安達 リョウ

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言葉はいらない、ただ…(失恋の先には)


彼が出て行った教室で、わたしは一人立ち尽くしていた。

―――放課後、とうに授業は終わりグラウンドでは部活の皆の賑やかしい声が聞こえてくる。
わたしはそちらを見ようともせず、ただ虚ろに佇んでいた。………動けなかったから。
ひとつの恋が終わる瞬間はあっけなく、後に何も残らない。
ぽっかりと穴が空いたわたしの心は空洞そのもので、虚無、の二文字に尽きた。

片想いとはつくづく恐ろしい。
少なからず自信があったのだ、というかある程度確信がなければこんなリスクの高い賭けに勝負を挑まない。まさか、だった。
驕っていたんだろうな。彼の一挙一動に盲目になっていた。―――うん。そう思って、出直すしかない。

………明日から、気まずい………な。

こうなればそうなることは明白だったけれど。
自分で撒いた種。受け入れるしかない。

―――後ろのドアの引き開けられた音に、わたしは振り返る。
告白の選択に太鼓判と背中を押してくれたひと。
笑顔で送り出してくれた彼女に申し訳無さが募る。

先に明るく振る舞おうと口を開きかけたが、彼女はわたしに大股で近寄るとがばりと両手で体を包み込んだ。
戸惑うわたしに、

「―――」

そう耳元で囁かれた言葉に胸が詰まりそうになる。

………目頭が熱くなって、誤魔化すようにわたしは何度も頷いた。
回された手が柔らかく背中を叩く。優しさの塊が、虚無だった心を癒やしていくのがわかる。
わたしも緩やかに、そっと彼女を抱き締め返した。

―――明日から、また普通にこの教室に来よう。
彼にも彼女にも、胸を張って。堂々と。
そして今日家に帰ったら、よくやったと腐るほど自分を褒めてやるのだ。

ひとつの恋の終わりを知ったわたしに、
今は労る言葉以外何も思いつかなかった。


END.

8/30/2024, 5:04:21 AM