貝殻
これは私にまだ命があった頃のお話です。
今でこそ、こうして他の拾われた仲間たちと一緒に、ブローチやピアスに形を変えてガラスケースに並んでいるけれど、かつての私は旅人でした。
私の名前は瑠璃貝(ルリガイ)。
青色の薄い殻に覆われた私は、まるでインク瓶から零れ落ちたかのような淡い光を放つ巻貝です。
人は言います。
この貝は単純に貝殻と呼んでしまうには相応しくないほどの見目麗しい貝だと。
しかし、私は見た目が美しいだけのひ弱な貝ではありません。
砂浜の砂の中でほぼ一生を終える他の貝たちとは違い、私は自分で出した泡のイカダに乗って大海原を旅するのです。
私の仲間たちは、世界中の暖かな流れのある海の表層を優雅に漂いながら暮らしています。
好物はギンカクラゲやカツオノカンムリといった青色のクラゲたち。
私の美しい瑠璃色は何を隠そう彼らからの贈り物なのです。
しかし、波任せの優雅な旅は、とある秋の日の嵐の夜に突然終わりを告げました。
私は他の大勢の仲間たちと一緒に、島根県益田の海岸へと打ち上げられてしまったのです。
生きた貝としての命は、あの時あの場所で終わりを告げました。
しかし、今はこうして美しいアクセサリーへと姿形を変え、第二の人生を歩み始めています。
あなたがもしどこかで美しい青色の貝殻を見つけることがあったなら、それはきっと私です。
その時は、また私のことを思い出してくださいね。
お題
貝殻
9/5/2024, 2:10:55 PM