「真夜中のチャットルーム」
小さな頃から苦手だった。
夜、家族が寝ている時間に、ふと目が覚めること。
カチカチカチカチという時計の秒針が、何か悪い者、恐ろしい者が近づいてくる足音に聞こえたのだ。
今でも、時計の秒針の音は苦手。
体中をカチカチカチカチという音が巡って、侵食されていくようで。何処か別の世界に連れて行かれそうで。
だから、自分の部屋を割り当てられた時、デジタルの電波時計を部屋に置いた。
それでも、静かすぎる夜に、ふと目が覚めてしまうのは苦手なまま。
あんなこと言うんじゃなかった、とか。
あの時あの人に言い返しておけば良かった、とか。
後悔ばかりを連れてくるから。
枕元に置いているスマートフォンに手を伸ばす。
寝返りを打って、アプリを起動し、ログイン。
「またこんな時間に居る……」
毎晩のように、夜中チャットルームにいる彼女。
一体どんな生活をしているのやら。
『夜中に目が覚めて、時計の音が怖いっていうの、わかるなぁ』
以前、彼女に言われたことを思い出す。
彼女もまた、皆が寝静まっている夜が苦手なのだろうか。なんとなく、そんな気がする。
だからだろうか。
今夜も、一番わかってくれる彼女に、洗いざらい話してしまう。
肩書きや、実年齢も知らない、画面の向こうの彼女に。
────静寂に包まれた部屋
9/30/2024, 4:08:19 AM