【距離】
距離が近い姉弟だとは、よく言われてきた。姉の無駄に長い買い物に文句も言わずに俺は付き合ったし、俺が海へ行きたいと言えば姉はいつだって俺の手を引いて連れて行ってくれた。だけどそれはいつかこの距離が永遠に開いてしまうことを、互いに知っていたからだ。
物言わぬ墓石の前に、イヤリングの箱を置く。姉がきっと喜んだだろうなと思うデザインのアクセサリーを見ると、いつも買ってしまうんだ。使う人間なんてもう誰もいないのに。
「……おまえの歳、ついに超えちゃったよ」
二十歳になるまで生きられないと医者から宣告されていた姉は、その短い人生を全力で楽しんでいた。不満も恐怖もなかったはずがないのに、俺の記憶に残る姉はいつだって笑顔しか浮かべていない。
このまま俺は歳を重ねて、恋した人と結婚して、子供が生まれて、おじいちゃんになっていくのだろう。十九歳で時間を止めたおまえとの距離は開く一方で、二度とこの手はおまえには届かない。
姉が死んだその日からぽっかりと空いた心の隙間。冷ややかな風の吹き荒ぶその寂しさを胸に抱いて、俺は姉の生きられなかったこれからを生きていく。
12/2/2023, 4:17:56 AM