『雫』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
単線のパンタグラフが火花を散らしながら追い越していった
大きくカーブしながら遠のいてゆくランプに目をやると
不規則な建物が狭苦しそうに折り重なって増え
やがてランプを飲み込んでゆくのが見えた
枕木の軋む音が遠ざかるのとは反対に
油塗れの換気口からのすえた臭いと
ネオンのチリチリとした音が増えていく
金網の傍に生えていたエノコロ草を抜いてみる
青臭さが手に染みついたままいくばくか歩いた
少し先に空の色を写したような黒揚羽が湿気て重そうな翅でよろよろと飛ぶのが見えた
その翅はやがて金網に止まり動かなくなった
近寄ると蜘蛛の巣があるのがわかった
さっきまで見えていた緑色の月が建物の隙間に隠れて消えた
近寄ることを避けて来た街はもうそこだ
蜘蛛の巣には夜露が煌いていた
-雫- 青 2024.04.21
『雫』
走り去ろうとする彼女を引き止めようとしたら足がもつれた。ふり返る彼女と近づく二人の距離。このままではまともにぶつかってしまう。とっさに彼女の腕を掴み引き寄せると、床に背中を打ちつけた。
この痛みは、罰だ。
口下手なせいで大事な彼女を傷つけた。
女性へのプレゼントは難しいからと、安易に異性の従姉妹と連れ添い街を歩いた。美男美女と耳慣れた言葉を流して。彼女がその場にいる可能性を考慮しなかった。
その上想いを伝えるために口づけをした自分への。
振り下ろされるだろうビンタか扇子に耐えるべく目をつむったままでいると、冷たい雫が頬に当たり首元へ流れていった。
「ア、アル様?お怪我は?お怪我はございませんか。ああ、私はなんてことを」
美しい彼女が泣いていた。
君こそ怪我はないかい。そう一言告げればいいものを。
泣いている君が愛おしくてつい抱き寄せてしまう。
そうして可愛らしい小さな額に唇を落とした。
『雫』
霧が濃くて前が見えない。
早くこの霧の中を抜け出したくて
急いで歩く。
霧で髪が顔にへばり付いて鬱陶しい。
先の見えないこの状況で不安が募る。
早く抜け出したい。
気持ちが焦る。
どんなに苦しくても一生懸命もがき歩き続ける。
顔にへばり付いていた髪の毛の先から
ひと粒の雫が垂れた。
その瞬間、光がさして道が見えた。
暖かな光の中、優しく見守ってくれていた人がいた事に気付いた。
ひとりじゃないんだ。
前に進もう…
【雫】
ぽたっ
ぴちゃんっ
なんだか 可愛いイメージ
おっとっと
落ちそうで 落ちない
がんばれって言いそうになる
ぽたっ
落ちる前の形が 可愛くて
ぴちゃんっ
水たまりに 当たる音が 可愛くて
落ちる姿をずっと見ていた
雫の落ちる音がした。
ポタッ、ポタッと確かに雫の落ちる音がした。
家族の誰かが夜トイレに起きて、洗面所の蛇口を閉め切らなかったんだな、
と察し、仕方ないから代わりに閉めに行こうかと、 ベッドの上で目を閉じたままモゾモゾしていると、
ふと、違和感が頭をよぎった。
何故1階の洗面所の音が、自分がいる2階の、ましてや扉が閉まっている部屋まで届くんだ?
古い家とはいえ、壁はそんなに薄くないはずだし、 なにより、雫が落ちる音など小さすぎて聞こえるはずがない。
だとしたら、この音は?
小さな違和感は、徐々に異質を孕ませ、次第に恐怖心すらも呼び起こそうとした。
そうこうしている間にも雫の落ちる音は止むことなく、一定のリズムで鳴り響く。
どう足掻いても拭い去れない違和感を耳にしたまま、再度眠ることなどできるはずもなく、
己の勇気を最大限にかき集め、目を開け、枕元にある
リモコンで部屋の明かりをつけた。そこには、
天井の隅っこでシミを作った雨漏りが、床に雫を打ちつけているだけだった。
雫
愛する者の為に…
自分を守る為に…
真実を隠すことが
正しいのかわからないの…
涙溢れて…
愛する貴方…
雫と共に消える
儚く…
切ない世界
重い気持ち抱いて
…清濁併せ持つ
複雑な人間模様
お題「雫」
私は水に揺れる葉の様。
いつの間にか雨が降って、
その残り涙を流して、
何故泣いているのか、分からなくて。
そんな、毎日。
2024 4/21(日)
花雫を見つめる君を見つめる。
「キレイだね」なんていいながら水やりをする君は、
花なんかより100倍綺麗だ
#12 雫
「雫」
色とりどりの果実のシロップをグラスに落とす。
そこに炭酸水を注げば、虹色が弾けて気分も煌めく。
君の茶色を帯びた瞳から溢れ出る雫を、僕は止めることが出来ない。きっとあの子なら出来るのに。こんな時も何も出来ない自分に腹が立つ。それでも君はまだ雫を零している。
雫
雨の雫。
涙の雫。
とても綺麗ね。
ああ、雨だなあ。
ぽちゃ、ぽちゃ、と音を立て、水滴が雫になって落ちる。
やはり、室内から見る夜中の雨って、好きだ。
小学生の頃は、週はじめの登校中に雨なんかすっごい嫌だったなー、視界が見えづらくて車が怖かったなー、とか思ってたな。私も大人になったもんだ。
でも、大人になったとて、車で雨の中暗闇を走れと言われたら少し怖い。車側からも、いつ事故するか分からないし。
いつだって私には「恐怖」があるんだよな、消えずに。
2024/04/21_雫
窓で弾ける雨粒を、ぼんやりと眺める。
そういえば洗濯物を干しっぱなしだったと思い出したが、今となっては後の祭りだ。
「早川さん、仕事のカタがつきそうだったら早く帰りなさいね。これから本格的に降るらしいわよ」
上司が帰り支度をしながらノートパソコンを閉じた。
「…後、1時間だけ頑張ります」
「そう?私は先に帰るけど、戸締りよろしくね」
彼女の消えた事務所は、静寂に包まれる。
家に、帰らなければいけない。
そう分かっているのに帰る気にはなれなかった。
携帯がバイブして着信を伝える。
画面に表示された名前に、ため息をついて後5コールして切れなかったら出ようと心に決めた。
1…2…3…4…5…
「…もしもし」
「あ、やっと出た。ちょっとアンタいつ帰ってくるのよ…洗濯物も干しっぱなしだし、ご飯だってまだなのよ?」
「…今日は仕事で遅くなるって伝えただろ?洗濯物は取り込んでくれて構わないし、ご飯だって待ってなくていいよ」
「なんで私がアンタの洗濯物を取り込まなくちゃいけないのよ。ご飯だって、疲れて帰ってきた私に作らせるつもり?」
俺は疲れてない、って言いたいのだろうか。
「…分かった。すぐ帰るよ」
「そう?急いでね」
切れた無機質な電話音に深く深くため息をついた。
「…はぁ、」
「早川くん」
帰ったとばかり思っていた上司が、いたたまれなさそうに眉を下げて立っていた。
「あ、すんません。業務中に私用の電話なんか…」
「別に誰もいやしないからいいけど…それより、大丈夫?」
「何が、ですか?」
「だって、辛そうに泣いてるから…」
気づけば俺の頬を流れる雫が、窓の外で降る雨のように零れ落ちた。
「無理しないでいいのよ。辛くなったら話聞くし、逃げたくなったらいつでも頼ってね。早川くんは、頑張りすぎてるわ」
そう言ってカバンから彼女は未開封のチョコレートを取り出した。
「甘いものでも食べて、帰りなさい」と笑う彼女に、思わず抱きついて大人気もなく泣いてしまう。
そんな俺に彼女は困ったように笑いながら「セクハラで訴えられないかしら」と俺の頭を不器用に撫でた。
"雫"
長袖のTシャツの裾を整え着替えを終えると、窓の外を見る。
窓の外側に雫が一つ、また一つとつく。微かに雨粒が窓ガラスを打ちつける音も聞こえる。
「散歩は無しだな」
「みぃーん」
ハナが悲しそうな声を漏らす。
昨日、あの後数時間程ほっといた後心配で居室に戻ると、扉を開けた瞬間「みゃあん」という声と共に立ち上がって足元に来た。
驚きながらご飯皿を見ると、ドライフードが入っていた皿が綺麗に空っぽになっていた。
こいつ猫だったと思い出したのと同時に、心配して損したという気持ちが湧き上がった。
一度部屋を出てインスタントコーヒーを作り、インスタントコーヒーで満たされたたマグカップを持って、部屋に戻り椅子に座ると──ジャンプをしてはいけないと分かっているのだろう──、膝の上に乗りたそうに足元をうろつく。
一旦マグカップをテーブルに置いて両手でハナの身体を持ち上げ膝の上に乗せてあげると身体を丸くする。
術後間もない時の雨の日は、手術痕が多少なりとも痛んだり疼いたりする。
痛みや疼きを少しでも和らげるよう、マグカップに口をつけインスタントコーヒーを啜りながらハナの背を撫でる。
窓の外を眺めながらしばらくハナの背を撫でていると、落ち着いてきたのかゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
ふ、と小さく笑いながら、再びインスタントコーヒーを啜った。
心に限界の雫が落ちる
私は生まれてくるべきではなかった
面接から帰って来てすぐ部屋見してもらった?
面接って30分って言ってたら部屋見れたのかと
どんな仕事面接平気30なのに。
もう耐えられない。
さよなら。ごめんさない。
その頬をつたう涙をこの瓶に入れて集めて保存してたい
【雫】
ひとつの雫が落ちた
それを合図かのように 雨が降り始め
私のまわりは徐々に湿っていく
生憎傘は持ってきていなかった
私は雨に打たれながら考えた
蛙の鳴き声が聞こえ
蝉は木陰で、私はここだ、といわんばかりに鳴いている
あぁ、きっとそろそろ夏がくるのだろう
彼女の刻は未だ、夏のままだけれど
随分と小さくなり
そして冷たくなっている彼女にこういった
『誕生日おめでとう、やっと君の年齢に追いついたよ』
[雫]
雫がしたたる音って癒されるよね
何でだろう 理由は分からないけど雫が落ちる音をずっと聞いてるとすごく落ち着く
雨が止んだ後
小さな葉っぱからおちるしずくには何も感じられないのに、どうしてだろう
あの時
君の頬からおちる「雫」には
何か感じられるものがあった
永遠に僕の記憶の中で
忘れられない「雫」となった
雫が生み出す波紋。
延々広がる同心円。
ぼーっと見るのが好き。