『距離』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
距離感がおかしい
素っ気なくしてもお構いないらしく
縮まるほどの距離がはじめからない
好きなはずなのに嫌気が差す
物理的距離は近いのに
精神的距離は離れていく
遠距離じゃないのに一人だけ遠距離みたい
少し距離を取りたい。
嫌なはずだったのに望んでる
心の距離が開きすぎた
君との距離と僕の気持ちは反比例していくよう
僕たち、別れようか。
『距離』
急坂を下りながら
たわいもないお喋り
話しは色々膨らんで
笑い合いながら足早に歩く
交差点に差し掛かり
横断歩道を渡ると別れ道
あなたは真っ直ぐ
私は右へ曲がる
もうここでお別れだね
まだまだ喋り足りない
少し立ち止まり続きの話し
あなたがもうそろそろだね
話しを切り上げる
そうだねと私も頷く
じゃあねと挨拶を交わし
後ろ姿を横目に密かに見つめる
顔の表情は見えない
颯爽と歩く姿が
素敵でもあり寂しさも感じる
それぞれの居場所へ向かう
それぞれの生活
それぞれの空間へ
後ろ姿を見るのが好きな私も
前を向いて颯爽と歩き出す
目の前には青空が広がり
風が爽やかに通り抜けていく
[ #32. 距離 ]
見に染みてわかる、僕と君の距離。
それは物理的なものだけでなく、心もだ。
君が僕のことを何とも思っていないことを、僕は身に染みてわかっているよ。
だけど、それでいいんだ。君が特別な想いを抱いてなくても、傍にいてくれれば、それで僕は大満足なんだ。
この力で、いつか君を遠ざけて、その命の助けのひとつになれば御の字だ。それ以上望みはない。最初に望んだことはすべて叶えられてしまった。ここまでの過程で望んだこともおそらくすべて叶ったとしてもいいだろう。私によって。あるいは君によって。
「うるさいな、うるさい。聞きたくない」
君の一歩は大きいから、そして力強いから、私の望みをことごとく無碍にして踏み荒らしていく。意見の合わなさが、相反が、お互いの存在を浮き彫りにして、どうにかここまで見失わずに済んだ。だからこそ叶えられた願いによって私が構成されていると君は知らない。愛してるよ。万物すべての質量に勝るほど、深く、大きく。君はそんなもの愛じゃない認めないと唇を噛んで私を抱きしめるけど。
「昨日も昨日だったが、今日も今日で、書きたいものと読みたいものの乖離……」
『久しぶりに会った肉親の、己に金銭によって礼をする態度を見て、しんみりする。
「あぁ、自分たちは、いつの間にか、対価で確実に感謝が見えなければアリガトウも伝わらない距離まで、離れてしまっていたのだ」』
という物語を思いついたものの、書き手の己は書きたいが、読み手の己には胃もたれが過ぎる。
某所在住物書きはうんうんうなり、深い溜め息を吐いた。要するに理想と理想の両端が、その距離が離れ過ぎているのだ。
読みたいと書きたいの積集合が迷子とはこのこと。
「距離、きょり、……三角形の点PとQ……?」
とうとう頭が沸騰し始めた物書きは――
――――――
都内某所、某職場のとある終業時刻。
やー終わった。疲れたごはんごはん。
土曜日特有、かつ独特な、客を入れぬ事務作業だけの午前中限定業務。
正午きっかりで作業を終了し、背伸びに大口のあくびを添え、緩慢に己のポケットをまさぐった女性は、コードレスイヤホンを取り出し耳元に近づけて、
「……あるぇ?」
スピーカーが、己の意図せぬタイミングで、すなわち己の耳からまだ十数センチ離れた距離で、
すでに、シャカシャカ音漏れを発している事実に、数秒固まった。
コミックやアニメのコメディーシーンよろしく、目が点だ。途端フリーズの解除された彼女はイヤホンをデスクに放り投げ、瞬時に起立して椅子を後方に押しやり、
胸ポケット、
腰ポケット、
スラックス、
内ポケットの順に、バッ、バッ、バッ、ササッ。
キレのある動きと布擦れの音で、隣に座る同僚を瞬時かつ継続的にポカンせしめた。
「わたし、スマホ、どこやったっけ」
無論、自分の、プライベート用端末のこと。
緊急事態発生である。予想が正しければ、彼女のスマホは数時間、無駄にバッテリー残量を消費していたことになる。
充電今残り何パーセント?!
「最後に使ったのはいつだ」
良くない予感に血の気が引いている女性の顔を、その蒼白具合を、
彼女と長年共に仕事をしている先輩、藤森のジト目が観察している。
「何で使って、誰の目の前で、どこに置いた」
「それが分かってたら苦労しないって」
ブリーフケースをひっくり返し、アンティークブックデザインのシークレットボックスを開けても、目標物を発見できなかった後輩。
床に落とした可能性を閃きデスクの下に潜って、
「………いっッたぁ!」
出てくる際、盛大に後頭部をぶつけた。
「あー、もう、ツイてない」
憐れな隣席の個人的同僚を、一緒に探してやるため席を立った職業的同僚は、
向かい席の乾いた咳払いに呼ばれ、
すなわち藤森がチラチラ見ている視線、その向こうをつられて見遣って、
気付き、注視し、メガネをズラして二度見して、
小さく数度頷き、席に戻った。
何故隣部署の主任が己の席で彼女のスマホを振り、『わすれもの』の口パクをしているのだ。
後輩による懸命の捜索は続く。
来客用のソファーの隙間、たまに落書きしてバレる前に消すホワイトボード、先輩が慣習惰性で世話をしている観葉植物の植木鉢。
「土曜日だもん」
後輩は言う。
「遠い距離は移動してないから、確実に、近くに」
そうだね。「確実に、近くに」あるね。
「遠い距離」じゃないね。
ジト目の藤森と、ニヨニヨイタズラに笑う隣部署の主任とを交互に見ながら、
スマホ捜索継続中の隣人を見る同僚は、くちびるを真一文字に、きゅっ。
「おい、宇曽野」
藤森が隣部署の主任を、つまり己の親友を呼んだ。
「分かっているとは思うが……」
大丈夫大丈夫。安心しろ。
そもそもパスワードを知らん。
主任は万事心得ている様子で、ぷらぷら右手を振り、
こっそり、後輩の目につきやすい、違和感も不自然も無く近い距離のテーブルへ、
彼女のスマホを、パタリ置いた。
縮まったと思ったらまた離れてく
そんな〝距離〟感を感じてしまうのよ…
あなたの伸ばした指先が届かない距離。
それが僕とあなたの正しい距離。
近づこうとするあなたと離れようとする僕の、妥協の距離。
後ずさりしたくなる恐怖を必死に押し留める。
僕をよく知っているあなたは、わずかに口の端を引き上げていた。
二次創作 文豪ストレイドッグス
『距離感バグの賢治くんに翻弄される夢主ちゃん』
うちの後輩は距離感がバグってる。
例えば、朝出社した時。
「おはようございますzzzzz」
「おい! 𓏸𓏸! 挨拶をしながら寝るんじゃない!」
「国木田くん、うるさぁい……」
私が目を擦りながら席に着くと
「𓏸𓏸さん! おはようございます! 今日はいい天気ですね」
と言って賢治くんが後ろからギュッとしてくる。
他にも、私が任務から帰ってくる時。
「ただいま帰りましたー」
「𓏸𓏸さん、おかえりなさい!」
と誰よりも早く反応し、真正面から抱きついてくる。
与謝野さんあたりに相談してみたけど、「賢治らしくてかわいいじゃないか」と言われてしまった。
可愛いのは認めるが、距離感はどうにかして欲しい。仮にも、異性だし……。
「考えすぎではないか? 賢治だぞ? あいつはきっとお前のことを姉だとでも思っているんじゃないか?」
「あれ? 国木田、私声に出てた?」
「はっきりとな。そこまで気になるなら本人に直接聞け」
確かにそれもそうか。私は早速、今日の帰りに聞いてみることにした。
「ねぇ、賢治くん」
「はい、何でしょう?」
「賢治くんってよく私に抱きついたりしてくるけど、私のことどう思ってるの?」
賢治くんは即答した。
「大切な人です!」
「えぇっと……それはどういう意味合いの大切なのかな?」
私は少し動揺してしまう。
賢治くんはしばらく考えたあとに私の目を見て言った。
「よくよく考えてみると、社のみなさんも大切な人です! ですが、𓏸𓏸さんはなんだか違うんです。だから、大切な人ではなくて……うーん。なんて言えばいいのか分かりません!」
それを好きな人って言うんだよ……多分……。とはさすがにいえなかった。
自分の質問によって賢治くんの私への好意が明らかになってしまった。
「そっかぁ。分かるといいねー」
これからも彼の距離感バグは治らなそうです。
お題:距離
2023 12 02
距離
人との距離感って大事。
自分のスペースに遠慮なしに入ってくる人。
初対面だったら、ちょっと驚くし、どう対応したらいいかわからない。
友達だったらなんとなく距離感わかってるから別に気にしない。
【距離】
距離が近い姉弟だとは、よく言われてきた。姉の無駄に長い買い物に文句も言わずに俺は付き合ったし、俺が海へ行きたいと言えば姉はいつだって俺の手を引いて連れて行ってくれた。だけどそれはいつかこの距離が永遠に開いてしまうことを、互いに知っていたからだ。
物言わぬ墓石の前に、イヤリングの箱を置く。姉がきっと喜んだだろうなと思うデザインのアクセサリーを見ると、いつも買ってしまうんだ。使う人間なんてもう誰もいないのに。
「……おまえの歳、ついに超えちゃったよ」
二十歳になるまで生きられないと医者から宣告されていた姉は、その短い人生を全力で楽しんでいた。不満も恐怖もなかったはずがないのに、俺の記憶に残る姉はいつだって笑顔しか浮かべていない。
このまま俺は歳を重ねて、恋した人と結婚して、子供が生まれて、おじいちゃんになっていくのだろう。十九歳で時間を止めたおまえとの距離は開く一方で、二度とこの手はおまえには届かない。
姉が死んだその日からぽっかりと空いた心の隙間。冷ややかな風の吹き荒ぶその寂しさを胸に抱いて、俺は姉の生きられなかったこれからを生きていく。
距離
遠距離恋愛(新幹線恋愛?)
中距離恋愛
違う都道府県ぐらい離れた恋愛
殆ど続かないらしい!
近距離恋愛ってあったかな?
5メール婚ってあるけど‥‥
別れる原因
生活の不一致
性格の不一致
性の不一致
倦怠期かなんかに
「距離を置きましょう!」て言われるそうだけど、全然意味不通?!
俺だったら5W1Hとか聞いてから「それでは是からも良い友達でいましょうね!」とか何とか言っときながらスケベして撚り戻ったりして!
関係続けたいなら「文通しょう」って!郵便の方ね!3次元的に“距離”保てるし、物質より肉体より心の絆かな!
基本、一夫一婦制の矛盾みたい?
今の中国の大万元子は、6千人、嫁さんがあるそうな?肩書きだけ?
大奥かな!「今日もお当たりが有りません」かな!
74作目
ひーじいさん(武士)には第二婦人がいた!一夫多妻制が理想の(但し7人まで)、ロングジャンパーで短距離走スプリンター(全力疾走100m)の 徳博😧
P.S
長距離ミサイル〈大陸間弾道ミサイル(ICBM)〉恋愛って日本と北米間の恋愛かな?!
中距離ミサイル恋愛(攻撃的な恋愛)は辞めてね!
何も気付いてないわかってないふりして
人から距離をとる
怖いんだよね 人からの好意が
私何もしてあげられないし
甘え過ぎちゃうみたいだし
期待に応えられないから
面倒くさいし
なのに寂しがりやで人恋しい
誰か
この壁を突き破って会いに来てくれないかな
距離をおくならダッシュで詰める!
みたいな人…
まぁいたらいたで面倒くさいな
【 距離 】
「オレ、今日1着だったんだぜ!」
「ワタシもよ。これで連勝なの」
今日も、競走馬たちがお互いの近況報告をしている。
年間の出走数は多くないから、勝ちを得るのは重要だ。
「でもお前は長距離だろ?スプリンターの方が速いから、オレの勝ちだな!」
「何言ってんだか。持久力ならワタシの勝ちよ」
顔を合わせると挨拶代わりのケンカが始まる。
距離の違うレースでどちらが上かなど比較しようもない。
100m選手とマラソンランナーのどちらがすごいかと決めようがないのと同じだ。
「なら来週、同じレースで勝負しようぜ!」
「1800mなら受けてあげるわ。でも、来週は無理でしょ」
「オレならやれるぜ!」
「ちゃんと休むのも仕事よ」
今日も平和な、競走馬たちだった。
最初の頃は遠巻きに見られてた。
いつの間にか、そばにいるようになった。
気付いたら身体の一か所をくっつけてるようになった。
今はわたしに背を預けてる。
猫は言葉にできないから、距離で気持ちを示すのね。
『距離』
#距離
他者との距離感というものはとても難しい。
関係性や性別、状況などでも、どれくらい詰めて良いのか、はたまた離した方が良いのか、適宜正しく把握して実行できる人間なぞ、そうそういないだろう。
そして、見えているものや感じていることは一人一人違うから、同じ距離感で接しても、この人からだと不愉快で、この人からだと好きになっちゃうなんてこともたくさんある。
私が若く、働いていた頃の話だ。
女性ばかりの職場で、年齢も近い人が数人と、年の離れた人が数人という、人間関係が固まりやすい環境だった(若いチームとおばさんチーム、みたいな)。
そんな中、私と私の一つ年上のMさん、一つ年下のAさん、6つ年上のリーダーという組み合わせで仕事をすることになった。
リーダーは恋多き女で、三人の下っ端はそれなりに上手に付き合っていたけれど、まあ、三人寄ればリーダーの悪口ばかり。仕事の愚痴とリーダーの悪口はセットだった。
敵が一人いると仲良くなるもんで、三人で北海道旅行にも行ったし、うちに泊まりに来て夜通し酒を飲んだ日もあった。
そんなに悪くない関係性だったと思う。
でも、振り返ると、この2人のことが、私は嫌いだった(ような気がする)。
ここまで歳を経ても煮え切らない言い方をしているけれど、思い出すと「ちょっと違うよなぁ」と思うことばかりなのだ。
Mさんは私と真逆の人だった。私は阪神ファン、Mさんは巨人ファン、私は猫が好き、Mさんは犬が好き、そんな些細なことに始まって、もう全てが真逆だった。考え方から好き嫌いに至るまで。
私がやらないようなことを平気でやり、私がなんでもないとホイホイやることを忌避した。
刺激的だったけど、嫌いな物事が好きな人と長く付き合える訳もない。Mさんが会社を辞めて数年して関係は自然消滅した。
そしてAさん。この子は悪い子ではなかったんだと思う。いい人だった。
私を、前の職場の友達と引き合わせ、前職の友達とのライブ参戦や飲み会に連れて行ってもらった。化粧っけがない私にメイクを教えてくれたのも彼女だし、世話になったと行ってもいい。
でも、前述したように、思い出すとモヤモヤすることがある。
私を自分の友達の輪に入れた理由を、「私ね、中学生のころ、引っ越してきた人がクラスに馴染めなくて孤立しているのを見て可哀想になってさ。そういう人に声かけちゃうの」と。
ええと。私が友達いないように見えたってことかしら。
確かに友達が少ない。そうなんだけど、そうやってニコニコと私に近づいて距離を詰めて、すっかり「友達」ってなるのを、今の私はなんだか気持ち悪いなんて思ってしまう。
昔からボッチ耐性が異常で、1人でも全然苦にならない性格をしている。まして仕事なんて、遊びにいくわけでもあるまいし、挨拶と適切な意見交換や申し送りができていれば仲良くする必要なんてないと思っていた。
Aさんから言われたもう一つのモヤモヤ。
ライブに行くのに、私はカエルのTシャツを着て行った。自分としてはかわいいと思って購入し、着たわけだが、Aさんの友達Tさん(前職の友達だね)に「ええ!なんでそんなTシャツ買ったの?」と言われ、横にいたAさんに「かわいいじゃん」と助け舟を出してもらった。それでその場は終わって、私は「変だったかな?」とちらりと思うに止まった。
しかし、後日、「あのTシャツは酷かったよ。Tさんと爆笑したんだから」と言われた。
ええ、あの場では笑ってなかったから、私がいないところでTさんと爆笑してたのか。つか、言わなきゃわからんのになんでわざわざ言うんか。ああいったTシャツを今後買わないようにと優しさで言うてんのか。それにしてもやぞ。
Aさんが妊娠(結婚前に発覚)したのを機に先に仕事を辞めて、それ以降も年賀状のやりとりだけはしている。
「今度会おうね」という定型文を毎年書きながら、一回も会っていない。
やっぱり、彼女のことは嫌いなのかな、私は。
Aさんのように明るく、距離の詰め方がふわっとぐいっと来るタイプで、どこか「私が声をかけてあげたんでしょ」みたいな人は正直苦手だ。
彼女が辞めて18年。今年はAさんに年賀状を送るのを止めようと思っている。
2023/12/02 猫田こぎん
『距離』
これは、歴史に埋もれたどこかの奥方様の話です。
私が語りますは今から500年前のことです。
とあるお方の姫君が、そこそこのお城を持つ殿方にご正室として迎え入れられました。
今から見れば結婚というイメージから幸せなことのように感じますが、ご正室というのは謂わば政略結婚。そこに愛はなく、顔も性格も知らぬ殿方に嫁ぐなど不安でしかなかったと思います。
しかしながら、姫君はそれを悟られないように振る舞うのが得意でした。
ちなみに私は姫君が幼少の頃よりお側でお仕えしてしている名もなき忍。
共に見知らぬ土地に参ったのです。
姫君……もとい奥方様はそれは鉄仮面の如く、表情を変えませんでした。
城の者共は一切笑わぬ奥方様に「愛想がない」など色々口にしておりましたが、私にはわかるのです。
それは自衛であったと。
奥方様は嫁いでからだんだんと殿に心を奪われてしまったのです。
しかし殿は寵愛しているご側室様を抱えられており、ご正室である奥方様には目もくれていません。
奥方様は私に語っておりました。
「私は家同士の繋がりや政のためだけにいるお飾り。役目を果たせれば何でも良いのです。あのお方の心は私には贅沢すぎます」
奥方様は表情を崩さず過ごすことで、気持ちを隠すように耐え忍んでいたのです。
忍である私には何も出来なかった。
夫婦であるのに奥方様の片思いは、例え同じ城に住んでいようとも例え義務で殿が寝床に来ようとも距離を感じさせるものでした。
一生このまま終えるのだろうかと思っておりましたが、転機は訪れたのです。
奥方様が玉のように可愛い女の子を生むと、殿はバカがつくほど生まれた姫を溺愛なさったのです。
毎日毎日会いにくる度に、姫のことで奥方様のお話になったことが幸いしたのでしょう。
奥方様の貼り付けていた鉄仮面が壊れ、笑みを見せるようになりました。
それに殿が心を奪われたようなのです。
それから殿が戦でお亡くなりになるまで二人は仲睦まじく、私から見ても一度近づいた距離が開くことはなかったのです。
……なぜ私が500年前のことを語るかって?
そんなことはどうでも良いじゃないですか。私は影に潜む忍。
私のことは気にせず忘れてくださいな。
2023/12/02
(創作)
彼女は歩くのが速い。サッサッと音がしそうなほど速い。
急ぎの用でもあるのかと、声を掛けるのを止めたこともあるくらいだ。
男の私がそう感じるのだから、およそ女子(おなご)の歩き方ではない筈なのだが、いつも結髪に袴姿なものだから、
却って “ 凛々しくて素敵! ” だなんて周りには評判が良い。
『お前の脚が短いんじゃないのか?』
話しながら歩くとすぐ数歩ずつ遅れると零すと、先輩から辛辣な言葉が返ってきた。違いますよっ!
そんな謎と不満を燻らせながら過ごしていたある日、お使いに行く彼女に付き合うことになった。
いつもと違い、小袖姿の彼女に多少ドギマギはしたが、並んで城下への道を歩いて行く。
なんだ? この違和感。話す、聞く、話す、聞く…
… あっ!
いつもなら間に挟まる『二歩進む』が今日はないんだ。
得心顔の私を不思議そうに見上げた彼女に、事の次第を話してみると、目を丸くして言った。気付いてなかったの、と。
『私に合わせようと、歩幅を縮めてくれているでしょう?』
そう、なのか? 自分では気付かなかったけど、女子(おなご)はゆっくり歩くものだ、とは確かに思っている。
今の彼女のように。だから彼女と歩く時、私が無意識に小股で歩いていたのだって、あながち的外れじゃなかったってことだろう。僅かな心の澱が濯がれて、気分がスッキリする。
だったら明日からは、いつもの君に合わせて歩くよ。
女子(おなご)だからではなく、君だから、と思って。
そうやっていれば、ずっと二人並んで、いつまででも歩いて行けるだろう。それはとても… 悪くないことだ。
【距離】
今日も宅配業者さん、配達ご苦労様です。
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〚距離〛
私と君との間にある距離は平行線のようなもので、近づくこともなければ離れることもない
離れることがないならまだいいか、と自己欺瞞にふける
でも、これ以上君に近づけないという事実は明らかに存在していて、切り離す事ができない
それに気がつく度にどうしようもなくやるせない気持ちになる
2時間とちょっとで会えたはずの君 今は銀河の果てより遠く
題目「距離」