『言葉はいらない、ただ・・・』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
言葉はいらない、ただ・・・??
やだよ言葉も何もかも
ちゃんとちょうだい
言葉だけでは受け取らないけどね
言葉はいらない、ただ…
お米が、ないっ。
近所のスーパーからお米が消えて二週間。私は仕方なく通販でいつもの二倍くらいする高いお米を買いました。
外食ならごはんは普通に食べられるのに、なんで一般に流通しないんだろう?
先日の農水大臣会見を意訳すると……
「新米がでるまで待っとけ」
冗談でしょ〜!
そんな言葉はいらない、ただ……備蓄米でいいから早く出してよ!
「言葉にするの、得意じゃない」
少し拗ねたような声で放たれた言葉に思わず笑う。
だって、あなたが言葉より視線で語ることを私は知っているから。
「貴方が言葉よりも視線や行動で語ることを知っている。
だから別に、言葉にするのはあなたが必要な時だけでいい。」
そうだ。貴方が語ることを可能な限り私は読み取ってみせるから。
言葉はいらない。ただ…
言葉はいらない、ただ、繋がれた掌の柔らかなぬくもりを、永遠に変わらない約束の代わりにしたい。
傷つけ合う時や、すれ違う時を越えて、一歩一歩未来に向かう時、振り返ったら君の涼しい素顔が共にあることを心から願う。
エンゲージ
言葉はいらない、ただ…(失恋の先には)
彼が出て行った教室で、わたしは一人立ち尽くしていた。
―――放課後、とうに授業は終わりグラウンドでは部活の皆の賑やかしい声が聞こえてくる。
わたしはそちらを見ようともせず、ただ虚ろに佇んでいた。………動けなかったから。
ひとつの恋が終わる瞬間はあっけなく、後に何も残らない。
ぽっかりと穴が空いたわたしの心は空洞そのもので、虚無、の二文字に尽きた。
片想いとはつくづく恐ろしい。
少なからず自信があったのだ、というかある程度確信がなければこんなリスクの高い賭けに勝負を挑まない。まさか、だった。
驕っていたんだろうな。彼の一挙一動に盲目になっていた。―――うん。そう思って、出直すしかない。
………明日から、気まずい………な。
こうなればそうなることは明白だったけれど。
自分で撒いた種。受け入れるしかない。
―――後ろのドアの引き開けられた音に、わたしは振り返る。
告白の選択に太鼓判と背中を押してくれたひと。
笑顔で送り出してくれた彼女に申し訳無さが募る。
先に明るく振る舞おうと口を開きかけたが、彼女はわたしに大股で近寄るとがばりと両手で体を包み込んだ。
戸惑うわたしに、
「―――」
そう耳元で囁かれた言葉に胸が詰まりそうになる。
………目頭が熱くなって、誤魔化すようにわたしは何度も頷いた。
回された手が柔らかく背中を叩く。優しさの塊が、虚無だった心を癒やしていくのがわかる。
わたしも緩やかに、そっと彼女を抱き締め返した。
―――明日から、また普通にこの教室に来よう。
彼にも彼女にも、胸を張って。堂々と。
そして今日家に帰ったら、よくやったと腐るほど自分を褒めてやるのだ。
ひとつの恋の終わりを知ったわたしに、
今は労る言葉以外何も思いつかなかった。
END.
「君は雲隠を知っていますか?」
古文の話の最中、先生がした質問に私は首を傾げた。
「くもがくれ? 天気の種類か何かですか?」
「ふふ、違います。源氏物語の巻名のひとつですよ」
「源氏物語……紫式部でしたっけ」
「そうです」
突然なぜ天気の話なのかと思ったが、違ったようだ。
先生の学生時代、いちばん好きな科目は古典だったとか。現代にあっても色褪せない言葉の美しさや、描かれている当時の情緒溢れる景色に惹かれるらしい。私も同じだ。
「栄華を極めた光源氏ですが、雲隠の前巻まででその翳りを描かれています。そして雲隠で、出家し亡くなるまでを表現……しているのではないかと考えられます」
「? ずいぶん曖昧な言い方ですね」
「ええ。なにせこの巻、本文がないのです」
「え!?」
私は驚いて聞き返した。
「それは、焼けたりして残っていないということですか?」
「そういう説もあります。ただ私が好きなのは、紫式部があえて白紙にしたという説です」
「あえて……!」
「はい。地位のために最愛の人を傷つけ亡くしてしまった光源氏は、悲しみのこもった詩を詠む。そして雲隠をはさんで、次の巻ではすでに亡くなっています」
「へぇ……」
「光源氏の生き様を描く超大作、源氏物語。だがその死に様をあえて言葉にしないことで、読者に無限の可能性を提示している。まさに文章さえも雲隠れさせた、そう考えるとエモくないですか?」
「はい、私もそのほうが好きです!」
「君なら共感してくれると思っていました」
先生が嬉しそうに笑うので、私まで嬉しくなる。
古典を語る先生は、いつにも増して知的で美しい。
そんな先生に見惚れていると、視線に気づいた先生は私の目を見て微笑んだ。
「?」
その微笑みの意味を知りたくて首を傾けてみても、先生は珍しく何も言わない。いつもなら私の気持ちを汲んでくれるのに。
私がなす術なく見つめ返していると、ふと先生の指が私の頬に触れた。ドクリ。心臓が押し込まれるような感覚。
先生の指は頬を滑って行き、顎の下で止まった。一瞬顎を掴まれた気がしたが、そのままふわりと離れていった。
ああ、と思った。
先生には、言いたいけど言えないことがあるのだな。
言ってはいけないが、どうしても今伝えたいことが。
ならば私は、その気持ちを汲み取ろう。
離れていった先生の手に、自分の手を重ねる。そして満面の笑顔を、先生だけにあげる。
これが今の私にできる、最大限の愛情表現。先生は私の欲しがるものをくれた。だから私も、先生の欲しいものを。
テーマ「言葉はいらない、ただ…」
《言葉はいらない、ただ・・・》
夜、ふと目を覚ました私は、自分が何故か真っ白い猫になっている事に気付いた。
鏡で見ると、毛色と瞳は自分の色そのまま。白毛で赤紫の瞳の猫がそこに映っていた。
『うわ…猫になってる…これ、どうしよう…』
この真夜中に彼に迷惑が掛からないよう何とか悲鳴を堪えてはみたけれど、その声も猫の威嚇音そのもので人語での会話は到底不可能っぽい。
ぼんやりとした記憶を辿ると、夢現の中で聞こえた声が蘇る。
あなたの本当の望みに気付けた時、元の姿を取り戻せるでしょう。
それは、地の底から響くような低い声で。いったい、何がどうしてこうなったんだろう。
とにかく、私の本当の望みを見つけるしか戻る手立てはないみたい。
本当の望み…彼とこうして一緒にいられる事で満足してるのに、どうやって見つければいいのか。
見つからなかったら、ずっと…このまま?
人間に戻れないままで彼と一緒に暮らすの? いや、暮らしていけるの?
どうしよう。分からない。怖い。
私はどうしようもない不安に襲われながら庭を走り、彼のいる部屋へ向かった。
とにかく今は、彼の顔が見たい。自分の姿が猫に変わった不安でただ一杯になった私は、その事しか考えられなくなっていた。
彼の寝室の手前にある書斎の窓からは、明かりが漏れている。
まだお仕事してるんだ。こんな夜遅くまで。
いつも帝国の為に頑張っている彼を思うと、猫の姿でも涙が出そうになる。
書斎の窓に近付き見上げると、風を通すためか開け放たれている。
この位の高さなら、間違いなく飛び乗れる。
せーの! と心の中の掛け声を合図にジャンプする。庭を走っているうちに身体を使うのに慣れたのか、想像以上にスムーズに飛び乗ることができた。
窓枠に着地して部屋の中を見ると、ちょうど書類を書き終えたのか、机に向かっている彼がペンを置いたところだった。
昼間は本部の執務室でその様子を見てるけど、真夜中まで根を詰めているなんて。身体を壊さないでほしいな。
ここに来た目的すら忘れて見入っていると、椅子に座ったまま窓を向いた彼と目が合った。
窓の外から差し込む月の光に照らされた彼の顔はとても綺麗で、私は我を忘れて見惚れていた。
彼の顔が見れた。よかった。本当に、よかった。
私は、思わず彼の名を呟いた。
それでもその音は思った形にはならず、口から出たのは小さな猫の声。
その自分の声で何故必死になってここに来たのかを思い出した私は、窓枠から飛び降りて彼の足元に向かった。
彼は、そんな私の様子を椅子に座ったまま黙って見つめていた。
そうして彼の手前に辿り着き、床に腰を下ろしてふと気が付いた。
そうだ。そもそもこの部屋に動物…猫が入り込んで大丈夫だったのかな。
自分の身体の異常に気を取られて考えていなかった。もしかしたら、今もう彼に迷惑を掛けてしまったかもしれない。
『ごめんなさい…。』
当然ながら口には出せないその言葉を、それでも伝えたいと口にする。
気が付いた事実に落ち込み、うなだれてしまう。
どうして後先考えずに動いてしまったんだろう。もっと彼の事をよく考えていれば、こんな軽率な事はしなかったのに。
すると、頭の上から彼の優しい声がした。
「いいよ。おいで。」
いつも話し掛けてくれる時の口調とは違う、砕けた言葉遣い。
そこに、逆に彼の優しさを感じた。相手を気遣わせまいとする、彼の優しさを。
見上げれば、彼は柔らかく微笑みながら私に手を差し出してくれている。
いい…のかな。
私は、少し緊張しながら彼の手に近付き、指先にほんの少し額を付けた。
それだけでも、ちょっと不安が溶け出した。
彼の指先の暖かさにホッとしていると、それが不意に離される。
その温もりを名残惜しむ暇もなく、その手は私の首筋に周り優しく背中を撫でられる。
嬉しい。あったかいな。
その喜びの大きさに驚いたけれど、それを上回る嬉しさと撫でてくれる手の暖かさに、私の不安はどんどんかき消されていく。
嬉しくて、嬉しくて。猫である私の喉からは、意識せずともゴロゴロと喜びの証の音が鳴る。
背中を撫でる彼の大きな手にうっとりしていると、突然私の身体が宙に浮く。
彼が私の前足脇から両手を入れて持ち上げたのだ。
突然の事にびっくりはしたけれど、彼は絶対に乱暴な事はしない。
それを知っている私は、彼のなすがままに身体の力を抜いていた。
彼の優しい顔に、私の身体が近付いて行く。
そして私はすとんと彼の膝に降ろされ、またさっきと同じように首筋から背中に掛けて撫でられた。
私は彼の膝に座り、その身を任せていた。
彼は何度も猫の私の背をを撫でながら、柔らかい蕩けるような笑みを浮かべてる。
猫に変わってしまった不安は、もうどこにもなくなった。
話せなくともあなたの笑顔で、掌で心はこんなにも満たされる。
ここが私の、一番安らげるところ。
こんな風に、言葉はなくてもいいから心を通わせていたいな。
目を閉じてそんな幸せを噛み締めていたら、額にふにっと暖かい感触が。
ハッとして目を開くと、視界は彼の頬で埋まっている。
彼が、私の額に頬を寄せたんだ。
微かに見える彼の横顔は、猫の温もりを堪能しているのか心底嬉しそうで、心なしか頬も上気してるみたい。
よかった。あなたも嬉しそうで。
私は溢れ出る想いを伝えようと、彼の頬に何度も顔を擦り寄せる。
あなたが喜んでくれると、私も嬉しい。
高鳴る喉の音。気持ちが伝わるといいな。
すると、ふと彼が真正面から私の目を真っ直ぐ見つめてきた。
その瞳は包み込むように暖かく、ひたすらに真摯な光を灯していた。
「僕は、あなたが愛おしい。あなたと一緒に暮らしてみたい。」
私は、ハッとした。
言葉はなくていい。そんな事をさっきまでは思っていた。
でも。それでも、やっぱり。
元の姿で、その言葉が聞きたい。
あなたが私といることで、大きな喜びを感じてほしい。
そして、それを言葉にしてほしい。
やっぱり私は、とんだ贅沢者だ。
あなたから闇の者と疑いを掛けられてる今の私には、決して手が届かないもの。
それでもその両方が、私の欲しいもの。
私は、彼の瞳を見つめ返した。
心臓が破けそうなくらい、鳴り響いてる。
でも、この姿だから。許してね。
私は彼の頬に一度だけ額を擦り付けて。
そして、猫の舌でその頬を舐めた。
ざらつく部分はなるべく触れないように、そっと。
『…ごめんね。』
私は猫の声でそう呟くと、その手に捕まらないうちにサッと彼の膝から降りて窓へと走った。
「あ…!」
背後で、彼の声がした。
びっくりさせちゃったかな。ほっぺたにあんなことしちゃって…。
窓に飛び乗り、腰を降ろして振り向き彼を見る。
月の光に照らされた彼は追いすがるように私を見つめ、私を撫でていた手をこちらに伸ばしてくれていた。
その想いを、受け取りたい。
けれど、ごめんなさい。猫の姿じゃダメなんだ。
それは、私の本当の望みじゃないから。
身体の奥で、激しい脈動を感じる。
本能で感じる。元の身体に戻れるのだと。
愛おしいと言ってくれて、ありがとう。
その言葉を胸にしまって、これからも咲ってあなたの隣に立っていたいから。
だから。
『また、明日!』
私は最後に彼に告げ、書斎の窓から庭へ駆け出した。
彼に見咎められないよう、身を隠しながら自分の寝室へ走る。
慌てて寝室の窓から部屋に戻れば、その瞬間に身体は元に戻っていた。
それがあなたの望みですか。精々叶うとよいですね。
窓の外、月の光で白く輝く庭。その地の下から声なき声が低く響いたような気がした。
とある冬の話
日曜日
今日は少し肌寒い。
天気は、そうだな。雨が降りそうで降らない曇りといったところか。
いい日だ。
こういう日は決まってこの場所に来たくなる。
ここから1歩踏み出せれば全て終わるのに、
楽になれるのに、
そんなことを考えながら。
___
バイト帰り。
ビルの屋上に君を見つけた。
何かしないと消えてしまいそうで怖かった。
急いで君の元へ向かうと、
驚いた顔でこっちを見る君。
そして、君はいつもいつも大丈夫だという。
そんな言葉を言って欲しいんじゃない。
ただ君の幸せな姿をみれればそれでいいんだ。
君のつらさを僕にも分けてくれればいいのに。
いっそのこと僕が代われればいいのに。
そう思いながらただ隣にいてやることしかできない自分に心底腹が立つ。
ー言葉はいらない、ただ…
毎日一緒に居るからかな
貴方の隣は絶対私で私の隣も絶対貴方
当たり前にくる明日をずっと貴方と過ごしていたい
その確証がないのは、きっと。
明確な言葉じゃなくていい。
ただ手を握り返して明日からも隣を歩いてくれれば
それだけで、
きっとこれから先もあなたがいてくれるってそう、思える
I'll write it later.
お題「言葉はいらない、ただ…」
言葉はいらない、ただ...
些細な喧嘩を友とした。
話し合いで終わるはずだった。
少し高めの土産を持って話し合ってあの時は
悪かったと言うつもりだった。
ところがそうもいかなかった。
茶室へ案内されると思ったが、庭の真ん中に呼び出された。
土産は持っていかれた。
キョロキョロと見渡していると、友がやってきた。
「や、やぁ。」
挨拶をしようとすると友はこちらに真剣を放り投げて来た。
受け止めるやいなや友は真剣で斬りかかってきた。
咄嗟に鞘で受け止め剣を抜き斬りかかる。
「おい!急になんだ!」
問い詰めようと思うが友の構えは緩みもしなかった。
ただ、鞘で刀を受け止めた時に違和感があった。
力が思ったより入ってなかった気がする。
これは真剣による喧嘩...そう受けとっていいのだろうか。
片手に持っていた鞘を放り投げ構える。
友はニヤついて刀を握り直す。
言葉はいらない...ただ...喧嘩するのみだ。
そう言いたそうな友の笑みを見て釣られて笑う。
語り部シルヴァ
✦言葉はいらない✦
言葉はいらないただ寄り添って欲しい。
優しく寄り添ってだた頷いて欲しい。
それだけでも僕は気が軽くなるの。
楽になるの。
重い言葉で僕の想いを傷つけないで。
やっとの事で自分の想いを持ってるの。
悪気はないだろうけど僕にはそう感じる。
だから言葉はいらないただ寄り添って。
お題『言葉はいらない、ただ……』
私はいわゆるお金持ちしか入れない学校に入ったはずだ。渋滞するリムジンと、友達からナチュラルに聞かされるラグジュアリーすぎる海外旅行の話や、家柄の話なんて想定内だ。
裕福な家の出が多いから皆、自分に余裕があって、人にやさしくできる人たちが多いのだと、この学校に入れることを薦めた先生やら親が言っていた。
それははっきり嘘だと断言しよう。
今、私が目の当たりにしているのは男子のみで構成されている二つのグループが校庭で向かい合っているところだ。しかもその様は穏やかではない。
私が入学した時、なぜだか知らないが二つの大きな派閥ができていて、その二グループが学校を牛耳っているのだと内部進学生の友達から聞かされた。しかもそのグループは双方仲が悪いとのこと。
派閥とか、牛耳るとかなんだよとか笑ってたら、そのグループに所属している同級生の男子にわざと肩をぶつけられて舌打ちされたのを覚えている。なんで分かったかというと、派閥に所属している生徒は皆、腕章をつけているのだ。
それでおっかなくて、比較的庶民である私は日陰に隠れようと決意したのである。
それが今、どういうことか。二つのグループが決闘を始めるらしいじゃないか。誰にも止められないのは派閥のリーダーが二人共、某財閥の跡取り息子であるからだ。学校に多額の資金を援助している。だから誰も何も言わないのだ。
しかもその財閥同士は、世間的にライバル関係であると知られている。
私含むヤジウマ達がその様子をうかがっていると、赤い腕章をつけている背が高く筋肉質な派閥のリーダーがマイクを手に取った。立っているだけで王者の風格を感じる。たとえるなら獅子。
「なぁ、分かってるよなぁ?」
ここはヤンキー漫画の世界なのかと勘違いしたくなるような喋り方に思わず困惑する。
一方、クールな佇まいをしている青い腕章をつけた容姿端麗な派閥のリーダーが拳を握る。こちらも違う意味で風格を感じる。たとえるなら龍。
「あぁ。僕達の間に言葉はいらない。ただ、どちらがこの学校を支配するに値するか決着をつけようじゃないか」
「ハッ、お喋りな野郎だなァ!」
瞬間、赤い腕章のリーダーの姿が消えたかと思うと、青い腕章のリーダーに迫っていた。だが、彼は赤い腕章のリーダーの拳を素手で受け止める。
そこから他のメンバー達が合戦だー! と言わんばかりに殴り合いが勃発した。
周囲はそのあまりの世界観を間違えた地獄絵図ぶりに地面に膝をつくもの、気絶する者、私のように呆然と立ち尽くしている者、中にはあの中に推しがいるのだろう、しきりに名前を叫びながらうちわを振っている女子生徒がいたりした。
(おとうさん、おかあさん、わたし、学校転校してもいいかな……?)
あまりのカオスな光景に私はこんなことを頭に浮かべていた。
言葉はいらない、ただ・・・君の事を抱きしめさせて欲しい……
『言葉はいらない、ただ・・・』
部屋のドアをあけるとそこにいたのは傷だらけになった彼だった。どこから帰ってきたのかはわからないし、何があったのか誰にやられたのか、問うてはみたが彼はただ悔しさを滲ませて押し黙っている。なんだか小さなこどものようだ。そう思ってしまったので彼に寄り添って抱きしめるのも自然なことに思えた。腕の中で驚いて固まったのはしばしのことで、それから間もなく彼は静かに震えて泣いていた。
もういい、とぶっきらぼうな声が聞こえて体を離すといつもどおりになった彼がいた。なかなか視線が合わないのを微笑ましく思いつつ、傷の手当のために彼を部屋へと招き入れた。
ただ見つめる
ただそばにいる
ただ愛で包み込む
ただ寄り添う
ただ今ここにいる
言葉はいらない、ただ…
私は言葉が欲しかった。
愛してるよ
可愛いね
お前が1番大事
お前は望まれて生まれてきたんだよ
時にはハグを
時には手を繋いで
優しい眼差し
微笑み
そのどれも
与えられなかった。
私はカンの良い
可愛いくない子供だったから
与えられない と悟るや
求めもしなかった。
思う
幼いあの頃
足で大地を踏んで
両手を握りしめ
肩を戦慄(わなな)かせ
まなじりには涙さえ浮かべ
なんで私を放っておくの⁉︎
私を見てよ!
そう訴えれば何か変わったのか と
わからない
わからないが ただ 今
幼い私を切なく思う
愛おしく思う
言葉はいらない、ただ・・・
1曲だけのステップを・・・
わたしはめがみえない
みみもきこえないし
しゃべれない
もうろうだ
だからこのもじも じつはもじではない
ねんでかいている
いや かいてもいない
ねんをとうしゃしているだけだ
わたしのねんが ぐげんかされて
もじとしてみえているだけだ
そもそも もじやことばなど このよにはそんざいしない
もじとことばという がいねんがあるにすぎない
だからことばとは もじとは
ねっこをたどればひとのおもいであり
ねんなのだ
たとえばなにかいやなことがあったひとはみればわかるし
ことばはいらない
つづく
あとで更新
『言葉はいらない、ただ・・・』
私はあなたの前から去ります。
さようならも、ありがとうも、ごめんなさいも。
全部いりません。
あなたの行く末に私がいなくとも
多幸に恵まれますよう遠い地で祈っています。
ご武運を。
『言葉はいらない、ただ・・・』