「笑おうよ。」
そう言い、笑顔を振り撒く貴方が、好きでした。
「ねぇ、君に夢はある?」
突然聞かれ、少し戸惑う。そんな僕を見て、彼女はニヤリと笑った。
「私はね。死ぬまで踊っていたい。」
なるほど。踊る事が大好きな彼女らしい夢だ。それなら僕の夢は。
「僕は、そんな貴方を、ずっと見ていたいです。」
彼女は少し頬を染めた。そしていつもの調子で、笑った。
「じゃあ君は、私が作る歴史を目の当たりにできるね。」
彼女は幼馴染だ。だから、ずっと彼女を見てきた。小学生でバレエ、中学校ではポップダンス、高校生の今は社交ダンスを習っている彼女。彼女はいつだって笑っていた。
「笑おうよ。」
彼女の口癖だ。弱気でコミュ障の僕に、よく言ってくれた。その言葉を聞くだけで、強張った顔も笑顔に変わる。そんな彼女が好きだった。もっと沢山、彼女の踊りを見ていたかった。しかし、悲劇は起きた。
彼女は事故に遭い、両足を無くした。
彼女は事故の日から、一度も笑う事はなかった。いつも朧気に、外の景色を眺めていた。その表情は、今にも消えてしまいそうで怖かった。そんな恐怖のせいか、僕は言ってしまった。狂っているけれど、確かな僕の願いを。
「一緒に、踊りませんか?」
僕がそう口にした時、彼女は静かに涙を流した。そして、震える声で言った。
「踊り、たい。君と一緒に、踊りたいよ。」
どれだけ願っても、彼女の足は戻らない。どれだけ笑っても、心は死んだまま。それなら少しだけ、我儘を言わせてください。無くしたら何も残らないなんて、僕には残酷すぎるんです。
「Shall We Dance?」
10/4/2024, 3:10:27 PM