『踊りませんか?』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
─── 踊りませんか? ───
見てるだけで十分楽しい
音は肌で感じている
聴こえないから踊るのは少し怖いかな
踊りませんか?
と 言われると
ダンスかなと思うから
それは無理と
お断りする
踊りましょう
と 言われると
もしかしたら 盆踊り?
フォークダンス?
ぐるぐる円を回って
手を上げたりおろしたり
みんなの中に
すっぽり入った感覚がいい
もし そうだったら
最後まで踊りたい
音楽が鳴りやむまで
いつか夢見ていたお城で開かれるパーティーで踊るヒラヒラ輝くドレスを着たお姫様に。一緒に踊りませんか?白いタキシードに身を包んだ自分だけの王子様。そんなことを思った純粋な時期も時間が経つにつれ記憶の奥底に眠っていく。
そして現在、ジャージ姿に腹を出して眠る毎日。彼氏には、遊ばれそしてまた私も片思い。でも、いつの日か憧れたお姫様みたいに私を心から愛してくれて大切にしてくれる王子様にあえるのを私の妄想の中だけでも期待させて欲しい。
私と踊りませんか?私と踊ると幸せになれます。でも、悲しいことを思い出します。私と踊ると全てのことが楽しくなります。でも、一瞬で疲れます。私と踊るととても笑顔になれます。でも、気持ちが少し痛みます。私と踊ると世界を見渡せます。でも、大切な人を失います。私と踊りますか?
踊りませんか?
この騒がしい屋敷のなかから
何百人もの中から
低い確率の中で
お互い出会えたんですから
よかったら僕と踊っていただけませんか?
あ え?
い だから当たったの
あ ほんとにほんと?
い 何度も言わせないで
あ 倍率1000倍だよ
い ねー
あ 今年の運使い果たした
い それでも良い
『踊りませんか?』
稽古の日は、仕事は5時半には切り上げよ。
しんどい。
踊りませんか…。
生来のリズム音痴であるため「踊り」には楽しい記憶がない…。
「さて、どうしようか…」と悩んでいたら、賑やかな二人組が脳裏を過った。
(゜゜)「バッカーノ!」ノ「ドロボーカップル」ダ
脳内で二人が楽しく踊り始めたので、今日はバッカーノ!の話にしよう。
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バッカーノ!
著者:成田良悟
第9回電撃ゲーム小説大賞「金賞」受賞作品
既刊:22巻
タイトルの「バッカーノ」とは、イタリア語で「馬鹿騒ぎ」を意味する言葉。多数の登場人物が織り成すスリリングながらもにぎやかな群像劇であり、シリーズを通して固定された主人公は存在しない。錬金術師達が作り出した不死の酒を巡って起こった、不死者と人間の物語となっている。
(ウィキペディアから引用)
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バッカーノ!の登場人物の中には「泥棒カップル」(バカップル)と呼ばれる二人組がいる。
アイザック・ディアンとミリア・ハーヴェント。
二人共底抜けにポジティブでお馬鹿な言動を繰り返すが、結果多くの人を幸せにするという──物語屈指のトリックスターだ。
個人的感想だが、純粋で優しい心根を持ったキャラクターだと思っている。
故に、不死を巡る重く暗い話がある中で彼らが登場すると、私はホッとした気分になる。
狂言回しでもある彼らが登場するだけで、物語はいつも様相を変える。
彼らのハイでお馬鹿なテンションを前にすればシリアスなんぞなんのその。
シリアスのシの字も存在させない。
読者は二人の言動にケラケラ笑っているうちに、物語に感じていた暗さも重さも忘れてしまう。
暗さを明るさに変えてしまう彼らの手口は、実に鮮やかで見事だ。
そんな彼らは、場面から退場しても、安心とあたたかさだけを胸に残していく。
お馬鹿だけど、なぜか憎めない──本当に愛すべきキャラクターだ。
この二人は文章として読むのも楽しいが、アニメだとより楽しい。
声優さん達の息の合った台詞回しには、感嘆を禁じ得ないものがある。
ハイテンションなコメディーがお好きな人にはオススメだ。
動画で思い出したが、ニコニコ動画にある「成田良悟 流星群」の中に二人を表す素晴らしい歌詞がある。以下引用。
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何故彼らは盗むのか
その身隠しつつ盗むのか
ミイラ インディアン 大リーガー
通行人と記念撮影
本人達に自覚はなく
我知らず幸福まき散らす
人の心まで盗み出す
そんな愛すべき馬鹿な二人組
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底抜けに明るい彼らは泥棒なのに、人を貶めようとはしない。
あるがままを楽しみ、すんなりと色々なものを受け入れ、幸福に変えてしまう。
そんな彼らであるならば、リズム音痴でぎこちない踊りを踊る私を、ユニークな言葉で受け入れてくれるに違いない──そう思うと、より彼らが愛おしくなってしまうのだ。
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踊りませんか
あなたはいつも周りに気を遣って頑張って笑っていたね。時々見せるその冷たい表情があなたの本当の顔を見ているようで好きだったよ。あなたはきっと嫌だと思うけど。
きっと怖かったんだね。本当の自分を見せることが。
でも私は見たいと思ってしまったんだ、あなたのことをそして願わくはその表情を笑顔にしたいと。
「私と踊ってくださいませんか。」
踊りませんか?
忘れましょうよ
さあ、踊りましょう。
「踊りませんか?」
憧れの大きなお城!
いつか舞踏会とかしてみたいなぁ
そんな夢見がちな私はいつも学校から見える
お城に憧れていた。
そんなある日の下校時間私は家に帰る前にお城の前に行った。
「ねぇそこの君このお城の人?」
少し怪しい男の人が話しかけてきた。
私「いいえ、私はこのお城が好きなだけです。」
「君さ……」
私は怪しい男の人が言った言葉に驚いた。
その晩私は憧れのお城で舞踏会をし、一緒に踊った
なんと、あの時の男の人はこのお城の王子だったそう。
私がいつもお城に来ていることを王子様は知っていたんだ。
あの時私が王子に言われた言葉は
「君さ、僕と一緒に踊りませんか?」
踊りませんか?
「Shall we ダンス?」
1996年公開 監督 周坊正行
主演 役所広司 草刈民生
しか思いつかない、楽しいような切ないような
不思議な映画、、また中年サラリーマンの夢物語。
男性目線のエンタメ映画ドラマも久しく観ないが、その終焉の美のような映画でもあった。貞操で奥ゆかしく夫を愛する妻は夫を理解し許し、夫は妻に文句がある訳じゃないけれど黄昏ゆく我が身の夕暮れを、車窓に映るうら若き踊り子に映し遠い海だか山の音だかを見たり聞いたりしてしまう、勝手にやってろ!的な映画
彼女は悲しげな眼差しで遠くを見つめ、風に戸惑う弱気な僕に通りすがりに影を落とす、本当は見た目以上に涙もろい過去があると勘ぐり
消せどもゆる魔性の火勝手に燃え上がらせて中年サラリーマンの悲哀物語は始まり、門を叩くそのうち社交ダンスの楽しさに目覚め、仲間を得て青春リメンバー・ミーの中年サラリーマン
格好良くお嬢さんの蟠りを解し元の居場所に戻し、花は日の当たる場所で水を受けて咲かんとす、中年サラリーマンスキップしながら家に帰る、「トキメキは、遠い日の花火なんかじゃない」家に帰れば 物分かりの良き妻が笑顔で迎えるのであった。
役所広司たからだからねー許されるの
そこのオジサン(笑)遠い日の花火は五番街の場末のスナックにでも鍵かけて閉じ込めておいてください。
そんなくだりより、たま子先生の
「王様と私」の乙女チックな夢物語の方が素敵だった。
「The・King&I」
「Shall we Dance?」
1956年米国映画
ブロードウェイミュージカル1951年初演
ユル・ブリンナー素敵だったよねぇ、たま子先生。
令和6年10月4日
心幸
校舎を出て桜道を散歩している夜。
今日は月が綺麗で、その淡く綺麗な光が桜を照らし
甘美な雰囲気が道を包む。
なんだか、ただ散歩するだけでは物足りなくて
「踊りませんか」
と軽く会釈するようにして手を誘う。
なんて、踊りの教養なんてないのにそう言ってしまった。
「ふふ、どうしたの急に」
なんて君が微笑みながら手を乗せ,音無きリズムに合わせて
優雅に踊る。
「なんだか散歩だけじゃ勿体ないと思ってさ。」
踊る君に釘付けになりながらそう行った。
「確かに、今日は月が綺麗だもんね」
とにこやかに顔を明るくすると、
「あっ…」
君が足が絡まってバランスを崩してしまいそうになった。
「大丈夫?お姫様」
自分の手を君の背中に回して支える。
ぎゅっと顔との距離が近くなった。顔では笑顔を保っているけど、にやけているのかそれとも照れてぎこちない笑顔なのか自分でも分からない。
「……ありがとう。私の王子様。」
君は顔を俺より赤くして気恥しそうに笑うとそう言った。
「…えへへ」
「…はは」
2人とも気恥ずかしくて、額を合わせてへにゃりと笑って誤魔化した。
その後はケルト音楽でもあるかのような身軽なステップで踊り、疲れ果てるまで楽しく踊ったのだ。
こんな夜も悪くないだろう
僕は膝を着いて、君に手を差し出す。
僕と、踊りませんか?
君は恥ずかしがりながら、俯いて、小さく頷く。
体育館は歓声にみちる。
そんなにか……?まあでも、君が可愛いからかな。
そう思いながら、僕は立ち位置に君と立った。
曲が始まる。
学校はたちまち小さいダンスホールと化す。
フォークダンスを踊る他の皆なんて目に入らなかった。
君と僕だけの世界みたいにキラキラした時間。
皆は僕たちを見ていた。一際目を引く存在だからだ。
だって、余りにも君が綺麗だから。
君と、付き合えてよかった。
あぁ、好きだなぁ……。
君をエスコートしながらダンスをする。
君のダンスはまるで踊り子の舞のように可憐だった。
愛してるよ。
愛おしさが溢れてつい、ダンスが終わると同時に、僕はそういって君のおでこにそっと優しくキスを落とした。
やばっ……。君に怒られる……。
そう思ったら意外な反応をした。
君は徐々に林檎のように頬を赤く染める。
たちまち黄色い歓声に体育館が騒がしくなる。
僕は君の恥ずかしくて小さくなった声を聴き逃さなくてよかった。
私も。
って。
くるくるまわるイチョウの葉と、
秋を踊りませんか?
【堕落のダンス】
彼と出会ったのは、少し古いダンスホールだった。
偶然足を運んだダンスホールでは、皆が楽しそうにステップを踏んで踊っていた。
その光景を横目に私はカクテルを貰い、近くの椅子に座った。
みんな、楽しそうだな。
なんて溜息を一つついたときだった。
「見慣れないお顔ですね。」
ある男性が声をかけてくれた。
「あっ、はい。ここに来るの、初めてで…」
「そうですか。貴方は運が良いですね。
ここは素晴らしい場所ですよ。
皆さん、不自由の中で自由に踊っているのですから。」
彼は私の方を向き、こう言った。
「良ければ、僕と一緒に踊りませんか?」
私は少しだけ目を見開いた。
彼の優しい目が、私の心を撫でた。
「…私で良ければ、喜んで。」
踊り方を知らない私をリードするかのように、彼はリードしてステップを踏んだ。
「ごめんなさい。
私、踊り方とか全く知らなくて…」
「踊り方なんて、誰も知りませんよ。
みんな、心で踊ってますから。
足が勝手に動くだけですよ。」
そんな彼の言葉を信じて、私は気の向くままに足を踏み出した。
彼に握られた手、一人ではないという感触。
心地よいと感じた。
ずっと身を委ねていたいと、心の底からそう思った。
口角を上げた私は、彼の手をぎゅっと握りしめた。
その後何度もダンスホールに足を運び、その度に彼と踊った。
連絡先を交換して、休日に会ったりするようにもなった。
いつしか敬語は消滅し、タメ口で話すようになった。
「私のこと、好き?」と訊けば、
「世界で一番愛してる」と返ってくるほど、
私達はお互いを愛している。
しかし、神様はそんな幸せそうな私達が憎らしかったのだろうか。
あんなことになるなんて。
同棲し始めてしばらくして、借金取りに追われるようになった。
「おい、ドア開けろやぁ!」
ドンドンッと玄関を乱暴に叩く音。
「ねえ、どうする?」
私は声を震わせた。
「窓からこっそり出よう。バレないように。」
彼は荷物をまとめ始めた。
「麻里佳、先に逃げろ。」
「えっ、快くんは…」
「後から行く。」
彼には借金があるらしい。
なぜ借金をしているのかは知らないが、彼なりの事情があるのだろう。
私はこっそりとベランダから出て逃げた。
「そこの喫茶店で落ち合おう」
「はぁ、はぁ…お待たせ…」
彼がやってきた。
「借金取りは?」
「きっと今も健気に玄関叩いてるよ。
僕達がどこにいるか知らないよ。」
「あの人も馬鹿だね。」
「でも、絶対おかしいって気づく。
捕まるのも時間の問題だよ。早く逃げなきゃ。」
私達はまた走り出した。
行く先も定まらぬまま。
廃工場の近くまで逃げた。
「ここまで来たら…もう…安全…」
彼は整わない息のまま呟いた。
「きっと、大丈夫だよね?」
「うん、大丈夫」
なんて思っていた。
全然大丈夫では無かった。
「お前ら、見つけたぞ」
「あ゙ぁ?腑抜けた顔しやがって」
「雑魚な見た目してやがる、たっぷりもらうとするか」
見つかった。
「うぅ゙…」
声にならない声を漏らした。
「逃げよう。」
私は彼に手を引っ張られて駆け出した。
廃工場の中。
薄暗がりで怖い。
私は彼のコートをぎゅっと掴んだ。
肌寒い秋の空気が張り詰めて、緊張感を増している。
「どこだぁーっ!」
遠くから借金取り達の声が聞こえる。
「…来るっ。」
「逃げろ」
「えっ」
「麻里佳だけでも逃げろ」
信じられなかった。
だって私は…
「快くんと一緒じゃなきゃ、嫌だ…」
「でも、僕たちは殺される。」
冷えた声で言われた。
「麻里佳は生きろ。」
「…うん。」
私は逃げた。快くんを置いて。
目に涙らしきものが溜まるのを感じたが、そんなのはどうでもよかった。
一方彼は、廃工場の外に出た。
「おい、外にいるぞ!」
借金取り達が一斉に外に出ていくのを、私は物陰からじっと見ていた。
決して見つからないように、息を殺しながら。
何やら言い合いをしているのが見える。
快くん、どうか…
彼はいきなり腕を伸ばした。
手に握られているのは…拳銃。
なんで拳銃があるの?
私は困惑した。
まさか、本物ではないだろうな。
そして拳銃には弾が入っていて、撃ったら
バンッ
…カランッ
私は目を見開いた。
本当に、撃った。
そして、拳銃は本物だった。
赤い何かが見える。
「お、おい、こいつ撃ちやがった。逃げろ!」
借金取り達が次々と逃げていき、外には彼一人と赤い何かが残った。
私は走って外に出た。
激しく雨の音が聴こえる。
「快、くん…」
私は思わず手で口を塞いだ。
倒れた人。
彩度の明るい赤い血が雨で薄まっていく。
「まさか、本物だとは思わないじゃん…」
彼はぎこちない笑顔を私に向けた。
恐怖と不安と絶望に染まった笑顔。
私は震える指に力を入れた。
彼の手を握った。
「一緒に、逃げよう。」
ああ、初めて逢った時もこんな感じだったな。
この手の温もり、
目線、
一人ではない感触。
「逃げよう。」
私達は手を繋いで、雨の中を走った。
走りながら考えた。
私達は何を馬鹿げたことをしているんだろう、って。
だけど、私達はこうするしかないんだって。
踊り方を知らない私は彼に踊り方を教えてもらって、
今では一緒に駆け出している。
酷く冷たい雨なんか気にせず、
ただただ走った。
私達の行く先は不透明。
シンデレラが靴やドレスを煌めかせて踊っていそうな、優雅な舞踏会で踊る円舞曲。ミュージカルでダンスシーンを眺めると本当にその光景は素敵で、はあ…とつい口を閉じるのも忘れて魅入られる。音楽と靴の音が響く。一夜の夢のようだ。映像であることを忘れてしまうくらい目に焼き付いた。なんだかうずうずしてしまう。自分でも出来ないかな?よし、やってみよう。チャレンジ精神は大事だよね。ペアが居ないのが惜しいなあ…
テレビを切って立ち上がった。足や手を動かしているが、美しく踊るどころか、絡まってしまいそうになっているようだ。ぺちぺちと鳴る裸足のステップ。ぎこちなく回る。あっ、足を滑らせた。なにやってんの?思わず声をかけた。姉は腰を擦りながらキョトンとした。その顔はすぐに満面の笑みに変化した。ちょうどいいから、そのお菓子とジュースそこに置いて!そう言って立ち上がった。次の一言は簡単に予想できた。
あー…また姉の気まぐれに付き合わされるのか、とため息をついた。
踊りませんか?
人生とゆう大舞台で一緒に
一緒に踊ってくれませんか?
君とならきっと大丈夫な気がする
だから、この大舞台で君と僕で
踊りませんか?
月明かりが差し込む。
時刻は草木も眠る午前2時。
私の時間はここから始まるの。
大きな音は出してはいけないから、足音も鳴らないように気を配る。
un,deux,trois
un,deux,trois
1人ダンスのステップを踏む。今は人目を忍んでしか踊れないけど、いつか私をエスコートしてくれる人と一緒に踊ることを夢見てーーーー。
私は所謂、地方を治める男爵のひとり娘。
貴族階級では下も下。領地運営に多くの経費を割いているため私達家族は質素な生活をしている。
領民は私達領主一家に好意的で、よく働く人ばかりのため領民の生活は豊かな方だと思う。
私の父は貴族然としているのとが苦手らしく、日々領民と混じっていろいろな仕事をしている。
雑談の中であれが困ってる、これが壊れてるなど聞けばすぐさま修理や改善の手配をするような領民思いな人だ。
母は家の事を進んで行う人で運営会議や外交のみならず、屋敷の維持管理などの掃除まで行うのだ。
母が掃除に参加するのもあり、家の使用人は少数精鋭で多くない。
単に地方なため働きに来てくれる人がほとんどいないっていうのもあるかもしれないが…。
そんなふたりのもとで幼少期を過ごしてきた私は、領民の仕事の手伝いも屋敷の掃除も楽しく行う淑女とは異なる貴族令嬢へ育った。
勉強はそこそこに、淑女教育は最低限のマナーさえあれば問題ないわと家庭教師泣かせな子だった。
そんな私でも舞踏会への憧れはあった。
舞踏会なんて王族から招待されない限り出席しない我が家だけど、いつの時代も女の子として1度は運命の人と舞踏会で踊ることを夢見ることはあるわけで。
領民の子供らと話すときに、年頃の女の子がいるときは必ず舞踏会への憧れの話が上がるのだ。
夜更けに1人、練習するのには訳があった。
淑女教育は放り出してるため、ダンスがからきしなのだ。
ダンスが難しすぎてステップや首の角度など細かいことを覚えながら動くのが私にはどうも合わず放り出す要因なのであった。
苦手でも憧れはあるわけで。
こうして時間を作っては練習をしているのだ。
「いつか、こんな私でも一緒に踊ってくれる人が現れたらいいなあ…」
そんな日々を過ごしていた中、社交シーズンに入った。
社交シーズン開幕を宣言する舞踏会が開催されると、王家より招待を承った我が家は慌しく準備をし参加する運びとなった。
開幕を宣言する舞踏会は初めて社交界へ参加する貴族令嬢のデビュタントを兼ねている。
私はここで社交界デビューするのだ。
緊張で動悸が激しい。足が竦む。ミスは許されない。
舞踏会参加が決まってから今日までの毎日はあっという間に過ぎていった気がする。
気がついたら会場へ入場待機しており、気がついたら開幕宣言を国王陛下がしていた。
私、ミスをせず入場できたってことでいいのよね??
緊張で入場前後の記憶がまっさらだ。
地方貴族の私は、王都に交流のある同年代の貴族がいないため開始早々壁の花になっていた。
『これなら、領民と話ししたり仕事したりしてたほうが楽しいかも…』
ポツリと1人、人々を眺めてると領民とワイワイしてるときのことが浮かんできて早く帰りたいなと思えてきた。
もちろんそれができないことはわかってる。
貴族にとっては社交は立派な仕事の1つだからだ。
父も母も他貴族と話術の応戦をしているなか、娘の私のわがままで退席するわけには行かない。
「中庭にでも行こうかしら…」
中庭は立入禁止とお触れがなかったなら、散策することは可能なはずだ。
私はそっと会場を出て中庭へと進む。
道中、案内役のメイドや見張りをしている騎士があちこちにいた。
そのうちの1人に中庭への道を聞き、中庭を目指す。
「ここなら静かで落ち着くわ。」
中庭に着き、キレイに整えられている薔薇を眺める。
人気はなく、月明かりに照らされてる薔薇はとてもきれいだった。
「…ちょっと踊ろうかしら、もし失敗しても誰もいないし恥ずかしくないわよね。
まだ時間もあるだろうし、やろう」
デビュタントした令嬢は、ダンスホールで1番に踊る慣習があることは知っている。
ただそこで失敗したらデビュタントでダンスを失敗した令嬢とレッテルが貼られるのは確実だろう。
流石にそれは避けたい。
un,deux,trois
un,deux,trois…
いくらテンポについて行けるようになっても、ステップを間違えないようになっても、姿勢がキープできても、所詮1人練習。
パートナーのステップがどう動くかわからないので、相手の足を踏んでしまうかもしれない。
そんな不安はどんなに練習しても拭えなかった。
「はぁ…不安って練習しても拭えないのね…」
思わず心配が溢れる。
くすっと笑い声が聞こえる。
誰かに聞かれた!?
声がした方へ勢い良く振り向く。
そこにはきれいな顔立ちをした同年代と思われる男の子がいた。
正装をしてるためどこかの貴族令息だとは思うが、なにぶん貴族には疎いので誰かわからない。
どう反応すればいいか固まっていると向こうから声をかけられた。
「覗き見するつもりはなかったんだ。失礼した。
ダンスタイム前に夜風に当たりたくて人気がないところを探して歩いてたら、1人踊ってるきみを見かけてね。
つい見入ってしまったんだ」
丁寧に謝罪をいただくも、1人見られた恥ずかしさでそれどころではなかった。
「いや、誰もいないと思ってたので…お恥ずかしい…
今見たこと忘れていただければと存じます」
最低限のマナーじゃだめだと痛感した。
きっと謝罪を受けたときの返事の仕方とかあるのだろうけど、私は知識として持ち合わせてない。
家庭教師は、言葉の言い回し一つで今後の人生を大きく左右するなんて大袈裟なって思ってたけど外の世界では必要でした先生すみません。
慌てる私を見て、また男の子はくすりと笑う。
早くこの場から立ち去りたい!!
相手の方が上位貴族の場合、私からアクションを起こすのは失礼に当たったはず!
どうすればいいかぐるぐる悩んでると、男の子が口を開く。
「ここは公式な場ではないから、ここにいる間は楽にしてくれて構わないよ。
私が不躾に令嬢が1人でいるところを覗いてしまったんだしね」
発言から上位貴族であることが伺えた。
建前で楽にしてって言われたのかわからず戸惑う。
「うーん…いきなり楽にしてって言われても難しいよね。私の配慮不足だごめんね。
お詫びにはならないかもしれないし、デビュタント前の令嬢に提案するには失礼かもしれないがよければ私が練習のお相手をしても?」
意外な提案がとんできてどう答えていいか逡巡する。
「え、と…
魅力的な提案ではあるのですが、私と練習とはいえ踊ることであなた様の婚約者様の気分を害しませんか…??」
男の子は目をぱちくりさせ面くらった表情をする。
え?貴族って幼い頃から婚約者がいることがほとんどって教わったけど違った??もしかして失言!?
反応に慌ててると男の子は大きく笑う。
「あはは!面白いこと言うね!
大丈夫だから気にしないで!
ほら、嫌じゃなけば私の手を取って?」
差し伸べられた手を躊躇いがちに取り、男の子のリードで練習をする。
un,deux,trois
un,deux,trois…
「1人で練習するくらいだから、ダンスにとても苦手意識があるのかと思っていたが中々上手じゃないか」
男の子の感想に嬉しくなる。
「ほんとですか?
私、ダンスの練習時間より領民と仕事をするほうが好きで全然練習してなくて…さすがに人前で見れるくらいには踊れなきゃと思って1人で練習してたんです。」
「へぇー1人で?言われなきゃわからないくらい上手だから自信持っていいと思うよ」
初めて踊った人にこんなに褒められてとても嬉しく、きっと大丈夫と何処かで思えるようになってきた。
「初めて人と踊って、そんなふうに褒めてもらえるなんて思ってなかったです。ありがとうございます。」
踊ってるあいだ、顔をまともに見ることはできなかった。
ダンスのマナーとしては良くないと思うが、きれいな顔立ちを近距離で見る耐性は私には備わってなかった。
「あ、そろそろダンスタイムですよね。
私の練習にお付き合い頂きありがとうございました。
きっとこのあとのダンスも問題なく踊れそうな気がします!
名前も顔も存じ上げない失礼をお許しください。」
お礼も謝罪もそこそこに私は逃げるように会場へは足早に戻る。
不敬だと言われてもおかしくないだろうが、私の精一杯がこれだった。
なんとか開始前に会場へ戻り、姿が見えないことを心配していた父母に中庭で涼んでいたとだけ伝え国王陛下のお言葉を待つ。
「皆のもの、楽しんでいただけてるだろうか。
今宵がデビュタントの令嬢たちよ、このあとのダンスデビューに向け日々練習を重ねてきた努力をここで見せてもらう事となる。
このあとのダンスは一生の出来事になるであろうから楽しんでくれ。
デビュタントの令嬢たちよ、ダンスホールへ」
国王陛下の言葉でデビュタントする私を含む令嬢たちが緊張を含みながらダンスホールへ進み出る。
私のパートナーは父。知り合いの同年代貴族は居ないし、親戚にパートナーを務められる男性がいなかったから。
周囲が少しざわつく。
そうよね。父親がパートナーってなくはないけど珍しいわよね。と思いながらエスコートしに来る父を待つ。
周囲が次々にエスコートされながらダンスホールの中央へ進む中、なかなか来ない父。
不安になり見回すとまっすぐ私に向かってくる人影を見つけた。
だが、父と背格好が異なる。あの方は誰ーーー?
《あの方は王太子殿下では…》
《本日は出席されないと伺っていたのですが…》
《あの方のデビュタントのエスコートをされるのかしら…》
《てことは婚約者…?》
ざわつきの中でいくつか聞こえた声。
王太子殿下って言ってた…???
私へ向かってきてた方は私の前で立ち止まると片膝をつき手を差し伸べる。
「不躾な申し出をお許しください。
今宵のあなたをエスコートする栄誉を私めに賜らせていただけないでしょうか?」
周囲のざわつきが大きくなる。
私でもわかる。この手を取ればもっとざわつきが大きくなる。
戸惑う私に彼はいたずらをするように笑いながら小声で言う。
「私を知らないというのも新鮮だった。
それに先程の時間は私にとって楽しいひと時だった。
あなたが許すなら楽しい時間をまた私に過ごさせてほしい。
ご令嬢、私の手をお取りいただけないでしょうか?」
ゆっくり手を差し伸べる。
夢なのではないかと思いながら。
手が重なった時、彼の体温を感じる。
これは夢ではないんだ。
瞬間、ブワッと湧き上がる感情。
私今、物語のお姫様みたい。
運命の人と舞踏会で踊るってこんな感じなのかな。
「さあ、踊りませんか?」
【踊りませんか?】
踊りませんか?
(本稿を下書きとして保管)
2024.10.4 藍