『通り雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
外に出ると、雨が降っていた。
空を見上げれば、分厚い雲。先ほどまでのからりとした青空は、どこにも見えない。
さて、どうしようか。辺りを見回し、考える。
傘など持ってきてはいない。途中で傘を買うとしても、この雨の強さでは、店に着くまでにずぶ濡れになってしまうだろう。
仕方がない、と覚悟を決める。幸か不幸か、家までは歩いて帰れる距離だ。このまま走って帰るしかないだろう。
「ねえ」
小さな、けれどもこの雨の音にかき消されないほどはっきりとした声が聞こえた。
「ねえ」
気づけばすぐ側に、傘を被った子供の姿。手には傘を持ち、恥ずかしげにもじもじとしながらも、期待を込めた眼差しでこちらを見上げていた。
「お迎え、来たよ」
「あ、うん。ありがと」
傘を受け取りながら、さりげなく周囲を確認する。
雨に気を取られ気づけなかったが、辺りには人一人居らず。そういう事か、と納得し、傘を差す。
傘を持っていない方の手を子供に差し出すと、満面の笑みを浮かべてその手に小さな手を重ねた。
「お父さん、お家にいるの」
「父さんが?珍しいな。何かあったっけ」
「お休み。出かけようって」
雨が強くなる。視界が煙り、傘を打つ雨の音が大きくなる。
けれど雨の音に声がかき消される事はなく。どこからか取り出した子供の持つ提灯が、仄かに帰り道を照らして道に迷う事もない。
手を繋いで歩きながら、目を凝らす。
雨の向こう側。傘も差さず、普段と何一つ変わらずに急く人々の姿が霞み見えた。
振り返ればきっと、突然の雨に慌てふためく様子が見える事だろう。
そう思うと無性におかしくなって、思わず笑みが溢れた。
「?楽しいの?」
「ん。何かさ。通り雨も、たまにはいいなって」
「雨!また、お迎え。行くの!」
にぱっ、と笑みを浮かべ、手にした提灯を振る。
さらに強くなる雨に、これ以上はと思いながらも、機嫌良く振られる提灯と鼻歌に何も言えず。
まあいいか、と鼻歌に合わせて繋いだ手を、軽く振って歩いて行く。
通り雨に振られて濡れる街の人々にとっては災難だろうが、誰かと一緒の帰り道もたまには悪くない。
「あめあめ、ふれふれ」
とうとう歌まで歌い出した子供に、遠い昔の母との帰り道を思う。
今はもう届く事のない淡い思い出に、少しだけ鼻の奥がツンとした。
「次は、もっと、たくさんのお迎えね。皆と、一緒」
「雨なのに、皆で来たら、大変でね?」
「じゃあ、次は違う子が、一番前ね。そしたら、雨でないの」
「ま、いいけどさ。そうなったら、何か百鬼夜行みたいだな」
「悪い子、いないから、いいの」
まあ、確かに。
彼らがぞろぞろ歩いていたとして、誰かに見咎められるわけでもなし。見られたとして、昔話のように死んでしまう訳でもない。
そもそも、深夜ではなく真っ昼間だ。明るい場所での彼らの行進は、恐ろしさの欠片もありはしない。
明るい日差しの中。ぞろぞろ歩いて迎えに来るだろう彼らを想像して、その滑稽さに声を上げて笑う。
つられて笑う子供に、さらにおかしくなって。何だか楽しくなってきてしまった。
「悪くないな、それ。楽しそうだ」
「皆一緒なら、楽しいの。いっぱいいっぱい楽しいの!」
「楽しいな。寂しいなんて、思う暇もないくらい」
手を繋ぐ、雨の帰り道。
笑いながら歩いていく。家までもうすぐだ。
20240928 『通り雨』
通り雨
歩いていたらいきなり雨に打たれた
しばらくするとすぐに止んではたと気づいた
もう通り雨で笑ってた君はもういないんだと
浅木レイはとても印象的だった。
長年教師生活をしていると、どうしても教え子の記憶はばらつきが出てくる。
浅木レイはその中でも一際印象的だったにも関わらず、
なぜ覚えているのかと問われると言葉につまる。
成績が優秀だったわけでも、
手を煩わせる問題児だったわけでもなく、
名前はまあ、純日本人でカタカナ表記かとは思ったが近年の個性的な名前に比べればそこまでのインパクトはない。
正直にいうと、抜群に美少女であったというわけでもない。
濃いエピソードがあったわけでもない。
では、なぜ覚えているのか。
それはもしかしたら僕が国語教師だからかもしれない。
国語オタクというなりの僕は、
見た目にそぐうとおり、元々小説家を目指していた。
教師引退後に経験を元に小説を書き上げたいというのが密かな夢である。
この教師人生でどこを小説の題材として切り取りたいか、
それが“浅木レイ”だ。
とある放課後。
この日は不穏さを感じるような厚い曇り空だった。
見回りの当番だった僕は懐中電灯を持って職員室を出た。
職員室がある校舎に部活動を行う場所がかたまっているので他の校舎は見回り後早めに施錠する。
大体見回りの時には2組くらいまだ残っているので帰るよう促すのだが、この日は誰にも遭遇せずあっという間に施錠になった。
渡り廊下につながる扉を閉めているとザァッと雨の音がした。
少し錆びついていて施錠にコツがいるのだが、今日はまた調子が悪いな、とガチャガチャしている間に雨は止んで土の香りがブワッと上がってきた。
やっと閉まった、と職員室の方へ向くと一瞬の雨にやられた生徒が数名目に入った。
──────その中に浅木レイはいた。
濡れた黒々とした前髪を節の強い骨感のある手でかきあげ、
流れるようにそばかすのある頬の雨を拭う。
薄い一重瞼から伸びた長い簾のようなまつ毛に雫が溜まっているのが光の反射で遠目から見える。
薄い唇をキュッと結び、髪とは違い色素が薄い茶色い瞳がゆっくり下から上へ視線を動かした。
彼女の向こうにはカラスが2羽、1羽ずつ飛び立った。
動いていた視線がこちらを向くまで、ほんの数秒。
この間、完全に僕は目を奪われていた。
もし、僕が美術教師だったなら絵を描いただろう。
もし、僕が写真部顧問ならカメラを向けただろう。
僕の中の芸術性をくすぐる、そんなシーンを浅木レイは一瞬できっと無意識に創り上げたのだ。
あのときのあの一瞬の映像を、
僕は国語教師として、元小説家志望として
どう言語化していくか、どう表現していくか、
きっと、神に試されている。
あの日すぐ原稿用紙に言葉を連ね、書き殴った。
衝撃が走ったあのシーンの解像度が高いうちに。
鮮明な記憶がこぼれ落ちないように。
ただ、それは余計な心配であった。
10年経った今も、驚くほど鮮明な記憶のままだ。
僕は国語教師の人生経験の全てを使って、浅木レイを形に残す。
そのために今日も僕は教壇に立つ。
【通り雨】2024/09/28
あれは自動車で大阪から島根に帰る時のことであった。
中学のバスケ部で後輩だったKと互いにお気に入りの曲をかけあいながら、また長距離運転だったためハンドルも握り合いながら中国自動車道を駆け抜けていた。
最初大阪を出たあたりではワンマンライブ状態だった太陽も兵庫を抜けるあたりでステージを去り、満員電車よろしく雨雲で寿司詰め状態となった。
ひとつトンネルを抜けると彼らの流した雨粒が私の愛車を濡らした。
急なゲリラ豪雨に気を取られたため、車内を流れる音源はAIの支配下に置かれていた。
鳥取に入って降車した彼らを見送るとアンコールに応えるかのようにサンがライジングしてきた。
さっきまでの通り雨がウソみたいな綺麗な空。
福山雅治の声色とAIの粋な計らいに惚れ直した私達ふたりであった。
「通り雨」
「別世界ってあるんだな」と窓をつたう雨の跡を見ながら茉莉は思った。
窓の外は雨に濡れた白い小石がしきつめられ、その奥には新緑の木々がしっとりと佇んでいる。
室内はゆったりとした空間に高い天井からは柔らかい燈がそそいでくる。
部屋の中には他にも何人も人がいるのにとても静か。それでいて緊張感があるわけではない。穏やかで満ち足りた空間。
ここに辿り着いたのはただの偶然。
久しぶりに予定のない休日で、お昼過ぎまでベッドでゴロゴロしていた。暇つぶしがてらに買い物に出かけたところ、急に雨が降り出した。
疲れていたしどこかで休憩しようと思ったが、ファーストフード店もカフェも休めそうな所はどこも満席だった。
少し歩いたところにホテルのラウンジがある事を思い出した。
躊躇しながら足を踏み入れて驚いた。優雅な空間、時間の流れ。
メニューを見て公開した。コーヒー一杯で1日の食事が賄える。いつも飲んでいるコーヒーなら10杯は飲める値段だ。
コーヒーに口をつけ、他のお客さんの様子を眺める。
本を読む人、PCを操作している人、おしゃべりしている人。
誰もが落ち着いて、その場に溶け込んでいる。
「そうだ」茉莉は思った。
「この場に溶けめる人になろう」
これまで夢や目標なんてなかったけれど、急に目の前が開けた気がした。
そして、怠惰な午前中の生活や乱雑に散らかった部屋を思い返した。普段の仕事に対する態度や選ぶ物を思い返した。
ラウンジを出ると雨はすっかりあがっていた。
茉莉は背筋を伸ばし、大きく一歩を踏み出した。
ももよさん、ほら、雨の足あとがついてるよ
こたかさん、それ、廊下が濡れてるだけじゃない
ちがうよ、雨がとおった跡だよ
ももよさん、ロマンチストじゃないね
そう言いながら、こたかさんはわたしの足の親指を
くるくるまわした
こたかさん くすぐったいよ
ももよさんの足に雨がついてないか、たしかめてるのさ
雨が、ほんとうに通ってきたかもしれないと
思ってしまいそうになった
いつでも目をつぶると聞こえる音、それは
通り雨のような、
大勢の慌ただしい足音のような。
通り雨に降られた。
私は傘を持っていなかったので通りすがりのコンビニで立ち読みをしていると、ガラスの向こうで学生たちが急いで帰っているよう。
雨が激しくなってきたからか、天井の方からプラスチックを叩くような音が聞こえる。
「天井が薄いのか雨が強いのか」と独り言。恐らくどっちもだろう。
田舎で婆さんが運営してるようなコンビニだから、造りが甘いのだろう。
実は入るのが久しぶりで懐かしのラインナップを眺める。1番驚いたのは子供のころよく食べていたお菓子がまだたくさん売っていたことだ。店主の婆さんもあのころと変わらない。けど白髪と皺はたしかに増えていて、時が如何に経っていたか、ということがわかる。
ところでいくら経っても雨が止まない。おそらく走って帰った方が早いだろうが、ここから駅までにかなりかかるし社会人になって本気で走ってなかったものだから足はきっとなまっている。
コンビニだから傘が売っていると思ったがやはり田舎。そんなもの売っていない。
私は意を決して外に飛び出し、駅へ向かった。
ある夏の話
通り雨
にわか雨
夕立
呼び方からして、なんだか嫌な存在の気まぐれ雨さん
暑い日なんかは余計にジメジメして嫌だし、うっかり干してた洗濯物が濡れるし、自分も濡れるし、予定変わるし、他にも嫌ことばかりで、ほんといいとこない
って、ほんとにそうかな?
しっかりめに降ったら地面や空気の温度が下がったり、ガーデニングや家庭菜園の水やりの手間が省けるし、予定を変えたことでたまたま良かったこともあるだろう、野生で生きる動物たちは雨上がりになんだか生き生きしてるし、いくつになっても虹は気持ちが上がる
そりゃ、ずーっとの雨は大変だけど、
ちょっとの通り雨くらい、広い心と別視点を持てば、まぁいいかなってとこもあるなぁ
だから通り雨さんみたいにちょいと嫌なことがあっても、何かの別の見方を模索したり、
まぁまぁ今だけと心を落ち着かせて通り過ぎるのを待って、虹を見つけた時のような何かとの出会いを期待するのも悪くはないかなと思って空を眺めてみる
今日はオレンジ空 雨の気配はなし
『通り雨』
「窓の外の景色におかしなモノが見えた話はしたかしら?
形はないけど対話ができる生き物や、巨大迷路と化したジャングルジムの話は?
……そう。
それじゃきっと、夜空に瞬く星ぼしから聴こえる声の話もしてないわね」
その人は、ふぅと息をつくとティーカップに口をつけた。
「大したことは何もしていないのに、日々の雑事に取り紛れて、こうしてお話する時間がなくなるのよね」
わかる。自分のためのたっぷりとした時間なんて、そうそう取れるものじゃない。
「もっと時間がほしい。もっとお金がほしい。そんなことを言い続けて、一生を終えるのかもしれないわ」
それを寂しいと思うか、そんなものだと笑うのかは、人それぞれなのだろう。
そこへ、飛び込むように男性が駆け込んできた。入口で肩を払っているのを見るに、おそらく通り雨にでも降られたのだろう。
男性は「珈琲、ホットで」と、ひとこと言うとカウンターに座った。
そしてスマートフォンを取り出して何かの遣り取りをした後、ふと気がついたように私に触れた。
「これは、なんて言う観葉植物?」
ティーカップを置き、サイフォンで珈琲を淹れ始めたあの人が答える。
「ガジュマル。精霊が宿る木ですよ」
酷い雨に遭った。
天気予報は丸一日晴天、
絶好の洗濯日和だって言ってたのに。
セットした髪は台無しで
服も鞄もびしょ濡れ。
靴は…
サンダルだったから、それだけマシ。
化粧も崩れてどろどろ。
最悪。
本当に、最悪。
今日、予定蹴られたてひとりなこと、
思い出してしまった。
まだまだ空は薄暗い。
いつ、晴れるんだろうか。
君と付き合ってからはじめて行った君の家
付き合う前も何度か行って一緒に遊んでいたはずなのに
なんでかすごく、緊張したんた
その後は何事もなくいつもみたいに遊んで
雨が降りそうだからって帰ろうとしたんだ
そしたら雨が降ってきた
空は晴れていたのに
こういうのを狐の嫁入りっていうんだっけ
あ、話が逸れちゃった
それでさ、その日は傘を持って行ってなかったから君から借りて帰ろうと思ったんだ
そのことを伝えたら君は
少し迷ったような顔をしていたね
それから意を決したように言ったんだ
『…もう少し雨が止むまでここにいない?』
ってさ
驚いたけどそれ以上に嬉しかった
付き合ったのにいつもと同じなだけは味気なかったから
もちろん、楽しかったけど
もう少し、友達以上に君について知りたかったんだ
まぁすぐに止んじゃったんだけどね
結局何が言いたいのかって?
ふふ、ねぇ今日はあの日みたいだと思わない?
あの日みたいに関係を変えるのにもぴったりの日だと思ったんだ
それで何が言いたいかって言うとね、
「指輪、作りに行きませんか?」
…まわりくどいって?
ごめんね、直そうとは思ってるんだけど悪い癖が出ちゃったね
あはは、そんなに泣いてくれると思わなかったなぁ….
それじゃあ早速雨が止んだら作りに行こうか
【通り雨】
サヨナラヒットを打った者に浴びせ掛ける歓喜のウォーターシャワーは、まるで通り雨の様だった。
・・・
相変わらず、体調不良という訳ではないけど、なんかだるいわ〜みたいな感じ。
こんな状態なので、ちゃんと生きるって大変だなと思っている。
ここで言う「ちゃんと生きる」は、毎日お風呂入るとか、しっかり三食食べるとか、身なりを整えて外出するとか最低限の事なんだけど、元気な時には意識しなくてもできる事が億劫になる。
なので明日は思い切って、少し遠いけど美味しい和栗のモンブランを買いに行く予定。
秋で一番強い食べ物は、モンブランだと思っている。
栗最強。
そろそろ地面も消えてしまう頃かな
世界の終わりって
もっと
瞬間的というか
隕石がどーんみたいな感じだと思ってた
世界の色が溶けて行くみたいに
絵の具で描いた絵を水に落とすみたいな
神秘的でもなく
ただ死を直感してる。
自分もこの街みたいに色を溶かされてしまうのだろうか。
この通り雨に。
フードを被って走る帰り道。足がもつれて転びそうになったが、彼は身を翻して器用に支えてくれた。
「滑るんで気をつけてくださいよ。それとも、オレと手でも繋ぎますかね」
差し出された左手を握り返せば、彼は驚いたような顔をした。しかし、瞬きの後はいつもの涼やかな顔をしていた。
「すぐ止むとはいえ、勘弁してほしいっすわ」
少しして、濡れた地面が段々と乾いてゆく。
黄昏前の空に虹がかかる。仕事に忙殺されていた頃だったら、空を見ることすらしなかっただろう。虹が消えるまで眺めるだけの余裕が出来るのは良いことかもしれない。
「虹か。久しぶりに見たかもしれないっすねぇ……ま、この辺は空気が綺麗なんで、星空あたりも見れるかもしれませんよ?」
『移りゆく空』
通り雨
天気は気まぐれ
急に雪が降ったり
通り雨があったり
人もいっしょ
神もいっしょ
そんななかでも
振り回されずに
頑張って生きて
いかなきゃいけないんだ
・通り雨
やまない雨はない。確かにそうかもね。
でも見て。
ほんの一瞬でも降られたら、上から下までびちょ濡れだよ。
雨は一瞬でやんだとしても濡れた服や荷物はすぐに乾かないんだよ。
急いでタオルやドライヤーとか使わないといけなくなるし、時期によってはすぐお風呂にも入らなきゃだよね。
もしかしたら人によっては風邪を引いちゃうかもしれないよね。
雨がやんでそれで終わり、じゃないんだよ。
晴れたらそれで万事解決になるわけじゃないんだよ。
どうしてそんなことも分からないのに「やまない雨はない」が慰めになると思ってるの?
雨粒がアスファルトに弾け
通行人は軒先に駆け込む
車が飛沫を上げて走り去り
静かな雨音だけが残る
階下の景色を眺めながら
コーヒーをすする
しとしと降る雨に誘われ
物思いにふける
中略
雨あがりのあとは
すべてがつやめき
雨止みを待った人々が
そろそろと歩き出す
階下の景色を眺めながら
コーヒーを飲み干し
通り雨を名残惜しんで
席を立つ
〜通り雨〜#12
昔、中学生の頃の帰宅中にいきなり雨が降ってきた事があった。
でも家を出る時に「降るかもしれないから折り畳み傘持っていきなさい」と言ってくれた母のおかげで焦りはしなかった。
カバンから出してのんびり歩いていると突然の強風でコウモリ傘になってしまい、直したけれど骨が曲がってしまい閉じなくなって壊れてしまった。
長年使っていたから仕方ない、と思いつつ傘はもうないので開き直ってびしょびしょになって帰った。
家に着く少し前に止んで、その日はもう雨は降らなかった。
傘を壊しびしょびしょになった私、通り雨というのか疑問だか、開き直って雨に濡れたのは楽しかった思い出がある。
突然の雨だった。
まったく雲がなかったわけじゃない。ひとつも予兆がなかったわけじゃない。
けど、まさかこんなことになるなんて思ってもなくて。まさに青天の霹靂だった。
「こんなのただの通り雨だよ」
優しいあなたは言う。
けれどいつ晴れるのかはわからない。見上げる空は分厚い灰色の雲ばかりで。
ミカヅキはまだ見えない。
20240927.NO64.「通り雨」
R.I.P