フードを被って走る帰り道。足がもつれて転びそうになったが、彼は身を翻して器用に支えてくれた。
「滑るんで気をつけてくださいよ。それとも、オレと手でも繋ぎますかね」
差し出された左手を握り返せば、彼は驚いたような顔をした。しかし、瞬きの後はいつもの涼やかな顔をしていた。
「すぐ止むとはいえ、勘弁してほしいっすわ」
少しして、濡れた地面が段々と乾いてゆく。
黄昏前の空に虹がかかる。仕事に忙殺されていた頃だったら、空を見ることすらしなかっただろう。虹が消えるまで眺めるだけの余裕が出来るのは良いことかもしれない。
「虹か。久しぶりに見たかもしれないっすねぇ……ま、この辺は空気が綺麗なんで、星空あたりも見れるかもしれませんよ?」
『移りゆく空』
通り雨
9/28/2024, 9:36:31 AM