『踊りませんか?』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「笑おうよ。」
そう言い、笑顔を振り撒く貴方が、好きでした。
「ねぇ、君に夢はある?」
突然聞かれ、少し戸惑う。そんな僕を見て、彼女はニヤリと笑った。
「私はね。死ぬまで踊っていたい。」
なるほど。踊る事が大好きな彼女らしい夢だ。それなら僕の夢は。
「僕は、そんな貴方を、ずっと見ていたいです。」
彼女は少し頬を染めた。そしていつもの調子で、笑った。
「じゃあ君は、私が作る歴史を目の当たりにできるね。」
彼女は幼馴染だ。だから、ずっと彼女を見てきた。小学生でバレエ、中学校ではポップダンス、高校生の今は社交ダンスを習っている彼女。彼女はいつだって笑っていた。
「笑おうよ。」
彼女の口癖だ。弱気でコミュ障の僕に、よく言ってくれた。その言葉を聞くだけで、強張った顔も笑顔に変わる。そんな彼女が好きだった。もっと沢山、彼女の踊りを見ていたかった。しかし、悲劇は起きた。
彼女は事故に遭い、両足を無くした。
彼女は事故の日から、一度も笑う事はなかった。いつも朧気に、外の景色を眺めていた。その表情は、今にも消えてしまいそうで怖かった。そんな恐怖のせいか、僕は言ってしまった。狂っているけれど、確かな僕の願いを。
「一緒に、踊りませんか?」
僕がそう口にした時、彼女は静かに涙を流した。そして、震える声で言った。
「踊り、たい。君と一緒に、踊りたいよ。」
どれだけ願っても、彼女の足は戻らない。どれだけ笑っても、心は死んだまま。それなら少しだけ、我儘を言わせてください。無くしたら何も残らないなんて、僕には残酷すぎるんです。
「Shall We Dance?」
此処はとある仮面舞踏会。名前や歳等、個人情報は一切明かしては行けない場。そんな中、私は貴方を探そうと、色々な人に声を掛け、探していた最中。
踊りませんか?
ふと、そう声を掛けられた。見覚えしか無い話し方。直ぐに貴方だと確信した。勿論私はその手を取り、貴方と華やかなダンスを踊った。それは、とても美しく、儚い一時だった。
仮面からは見えないであろう微笑を浮かべ、貴方はまた何処かへ去って行った。
嗚呼、神様。どうか、再び彼に会えたのなら。今度は私から、
: 踊りませんか?
そう、声を掛けたい。
【踊りませんか?】
どうせ笑われるのなら
どうせ見下して指さしてるやつが
愚かにも幸せを感じられるなら
誰よりも笑顔で誰よりも幸せな曲を紡ぎ
誰よりも軽やかに踊ってみせるから
僕と一緒に踊りませんか?
2024-10-05
『踊りませんか?』
人は常に神の手のひらの上で踊ってるみたいなものだよね
楽しいダンスだったら良かったのに。
手を繋ぐ口実にしたフォークダンス
たぶんお互い好きだったと思う
「踊りませんか?」
真剣な目で見つめたり茶化したり
毎日君の手のひらの上
「踊りませんか?」その3
賑やかなところは慣れていないから
秋の夜風がちょうどやさしい
「踊りませんか?」その2
共に踊るやり方など、俺は知りません。
今世の貴女もそうですね。そのような文化圏には生まれついていませんから。
けれどもしかしたら、いつか誰かと踊るような機会もあるのでしょう。
その時の貴女が、幸福に満ち溢れた笑顔であることを祈っています。
(踊りませんか。)🦜
あのね。
仙台の
・夏祭りりにね。🦜
《すずめ踊り。)
と云う、小気味好い
踊りが
有るんだよ。🦜
「慶長8年に
仙台藩主の前で
お披露目したのが
始まりなんだって。」🦜
・少し前屈みの中腰で、
・両手に扇子を羽根
に見立て、
・ピョン、ピョン、
跳ねるだけど、
観てると、とっても
楽しい踊りなんだね。🦜
《でも。》
✣本当の、雀の僕から
観たら、
可笑しくて、可笑しくて
【笑いが止まらないんだよ。】
一緒に踊りませんか?
王子様がシンデレラの手をとる
王子様とシンデレラは一緒に踊る
それは夢のようなステキな時間…
あなたと過ごす時間
その時の私は
まるでシンデレラのよう
あなたに会うため
きれいに着飾り
楽しい時間を過ごす
あなたと別れの時間が
刻一刻と近づく
このまま時間が止まってくれたら
そう思いながら
魔法は解けてゆく
ひとりになった私は
さみしさと孤独を胸に
あなたとの夢のような時間を
思い出しながら
いつもの日常に戻っていく
【踊りませんか?】
『踊りませんか?』
ゆっくりと彼女の手を取って、
私は、踊りましょうと言うと
彼女は、少し恥ずかしいそうに俯きながらも、
手を優しく握り返した。
夕焼けが、彼女の頬を照らすと、
照れた彼女の頬も紅潮していくようだ。
長い間、
彼女と暮らしてきたのに
こんな風に紅潮する彼女を
間近で見たことがあっただろうかと
握られた手にじんわりと彼女の温かさを感じた。
彼女を身近に感じながら、
私の鼓動と彼女の鼓動が合わさって
ゆっくりと、音を奏でる。
同じように動いているようで、
全く違う音階が心地良い。
私は、長い間、
忘れていた温かくて心地よいこの感情に
泣きたくなって、鼻を啜ると
見上げた彼女の瞳に
夕焼けで紅潮した私が写る。
私は、少し笑いながら
彼女の手の温もりを
忘れないように包み込んだ。
作品No.187【2024/10/04 テーマ:踊りませんか?】
彼が私に手を差し伸べるのを、私はただ眺めていた。
「何のつもりですか」
抑揚のない低い声で問うたのに、彼は笑顔のままだ。そんな彼が恐ろしくなる。
「酷い言い草だなぁ。きみが蹲ってるのが見えたから、手を貸そうかと思っただけさ。別に下心なんてないよ」
「——そう、ですか」
本当に、下心はないのかもしれない。こうして助けて、それをきっかけに私と恋仲になる——などと、きっと彼は考えていない。そもそも、私などと結ばれることは、彼にとって利点にはならないからだ。ただ、彼はきっと、あの場から逃げ出すために、たまたま目に入った私を助けに来たのだろうと思った。
社交界の主役——であるがゆえに。
「ほら。立てないなら手を貸すよ?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、結構です。自分で立てますから」
彼の手を無視して立ち上がる。ここで彼の手を摑むのも、摑まないのも、どちらもまた私の評判を落とすだけだ。けれど、どうせ同じ評価なら摑まない方がいい。触れない方が、よほどいい。
「さすがは、冷徹の姫君だ」
彼が、笑いながらそう言った。
【冷徹の姫君】——私の通り名だ。社交界ですら、笑顔を見せない、にこやかに会話もしない、踊ることもしない——そんな私に付いた名だ。蔑称、といってもいいかもしれない。
「その呼び方は嫌いです」
「それは失礼。僕はかっこいいと思ったのだが、呼ばれる本人がそう言うなら、今後はやめるよ」
笑顔を絶やさない彼は、なぜか私の近くを離れない。助ける必要は最早なくなったのだから、早くいるべき場所に戻ればいいのに、そうせずに私の後ろをついてくる。
「戻ったらどうです?」
しびれを切らしてそう言うと、
「きみを見送ったら戻るよ。怪我をしているかもしれない姫君を一人にするなんて、僕の美学に反するからね」
と、何食わぬ顔で言う彼である。そんな美学、私に適用しないでほしいと思ったが、言わずに飲み込んだ。
「まぁでも——」
後ろの足音が止む。私も思わず足を止めて、振り返った。
「きみが迷惑なら、僕にこれ以上近くにいてほしくないと思うなら、戻るとするよ」
笑顔のままの彼の言葉が、なぜかひどく胸に刺さった。
「ああ、でも、戻る前に一つだけ」
彼はそう言って、私に歩み寄ってきた。そして、耳元に顔を近付ける。
「次にお会いするときは、ぜひ僕と一曲踊りませんか?」
そんな言葉を残して、彼は私から背を向けた。そのまま元来た道をゆっくりと引き返していく。
何事も、なかったかのように。
「ダンスのお誘い——か」
思わず独り言が口をついた。そうして、心が揺れている自分に気が付いてしまった。
私の足は帰ることを忘れて、彼が戻って行った道をいつまでも見つめていた。
彼と山に登ったとき
景色のいい頂上には誰も居なかったので
何だか踊りたくなってしまった。
いろんな踊り…お笑い芸人の真似までして
スッキリした。人前ではなかなかでしょう。
こんなに広いのに誰も見てないなんて
チャンスだチャンス。大チャンス
バカな踊りでも何でも許される。
さぁ
踊りませんか?
スッキリするよ〜
踊らされるのは嫌いです。
自分で決めて自由に踊る。もしくは踊らないで休憩でもしましょうか。
ある所に
天才少女がいました。
両親は芸術関係の仕事をしており、
少女と少女の兄に
たくさんの世界に触れさせました。
兄は絵を描くことがメインでしたが、
少女は、何でも出来ました。
サックス、風景画、ダーツ…
一度見たことがあるものから
見たこともないものまで
やったら出来てしまうのです。
しかし両親は
彼女の作品や演奏に
魂が感じられないと言います。
魂とやらはどうやって生まれるの、と
少女が聞くと
両親は決まってこう答えます。
恋。運命の相手と出会った時、世界が色づく。
男と女とはそういうもの。
気になる男の子はいないのか?
しかし少女は
恋愛に興味が無く、
恋に落ちたこともありませんでした。
ある日、
毎週行われるお城の舞踏会へ行った少女は
物凄く退屈に感じました。
王子様にも
ダンスにも
興味が全く湧かず、
ただグラスを揺らすだけでした。
ふと、
少女と同じくらいの年齢の
銀髪の少女のコップに
白く濁った液体を混ぜる人を見ました。
こういう所ではよくあることです。
金目のもの欲しさに
殺人まで犯してしまう狂ってしまった人。
丁度暇していた少女は
その銀髪の少女を庭へ連れて行き、
キミの飲み物に毒を混ぜていた人を見た、と
教えました。
教えてくださりありがとうございました!と、
銀髪の少女は少女に抱きつきました。
その時少女は
動悸が激しくなり、体が熱くなります。
風邪か何かだろうと思いましたが、
どうやら恋をしたようで。
銀髪の少女のことが
頭から離れません。
同性愛者。
世間では病気のように扱われます。
この事を両親が知ったらどう思うか。
なので少女はみんなに恋心を隠しました。
いつも通りに振る舞いました。
しかし想いは膨らんでいくばかりで
月に1回しか行かなかった舞踏会に
毎週通うようになったのです。
銀髪の少女に会うために。
よければ一緒に踊りませんか?と
少女の想いも知らずに
銀髪の少女は笑顔で手を差し伸べます…。
っと。
こんな感じかな。
夜、瞑想をしていたら
突然いい感じのことを思いつき、
そのまま頭の中で物語が作られた。
白馬の王子様じゃなく
ただの平々凡々な銀髪の少女に恋する少女の話。
もちろんこの物語の最後は
めでたしめでたし。
ちょっとズレてる所もあるけど、
妄想の中だけでも
ハッピーエンドに。
でも、
同性愛者なのが両親にバレて
"Good Midnight!"
と言って
少女が銀髪の少女から距離を取り、
崖から転落してしまう。という
バットエンドもありだなと思いながら
瞑想って無心にするものだよね…?と
よく分からなくなってきたので
とりあえずこう言った。
あなたの恋はどんなものでも素晴らしいよ、と。
踊りませんか?
一緒に、踊ってください…その一言が言葉に、出来ない…たった一言なのに…
文化祭の終わりにある、キャンプファイヤーを囲んでの、フォークダンス…
あなたへの想いと、あなたとの未来を、伝えるこのチャンスだから…
私が、踊って欲しいのは、あなただけ…早く、あなたに、お願いしたい…ほんの少しの勇気が…
誘われて、手を取って、舞台の中央へ。
自惚れて、浮かれて、有頂天になって、優雅にターンした時は夢みたいだと思っていた。
気が付けば貴方は私の手を離して、他の誰かと、華やかで綺麗なヒロインと踊ってる。
私はいつの間にか舞台の端で、くるくるくるくる。
誰も見ていないのにピルエットをやっている。
やがて踊り疲れて膝をつけば、ガクンと床が大きく割れて、私はあわれ奈落の底へ。
真っ暗な闇の中、私は四角い光を見上げる。
痛くて、苦しくて、声が出ない。――でも。
後悔なんかしていない。
私ほど貴方の為に踊らされた者はいないだろう。
私ほど貴方を引き立たせた者はいないだろう。
モブが一人消えたところで、舞台は終わらない。
拍手喝采、カーテンコール。
公演は大成功、貴方はこれからも光の中を歩くのだろう。
あぁ、不粋な足音が聞こえる。怒号に罵声、響くサイレン。足音が近付いてくる。滲んだ視界に貴方が見える。
「××××!!」
貴方が初めて私の名を呼ぶ。
――モブの終わり方にしては、ドラマチックな方じゃない?
END
「踊りませんか?」
煙草を揉み消しながら、吐き捨てる。
「どこのブルジョワだよ、その誘い方」
意識していないのに、口角が微かに上がるのが分かる。
斜に構えて煙草を吸うアイツの頬にも、機嫌良さそうな軽い微笑が浮かんでいる。
相変わらずメチャクチャだよな、くぐもった声でアイツに聞こえるようにそれとなく、呟く。
アイツは笑顔を崩さないまま、煙を深く吐き出してから、こちらに向き直った。
「でも普通の誘い方をしたところで、あなたは興味を持たれないでしょう?」
その通りだとは思ったが、素直に答えるのもなんとなく癪で、俺は煙草の箱を剥いて、次の一本を引き出しながら、目を逸らす。
アイツはそれを見て、満足そうに頷いて、言った。
「上手くいく確率は、かなり高いと思いますよ。あなたのその人望と悪賢さ、それと私の計算と策略があればね」
ですから、アイツは煙草の煙を吹き上げながら、口先だけは気障ったらしいお育ちの良さげな敬語で続ける。
「私と踊りませんか?」
俺たちが顔を合わせたのは、一年前の“仕事”の時だった。
クソな家庭環境のおかげで、初っ端から人生計画というものが、悉くシュレッダーにかけられていた俺は、マトモというものがどうも理解できなかった。
そんな俺が、居場所を昼間の大通りから夜の繁華街に求めたのは、当然のことだったと言えるだろう。
そして、今目の前で煙草を蒸すコイツも、人生をシュレッダーにかけられて、ズンボロになりながらここに辿り着いた奴であることは空気でわかった。
俺たちはある意味、同志だった。
コイツと一緒に挑んだ“仕事”は、蔦で吊り下げられたオンボロくらいに危ない橋だった。おまけに、仕事の数週間前には、繁華街に法律の犬の見廻が増え、厄介事が増えた時期で、どいつもこいつも殺気だった、不安定な時期だった。
骨が折れたが、俺の知恵とアイツの飛び抜けた状況判断能力で、俺たちは無事、仕事を完遂した。
なかなか面白い奴だな、俺はアイツをそう評価した。
アイツも、俺を憎からずとは思っていないようだった。
それからも度々顔を合わせたが、もとよりこんな所で生計を立てている奴らの辞書に“信頼”の文字はない。
俺とアイツは、顔を合わせたら、その場だけの世間話で盛り上がる、という程度の仲だった。
せいぜい、共有の縄張りを持つ野良猫同士程度の仲だ。
顔を合わせれば友好的には接するが、それ以上の義理もない。
そういう人間関係は気楽だったし、不満もない。
アイツとの仲は永遠にそんなもんだろう。
今日、アイツが俺を一服に誘わなければ。
アイツは、「ちょっと話さないか?」と、珍しく俺を一服に誘った。
そして、人も十分引けたくらいを見計らって、例の話を始めたのだ。
有体に言えば、俺とアイツで組んで、ビジネスをやらないか、という話だった。
きっかけは、この繁華街の裏ボスに、ふと、子会社らしき組織が欲しい、と、けしかけられたのが始まりらしい。
この街は大抵、誰かの縄張りだ。そして水面下でも水面上でも、縄張り争いが熾烈だ。
ビジネスといっても、大それた動きをするわけじゃない。
繁華街の住人にも、しつこくこの辺りを彷徨く、法律の犬っころにも手が出されにくい、グレーゾーン。
法と契りの穴をつくビジネスをやろう、そんな話を、アイツは気障ったらしい言葉で色々と装飾をつけて、提案してきたのだった。
「一つ、ここの主の奏でるシナリオと曲に乗って、私たちで踊りませんか?私たちなら、奴らが、疲れ果てて見惚れるくらいまで、踊れる気がするのです」
煙草をまた一息に吸い、アイツがこちらの目を見つめてくる。
どうも目を合わすのが苦手なようで、本人は誠意を込めて真っ直ぐ正対しているつもりのようだが、どうも傾いた下目遣いで、不自然に眇めた目から斜に傾いた視線を感じる。
言い回しを含めると、随分小生意気に見える。
昼間の世界に生きるなら、だいぶ印象の悪い目つきだろうが、ここならそれは気にならない。
似たような欠陥を抱えた微妙な失礼さを持つ奴らなんて、掃いて捨てるほどいるからだ。
声と怒りの大きさの調整ができず、敬語も使えない俺と似たようなもんだ。
それに俺は、アイツのそういう面白さに興味が湧いてきていた。
アイツなら、味方につけた時の実益も申し分ない。
賢いし、実力も運もある。それは一緒に仕事をした時に確認済みだ。
コイツなら使える。
良い利害関係を築けるだろう。
煙草に火をつけて、深く吸う。
ニコチンのガツンと重たい鈍色の煙が、脳に響く。
鼻から深く息を吐いて、さりげなく言い置く。
「良いだろう、踊ってみるか」
アイツの目の奥に微かに喜色が走る。
だがそれは素早くアイツの中に隠れ去り、奴は平然とした様子で煙を吐きながら、事も無げに呟く。
「そりゃ嬉しいですね。勇気を出してお誘いした甲斐がありました。では、これからよろしくお願いします」
「ああ、楽しく踊らせてくれよ」
俺の返答を聞いて、アイツはひっそりと笑った。
「ええ。踊りに誘った以上、最低限のリードとエスコートはさせていただきますよ」
夜が近い。
繁華街のこんな細い路地にも、ポツポツとネオンが灯り始める。
そろそろ、ここも混むだろう。
それを分かってだろう。アイツは具体的な話はせずに、会話を切り上げにかかる。
「では、後ほど。明日もこの時間に。ご都合がよければ」
「ああ、また明日」
会話が終わることに、俺もなんら不具合はなかった。
だから会話を畳む。
アイツは、煙草を揉み消すと、新たにやってきた繁華街の古株喫煙者と入れ違いに、するりと路地を抜けていく。
それを見送りながら、俺は煙草に口をつける。
繁華街の一日はこれからだ。
夜の社会の一日の始まりを告げる、紫の夜闇が、そこまで近づいてきていた。
『踊りませんか?』
なんて、誘われたら
どうしよう!
こんな時は、
踊れるか踊れないかよりも
断るか断らないかで
素養が出てしまう
そして、
多くの日本人が、
即席のダチョウ倶楽部になる
「どうぞ!」「どうぞ!」
今更ながら、
若いうちに何でも
たしんなんでおけばよかった
と、悔いる
まー
あなたと
夕暮れで
黄昏で
傷だらけで
標識の前で
雨の中で
くすりゆびで?
あなたは手の平を見せるだろうか?
踊りませんか?
「お手をどうぞ」
差し出された手のひらに自分のものを重ねる
似合わない、気取った態度に口元をほころばせる
ドタドタと足を踏みならし、
映画のシーンを真似した
あの映像には遠く及ばないけれど
今だけは、ここが世界で1番のダンスホールだ
思えば最初からあなたの様子はおかしかった。
唐突に友人の恋人の話をするようになった。
私はただそれを聞き流すだけ。いつもそうだ。
相槌を打ちながらも心の中では
その子のことをたいして知らないのだから、
どうでもいいと感じていた。
その日も私は適当に相槌を打ちながら帰路を歩いた。
放課後に降り始めた雨が今、強くなって地面を打ち付けていた。曲がり角になり、私は反対側を指さした。
じゃあ、ここで。
そういうつもりだったのだが。
彼は角の中央に立ち、なにかを言った。
「ん?」
私は耳を彼に近づけて聞き返した。
彼は言った。
「大切な話がある」
私は急にどっと冷や汗をかいた。
しかしまだ確信には至らない。
「いいよ」
「……ああ、緊張する」
彼はそう言ってしばらくの間深呼吸をした。
私は今すぐ逃げ出したい衝動に駆られた、しかし、
どうしても聞かないと、人としていけないと思った。
「……好きなんだ」
私は声には出さなかった。
もしかしたら顔には出ていたかもしれない。
どこか焦りと後悔がうまれた。
「私?」
「うん」
「ごめん」
私は笑うような顰めるような顔でいった。
彼がどう感じ取ったのかは分からない、でも、
私は彼の方を少しはたいてまた言った。
「ごめん」
「うん」
「ごめん付き合えないや」
これを言うので精一杯だった。
もとより何も考えていなかったが、
ここでなんというのが正解なのか分からなかった。
早くここから去りたい、そういう気持ちで何とか彼を向こうへ送り出した。
私は何も考えずに母が待つはずの駐車場へ行った。
母はまだついておらず、仕方なしに腰掛けた。
何も考えなかった。
考えないようにした。
彼が私に打ち明ける前
彼はこういっていた。
「彼女欲しいなぁ」
「そう思わない?」
私は内心げっとした。
このような話は得意ではないし、
嫌いでは無いが好んでいる訳でもない。
むしろめんどくさいと思っていた。
しかしこういってしまっては、
これまた私が人としてはいられないと思った。
「まぁまぁかな」
「別に、嫌なわけじゃないけど。
ほら、付き合ってもなにもしてあげられないし。
部活が一緒なら帰りも一緒にいられるだろうけどね、あの子たちみたいにさ」
「でも、そういうのじゃないならさ、
学校でいつも通り過ごすだけじゃ、
なにも出来ないじゃん、ね、だから私はいいかな」
それに、めんどくさい。
言い訳みたいなことだった。
でも本音だった。
彼はそのことを聞いてもなお、打ち明けようと思ったのだろうか。それともその事が暗に示す意味を理解しなかったのだろうか。
私は遠回しに恋愛は乗り気ではないと伝えたつもりだった。
異性だからある程度は警戒してた。
だから攻めてもの壁を作ったつもりだったのだ。
しかしそれを突破された、いや。
それに見向きもされずに突進してきた彼の勇気、
私からしてみたらその空気の読めなさに
焦った。
思えば私って根からのクズなのだ。
結局恋愛には向いてない人間だし、
恋愛的に人に好かれるには向かない性なのだ。
どうか諦めてくれ。
そう、無意識ながらに
最悪にも願った私は、
きっとあなたにふさわしくないから。
だから本当に、忘れてね。今日のことは。