『貝殻』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
─── 貝殻 ───
お願いしたの
世界にひとつだけのものを
待ってる時間も
仕上がりを想像する時間も
特別なものだけれど
やっぱり袖を通す瞬間が待ち遠しい
いつ出来るのかしら
早く着てみたいな
私の貝殻のワンピース
【貝殻】
現実が押し寄せる波の狭間で
大事な世界とを区切る様に
境界ギリギリで濡れない様に
きみと歩いた
--少し進んで
ちくちくする白い床に腰をかけると
歪な形をした筒が目の前に散らばっていた
きみはそれを掬い上げて耳に当てると
僕の音が聞こえるって綺麗な笑顔で笑うから
僕も真似をしてそれを耳に当ててみる
しばらく待っても何の音も拾えなかったと
不満を漏らすと
これから好きな音を見つければいいよって優しく笑う
聞こえなかった疑問で頭を埋め尽くされて
僕にはその意味も気がつけなかった
きみから差し出された手を取って
また現実の波の狭間で輪郭をなぞる旅に戻ったのだった
2024-09-05
ーかいがらー
背中にみんなそれぞれ違う貝殻を背負い
それぞれの道を進む。
途中に坂道があったり、
素敵な夕日に足を止めたりするかもしれない
そして、また
交差点がたくさんあるでしょう。
いくつもの交差点での出会いに感謝できた時
自分の貝殻が大きくなったと感じるでしょう
今日のディナーは、一つ約2000円。
ちょっと奮発した。
包丁と軍手とマイナスドライバーを手に、巨大なそいつと格闘すること、数時間。
ようやく出来たバター炒めは、濃厚な潮の香りが鼻に抜けて、こってりと食べ応えがあって、でも後味は上品。
2000円もかけた甲斐がある。
めちゃくちゃ美味しかった。
…さて。
食事を終えて、食器を片して、テーブルに残ったやつの残骸を、じっくりと眺める。
中身を失ったその死骸は、空っぽの胎を銀混じりの虹色に輝かせて、外側は緩やかな曲線を描いてうねっていて、なんとも芸術的で美しかった。
抉り取られた白い蓋も、きゅるきゅると滑らかで、緑がかった淡白な白い楕円でそこに沈黙していた。
綺麗な死骸だ。
もうこの体を操っていた主はいないのに、光に当てられて、さまざまな表情を見せる様は、死とは無縁の生き生きとした輝きを感じさせた。
貝殻とは、何と不思議な死骸だろう。
しかし、ここからが本番なのだ。私にとっては。
私は軍手をはめ直し、今度は、しまった包丁とマイナスドライバーの代わりに、洗剤と古い歯ブラシを取り出した。
私の今日のディナーは、夜光貝。
だけど、ディナーで味わった夜光貝の味は、壮大なオマケみたいなもので、私にとって重要だったのは、この夜光貝の死骸である、貝殻だった。
夜光貝の貝殻は美しい。
それは今、目の前に転がる貝殻の内側を見れば一目瞭然だけど、この貝は内側のみならず…貝殻の外側を覆う石灰を削れば、美しくきらめく貝の表情が見られるらしい。
しかも、蓋のように緑がかった淡白で重厚な緑層、内側に輝く銀の虹色の眩しい真珠層など…ほんとうに、様々な表情があるらしい。
上手く磨けば、夜光貝の貝殻は、まるで真珠のように、滑らかに虹色に美しく輝くという。
バケツに洗剤と水を張り、夜光貝の貝殻を沈める。
殺菌と汚れ落としのため、今日の一日の休日は、夜光貝を洗うことに終始するだろう。
…磨き終わるのはいつになるだろう。
夜光貝の貝殻が美しいということを教えてくれたのは、たまたま同じバスに乗り合わせた、おばあさんだった。
あの日。
お世話になった上司が精神を病んで休職に入り、保健所で見つけて育てて行こうと決めた仔犬が、突然、弱ってそのままいなくなってしまったあの時。
私は自分の無力さと悲しさと悔しさで、いっぱいだった。
何もせずにいたら、ネガティブな感情に押し潰されそうで。
だから、あの日、急に休みが出たその日に、私は何の計画も立てずに家を飛び出して、目についたバスへ乗った。
そこで、あのおばあさんとたまたま居合わせたのだ。
バスは海行きのバスだった。
おばあさんは、とても人懐っこくて優しい方で、笑いシワのたくさん刻まれた顔で、ふんわりと笑って、いろいろと話をしてくれた。
その一つが、夜光貝の話だった。
私の家、このバスの終点の海のすぐそばにあるの、とおばあさんは言っていた。
私の家のすぐそばの海で取れる夜光貝って大きな巻貝はね、貝殻を磨くととっても綺麗なのよ、と。
そう始めて、夜光貝の貝殻の美しさを話してくれた。
おばあさんは、私の事情を聞いたりはしなかった。
ただ、私には関係ないけれど、和むようなのんびりした雑談を、いろいろ話してくれた。
随分、心が軽くなった。
無力さも悲しさも、おばあさんの話声を聞いていると、なんだか厚く張っていた汚れと、鋭い角が取れて、そのまま、ゆっくり抱き込めていけるような、そんな悲しみになって行く気がした。
そのうち、当日受付も承っているというホテルが近いバス停について、私たちは別れた。
「ありがとうございました。とても穏やかで、楽しかったです」
私が言うと、おばあさんは笑いシワをさらに深くして、「私も楽しかったわ。聞いてくれてありがとう。良い旅をね」
と手を振ってくれた。
あのおばあさんとはそれっきり会えていない。
けれど私が深い悲しみと無力感から立ち直れたのは、あのおばあさんの雑談のおかげだった。
だから、せめてはっきりと覚えていた、夜光貝の貝殻の話は、やってみようと思ったのだ。
なにが“せめて”なのか、自分でもよく分からないけど。
…とりあえず、どんなに時間がかかっても、夜光貝の貝殻磨きをしてみよう。
そして、おばあさんに、本当に綺麗ですね、と言って見せられるくらい、素敵に磨き上げよう。
古い歯ブラシの柄を握って決意する。
洗剤液の中で、夜光貝の貝殻がゆらめいている。
軍手は、ゴム手袋に変えた方がいいな。
ふとそんなことを思いつく。
ゴム手袋を引っ張り出しながら、石灰の層に覆われた、夜光貝の貝殻を見やる。
待っててね、今、すっきり綺麗に磨いてあげるから。
応えるように、夜光貝の内側の真珠層がきらりと輝いた。
貝殻を耳にあてては潮騒の
音と戯る 秋のはじまり
夏終わっちゃうのさみしい(´・ω・`)
どこで覚えたのか巻貝を見ると耳にあてることが習慣化している。
巻貝の中を振動し、耳へは潮騒の音が届く。
この潮騒は人間の体内を巡る体液や筋肉の動きの音だと聞いたことがある。
耳を両手で塞ぐと流れる、ごぉ、という音。
これもまた似たような音がする。
私たちの中には海がある。
聞こえる潮騒は、内側の海の声。
ガヤガヤと賑やかな居酒屋で、スーツ姿の男二人が夕餉をとっている。
二人席のテーブルに座っているのは、若い男だ。
ジョッキのビールを片手に、枝豆をつまんでいる。
若い男の対面に座る大柄の男は、強面の顔で味噌汁の椀を持っている。
眉間に皺を寄せ、強面に拍車掛けている男の視線は、手元の味噌汁に注がれている。
味噌汁の具は、至って普通のアサリだ。
出汁の効いたいい香りがしており、男が渋面になる要素は見受けられない。
いつまでも口をつけないでいる男に、若い男が声をかけた。
「何すか、兄貴。ここのアサリの味噌汁は〆に最高だ!とか、いつも絶賛しているのに」
体の調子でも悪いんで?
若い男が怪訝そうな顔をして、大柄な男の顔を覗き込む。
話しかけられた男は、深い溜め息をついた。
「貝を見ていたら、つい最近の失敗しちまったことを思い出してな」
「へぇー、兄貴が失敗。こりゃ珍しい。明日は雨かな」
若い男の軽口にも男は暗い顔をして乗ってこない。
「…で、どうしたんです?」
男は、味噌汁の中に浮かぶ貝をじっと見つめている。
その瞳は真剣で、怖い顔がますます怖くなっている。
「顔怖えですよ」とチャチャを入れたくなるが、やめておく。
この男がこういう顔をしている時にそんなことをしたら、命がなくなる。
命が惜しけりゃ、大人しくするが正解だ。
口を開くまで待つしかない。
居酒屋の壁にあるメニューの紙を意味もなく見て、時間を潰すことにした。
店内を取り囲む手書きのメニューを2周しても、男は口を開かない。
タバコでも吸おうかと懐に手を伸ばすと、味噌汁を見つめていた男と目があった。
懐に伸ばした手を引っ込めて、男の言葉を待つ。
男の瞳が左右に揺れている。
余程の覚悟がいるものなのだろう。
黙って成り行きを見守っていると、男は味噌汁をテーブルに置き、重たい口を開いた。
「おめえ、大切な奴を守るために悪人になったことはあるか?」
男の真剣な声に、若い男は首を傾げ斜め上の天井を見つめる。
記憶を攫ってみるが、思い当たるものは見つからない。
「無いっすね。てめえの身が何より大切なんで。…なるほど。兄貴は、“なった“んですね」
コレですか。
そう言いながら、若い男は小指をピコピコとさせた。
「違ぇよ!…ただ、良いなって思った、だけで…」
男の声は後半に行くに連れ勢いを失っていき、男たちの間に沈黙が生まれた。
「見苦しいっすよ、兄貴」
「…うるせぇ」
若い男のツッコミに、男は地を這うような声を出した。
「大切な人のために悪人になった兄貴は、今更何を後悔してるんです?」
あんたの事だから覚悟済みだろうに──そう続けようと思ったが、声には出さないでおいた。
命はやっぱり惜しい。
「俺、馬鹿だからよ。守りてぇのに、守りてぇ奴を傷つけちまった」
「…と、いうと?」
「あのな、話しかけられれば心は躍るくせに、綺麗な目で見られちまうと、自分が汚れているように感じてしょうがねえんだ」
赤子や心のきれいな人間が持つ、真っ直ぐな眼差しに耐えられない大人はいる。この男もそうなのだろう。他人事のように言っているが、自分もその口だ。
なるほど、と思いつつ男の話に耳を傾ける。
「綺麗なもんとかよ、こいつは自分にとって大切だなって思うもんに出会うと、自分なんかが側にいちゃいけねぇって思っちまうんだ。なんか、汚しちまいそうでよ。だから、俺といると危ねえぞ。汚れちまうぞって、脅しちまった」
男はそういうと呻き声をあげて机に突っ伏した。
十中八九、その時のことでも思い出しているのだろう。マンガのような黒い縦線が男の背後に見える。
見事な撃沈っぷりだ。
思わず笑いが漏れてしまった。
「アハハ、自ら嫌われる貧乏くじを引きに行ったわけですね」
「うるっせぇ、その通りだよ馬鹿野郎!どうせ俺は貧乏くじ引く馬鹿野郎だ、くそったれ」
男はヤケクソのように叫ぶと髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
自棄のやん八だ。
若い男は薄ら笑いを浮かべると、ビールを一口飲んだ。
口の中に広がる苦みに、苦笑が広がる。
「そう言いつつも、嫌われる理由を自ら作って安全圏も作ってるんでしょ」
若い男の言葉に、男は地獄の底のような声をあげた。
「おめえ、本当嫌な奴だな」
「こんな事を相手に言ってしまったんだから、嫌われてもしょうがない。そういう網を張っておくことで、いざ関係が崩れたとしても、仕方なかったんだと受け入れられる。…弱虫っすね」
「ほざいてろ。マジで大切なもんを前にするとな、人は弱くなんだよ」
恐怖の大魔王もかくやな声だが、若い男は柳に風だ。
「それで、兄貴の貧乏くじの話と貝がどう繋がるんで?」
「…貝ってのは、硬え装甲のような殻を持ってるのによ。それを好んで食う奴がいるじゃねえか。分厚い殻に穴開けて食う奴とかよ、こうして煮込んじまう奴とかよ」
男は味噌汁の中に浮かんでいた貝を箸で摘むと、味噌汁椀の蓋にカランと投げ入れた。
味噌汁の中で落ちたのだろうか、投げ入れられた貝にアサリの身はついていなかった。
「守ろう守ろうと防御しても、やられちまう。こういう奴らから守るには、どうすりゃいいんだ」
男の沈痛な言葉に、若い男は溜め息をそっとつくと、静かな声で男を呼んだ。
「兄貴」
「何だ?」
「守ろうとしなくて良いんですよ」
「は?」
「お相手にはお相手の考えがある。互いに敬意を持ってりゃあ、後は何とかなるんですよ」
若い男の言葉に、男は目を見開き固まった。
相手を守ろうとすることは、必ずしも正解ではない。
相手を思って空回りするくらいなら、素直でいた方が良いこともある。
わざわざ悪役を演じる必要は、ないのだ。
「それで、お相手との関係はいかがなもので?」
若い男の言葉に男はまたもテーブルに突っ伏すと、首を横に振った。
「…兄貴。泣かないでください。ここ、奢りますから」
「うるっせぇ!泣いてなんかねぇや」
喚く男のそばには味噌汁椀の蓋がある。
蓋の中では、貝殻が口を開けて笑っていた。
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貝殻
後日。
「鼻歌なんて歌って随分ご機嫌ですね、兄貴」
「おめえの言う通りによ、あの後、素直な気持ちってのを相手に晒したら良いことがあってよ」
「そりゃ結構なことだ。もう、空回りしちゃ駄目っすよ」
「わかってらぁ。大切なのは、相手への敬意と素直な気持ちだろ?」
「その通りっす」
貝殻を拾った。
とても綺麗な貝殻だった。
それを見た君は羨ましそうな顔をした。
だから私はそれと対になる貝殻を君に渡した。
君は嬉しそうに笑った。
白無垢に綿帽子、やはり君にとても似合う。
今日は君が世界で1番綺麗な日だ。
私達が世界で1番幸せな日だ。
そして迎えた人前式。
私たちはあの日拾った貝殻を合わせる。
夫婦円満を望んで。
貝殻
あの時のこと、覚えているかな…8月の後半に、2人で出掛けた砂浜…まだまだ暑くて、サンダルに砂が掛かると、火傷しそうになったね…
波打ち際で、足を浸し乍ら二人で追いかけっこしたり、落書きしたり…なんだか、青春映画みたいだね、って笑い合って楽しんでいたね…時々、綺麗な貝殻見つけては、ポケットに隠して…
今でもね、あの日の貝殻、此処にあるんだよ…耳に当てると、あの青空と、波の音、2人の声が聞こえるんだよ…
【貝殻】
いつものように殻に閉じ籠もる
外の世界を知らない私は
いつまでここにいられるのだろう
そんな考えだけが頭の中を支配する
その考えから抜け出したくて
また殻に閉じ籠もる
初めての海に行った日のことだ。
海は、空のように青々として、潮の香が穏やかで優しい風に乗って鼻腔を擽るの。
砂浜は白くて、柔らかい物だと想像していたのだ。
実際は、水は黒く濁っていて空は曇天。重々しい空気感が海から漂うのを感じられる。白くて柔らかいと想像していた砂浜は、ゴロゴロと石があって歩くと痛い。
風はビュービューと音をたて、私に向かってくる。
想像していた海と違う、と思わずにはいられなかった。
そもそも、私が想像していた海はリゾートホテルや観光地で見れるような海で、実際に連れてってくれた場所は海を観光地にしている訳でもない。程よい田舎だった。
その日の天気も雨が降る直前だったらしく、条件が重なり理想の海とはかけ離れてしまった。
連れてきてくれた家族は、海は危険だからと水で遊ばせてはくれなかった。
唯一、浜辺を探検することを許された私は海に落ちているらしい貝殻を探そうと決めた。
貝殻の形と言ったら小さい法螺貝を想像していたので、それに似た形の物を歩き回った。
何十分か経って、やっと満足のいく形の貝殻を見つけることができた。貝殻だけは私が想像していた理想の海にある物として変わらなくて、幼い私は嬉しくてたまらなかった。
そんな、思い出の物を部屋の片付け中に見つけるなど何一つ考えていなかった。
成長した私だからこそ、あの時の無知で純粋だった私を羨ましく思ってしまう。
理想の海は普通では見れない。2103年の現在では海は黒い、それが一般常識で私が知った理想の海は2016年代の海だから。
せめて、陽の光でキラキラと輝き美しくあの風景を一度でも見たかった。貝殻を耳に当てながら座り込んだ。
思い浮かべてみる。
波打ちぎわ
白く泡立つ水に砂が巻き込まれ
その隙間でコロコロとひるがえる小さな貝殻
何度もくりかえし寄せてくる波のカーテンに
カラカラ、コロコロと踊る、薄桃色の小さな貝殻。
何度も
何度も
どこかへ行ってしまいそうなのに
砂に受け止められて攫われず
また波に手を取られてヒラヒラ揺れる
そんな光景を思い浮かべてる瞬間
私の脳みそは思考を忘れ、言葉を手放す。
その瞬間
真っさらで真っ白な自分に帰る、ほんの数秒。
頭をからっぽにして
過ごすコツ。
貝殻
海辺で拾う大きな貝殻。
誰かから貰った綺麗な貝殻。
校庭に混じる小さな貝殻。
身近なものだけど、不思議とそうは感じない。
どれも真っ白で、いつかは海に居た綺麗な貝殻。
貝殻
これは私にまだ命があった頃のお話です。
今でこそ、こうして他の拾われた仲間たちと一緒に、ブローチやピアスに形を変えてガラスケースに並んでいるけれど、かつての私は旅人でした。
私の名前は瑠璃貝(ルリガイ)。
青色の薄い殻に覆われた私は、まるでインク瓶から零れ落ちたかのような淡い光を放つ巻貝です。
人は言います。
この貝は単純に貝殻と呼んでしまうには相応しくないほどの見目麗しい貝だと。
しかし、私は見た目が美しいだけのひ弱な貝ではありません。
砂浜の砂の中でほぼ一生を終える他の貝たちとは違い、私は自分で出した泡のイカダに乗って大海原を旅するのです。
私の仲間たちは、世界中の暖かな流れのある海の表層を優雅に漂いながら暮らしています。
好物はギンカクラゲやカツオノカンムリといった青色のクラゲたち。
私の美しい瑠璃色は何を隠そう彼らからの贈り物なのです。
しかし、波任せの優雅な旅は、とある秋の日の嵐の夜に突然終わりを告げました。
私は他の大勢の仲間たちと一緒に、島根県益田の海岸へと打ち上げられてしまったのです。
生きた貝としての命は、あの時あの場所で終わりを告げました。
しかし、今はこうして美しいアクセサリーへと姿形を変え、第二の人生を歩み始めています。
あなたがもしどこかで美しい青色の貝殻を見つけることがあったなら、それはきっと私です。
その時は、また私のことを思い出してくださいね。
お題
貝殻
あの日の海へ、あなたと還りたい。
一緒にいることを許されていた、あの頃へ。
遠く、水平線を滑りゆく船に、
「いつか、あの船に乗って知らない国へ行きたい」
と、あなたが言う。
「全部捨てていくの?」
「あなただけは捨てないわ」
「それは光栄だね。ところであの船は、さんふらわあって言って、北海道に渡る定期フェリーだよ」
「そうなの?」
「うん。富良野か美瑛辺りで、二人でのんびり暮らす?」
「それも…悪くないね」
二人とも、寒いのは苦手だった。
でも、二人なら、工夫して意見をぶつけ合って、何だって乗り越えてゆける、そう信じてた。あの頃は。
「さんふらわあ」の船体には、大きな太陽の絵が描かれていた。
水平線の彼方から昇る朝日のように希望に満ちて、きっと僕達を北の大地へと連れて行ってくれる。
そこで住みづらくなったら、今度は本当に知らない国へ、もっと大きな船で渡ればいい。
あなたの突然の心変わりは、何の前触れもなく、そんなすべての夢を粉々にした。
さよならを告げて僕の前から去っていくあなたの後ろ姿に、あの日の海辺で見たあなたの後ろ姿を重ねて、これは現実で、あの日のあなたが僕の前から消えてしまうんだってことを実感していた。
海の向こうへ渡ることを約束したあなたが。
力を合わせて寒さに打ち勝とうとしたあなたが。
あの日、あなたが砂浜で拾って僕にくれた貝殻。
今も僕の部屋の片隅で、過ぎた日々を思い出させる。
「あなただけは捨てないわ」
いつか、あの海へ返しに行こう。
ずっとそう思いながら、僕の部屋の片隅で、静かな波音を奏でるのを聴いている。
この貝殻は、まるで今の僕のように、単なる抜け殻でしかないのに。
貝の一つのホタテの中には真珠が一つ
一人一人真珠みたいなきれいな石を持っている
貝殻
雲一つない快晴、夏休みも半ば、まさに海水浴日和。地元の海水浴場はどちらかといえば家族向け。県内外から人が集まるほどの有名どころではなく、あくまでも地元民の遊び場。だからか、自虐するワケではないが立てられたパラソルも敷かれたレジャーシートもおとなしめな気がする。
そんな中、前方に異質な光景を見つけ足を止める。
真っ白なでっかい貝殻。目に眩しいラメ入りのそれは貝殻モチーフの浮き輪。周りから浮きまくる派手な貝殻に寝そべる女性。どこの場違いなパリピだと顔を拝んでやろうと目をやり。
げ。
思わず回れ右をする。目立ちまくる好奇な視線に晒されているのは同級生、もとい待ち合わせの相手だった。
「アキラ、おっそーい!」
逃げることは間に合わず、他人のフリもさせてもらえず呼びつけられる。
「サクラ、何だよコレ」
「いいでしょう~。楽天スーパーセール」
いやソコじゃない。
「こんな田舎の海でこんな目立つモン持ってきやがって」
「いいじゃ~ん、ひと夏の思い出だよ」
楽しそうに笑うサクラの髪は休み前は黒だったのに今は明るい色に染められている。おそらく本当にひと夏のハメ外しで新学期にはまた見慣れた姿に戻るのだろう。
まぁ夏だしな。
ただ。
「これは、ひと夏の思い出にするなよ」
持参したサクラ色の貝殻を模したイヤリングを差し出す。
この世界に湖はあるが、果たして海はあるのだろうか? 湖を越えた先に僕は行くことができない。まぁ正確にもできないというか、彼女に止められてしまったので、それ以上の道を進むつもりがないということだ。
だがしかし、知的好奇心なんてものはある。海はあるのか? ここよりも発展している町があるのか? 意志を持っている住人はいるのか?
でも、それを確かめたいとは思うけれど権力者に聞こうとは思わなかった。
聞いてはいけない気がしたのだ、なんとなく。それは僕が踏み込んではいけないタブーのようで聞いたことにより、知られる真実は僕にとって伏せられなくてはならない事実なのかもしれない、なんて、そんなことを思ってしまったんだ。
なんでそう思ったかは分からない。でもなんとなく。
だから、僕はただ想像をするだけにとどめておくことにしたのだ。
寄せては返す波の残滓。
吹き鳴らせば開戦を告げる笛の音が木霊するかもしれない。
wip……?
「no titile」
貝殻
炭酸カルシウム。どのくらいの種類があるのか分からないが、世界中の海岸にある。全世界の海岸にはおなじような貝殻があるのかな。
・1『貝殻』
子供の頃は貝殻の1つ1つに誰かが住んでると思ってた。
私はとびきりキレイな遊色の光り輝く巻き貝に妖精を住まわせて飼いたいと思っていた。
実際にはヤドカリを眺めていたけれど
【続く】