初めての海に行った日のことだ。
海は、空のように青々として、潮の香が穏やかで優しい風に乗って鼻腔を擽るの。
砂浜は白くて、柔らかい物だと想像していたのだ。
実際は、水は黒く濁っていて空は曇天。重々しい空気感が海から漂うのを感じられる。白くて柔らかいと想像していた砂浜は、ゴロゴロと石があって歩くと痛い。
風はビュービューと音をたて、私に向かってくる。
想像していた海と違う、と思わずにはいられなかった。
そもそも、私が想像していた海はリゾートホテルや観光地で見れるような海で、実際に連れてってくれた場所は海を観光地にしている訳でもない。程よい田舎だった。
その日の天気も雨が降る直前だったらしく、条件が重なり理想の海とはかけ離れてしまった。
連れてきてくれた家族は、海は危険だからと水で遊ばせてはくれなかった。
唯一、浜辺を探検することを許された私は海に落ちているらしい貝殻を探そうと決めた。
貝殻の形と言ったら小さい法螺貝を想像していたので、それに似た形の物を歩き回った。
何十分か経って、やっと満足のいく形の貝殻を見つけることができた。貝殻だけは私が想像していた理想の海にある物として変わらなくて、幼い私は嬉しくてたまらなかった。
そんな、思い出の物を部屋の片付け中に見つけるなど何一つ考えていなかった。
成長した私だからこそ、あの時の無知で純粋だった私を羨ましく思ってしまう。
理想の海は普通では見れない。2103年の現在では海は黒い、それが一般常識で私が知った理想の海は2016年代の海だから。
せめて、陽の光でキラキラと輝き美しくあの風景を一度でも見たかった。貝殻を耳に当てながら座り込んだ。
9/5/2024, 2:15:28 PM