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思えば最初からあなたの様子はおかしかった。


唐突に友人の恋人の話をするようになった。
私はただそれを聞き流すだけ。いつもそうだ。
相槌を打ちながらも心の中では
その子のことをたいして知らないのだから、
どうでもいいと感じていた。

その日も私は適当に相槌を打ちながら帰路を歩いた。
放課後に降り始めた雨が今、強くなって地面を打ち付けていた。曲がり角になり、私は反対側を指さした。

じゃあ、ここで。

そういうつもりだったのだが。
彼は角の中央に立ち、なにかを言った。

「ん?」

私は耳を彼に近づけて聞き返した。

彼は言った。

「大切な話がある」

私は急にどっと冷や汗をかいた。
しかしまだ確信には至らない。

「いいよ」

「……ああ、緊張する」

彼はそう言ってしばらくの間深呼吸をした。
私は今すぐ逃げ出したい衝動に駆られた、しかし、
どうしても聞かないと、人としていけないと思った。

「……好きなんだ」

私は声には出さなかった。
もしかしたら顔には出ていたかもしれない。
どこか焦りと後悔がうまれた。

「私?」
「うん」

「ごめん」
私は笑うような顰めるような顔でいった。

彼がどう感じ取ったのかは分からない、でも、
私は彼の方を少しはたいてまた言った。

「ごめん」
「うん」

「ごめん付き合えないや」

これを言うので精一杯だった。
もとより何も考えていなかったが、
ここでなんというのが正解なのか分からなかった。

早くここから去りたい、そういう気持ちで何とか彼を向こうへ送り出した。

私は何も考えずに母が待つはずの駐車場へ行った。

母はまだついておらず、仕方なしに腰掛けた。
何も考えなかった。
考えないようにした。




彼が私に打ち明ける前
彼はこういっていた。

「彼女欲しいなぁ」

「そう思わない?」

私は内心げっとした。
このような話は得意ではないし、
嫌いでは無いが好んでいる訳でもない。

むしろめんどくさいと思っていた。

しかしこういってしまっては、
これまた私が人としてはいられないと思った。

「まぁまぁかな」
「別に、嫌なわけじゃないけど。
ほら、付き合ってもなにもしてあげられないし。
部活が一緒なら帰りも一緒にいられるだろうけどね、あの子たちみたいにさ」
「でも、そういうのじゃないならさ、
学校でいつも通り過ごすだけじゃ、
なにも出来ないじゃん、ね、だから私はいいかな」

それに、めんどくさい。

言い訳みたいなことだった。
でも本音だった。

彼はそのことを聞いてもなお、打ち明けようと思ったのだろうか。それともその事が暗に示す意味を理解しなかったのだろうか。

私は遠回しに恋愛は乗り気ではないと伝えたつもりだった。

異性だからある程度は警戒してた。
だから攻めてもの壁を作ったつもりだったのだ。

しかしそれを突破された、いや。
それに見向きもされずに突進してきた彼の勇気、
私からしてみたらその空気の読めなさに
焦った。






思えば私って根からのクズなのだ。
結局恋愛には向いてない人間だし、
恋愛的に人に好かれるには向かない性なのだ。

どうか諦めてくれ。

そう、無意識ながらに
最悪にも願った私は、

きっとあなたにふさわしくないから。

だから本当に、忘れてね。今日のことは。

10/4/2024, 2:35:11 PM