夢で見た話

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彼女は歩くのが速い。サッサッと音がしそうなほど速い。
急ぎの用でもあるのかと、声を掛けるのを止めたこともあるくらいだ。
男の私がそう感じるのだから、およそ女子(おなご)の歩き方ではない筈なのだが、いつも結髪に袴姿なものだから、
却って “ 凛々しくて素敵! ” だなんて周りには評判が良い。

『お前の脚が短いんじゃないのか?』

話しながら歩くとすぐ数歩ずつ遅れると零すと、先輩から辛辣な言葉が返ってきた。違いますよっ!

そんな謎と不満を燻らせながら過ごしていたある日、お使いに行く彼女に付き合うことになった。
いつもと違い、小袖姿の彼女に多少ドギマギはしたが、並んで城下への道を歩いて行く。
なんだ? この違和感。話す、聞く、話す、聞く…
… あっ!
いつもなら間に挟まる『二歩進む』が今日はないんだ。
得心顔の私を不思議そうに見上げた彼女に、事の次第を話してみると、目を丸くして言った。気付いてなかったの、と。

『私に合わせようと、歩幅を縮めてくれているでしょう?』

そう、なのか? 自分では気付かなかったけど、女子(おなご)はゆっくり歩くものだ、とは確かに思っている。
今の彼女のように。だから彼女と歩く時、私が無意識に小股で歩いていたのだって、あながち的外れじゃなかったってことだろう。僅かな心の澱が濯がれて、気分がスッキリする。

だったら明日からは、いつもの君に合わせて歩くよ。
女子(おなご)だからではなく、君だから、と思って。
そうやっていれば、ずっと二人並んで、いつまででも歩いて行けるだろう。それはとても… 悪くないことだ。


【距離】

12/2/2023, 3:36:26 AM