音がした。
なんか、熟れたトマトがいい感じの高さから床に落ちた時のメチョッみたいな音。
痺れきって魚肉ソーセージみたいになった両足を何とか動かして後ろを振り向くと、泥酔したスキンヘッドのオッサンが無様にも半ケツを晒しながら転がっていた。
全然知らない人ー!うわあ詰んだ!
チン♪という軽快な音をたててお題が開示されたことにも気付かずに、私は大の字に寝転び瞼を閉じた。
テーマ「静寂に包まれた部屋」
ぬるくて息を詰まらせるような空気が、
窓を開けても変わらずに続いている。
秋の匂いでお腹が空いて、
口へ運んだものの味が、
いつもより濃い。
表現不能なこのつっかえを、
包み込んでくれるような。
ゲホッ。ゲホ
荒天でJRが遅延!
今日は大切な
研修会があるというのに…
初めからは無理でも
自分が担当する
アクティビティまでに
なんとか着きたい
ホテルに寄る暇もなく
直接、会場に向かう
荷物を持ったまま、走る!
走る、走る、
休めない、
走る
息が上がったまま
『静寂に包まれた部屋』に
飛び込む
ギリギリセーフ!
まー
本当に無音の部屋にいたら人間ってすぐに気が狂うらしいね。試してみたい。
『静寂に包まれた部屋』
目を閉じて自分の呼吸の音だけを聞いている。何も見ず、何も考えず。この静けさが不思議と気持ちいい。
【お題:静寂に包まれた部屋 20240929】
深い眠りから覚醒し、辺りを見回す。
窓から見える見慣れた風景に、見慣れた部屋。
ただし、見慣れてはいるがここは達也の部屋ではない。
隣で眠る"誰か"を起こさないよう、そっとベッドから降り、ひとつため息をつく。
"誰か"に気を使う必要がないことは、達也はよく知っている。
だが、身体にとっては"誰か"を気遣う事はごく自然なことで、そうすべきである、と無意識下に刷り込まれているようだった。
達也はまず初めに服を探す。
一糸纏わぬ姿でいるのは"誰か"との関係が深い仲である事を指し示している。
そして、つい先程まで、そういう行為に至っていたのだということもわかっている。
お陰で、下半身の疲れと、未だに昂る己の中心に辟易しながら脱ぎ散らかされた衣服の中から、自分の下着とシャツ、そしてズボンを拾い上げた。
それ等を、くるくると腕に巻き付けバスルームへと向かう。
全身の汗と、下腹部の体液、そして身体に染みた香水の匂いを落とすためだ。
蛇口を捻り、熱いお湯を頭から被る。
備え付けのシャンプーで髪を洗い、ボディーソープで念入りに身体を洗う。
そして、昂りを大人しくさせ目を閉じる。
『この後は⋯⋯』
シャワーを終え、タオルドライした髪を乾かし、服を着る。
鏡の中の自分の顔をマジマジと見て、大きなため息をひとつ吐き出す。
そこに映るのは精悍な顔をした美丈夫だ。
歳の頃は三十前半、男としては脂の乗った丁度良い頃合だろう。
整った顔立ちで、モデルのような体型。
程よく鍛え抜かれた肉体は、この顔にとてもマッチしている。
そして、長く癖のある髪も、この顔によく似合っている。
「⋯⋯⋯⋯」
世の中は不公平だと、いつもこの時に思う。
鍛え抜かれた肉体も、整った容姿も、おそらく国籍も達也とはまるっきり違う。
黒髪に目の冴えるような青色の瞳、白い肌に彫りの深い顔立ち。
身長はおそらく190近くあるだろう。
アソコも達也のものとは比べ物にならないほど立派だ。
自分がこんなんだったら、どれほど幸せな人生を送れただろうか⋯⋯。
そう、この身体は達也のものではない。
現実の達也は40を過ぎた独身男で、背は165cm、体重85kg、髪は父方の遺伝子の所為で寂しくなり、剃る事にしてもう10年以上になる。
顔もお世辞にも整っているとは言い難い。
同じ親から生まれたはずの兄や姉は母親の血が濃いらしく、達也とは全然似ていない。
父親も整っているわけではないが、一般的であると言える容姿だ。
なぜ自分だけ、と悩まなかったはずがない。
学校でも職場でも容姿のことでからかわれ、自尊心はズタズタだ。
それでも勉強が出来れば良かったのかもしれないが、成績は普通、そう至って普通。
運動は苦手で、小中高と運動会や体育祭の前日はてるてる坊主を逆さまにして雨乞いをしたほどだ。
ただ、他者より秀でるものがなく容姿は寧ろマイナス寄りな男の人生に、一つだけ普通ではないことがあった。
それが、これだ。
眠りにつくと必ずこの夢を見る。
妙に現実じみた夢だ。
初めての時は訳が分からずパニックになり、裸のまま部屋から飛び出した所で夢から醒めた。
2度目はこの体をじっくりと観察して、部屋にある服を色々と着てみたり、自分にはできない髪型を楽しんでいたら目が覚めた。
それからは少しずつやることを変えてみた。
もちろん"誰か"と肌を重ねることもしてみた。
現実世界では叶わない夢を夢の中で叶えることが出来た、が、夢から醒めた後は酷く虚しくなった。
幾度かその虚しさを経験して"誰か"と肌を重ねることはやめた。
夢の中の達也は達也であって達也ではないから。
5年前から見はじめたこの夢には何か意味があるようだった。
それが何なのか達也には分からなかったが、一つだけわかっていることがある。
それはこの夢では達也が取るべき行動が決められているらしいということだ。
その取るべき行動に沿っていれば夢は続き、そうでなければ夢は覚める。
また、部屋の中にいる場合はある一定の時間が過ぎると夢が覚めるようだった。
そしてこれまで分かっている条件は3つ。
まずはベッドから出てシャワーを浴びること。
体の汚れは当然として、香水の匂いもしっかりと落とさなければならない。
そうでなければ、部屋から出て通りへ足を踏み出した瞬間、獰猛な犬に噛まれることになる。
次に服装。
クローゼットの中にはたくさんのオシャレな服があるが、そのどれも着てはいけない。
着るべきなのは床に散らばっている服で、それ以外の服を身につけていると通りの途中で車に泥水をかけられ夢から醒める。
それから"誰か"に触れないこと。
触れれば"誰か"は目覚め、部屋から出られなくなる。
そしてその間はほぼ強制的に、"誰か"と肌を重ねることになる。
自分にどんなにその気がなくても、だ。
自分の意思とは関係なく、口から愛の言葉が紡がれ、中心が昂り、虚しさの中"誰か"の中で果てるのは、精神的にキツく目が覚めてからもなかなか浮上できないほどだ。
気持ちいい思いをしているんじゃないか、と責められそうだが肉体の快楽が精神の快楽とイコールであるとは必ずしも言えないものだ。
ましてや"誰か"は夢の度に違う人物で、若い女性の時もあれば、壮年の男性のこともあった。
せめてもの救いは、誰一人として達也の知る人物ではなかったことだろうか。
また"誰か"は触れさえしなければ、どんなに大きい物音を立てても目覚めることはなく、ただベッドで寝ているだけのモノに過ぎなかった。
達也は乾かした髪を一つにまとめると、手に財布と部屋の鍵を持って玄関に向かう。
この時、時計や携帯電話など時間のわかるものを身につけていてはならないようだった。
それを持っていると隣のブロックに足を踏み入れることができないのだ。
目に見えない壁のようなものに阻まれ、同じ場所をグルグルと歩き回ることになる。
この条件は見つけるのに、ひと月近くかかった。
部屋を出て鍵をかけ、少し狭い階段を3階分下りる。
重厚な鉄の扉を開いて通りへ出たら、左に進む。
足元は昔からの石畳。女性たちからはヒールで歩き難いと評判が悪いらしいが、観光客には時代を感じるこの雰囲気が良いと大好評だ。
通りを5分ほど歩く。
途中、犬の散歩中の女性二人と、おそらく通勤途中の女性ひとりと目が合うので爽やかな笑顔を浮かべて目で挨拶をする。
これも無視をすると、後ろから走ってくる自転車にぶつかられて目が覚める。
焼きたてのパンのいい匂いがしてきたら、目的の店が近い証拠だ。
店に入り、バゲットを1本とクロワッサンを2つ購入する。
このパンの種類と本数の条件を見つけるのが今の課題だ。
これで通りに出て何事もなければ、パン屋の条件はクリア出来たことになるのだが。
「⋯⋯⋯⋯ダメだったか」
現実の自分のベッドで目覚め、達也はぽつりと声を漏らした。
6畳二間続きの古いアパートの天井には、人の顔に見える木目のある板が打ち付けられている。
大家さんが良い人なのと、会社が近くて便利ということもあって、かれこれ20年近く住んでいる。
親や兄弟にはもう少しいいところに住めと言われているが、達也自身はその必要性を感じていなかった。
彼女や友達を呼ぶわけでもなく、会社から帰って寝るだけの場所。
たまの休日は掃除をして、平日のための料理の下拵えと、常備菜などを作っていると時間が無くなる。
以前は本を読んだりもしていたが、今は1時間ほどの空きがあれば、寝てあの夢の中にダイブするようになっていた。
誰かの人生の追体験をしているのかもしれないと思いつつ、ゲームをしているような感覚に陥っている。
先に進むためにはたくさんの条件があり、その条件を一つ一つクリアしていく。
達也は夢の中の人物の名前も、性格も、仕事も、家族構成も何一つ知らない。
知っているのは達也とは違ってオシャレな家に住んでいて、愛する人がいて、目が覚めてその人のためにパンを買いに行っていると言うこと。
「うーん、3時か。もう1回はいけるな⋯⋯次はバゲット2本とクロワッサン2つにしてみるか」
達也はもう一度目を閉じる。
睡魔はすぐそこにいるから、あの夢で目覚めるのは容易なことだろう。
なぜこんなにも真剣になって、あの夢をクリアしようとしているのか分からない。
ただあの夢をクリア出来たら、自分の中で何かが変わりそうな気がする、ただそれだけのために達也は何千回と、ほとんど内容の変わらない同じ夢を見続けている。
静寂に包まれた部屋に1人の男の呼吸が響く。
その夢の結末が、己の人生に多大な影響をもたらすことも知らずに。
静寂に包まれた部屋で一人の男が目覚める。
何千回と繰り返してきた夢の終わりが、すぐ近くまで来ていることを知らずに。
ある日、地球上から一人の男が忽然と消えた。
最後の目撃者はパン屋の店員で、バゲット2本とクロワッサン3つを購入した男が、店から出た瞬間に姿が見えなくなったという。
ある日、一人の日本人の男が目覚めなくなった。
大家の話では4日前の夜、いつも通り日付をまたぐ頃に帰宅したようで、夜中トイレに起きた際、玄関の鍵を開ける音を聞いたという。
無断欠勤が続いたため、会社の同僚が確認に来たところ、彼は普通にベッドで眠っていた。
だが、声をかけても体を揺すっても起きる気配がなく、病院へ搬送したが、以降1度も目覚めることはなかった。
彼らは何処に行ったのか、誰も知らない。
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(´-ι_-`) もうちょっと、こう⋯⋯才能が欲しいな。
序章
「お前なんか!お前なんか!」
『っう…痛いよォ』
私のお母さんは逮捕された。
私を虐待したから。
お母さんがいなくなると家は静寂に包まれた。
ずっと殴られることが普通だと思っていた私はこんなに静かなのに落ち着かなくて、
お母さんに会いたくなって、また騒がしく怒鳴って欲しくて今まで殴られていたことも快楽に感じられた。
いつものように私を愛して。
殴って切って叩いて放り出して怒鳴って泣いて
いつも私の耳がキンキンするほどに。まだ足りない。
体にアザができてもいい。死んでもいい。またあの快楽を…
パサ…
友達から借りた小説『快堕』私にはよく分からなくて最初らへんで閉じてしまった。
私はカバンから課題一式取り出し渋々やることにした。
「ん?」
すると私が机に置いといた課題の隣には何かのノートが置いてあった。
パラパラパラパラ…
勝手に開いていくノートに私は声も出せず、腰を抜かしていた。
「あ―」
口を開く前に私は本の中に吸い込まれていった。
パタン。
部屋は静寂に包まれた。
静寂に包まれた部屋
仕事を終え、借りているアパートへ帰る
いつもの時間、いつもの道
違うのはただ1つ
ガチャッと玄関を開けるとタタタッと軽快な足音と一緒に愛してやまない笑顔が出迎えてくれる
「おかえりなさい!」
「ただいま」
俺の足に飛び込んでくる愛娘の頭を撫でていると後から乳児を抱いた妻が来た
「おかえりなさい」
「ただいま」
静寂に包まれていた部屋に家族がいるだけで明るく温かい部屋に変わる
テーマ“静寂に包まれた部屋”
(2次創作で)少し前に流行っていた(らしい)
〇〇しないと出られない部屋。
に、1人で閉じ込められた私。
一緒に閉じ込められかけたやつは
鍵をかけられる少し前に
何らかの危険を察知して逃げたらしい。
基本、こういう部屋で、出る為にしなきゃいけない事は
2人以上でしか出来ない事をする前提で
閉じ込められている。
つまり、私は、此処から出られない。
普通の脱出ゲームとは違い
制限時間なんて無い。
指示書にはこう書いている
“2人で協力して下さい”
無理と言う事は
下手したら、一生此処から出られない可能性もある。
一応、水とお菓子は、ある物の
数日後には無くなってしまうだろう。
「あ、死ぬのか此処で」
気づかれずに、何処かも分からない場所で
もしかしたら、死んだ事にも気付かれず
この建物が朽ちてから、見つかるパターン…
何十年後…?
いや、こう言う物って誰かが監視してるのでは!?
…でも、出られそうにないと言う事は
死ぬまで出られないパターンか…。
紙とペンは無い為、遺書を書く事も出来ない。
静寂に包まれている。
誰がなんの意図で、此処に
誰と私を閉じ込めたのか
知る事はきっと来ない。
静寂に包まれた部屋
に見えても、実はにぎやか
外からは
鳥や虫の声
風や雨、草木が揺れる音
煌めく星や流れる雲の音もするかも
(「きらきら星」のメロディって秀逸だよね)
部屋の家具、小物、いろんな物
壁にも、床にも、天井にも、窓にも
意思や意識はある
(「トイ・ストーリー」みたいに、おしゃべりしてるかも)
微生物たちも無数にいる
きっと虫たちも、見つからないように隠れてる
(虫は「進撃の巨人」の世界を逞しく生きてる(巨人は私))
この皮膚にも常在菌がいて
体の中も、腸内細菌とか
いろんな生き物がいる
体の中も外も
いろんな存在が、一緒にいてくれてる
それらはすべて
直接的に、間接的に、私を育て守り助けてくれるために
存在してる
人間の私も
すべての存在に対して、同じ役割を持ってる
調和した豊かな静寂はいつも内にあり
それは実は、無限に賑やかで、豊か
耳をすませて
感覚をひらいてみれば
どんな時も、完全に一人にはなれない
無数の豊かさに、包まれ続けている
静寂に包まれた部屋
とにかくただただ暴れた。暴れて暴れて、落ち着いた頃には誰もいなくなっていた。
あんなに騒がしかった部屋があたかも何も無かったかのように静まり返っている。
もう二度と他の人がひどい実験をされることのないように機械を全て壊して壊し尽くした。
これで、誰も酷い目には合わない。もし同じことをしようとする人が現れても、僕がみんなを守るんだ。
せっかくいじられてしまった身体を使わないのはもったいない。
僕のこのカラクリの体でみんなを守って見せるよ
「真夜中のチャットルーム」
小さな頃から苦手だった。
夜、家族が寝ている時間に、ふと目が覚めること。
カチカチカチカチという時計の秒針が、何か悪い者、恐ろしい者が近づいてくる足音に聞こえたのだ。
今でも、時計の秒針の音は苦手。
体中をカチカチカチカチという音が巡って、侵食されていくようで。何処か別の世界に連れて行かれそうで。
だから、自分の部屋を割り当てられた時、デジタルの電波時計を部屋に置いた。
それでも、静かすぎる夜に、ふと目が覚めてしまうのは苦手なまま。
あんなこと言うんじゃなかった、とか。
あの時あの人に言い返しておけば良かった、とか。
後悔ばかりを連れてくるから。
枕元に置いているスマートフォンに手を伸ばす。
寝返りを打って、アプリを起動し、ログイン。
「またこんな時間に居る……」
毎晩のように、夜中チャットルームにいる彼女。
一体どんな生活をしているのやら。
『夜中に目が覚めて、時計の音が怖いっていうの、わかるなぁ』
以前、彼女に言われたことを思い出す。
彼女もまた、皆が寝静まっている夜が苦手なのだろうか。なんとなく、そんな気がする。
だからだろうか。
今夜も、一番わかってくれる彼女に、洗いざらい話してしまう。
肩書きや、実年齢も知らない、画面の向こうの彼女に。
────静寂に包まれた部屋
夫の余計な一言で
私は無口になる!
#静寂に包まれた部屋
静寂に包まれた部屋。
おもむろに流れ出すピアノの音色。
静寂が、色づく。
都会よりも田舎の方が静かそうだけど、田舎は田舎で、カエルや虫や鳥の声などと音が豊富でそんなに静かではないかも。
多分、精神と時の部屋は無音だと思う。
後ろ手に戸を閉めて静寂に包まれた部屋に入る
まだ頬が火照っている
遊ばれているのは分かっているけど
忘れられない 本当に罪な人
「静寂に包まれた部屋」
もう夜だ。いつの間にやらこんな時間になってしまった。
宇宙から来たという謎の機械が置いていった小さなきょうだいは膝の上で寝息を立てている。
そろそろすることが終わりそうだから、自分も寝てしまおうと静かな部屋で思った。
やることも終わって全く静まり返ってしまうと、つい余計なことを考えてしまう。
そういえばあいつは自分に、「宇宙を救ってほしい」と言ってここに住み着き始めた。
もしあの時その頼み事を断っていたらどうなっていたんだろう。
あのまま宇宙は壊れてしまっていたのだろうか。
この眠っている小さな機械も、壊れたままだったのだろうか。
あいつはひとりで、戦っていたのだろうか。
そう思うと、可哀想なことをしなくてよかったな。
静寂に包まれた部屋で、ひとりぽつり、おやすみと呟いた。
#静寂に包まれた部屋
京都で染色会社を営んでいた祖父は、多趣味な人だった。
特に書道と俳句に熱心で、実権を伯父たちに譲ってからは、趣味三昧の生活だったようだ。
京都の古い家は細い路地に狭い玄関があり、奥に驚くほど広い敷地が広がっている。
祖父の部屋はその一番奥の、裏庭に面した場所にあった。
子供嫌いの怖い人だったし、大人たちから
「お祖父ちゃんの邪魔をしてはダメ」
と言い聞かされていたので、孫の誰も近づかなかったが私は例外だった。
その頃私には秘密の世界があって、誰にも邪魔されないよう、祖父の部屋の縁側をこっそり自分の場所にしていたのだ。
文机の前で祖父は時間をかけて墨を磨り、子供に読めない文字を書く。
私は縁側に座り、自分で作った物語の絵を好きなだけノートに書く。
祖父は私に気づいても、そこに居ないように振る舞っていた。
廊下を隔てただけのはずの、母達の声や従兄弟の走り回る音がなぜかとても遠くに聞こえ、不思議に静かだった。
あのピンと張りつめた静寂は、祖父が作り出していたのだろう。
孤独に苛まれた部屋は、とても静かだ。
まるで空虚に包まれたように息遣いひとつない空間は、いくら生活品に塗れていても何か抜けているようなぽっかりとした寂しさが溢れている。
僕は、この部屋で何を成し遂げたのだろう。
そう嘆きながらただ息をひとつ。今日も静かな部屋だ。
静寂に包まれた部屋
白い部屋 色のない僕
動いたら壊れそうな空気
こんなに静かなのは
あなたがいないから
僕はこのまま 灰になる