わたあめ

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「通り雨」

「別世界ってあるんだな」と窓をつたう雨の跡を見ながら茉莉は思った。
窓の外は雨に濡れた白い小石がしきつめられ、その奥には新緑の木々がしっとりと佇んでいる。
室内はゆったりとした空間に高い天井からは柔らかい燈がそそいでくる。
部屋の中には他にも何人も人がいるのにとても静か。それでいて緊張感があるわけではない。穏やかで満ち足りた空間。

ここに辿り着いたのはただの偶然。
久しぶりに予定のない休日で、お昼過ぎまでベッドでゴロゴロしていた。暇つぶしがてらに買い物に出かけたところ、急に雨が降り出した。
疲れていたしどこかで休憩しようと思ったが、ファーストフード店もカフェも休めそうな所はどこも満席だった。
少し歩いたところにホテルのラウンジがある事を思い出した。
躊躇しながら足を踏み入れて驚いた。優雅な空間、時間の流れ。
メニューを見て公開した。コーヒー一杯で1日の食事が賄える。いつも飲んでいるコーヒーなら10杯は飲める値段だ。

コーヒーに口をつけ、他のお客さんの様子を眺める。
本を読む人、PCを操作している人、おしゃべりしている人。
誰もが落ち着いて、その場に溶け込んでいる。
「そうだ」茉莉は思った。
「この場に溶けめる人になろう」

これまで夢や目標なんてなかったけれど、急に目の前が開けた気がした。
そして、怠惰な午前中の生活や乱雑に散らかった部屋を思い返した。普段の仕事に対する態度や選ぶ物を思い返した。

ラウンジを出ると雨はすっかりあがっていた。
茉莉は背筋を伸ばし、大きく一歩を踏み出した。

9/28/2024, 10:27:52 AM