『静寂に包まれた部屋』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
シーーーーンとした部屋
シーーーーンと静まり返った部屋
鎮まり返った部屋。
石庭のイメージ。
私の中で誰もお喋りしない
癖で長年やってきた
茶々もツッコミも呟きも
一切無い世界
ものすごく静かで
ものすごく平和で
ものすごく自由な世界。
たまーに
小さな囁き声が聞こえる。
ずっと前から知ってたけど、
何言ってるか分からなかったから
ざわつくだけだったヒソヒソ声。
静かになったら難なく普通に聞き取れた
ずっと聞こえていた声は
「オーケーそれでいいよ」
それだけだった。
静寂に包まれた部屋で今日も彼の事を考える。
この時間はだめかもしれない。
深夜3時。
先日別れた彼の事を思いながら眠りにつく。
夢でくらい会わせて欲しいと願いながら。
彼女は部屋で一人、ピアノを弾いていた。
同じ所を何度も。
指が覚えるまで。
そして、やっと弾けるようになると彼女は止まった。
ピアノの音がない彼女の部屋は静かだった。
彼女は静かな部屋で鍵盤に置いた指を見ていた。
(...可愛くない手。)
彼女がそう呟くと静寂に包まれた部屋はまたピアノの音に包まれた。
と。
無は無だけでは成り立たない。有があってこその無だし、無があってこその有だからだ。
「無」は「有」るんだよ。
題.静寂に包まれた部屋
部屋が静寂に包まれたんじゃなくて
部屋が静寂を包んだのかもしれない
静か過ぎる煩い。四方を真っ白な壁に囲まれた四角い小さな部屋
静寂に包まれた部屋
静かだね。
静かだな。
出会って、恋して、傷ついて。
今はソファに並んで座り、目を見合わせて微笑み合う。
静寂に包まれた部屋に、コーヒーの香りだけが満ちている。
ここは誰にも邪魔されない二人だけの城。
今夜だけは。
#42
喧騒を前にして、
思わず適当な柱を背に辺りを見渡す。
すると、騒々しさは不思議と薄れ
私以外の音や声が全て
この顔を伺う敵に見えてしまう。
だのに冷静を気取る心臓は、
鼓動の度に重くなり、
終には足が止まってしまう。
頭の奥がワーンっと響く。
限界の合図だ。
鉛になった足と心臓を
鼓動が叩き起す。
汗ばむ額とは裏腹に
脳はスッと冷えていく。
身体中で起こる異常に対し
心ばかりは冷静で
静寂とも思える落ち着きが
私を更に嫌悪させる。
閉じた心でも
音まで塞げないのだから
震えが止まらないのだ。
-静寂に包まれた部屋-
静寂に包まれた部屋でなかなか眠れず、ぼーっと天井を見上げる。明日はいい日になるといいな。
明かりのついた1階のリビングのソファに1人、風呂場からぴちゃんと小さく水音が鳴り響いており、もう1人。最後に、2階の子供部屋に1人ベッドで眠っている。
リビングには赤いスカートを履いた女が眠っていた。風呂場には赤いTシャツを着た男が赤い風呂に入っていた。子供部屋のベッドには赤い水玉模様のワンピースを着た幼女が眠っていた。
現場検証の結果、3名の死亡を確認。念の為、司法解剖を行うために死体を回収したが、殺害されてからの時間経過もあり犯罪の証拠を見つけ出すには時間がかかる模様。
静寂に包まれた部屋で、死体は眠っていた。
お終い
その子供は、国で最も高い塔の地下に閉じ込められて
いた。
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砂漠の中に、突然現れたようなオメラスという国は、
豊かな大地、尽きることのない鉱脈、昔から伝わる技術
によって、栄華を極めていた。
民は美味しい肉やパンを食べ、流行りの服を着、美しい
家に住む、幸せな生活を送っていた。民は、豊かな国の
豊かな生活に満足していた。
青色の屋根と白色の壁が特徴的な街並みは、オメラスに
訪れたことがない者たちも夢に見るほど美しかった。
他の国に住む者たちは、砂漠においてありえないほどの
豊かな暮らしを訝しむこともあったが、彼らもその恩恵
を受けていたので、深く考えようとはしなかった。
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翻って、塔の地下に住む子供はどのような生活を
していたか。
国の象徴にもなるような豪奢な塔の地下は、悲惨としか
言いようがなかった。
6歳ほどの子供だろうか。その年の子供にしては、腕や
足は骨と皮だけで、お腹は膨らみ、服も着ていない。
便所や体を洗う場所もなく、洗う者もないので、体は
垢や糞尿にまみれている。子供は人に会ったことが
ないので言葉も喋れず、思考も奪われ、ただ飢えに
あえぐだけの暮らしである。
光も入らず、音もない、闇と静寂に包まれた部屋で
子供は一人生きていた。
聞くだけで気持ちの悪い話である。だがしかし、その国
の人は子供の存在を知っていた。国に住むこどもも、
理解できる年になれば親から伝えられる話だった。
知っていても手は出せない。
なぜなら、子供を救えばオメラスの豊かな暮らしは
崩れ去り、砂漠で痩せ細っていくだけの貧しい国に
なってしまうからだった。
国の民は、子供の悲惨な暮らしとともに、国の繁栄の
もとを教えられるのだった。
みな、子供の境遇に同情するものの、己や家族、友人の
幸せを壊すことはできなかった。子供に1切れのパンを
差し出す者や、からだを拭く布を与える者は、国の
長い歴史の中で一人も居なかった。
稀に、小さな子供の悲惨な暮らしと引き換えに、豊かな
暮らしを享受することに耐えられず、国を出て、砂漠の
向こうに旅立っていく者もいた。
彼らをオメラスを去る人々と言った。
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「お前たちはこの話をどう思う?」
ある豪奢な部屋で、老いた男が孫たちに問いかけた。
男と女の双子で、彼らもオメラスの子供と同じくらいの
歳である。二人並んで天鵞絨の座椅子に腰掛け、
育ちの良さそうな素直な目で、祖父の話を聞いていた。
「ぼくはオメラスを去る人々に共感する。
だってその子供はかわいそうだけど、ぼくは妹と
おじいさまの幸せをうばうことはできないもの」
兄は優しい子で、人々の痛みを感じることができた。
「わたしはその子供はくにの弱点だとおもうわ。
だってその子をすくえば国はよわくなって、
かんたんに国をおとせるもの」
妹は利発な子で、国の行く先を考えることができた。
老人は、老王は、考える。
(国の王を任せるのはどちらが良いだろうか。
兄の方が王になったら、民を思いやり、国のために
正しい判断をして、安定した国をつくれそうだ。
逆に、妹の方が王になったら、他の国と渡り合い、
領地を増やして、豊かな国をつくれそうだ。
…やれやれ。優秀な孫たちで困るな。
また今度考えよう。)
老人はそこで考えるのをやめ、孫たちに向き直った。
「なるほど、二人の考えはよくわかった。
今日は遅いからもう寝なさい。」
おしゃべりな孫たちと別れると、部屋に静寂が訪れる。
静けさの中で、老人は昔を思い出していた。
(私があの国を領土としたのはいつじゃったか。
塔の下に閉じ込められていた子供を救い出し、我が娘の
伴侶としたのは。
砂漠の中で旨味もないように見えたが、塔の下には
巨大な鉱脈が走っておった。あの国の王は豊かな暮ら
しを失うのを恐れて、子供に手を出さなかったが、
勇気を奮って救けていれば、真実の繁栄を手にすること
ができたのにのう…。まあ、それも過ぎた話じゃ…
今は…二人の…孫たちに…専念しなければ……)
老人は安楽椅子を揺らしながらいつの間にか
寝入っていた。
本当の静寂に包まれた部屋では、老人を昔から知る月
が、優しく照らしていた。
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静寂に包まれた部屋
「老王の思い出」
オメラスを去る人々という話の紹介、後日譚のような
話です。なかなかにえぐい話ですよね。
静寂に包まれた部屋で一人の女性が横たわっている。
「どちら様?」
彼女は、ゆっくりと目を開いた。
「あぁ、そっかわかんないよね。僕は君の関係者だ」
僕は、妻となる女性に声をかけた。
「そうなんですね」
彼女は桜色に染まった唇を微かに動かす、
「ずっと空を眺めているのかい?」
彼女は細長い黒髪を振り払いこちらを向いた
「、、、わからない、」
「えっ」
「記憶が」
彼女は自虐的な笑みを浮かべてそう言った。
「思い出せそうなのに思い出せない」
「ねぇ、この子はだれ?」
彼女はとある家族写真を手に取った
「それは、、、」
僕は言葉に詰まる
きっと彼女に言ってもただ困惑するだけ
彼女に記憶なんて無い、
もちろん昨日の事も、
きっと寝れば今日の事も、
初めてのキス
泣いて喧嘩して、笑ったときの思い出
そして、お腹の子を宿したときのあの感覚
これら全て嘘であるかのように次々と脳内で書き消されていく。
「この子をお願い、この子を先に、」
心花はそう叫ぶと共に緊急手術室へとはいっていった。
数時間後、医者が言った
「お腹の子は助かったのですが、、、」
僕は、その言葉と共に不吉な予感がした。
あぁ、言うな、言うな、何も言わないでくれ!!
「奥様は、脳に酷いダメージを受けてしまって、もう、、、」
「記憶は二度と戻らないでしょう。」
昨日の事も今日の事も、どんなに泣いても、どんなにあがきもがいても、もう彼女の記憶は戻ってこない。
「心花、それは君の子供」
僕はそっと彼女の手を握った
「それは、それは君が命がけで守った何よりも大切なものだ」
彼女は、一瞬曖昧な顔をしたが、途端にみるみる笑顔になった。
「そっか、そうなんだ」
彼女は、空を見ていった。
「私の、子供かぁ、、」
彼女の頬からは一滴の輝く涙が伝っていった。
【静寂に包まれた部屋】
放課後、誰もいない教室に1人残って本を読むのが好きだった。図書室や自宅とはまた違い、1ページまた1ページとめくっていく音だけが室内に響いている。
だがしかし、そんな静寂は長くは続かない。
「お〜い、まだ残ってんのかぁ。用がないならさっさと帰れよ〜」
そうか、今日の鍵閉め当番は担任のカワサキか。この人、自分が早く帰りたいんで早々にに校内回って生徒を追い立てるんだよね。
「あ、またお前か。帰宅部員なら余計な事しないでちゃんと家に帰るのが部員の務めだろう、なぁホンダ」
「別に私、帰宅部員じゃなくて単にどの部活にも入ってないだけです。それに、読書は私にとって余計なことじゃありません」
「本を読みたいなら、家に帰ってから思う存分読めばいいだろう。学校ってところは時間に限りがあるんだから」
「家で読むのとは違うんです。この教室でこの本を読みたいんです。先生、担任なら受け持ちの生徒がクラスを愛するこの気持ち、わかりますよね?」
もちろん、嘘は言っていない。ただ、私が愛するのは『静寂に包まれた放課後の教室』だということを言っていないだけだ。
しかし、先生は私の言葉を真正面から受け止めたようだって。
「う〜ん、そうかぁ…それであと何分くらいあれば読み終わるんだ、その本は?」
「え〜っと、キリのいいところまでだと15〜20分くらいほしいです」
なるほど、と言った後で先生は私が持っていた本を覗き込んだ。
「あぁ、その本か。俺も昔、何度も読み返したやつだ。たしかに、それくらい時間がかかるよな。じゃ、キリがついたら知らせろよ」
そう言って、先生は教室を後にした。
再び訪れた静寂の中でページをめくる音を楽しんでいると、突然音もなくカワサキが現れた。そして、机の上にコトンと何かを置いた。
「適度に水分とらんとな。よかったら飲んどけよ」
それだけ言うと、先生はまた教室から出て行ってしまった。
置かれたのは、購買の横にある自販機で買ったであろうパック飲料だった。あまり馴染みのない味だったグレープフルーツジュース。若干の苦味を感じながらも甘味と酸味のバランスがうまくとれている。後味もスッキリしていて、爽やかな気分になった。
「仕方ない、これ飲み終わったら帰ってやるとするか」
読みかけた本に栞を挟み、残りのジュースを一気に飲み干した。
この日、私は新たにグレープフルーツジュースと少々お節介が過ぎる担任の先生を好きになってしまった。
例えばそこは人里を離れた場所で
森や高原や山脈に溶け込み
取り残された荘厳な建築物
その奥深くの1室であればどうだろう
届くのは、明かり取りから差し込む光のみ
頑丈で少しの崩れもない素材で守られた
そんな部屋であるならば間違いなく
訪れる1人を静寂で包み込むだろう
自分一人だけの時間、静寂に包まれた部屋で、風の肌触りだけを感じている
雑音だらけの日常からほんの少しだけ距離を置けば
世界はこんなにもクリアだったのかと驚いた
これを寂しいと感じるまでは
このまま、ここで、時が過ぎるのを見守っていく
(静寂に包まれた部屋)
「ただいま」
返事はない。住人は私のみなのだから当然か。上着をハンガーに掛けてコップに冷たいミルクを注いで飲み干す。その間に風呂の湯を沸かしつつ簡単な部屋着に着替える。いつものルーティン。それはいつからだろう、気づいたらこの流れになっていた。もう体に染み付いてしまっている。無意識のうちにその動きをしてしまう。だから気を抜くとつい、やってしまうことがある。
「あ……」
並べるカトラリーは1つだけでいいのに。2組ぶん食器棚から出している。今日は疲れているのかな。早めに寝るとしよう。そしてリビングの小さな仏壇に飾られた写真に向かって笑いかけた。こんな間抜けなところを見ていたであろう貴方に。
「流石に今日は疲れたよ。でも、なんとか間に合いそうなんだ、今のプロジェクト」
今の仕事の進捗状況を一方的に報告する。これもいつものルーティン。貴方はただ黙って聞いてくれている。そう思うと私のおしゃべりは止まらない。もっと色々知ってほしくて、今日あったことを共有したくて。写真に向かって毎晩喋り倒すのだ。
「今日は疲れたからさきお風呂入ろ」
これも、独り言なんだか宣言なんだか良く分からない。大きめの独り言、みたいな位置づけになるのか。タオルと着替えを胸に抱きバスルームへ移動した。そこはまだ電気が点いていない薄暗い空間。辺りの空間に静寂が蔓延している。自分の家なのに、少しでも暗くて静かな場所に入るとこんなにも心が乱れてしまう。だから私は暗闇が怖くなってしまった。貴方を失ったあの日から。
裸になって熱いシャワーを頭からかぶる。ザアア、という音が不思議と安心させてくれた。何でもいいから音が欲しかった。少し頭痛が和らいだ気がする。なるべく音のない空間には居たくない。本当は静かな夜が大好きだったのに。貴方と過ごしたあの夜たちが、好きだった。けれど、貴方が抱き締めてくれた夜を思い出すのさえ、今は苦しい。
【静寂に包まれた部屋】
大吾はベッドに体を投げ出し、ぼうっと天井を見るともなく眺めていた。
何の音もしない。匂いも、温度も、体に触れている感覚がすら何も感じない。
静寂に包まれた部屋にあるのは「無」のみだった。
眠らなければと目を閉じるとあの時の光景が何度も蘇り、その度に大吾は歯をぎり、と噛み締める。
約束したじゃねえか。それなのに。
生まれ変わったら、だなんて言うな。
お前が、お前が言ったんだろう。
「俺はずっと、大吾さんのそばに居ます」
そう言って口元を綻ばせた峯はもう居ない。
飛び降りてしまった。俺の目の前で。
消えてしまったのだ。
極道に「永遠」なんて求めてはいけないことは分かりきっていたはずだ。誰がいつどこで死んでもおかしくない世界だ。それでも、峯の言葉に大吾は救われていた。
呼吸が浅くなり始めているのを感じる。
体が形をとどめていられない感覚に陥る。泥のように溶け出して液状化するような、そんな感覚。薄暗くなる視界、目を開けているのもつらくなって重力に逆らわず目を閉じる。
もう、いいか。
俺もそっちにいっても。
なんて、らしくない言葉が脳裏に浮かんだ時だった。
「大吾さん」
ハッと目を見開いた。
一気に酸素が肺に入り込み、大吾は荒く息をする。
一瞬聞こえたその声が、鼓膜から血管に伝わり血液と細胞を通して全身にいきわたったように感じた。
愛してやまない声だ。いつも微かな冷たさを抱えていたその声は、自分を呼ぶ時は慈愛が込められているようだと大吾は思っていた。
自意識過剰かもしれなかったが、それが嬉しかった。
ベッドから起き上がり、クローゼットを開ける。
そこには峯が置いていったシャツが一枚残っていた。
退院した頃には峯に関係するものは全て処分され尽くされた後だった。
ここにあるシャツ一枚だけが、組織の手から逃れられた唯一の峯の遺品だ。
ハンガーにかかっているそれを手に取る。シワひとつないそのシャツを、大吾は大事に抱えた。襟元に顔を埋めると、まだ微かに峯の匂いが残っていた。それを思いきり吸い込んで、シワが出来てしまったシャツに頬を擦り寄せる。
「ごめんな、峯。俺、お前の分まで生きるから。絶対死なねえから」
だから、見ててくれ。
俺がそっちに逝くまで。
テトラ型のコップを見つめている、持ち上げてみるとずっしりと重い。ひんやりとした、だから、ただチョコレートと雨があったらいいと思う
『静寂に包まれた部屋』
ガチャリ
ゆっくりとドアを開けると、昔懐かしい匂いがしてくる。
かつて、寝起きしていた部屋だ。
『ただいま。』
足を踏み入れると、色んな記憶が呼び起こされる。
ベッドを買って貰って喜んだ小学生時代。
友達を呼んで遊んだ中学生時代。
受験勉強に苦しんだ高校生時代。
独り立ちして家を出てしまってからは、この部屋には寄り付かなくなった。
もう10年近くもこの部屋は使われていない。
母が気を遣って掃除はしておいてくれたのか、ホコリだらけということは無いが、殺風景な部屋になっていた。
『物置にでも使ってくれても良かったのにね。』
ふふっと笑いながら、窓を開けて換気をする。
懐かしい景色。
人間関係や将来に行き詰まった時にはよく外を眺めてた。
何が見えるかと言ったら、家の前の道路と真正面のアパートくらいだが、当時の私には考え事するのにはちょうど良かった。
『この景色も見納めかぁ……』
明日、結婚を機に県外へ引っ越す。
引越しの前に両親に会いに来たついででこの部屋を訪れたのだ。
『もう、こんな大人になったんだよ。』
ふと部屋に語りかけてみる。
もちろん返事が聞こえることはないが、私は続けた。
『いっぱい、お世話になったね。ずっとずっと見守っててくれてありがとうね。』
スっと壁を撫でる。
この家を出る時にもお礼は言ったが、もう当分戻ってくることはないだろうから改めて言いたくなった。
シン……と部屋が静寂に包まれる。
どこか寂しげな空気を感じた。
「そろそろ時間よー!!」
『はぁい。』
下の階から母の声がする。
どうやらタイムリミットのようだ。
窓を丁寧に閉めて、出口に向かう。
ふと、もう一度振り返った。
そこにはかつて部屋で過ごしていた私が見えた気がした。
人形で遊んだり、宿題をしたり、友達と遊んだり、ベッドで声を殺して泣いていたり。
懐かしさを感じつつも、私は一言。
『じゃあね。』
パタンっとドアを閉めて、急いで階段をおりた。
#静寂に包まれた部屋
静寂に包まれた部屋ってーと、あれだ
聴力検査の部屋!
いや、あれは無音の小部屋だな。
無音って文字通り音が無いけど
静寂って音は有る気がする。
ん、何言ってるんだろ?
ところで、聴力検査の冒頭っていつも
自分の耳鳴りじゃないかって疑って
ボタンを押し損なう。
聴力引っ掛からないからいいけど
なんか心残りになるんだよな。