『過ぎ去った日々』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
過ぎ去った日々。
入学式の日
文化祭の日
音楽祭の日
クラスマッチの日
修学旅行の日
いろんな日があったけど1番は
何気ない日が1番よかった
まるで時間のいたずらにかかったような
存在するはずなのに
存在していなかったかもしれないとさえ思う
このぼんやりとした光の中は
「過ぎ去った日々」
過ぎ去った日々はもう元には戻らない。
どんなに後悔してもどんなにまたあの日に戻りたいと思っても。
もう戻ることは無いのだ。
過去を後悔するなと言うけれどそれは難しいだろう。
あの時の言葉、感情、行動。
ぐちゃぐちゃに入り交じって今過去を後悔する。
この気持ちは悪いことでは無い。
どちらかと言うと大切にすべき感情では無いだろうか。
過去を後悔するということは未来への後悔を減らすことが出来るということだから。
だから、過ぎ去った日々は決して元に戻ることは無いけれど未来の自分が笑っていられるように日々をかみ締めて生きていくのだ。
【過ぎ去った日々】
過ぎ去った日々
過ぎ去った日々はどうしたらいいんだろう。
変えられないのに。
誰か戻してほしいぐらいだ。
過ぎたことをずっと気にしているわたし。
過ぎ去った日々
昨日失敗したことや、怒られたことをうじうじ悩んだり、大丈夫だったのかなと心配になったりすることがよくある。でも、私が好きな言葉でこんな言葉がある。
「過ぎたことで心を煩わせるな」
いつも、確かにと思う。過ぎた日のことを考える時間はもったいない。だってもう起きてしまったことなのだから。過去は変えられないのだから。それなら今この瞬間のことと、これからの数時間後のことを考えよう。それが難しくても、日に日にこの言葉が身体の中にスッと入っていくはずだ。
過ぎ去った日々を取り戻したくても戻せないよね。
だからデジャブしてる瞬間と夢にいる瞬間がほんとに幸せ。
どの時間も過ぎ去った日々をずっと上回れるような幸せな時間を過ごしたいな
[過ぎ去った日々]
3年間は、短かったな。心がモヤモヤしてばかりだった。
私は、いつも自分のことばかり考えていた。辛くて、苦しくて、悲しかった。勉強は難しくて、話し相手もいなかった。
他の人は、楽しそうだった。いつも笑って、行事にも一生懸命に取り組んでいた。
いいなぁ。仲間... クラスの人たちが楽しそうなところを見ると、悲しくなる。ほとんど一人でいたから。
でも、もう悲しくならないように仲間と部活や行事を楽しむ。
後悔しないような人生を、私の代わりに送ってね
そういうと彼女は空に飛んでいった。僕に呪いをかけて1人にした。
彼女を数年ぶりに思い出した僕はどうしようもない、ただ無駄な日々を実感する。
「僕も、もう死にたい」
気がつけば屋上の柵の外にいる僕。彼女を失ってから切ることをしなかった長い髪が靡く。深呼吸をして弾ける青の中に一歩、足を踏み出そうとしたときだった。
「おい!なにしてんだ!」
知らないやつだった。腕を掴まれ怯む。
「とりあえず、こっち来いって。」
その真っ直ぐで澄んだ瞳。彼女を思い出す。言われるがまま彼の方へ行く。
「死にてぇの?」
「うん」
勝手に動く口。彼はそうか、としか言わない。
どれくらい、無言が続いただろう。彼はおずおずと口を開き、こう言った。
「取り敢えずさ、死ぬ前にいっぱい泣きなよ。俺、別のところに行ってるからさ。」
ぐっと詰まるような、なにかが込み上げるような感覚。彼がどこかに行く前に、僕は泣き出す。彼の袖を掴み、声を上げて泣いた。初めてだった。誰かの前で泣くのは。彼は、手を振り払わずずっとそばにいてくれた。
しばらく泣いて、恥ずかしさで顔を上げられない。長い髪のおかげ顔が見えなくてよかったと思う。
「泣いて、すっきりしましたか?」
「はい、ありがとうございます。すみません、付き合わせて」
「気にしないでください。」
俯いたまま話す僕の髪を彼はゆっくりと払う。
「あなたの笑顔、見れてよかった。綺麗ですね。」
言った後、はっとしたように慌て出す彼を見て少し笑みがこぼれる。
「あの、ハサミ、持ってませんか?」
「え?かばんにあると思いますけど…」
「貸していただけませんか?」
「え、はい。もちろん」
彼が急いでかばんの方へ行き、ハサミを持ってくる。
「どうぞ。」
切れ味の良さそうなハサミ。それを髪に入れる。
シャキン、パサ…
静かな音をたて、髪が落ちる。良くなった視界で、彼に笑いかける。
「僕前に、進むから。ありがと。」
彼女のいない世界を、過ぎた日々を、僕はなぞるように生きていく。
過ぎ去った日々
悔やまれることの多い、
過ぎ去った日々。
過去を悔やんでも、仕方ないのだけど‥。
カラッと過去を忘れられる人が羨ましい。わたしの周りにもいるけど、あれは才能だと思う。
過ぎ去った日々。
んー、過ぎ去った日々って、過去の事かな?よくわからないけど、過去の事なら、楽しかったことと悲しかったこと。2つある。
今1番頭に思い浮かぶ楽しかったことは、小さいとき、家族でアンパンマンミュージアムに行ったことかなぁ〜!アンパンマンポップコーンと、つぶつぶアイスと、アンパンマンパン!この3つが私の楽しみだった!今でもアンパンマンミュージアム行きたいなーって思う!
そして、悲しかったことは、やっぱり小学4年生くらいの時から虐められたことかな。今でも忘れられない…早く忘れ去りたい。それだけかな!
あれはもう三年くらい前のことかな。当時、俺にはとても愛していた女性がいた。彼女は俺のわがままも笑って聞いてくれるような人だった。
俺達が付き合い出したその年のクリスマス。その頃の俺はお金がなく、どこかロマンティックな場所へ行くことも、素敵なプレゼントを買うこともできなかった。
二人でただ外をぶらぶらと歩くだけのデート。そんなデートでも、彼女はちゃんとプレゼントを用意してくれた。器用な彼女が自分で編んだ手袋だった。
それに対して、何のプレゼントもできない俺。だけど、彼女は微笑んで言ってくれた。
「あなたが隣にいること。それで十分、私へのプレゼントよ」
思わず俺は彼女を抱き締めた。
彼女はいつも「何もいらない。あなたがいれば大丈夫」。そう言って笑ってくれた。それが俺の幸せだった。
大した場所へも行けず、ろくなこともしてやれない。そんな俺だけど、気持ちだけは誰にも負けないくらい、心から彼女を愛してた。
「それなのに別れちゃったの?」
隣に横たわる女にそう訊かれて、俺は頷く。
「そんなもんだよ。結局、彼女は俺から離れていってしまった」
「で、新しい人を探してるんだ?」
「まぁ……いつまでも過去を引きずるわけにもいかないし」
そう呟いて、隣の女を引き寄せる。
「でも、こうやって君に逢えたんだから、もしかしたらこれで良かったのかもしれない」
過ぎ去った日々は戻らない。だから、新しい日々をここから紡いでいこう。
女の額にキスをして、思い切り抱き締める。
俺の腕の中で、女が言った。
「私も昔はいろいろあったの。ねぇ、私の話も聞いてくれる?」
どこか懐かしい瞳でこちらを見つめると、静かに話し出した。
甲斐性なしの彼氏がいた。付き合っている間、何もしてくれなかった。
それでも良いところもあるから。と、私は彼氏のことを愛して、世話を焼いていた。
そんな彼氏が浮気をしていると、友達からのタレコミがあった。
友達が撮った写真を見ると、彼氏が知らない女と抱き合っていた。しかも、その女は見覚えのある手袋をしていた。つい最近、彼氏にプレゼントしたばかりの、手編みの手袋だった。
何もしてくれない。「愛している」や「隣にいる」と言いながら、別の女のところへ行く。しかも、問い詰めると、暴力を振るわれた。最後には「殺してやる」とまで言われた。最低の男だった。
怖くなって、逃げるように別れた。私は見つからないように整形までした。
「その男は都合が悪いことは忘れて思い出を美化して、楽しく遊びながらも相変わらずわがままを言って過ごしているらしいわ」
どこか懐かしい瞳がじっとこちらを見つめている。
「いつしか思ったの。なんで私がずっと怯えなきゃいけないのかって。やられる前に、私がやればいいんじゃないかって」
過ぎ去った日々は戻らない、どうしたって。過去の行いを悔いたって、今更どうにもならないんだ。
背筋に冷たいものが走った。
『過ぎ去った日々』
日が少しずつ長くなってきた気がする。それでも空気の冷たさが肌に触れて、思わず身震いした。吐く息は白い。今朝は寝坊してバタバタと家を出たから、手袋を忘れてしまった。かじかむ手をさすった後、ダウンコートのポケットに手を突っ込んだ。
「なぁ、おでん食わない?」
隣に並んで歩いている藤本が言った。
「おでんかー」
「からあげクン?」
「唐揚げかー」
「じゃあ肉まん」
「うーん」
「お前優柔不断すぎねぇ?」
金ないの? と藤本は言いながら、ズボンのポケットから財布を取り出した。黒い皮の二つ折り財布はところどころ禿げていて年季が入っている。親父さんのお下がりらしく、おいそれと新調しにくいらしい。
俺もいくら財布に入っているか、財布を取り出した。入学祝いに親からプレゼントされた茶色の二つ折り財布だ。みすぼらしいからこれ使えって突然渡されたが、意外と丈夫だし派手じゃないし気に入っている。
財布の中身は、千円札が二枚と、十六円分の小銭しかなかった。小銭が少ないのは、昼休みに友達のジュースを奢ったからだ。学年末テストの総合点数を競っていて、たった二点差で負けてしまった。三本分三百七十円。誰だ、大きいペットボトルをリクエストしたやつは。バイトしていない男子高校生のお小遣い舐めんなよ。
「俺、千円ちょっと。今野は?」
「俺は二千円ちょっと」
「え、いいな。じゃあ今日奢りな」
「絶対嫌」
「だよなー」
お互い財布を仕舞ったところで、隣から「ハックション!」と大きなくしゃみが聞こえた。よく見たら藤本はブレザーの下にVネックのニット、ワイシャツしか着てないように見える。マフラーはしているが、見るからに防寒性が低い。
「お前寒くないの?」
「寒いに決まってんじゃん」
鼻をズビッと鳴らして藤本が言う。俺はリュックから箱ティッシュを取り出して彼に差し出した。目の前に差し出された箱ティッシュを、彼はまじまじと見た。
「何で箱? 花粉症だったっけ?」
「家に小さいティッシュなくて、母さんに聞いたらしばらく箱持っていけって。アンタのカバン大きいから入るでしょって」
「何それオモロ」
あざーっす、と藤本は二枚取って鼻をかんだ。箱ティッシュは嵩張るけれど、紙が大きいし取り出しやすいし便利といえば便利だ。
箱ティッシュをリュックに戻しながら、ふと思いついた。
「マックのポテトは?」
「いいね! Lサイズ山分けしよう!」
食べたいものが決まって、二人で歩くスピードが少し速くなった。藤本は何を思ったから分からないけれど、俺は単純に早く温まりたかっただけだ。
*
駅前にあるファストフード店はリーズナブルな値段のため、いつも周辺の学校に通う生徒で賑わっている。部活帰りの今日も、制服を着た人たちで混み合っていた。
席取りを藤本に任せ、俺は列に並んだ。このお店はセルフオーダーレジを採用していて、注文と受け取りと二箇所に分かれている。このレジに慣れるのに、結構時間が掛かった。今はスムーズに操作できるけれど。
ようやく俺の番が来た。ポテトのLサイズと、藤本のコーラと俺のホットコーヒーを注文した。今日はポテトのクーポンが配信されていたので、五十円引きになる。ラッキー、と思いながら、番号札を持って一度席に行った。
「いくらだった?」
二人掛けのテーブル席に着いてスマホをいじっていた藤本が顔を上げた。俺はレシートを渡して「割って」とだけ伝えた。
藤本はレシートを目を細めながら見つめて、眉間に皺を寄せた。
「ポテトLが三百三十円、コーラとホットコーヒーが百二十円ずつ。だから、えっと、えーっと……?」
「スマホ使えよ。あと割るのポテトだけで、飲み物代はコーラだけちょうだい」
椅子の下にリュックを置いて、レジカウンターの上にあるモニターを確認した。番号が表示されている。俺は番号札を持って、受け取りに行った。
もう一度席に向かうと、藤本はまだ唸っていた。頭を捻るどころか体ごと横に傾いている。
テーブルの上のレシートを避けながら、トレーを置いた。藤本の前にコーラを、俺の方にホットコーヒーを置いて、トレーに乗った広告の上にペーパータオルを重ねて広げた。そして、ポテトが取りやすいように入れ物から全部出した。
「五円なんてないんだけど」
財布の小銭入れを開けて見せてきた。確かに五円玉も一円玉もない。
「二百八十五円なんだけど」
「じゃあ二百八十円でもいいよ」
「悪い、ありがとう。五円分多くポテト食っていいから」
「五円分のポテトって何本だよ」
藤本からもらったお金を財布にしまった。ついでにリュックからウェットティッシュを出して彼に差し出す。彼はそれをまたまじまじと見た。
「お前は俺の彼女だった?」
「はっ倒すぞ」
「いやだって……わかった! ドラえもんだ!」
「誰のリュックが四次元ポケットだよ」
「でもウェットティッシュは箱じゃないんだな」
「箱二つあったらなんも入んねぇよ」
軽口叩きながら二人で手を拭く。綺麗になった手でポテトを取って食べ始める。美味い。
藤本はスマホ片手にポテトを摘んでいた。無言になるかと思ったが、不意に話しかけられた。
「来週さ、卒業式じゃん」
「おー」
「俺さ、先輩に告ろうかな」
藤本は入学当初から、自分たちの所属している男子バスケ部のマネージャーだった松本絵梨花先輩が好きだった。率先してマネージャー業務を手伝ったり、困っている先輩に声をかけたり、積極的にアピールしていた。先輩が部活を引退してから会う機会が極端に減ったが、廊下ですれ違ったら挨拶したり、部活の様子を見学しにきた先輩と話し込んだりしていて、側から見ても雰囲気が良さそうだった。
「いいじゃん」
「でも周りに色んな人いて怖くね?」
「呼び出せば?」
「卒業式なんて呼び出しばっかだろ」
「俺は周りで告り始めたやついたら、遠巻きに見るだけで騒がねぇけど」
「女子は騒ぐだろ」
「騒ぐなぁ」
藤本はため息をついて、ぼんやりとスマホ画面を眺めた。特別何かを見ているわけではないようだ。やがてスマホをテーブルの上に伏せるように置いて、ポテトに手を伸ばした。
来週の火曜日が卒業式だ。それが終われば、俺たちが一番上の学年になる。きっと夏前には部活を引退して、そこからは受験勉強に明け暮れることとなる。こうして部活帰りに呑気にポテト食って喋っていられるのも今のうちだ。
「藤本」
向かいに座る彼が目線だけ寄越した。頬杖を立ててポテトをつまんでいるから、態度が悪く見える。
「もう卒業式だけだぞ。先輩と話せるの」
藤本の目が見開かれる。
「告るも告らないも藤本の自由だけど、先輩と約束もなく会えるのって来週で最後だろ。大学生って忙しいんだから、まだ高校生のお前に構ってくれるか分からない。それに四月から受験生だからな。インハイ予選終わったら、きっとそれどころじゃなくなると思う。だから後悔のないようにな」
藤本は、真剣な表情で頷いた。そんな顔、監督が檄を飛ばしている時以来なんだが。
「ちゃんと考える」
「よし」
俺はぬるくなったコーヒーを飲んだ。味が少し飛んだのか、あまり美味しく感じられなかった。
藤本はポテトをつまむスピードが速くなった。おい、絶対二百八十円以上食ってくるだろ。俺もまだ食べたいんだけど。考えながら物を食うからそうなるんだよ。俺も焦ってポテトに手を伸ばした。なぜだか食べた気がしなかった。
*
混み合う店内で長居をするつもりはない。ポテトを食べ切って(藤本が四分の一多く食べていた)飲み物を飲み切って、すぐ席を立った。ゆっくり歩いているうちに消化されるだろう。
ゴミを捨ててトレーを返却して店を出た。辺りはすっかり暗くなっていた。先ほどよりも寒くて、俺はダウンコートのジッパーを首までしっかり上げた。
「いいな、ダウン」
「あげられねぇぞ、さすがに」
「大丈夫、俺にはマフラーがある」
そう言って、藤本は黒いマフラーを首にぐるぐる巻いた。いやだから防寒性が低過ぎて、見ているこっちが寒いんだって。
駅の改札を通って、駅のホームに向かう途中で二人とも足が止まった。俺は上り電車で、藤本は反対方向だからホームが違う。まだお互いに次の電車まで十分程度あるから、少し話せると思った。
「今野、ありがとな」
突然感謝を述べられて、困惑した。
「何が」
恐る恐る尋ねると、藤本は笑った。
「何だよ、笑うなよ。怖いだろ、突然ありがとうなんて。何、死ぬの?」
「死なねぇよ」
彼は目尻を指で触った。おい、泣くほど笑えることだったか。そんな風に聞きたかったが、さすがに声には出せなかった。
「俺の話、真剣にアドバイスしてくれてありがとな。他の人に相談しても本気にしてくれなくてさ」
「日頃の行いが祟ったな、可哀想に」
「うるせぇよ。マジでちゃんと考える」
「おう」
「で、お前に報告する」
「多分遠巻きに見てるだろうけどな」
「何で告る前提なんだよ。まだ分かんねぇだろ」
「だってお前分かりやすいんだもん」
「マジかよ」
藤本は片手で頭を抱えて俯いた。はぁ、と長いため息が聞こえて、今度は俺が笑ってしまった。
指の隙間から彼がこっちを見た。
「慰めろよ」
「オッケー。失恋記念のカラオケ大会とスマブラ大会、どっちがいいか考えとけよ。副島と葛城も強制参加させるから」
「人の告白なんだと思ってるの? もはや部活の打ち上げじゃん」
駅のアナウンスが聞こえてきた。どちらの電車もまもなく到着予定だ。
俺たちは別れて慌ててホームに降りた。タイミングよく電車が止まった。降りる人を待っている間に、後ろから呼ばれた。
「じゃあまた明日な」
笑顔で手を振る藤本に、手を振り返した。すぐに手を下ろして電車に乗り込んだ。空いている座席に腰を下ろした。真っ暗の中、ポツポツと明かりが灯っている。それらが横に流れていくのをぼんやりと眺めていた。
この楽しい日々は、いつまで続いてくれるのだろう。できれば、ずっと変わらず続いてほしい。
『過ぎ去った日々』
思えば、よく笑ったし、よく泣いた。
どっちが多かったかなんて分かりようがないし、分かったところで今さらどーでもいいことだけど、笑って泣いてを繰り返すのが人生、みたいなところもあるから?それだけでもう、人生満喫してるってことかな。
ちなみに、昔から涙もろくてよく泣く。
男は涙を見せぬもの、なんて、まったくその根拠が分からない。
泣きたければ泣いて何が悪い、のスタンス。
強さと涙は関係ないし、感情揺さぶられて流す涙ほど人間らしいものはないと思ってる。
まあ、泣き虫の言い訳だ。
過ぎ去った日々にはいろんな思い出が詰まってて、それは今この時も作られ続けてる。
時の流れを止めることは出来ないから、どんどん過ぎ去ってしまう時間に無情さも感じるけど、この止められない時間のおかげで、どんな絶望の淵にいる人間にも、いつか必ず元の場所に戻ってくる希望を与えてくれる。
時は最大の癒やしだ。
もちろん、その時間を使って、立ち直ろうとする気持ちが必要になるんだろうけど、人間にはその強さがある。
時間さえあれば、きっと立ち直れる。
過ぎ去った日々の中にだけ、存在する人達。
会えない人、会いたい人、会いたくない人、忘れてしまった人。
思えば、ホントにたくさんの人達と関わり合ってきた。
彼らは今頃どこでどうしているのだろうか。
一度は確かに互いの人生に触れ合ったのに、もうこの先出会うことのない人達。
不思議だな。
ホントにあの人達は存在していたのかな。
…なんて思うほど、おぼろげな記憶の中に沈んでいる。
日々は過ぎ去っても、まだこの人生には先があるようだ。
これからも、たくさん笑ってたくさん泣いて、時間に癒やされ、たくさんの新たな人達と出会って、残りの人生を満喫したい。
いつかこれらの日々が、すべて過ぎ去りしものになるまで。
あいすくりん たべたし
おくちはいたし
なめらかしょっかんカヌレあいすは乳脂肪3%の小さな雪
自分の過ぎ去った日々を大なり小なり彩ってくれた人々の訃報に接することが増えた。
昨夏、鳥山明原作のアニメーション映画『SAND LAND』を観る機会があった。
ストーリーは割愛するが、可愛くて強い魔物と渋いイケオジが出てくる。
戦車の描き込みっぷりにさすがの画力だなぁと感心しながら観た。どことなく手作り感があって懐かしい気持ちにさせられた。
派手な作品ではなく宣伝も控えめだったせいか客席は寂しい感じだったが、心は満たされて帰宅したのを覚えている。
享年を知り、思っていたより若かったのが意外だった。子どもの頃から彼原作のアニメに触れていたので勝手にもっと年上だと想像していたのだ。
そうか、亡くなってしまったのだな、と反芻する。
訃報を驚きだけではなく、ある種の感慨をもって受けとめる年代になってきた。
『過ぎ去った日々』
過ぎ去った日々
「あの時…」
過ぎ去った日々に
いつまでもしがみついていたら
前には進めない
『反省はしても後悔はしない』
これが私のルール
次に同じ状況が来たときに
私の最良を選ぶための反省
あの時どうしていたら 今頃…
なんて考えてもかわらないから
『過ぎ去った日々』
施設の一画で老人が虚空に語り聞かせている。自らが若かりし頃の思い出を。老人は聞く者のいない思い出を繰り返し語る中で妄想を滲ませていき、やがて自らを一国の主だと思うようになった。誇りは高く、しかし寛大な国王なのだと目に生気を漲らせて施設の介護職員に語って聞かせた。
寛大な王以上に寛大な職員は突然に現れた王に対して自分を召使いだと思わせるように接した。他の職員もそれに倣った結果、召使いの数は2倍にも3倍にも増えて王はいつでも機嫌よく過ごせるようになった。
もともと老人だった王はいっときは溌剌としていたが数年の後には床に伏せがちとなった。
「わしはもう長くはない」
「そんな弱気な発言をなさっては、民が悲しみます」
「しかし自分のことは自分がよくわかっておる」
「王様……」
「長い間、よく付き合ってくれた。わしの国は、……わしの話は、もうじき終わりよ」
召使いが涙を溢れさせる間に王は眠りに落ち、崩御となった。国葬はしめやかに慎ましく執り行われた。
身寄りのない老人かと思われたが遺骨を引き取りたいという若者が施設を訪れた。
「あの、おじいちゃんはここではどんな感じでしたか?」
対応した職員の召使いであったときの記憶が昨日のことのように蘇る。
「最初ここに来たときはぼんやりとした人だったんだけどね……」
楽しげに、懐かしげに、召使いは過ぎ去った日々を語り始めた。
昔暮らしていた街を歩いた
よく散歩した公園とか
住んでたところの近くとか
思い出がたくさん落ちていて
拾いながら歩いた
空の色や風のにおいも
あの頃のままで
あの時の言葉の意味を
急に理解してみたりして
どれも色あせることなく
いまだ鮮やかで
刺さるような感じがした
【過ぎ去った日々】
桜が舞い散りはじめた四月の中旬。
カツカツと石畳をヒールが叩く音で
一人の少女はゆっくりと微睡みから目を覚ました。
「んんん……」
まだ眠いのか今にも落ちそうな瞼をこすりながら
少女は忙しなくあちらこちらへ視線を向けた。
ついに音の出処を見つけた少女は大きく目を見開き
先程の眠そうな様子はどこへやら、駆け出していく。
少女が駆け出した先にいるのは
パンツスーツを格好よく着こなした一人の女性。
その女性は少女の前に辿り着くと少し苦笑して謝った。
「久しぶり。ごめん、だいぶ間空いちゃったね。」
「え〜久しぶりじゃん!
気にしないでよ〜、忙しそうだったし!」
少し暗い女性の表情とは対照的に
少女の表情は明るく声音は弾んでいて楽しげだ。
久しぶりに会えて嬉しいのだろうか。
女性は今度は少女の目の前に日本酒を差し出した。
「あんたが好きかはわかんないけど、
成人したわけだし物は試しってことで持ってきた。」
桜餅に合うらしいよ、そう言いながら日本酒を注ぐ。
少し濁った透明の液体がお猪口の中でとぷんと揺れた。
そのお猪口を興味深げに見ていた少女は差し出されたお猪口に手を伸ばしかけ…景色に目を奪われ手を引く。
ひらり、はらりと桜の花びらがお猪口の上に落ちた。
差し出した女性も目をまん丸くしてそれを見て
…ゆるり、と黒曜石の瞳を細めて笑う。
「花見酒だよ、___。」
「花見酒だね!」
…と女性の瞳から一筋の雫が零れ落ちた。
「あれ……」
「えっえっ、どした、どしたの?!」
わたわたと手を動かし少し慌てた様子の少女は
雫をすくい上げようと女性の頬へ手を伸ばす。
けれど、
その手が雫をすくいあげることはなく
雫はその手をすり抜け地へと落ちた。
「あんたが…いなくなってから、
もう四度も季節がめぐったんだね。」
ぽたりぽたりと涙を溢しながら寂しい、と
あんたに会いたい、そう独りごちた女性を
少し切なげな表情で見た少女は柔らかく笑んだ。
「あたしは幸せだったよ、だからさ」
__しあわせに、なってよ。私が羨むくらい、さ。
それが聞こえたのか女性は涙を拭って前を向く。
滑らかな手触りの石の方を、少女の方を向いて笑った。
「でもあんたがあまりにも早すぎたからすぐに逢えない。
だから、もうちょっとそっちで待ってて。」
女性は全てを見透かすような黒曜石の瞳を
少し意地悪げに細めてさらに言葉を続ける。
「沢山お土産話を持ってくからさ、
あんたはそこで私を見てな。」
その言葉に大きく目を見開いた少女は
意地悪げなその顔を見て心底嬉しそうに微笑んだ。
「うん、うん、待ってる。此処で待ってるよ。」
今度は私がさいごまでつきあうよ。
持ってきたお酒を飲み、
桜餅を食べ終えた女性は立ち上がる。
「じゃあ、また。また来るね。」
「うん、またね。」
ゆっくりと墓石に後ろを向けた女性と、
また微睡みに沈もうと目を閉じた少女は
しばしの別れに言葉を交わした。
「「また、あおう。」」
〝過ぎ去った日々〟
誰かと気軽に遊びたいと思っても、もう誘えない。
みんな予定があるし、家庭もある。
あの過ぎ去った日々は、もう戻ってこない。