『蝶よ花よ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
花よ
美しく咲け
春には桜を
夏には向日葵を
秋には秋桜を
冬には水仙を
季節を美しく飾っておくれ
蝶よ
優雅に舞え
誰にも負けない優雅な舞いで
美しく咲く花を
より美しい絵にしておくれ
蝶よ花よ
「僕はね、気付いてしまったんだな」
場末の居酒屋に男が二人、そこそこ身綺麗な出で立ちで並び座っていた。時計の針はとうに0時を通り越している。
二人は旧知のなかであり、大人になっても時折連絡を取り合って飲み明かすことがあった。今回の会合も、彼からの呼び掛けから開催されたものだったが最近は二人とも多忙であり、中々都合をつけることが出来なかったため、久しぶりの開催であった。そういう訳で、酒もそこそこに話に花を咲かせていたがお互い酒にそこまで強くもないため、それなりには酔いがまわっていた。そんななかにぼそりと呟かれたそれは、どこか剣呑な雰囲気を漂わせており、男はそれとなく居住まいを正した。
「どうしたんだ、そんな深刻そうに。」
酒が入れば次第に気が緩む。飲み交わす相手が親しい中であれば尚のこと。そうすると口は自然と悩みを零し、飲み会が相談会となることはよくある流れであった。男は慣れたように話の続きを促す。普段であれば流暢に言葉を紡ぐ口は、今回は何かを躊躇うようにもごつかせていた。
「僕らの仲じゃないか、今更何を言われたって突き放しなんかしないさ、なぁ」
しばらく躊躇った後、ようやくゆるゆると話しだした。
「僕は妻のことをとても大事に思っている。僕には勿体ないぐらいの人だ。だからできる限り幸せにする義務があって、僕はそれを全うしてきたつもりだ。」
「君たち夫婦のことはよく知っているよ、君がどれほどあの子を大切にしてるかも。何だい、彼女と喧嘩でもしたのか」
「いや、いや。彼女とはなにも。」
「これは、僕自身の問題なんだ。」
そこから彼の口はせき止めるものがなくなったようにとめどなく言葉を吐き続けた。彼は彼なりに、妻のことを大切に扱ってきたが、それと同じように妻からも愛されている自覚があった。穏やかな愛に浸った生活は幸福で、夢のようであったと。けれど、妻のお腹に子供が出来てからある考えが頭をよぎるようになったという。それは彼の学生時代の記憶に起因している。自分たちの学生時代はインターネットが主流になり始めた頃で、思春期特有の万能感や特別感に飢えた衝動のまま、中身のないハリボテな言葉たちを我がもののように振り回した。そのなかでもよく使っていたのが親ガチャという言葉だった。成績がのびないのも、欲しいものが買えないのも、容姿がいまいち冴えないのも全て生まれのせいにした。そうすれば、自分に非がないと思い込めたから。欲しいものが手に入らないのを自分の力不足ではなく、誰かのせいにできたから。けれども彼は気付いてしまった。大人になった自分たちが、今度はそれを言われる側になることを。大切にしたい誰かに同じだけとはいえなくても、想いを返されない悲しみを知ってしまった。
「嫁の腹はどんどん膨れていく。僕は、本当に親になれるのだろうか。その子にとって、いい親に」
ぽつりぽつりと視線を揺らしながら呟く姿に、男は何も言えなかった。最近彼が多忙にしている理由が仕事だけでなく、妻をサポートするために色々と手を回していたからだというのを思い出しながら、男の脳裏には昔の自分たちの様々な言動がぐるぐると渦を巻いていた。
「生まれなければよかったなんて、言わせたくないし、言われたくないんだ」
とうとう彼の口もそれ以降開くことはなく、二人は重い沈黙に閉ざされてしまった。
夜の街の喧騒が、幕を隔てたように響いていた。
どこまでも僕を飛ばしておくれ。僕を巻き込んで、イカロスのように太陽に向かってくれたら。
あの綺麗な羽を持つマドンナは多分イカロスよりもはるかに小さい。ただ、内に秘めた野望は同じくらい大きいのだろう。
美しい蝶よ。この地平にひっついて枯れる運命の私を、どうか連れていっておくれ。この哀れな花弁を。
〈蝶よ花よ〉2023/8.9
No.16
彼女はまさに僕が憧れた"名家のお嬢様"だった。
さらさら揺れるブロンドの髪、ほんの少しだけタレ目がちのパウダーブルーの瞳、白く透き通るような肌。
顔にはいつも笑みを浮かべていた。
対して僕は微かに紫かかった黒髪に彼女からワントーン程落ちた色の碧眼。
顔にはいつも貼り付けられた笑みが浮かんでいる。
僕より彼女の方がよっぽどうちの家にふさわしい、生まれる場所が逆だったように思えた。
「無題」
あなたが離れて約半年
私の愛は眠れぬ夜を連れてくるほど黒ずんでいき、
いつでもあなたの顔と声と2度と戻らぬ愛を欲する
怪物となりました。
あなたのLINEの幸せそうなプロフィール画像も
私の心を癒す一部であり、私を縫い付けて
離れられない呪縛になりました。
言葉では「あなたが幸せなら」など
綺麗事を並べ続けますが私はあなたのように綺麗な心を持ち合わせていないのでとても息苦しくて、
この苦しさをあなたに共有させようとする障害です。
どうかまだあなたの幸せを願う綺麗な私のままで
あなたを見送りたい。
そしてあなたがまだ好きでいてくれた私の姿で
目の前から消え去りたい。
5人目にして初めての女の子。しかも年の離れた末っ子。
両親も4人の兄たちも、それはそれはもう大喜び。
蝶よ花よと可愛がられた女の子は、その立場に甘んじること無く教養を積み、才色兼備の素晴らしい女性へと成長した。
当然、世の男性陣がそんな彼女をみすみす放っておくわけもなく、いついかなる時にも引く手数多だった。
しかし、そこにいつだって立ちはだかったのは父親と4人の兄たちだった。 "娘にはもっと相応しい男がいる" と恋文を破り捨て、 "妹に手を出す輩は許さん" と逢瀬に来た者を追い返た。彼女に言い寄る男たちを悪い虫と言わんばかりの酷い態度で追い払い続けたのだ。
母だけは、娘の行く末を案じてくれていたが、それも父や兄たちの耳には届かなかった。いつしか、言い寄ってくる男は誰もいなくなってしまった。
両親も兄たちも鬼籍に入ってしまった今、私は本当に一人になってしまった。父も兄も、これで満足なのだろうか。あの頃、父や兄たちをきちんと説得出来ていたら、未来は変わっていたかもしれない。最近はこうして、詮ないことばかりを考えてしまう。
家の前を若人たちが "ここのお婆さん、ずっと独り身でご近所付き合いもほとんど無いんだって" と言いながら通り過ぎて行く。
「そうさね。箱入りなものでね。」と独りごちた。
―――箱入り婆
#36【蝶よ花よ】
ああ、可愛いあの子。
長い手足。
珠のような瞳。
絹織物のような肌。
どれもこれもが美しい。
わたしが手塩にかけて作った罠に、かかった子。
誰にも渡したくない。
そう、誰かに渡してしまうくらいなら。
誰かのもとへ飛び立ってしまうくらいなら――。
「わたしが食べてしまいましょう」
/『蝶よ花よ』8/8
彼の密なんて吸わせない。
彼女はとても静かで、しとやかで綺麗な人だった。
そんな彼女と仲の良いわたしは、彼女が褒められると自分のことのように嬉しく、鼻が高かった。
勉強もでき、みなの和を乱さず、一歩引いているまさに“淑女”。
彼女は、周囲から月のような人だと言われていた。
けれど、わたしはどうしても周囲のその反応にだけは肯くことが出来なかった。
なぜなら、わたしには彼女が太陽のように感じられていたからだ。
わたしが誰かと話している時。特に男子と話している時。
そういった時は、だいたい彼女が他の誰かといる時なのだが、そうしてわたしが他の誰かと――彼女以外といる時。彼女は見てくるのだ。
じぃっと。彼女が話しているその人の影からじぃっとわたしを見つめてくるのだ。
それはもうじりじりと真夏の太陽のように。
木陰の隙間から涼むことを許さない陽光のように。
その瞳に射抜かれるとわたしは、ジュッとやけどをしたような気になる。
(誰が月下美人だ)
そして密かに恨むのだ。彼女を静かな月のようだと言った人を。
嘘だ。彼女は月の仮面をかぶった獰猛な太陽そのものだ。
/8/6『太陽』
そんな彼女を嫌いになれない“わたし”も、星にはなれない。
蝶よ花よ
と
育てられていたなら
生意気で
高慢ちきな
人間になっていたかも
と
思ったりする
こんな私の事だから
でも
せめて
望まれて
生まれていたなら
少しは
自分
愛せていたのかな
って
時々
思うのよ
「蝶よ花よ」
花を待たせない蝶でありなさい
蝶を惹きつける花でありなさい
蝶よ花よ、今日も美しく
すべては綺麗だと思わないか?
人の顔以外こんなに綺麗なんだ
もっと綺麗な物を見るべきだ
蝶よ花よ夢を
なぜ見なくなった
見た方が幸せじゃないか
綺麗な物はこんなに広がっているのに
目に見える幸せを知っているじゃないか君は
蝶よ花よと愛でられているうちに、あなたを好きだと言えばよかった
そうすれば、きっと断れなかったでしょう?
『蝶よ花よ』
綺麗ね
本当に綺麗
儚い
本当に儚い
ずっとそこにいられるわけじゃない
ずっと同じ蝶でも
ずっと同じ花でもない
綺麗で儚い
蝶よ花よ
私は遊郭で生まれた。
名前は、蝶蘭
神は、私にこの世のものではない美貌と知識を与えた。
私は男共を相手にするがたいていの奴は銭が足りず労働者として働いている。
私はある時子供を身ごもってしまった。
それは名家の跡取り息子とのこどもだった。
だが仕事には変えられない、私は子供を下ろした。
子供が好きな私にはとてもつらいことだった。
子供は女の子だった、妹を思いだした。
妹の名前は花、私達は二人で一つだった。
花は私になければいけなくて私は花になければいけないものだったから。
花が咲き誇ろうとしたとき、枯れてしまった。
その事実を知ったとき心がへし折れた。
私よりも、美しくて、純粋で、すべてが美しくて、遊郭ナンバーワンになれるといわれ続けてきた。
遊郭の蝶と花だった。
だが、死んだから、私がナンバーワンになった。
あの子がとるべきだったものをとってしまった罪悪感で逃げ出しくなった。
それで、現世というなの場所を逃げ出した。
後日
蝶蘭は薬を飲んでしんでいた。
死んでもなお、美しかった。
妹は醜くい遺体だった。
心の美しさが死体にでると私は実感した。
貴方と私は「蝶」と「花」。
その場から動けない私を求めるように、貴方は何時もここに来る。
毎日毎日私の元へ来ては、私のミツを吸って帰って行く。
そんな貴方を、何時しか嫌いになってしまっていた。
何も与えられることのない私から、貴方は毎日吸い取って行く。
私には何もないのに、何も残らないのに。
前は好きだった貴方の笑顔が、今や憎くて仕方がない。
けれど、貴方はきっとそんなことは知らず、また私の元へやって来るのでしょう。
ねぇ。知ってる?私ね、もうすぐ枯れるのよ?
もうすぐ、貴方に会えなくなるのよ?
そう言ってしまえば楽なのに。何故か貴方を目の前にすると、言葉が出ないの。
言おうとすると、心が苦しくなるの。
嗚呼、どうして今気が付いてしまうの。
どうして、今の今まで憎たらしかった貴方に、会いたくなってしまうの。
嗚呼、これが「恋」ってものなのね。
これが、貴方が私に熱弁していたものなのね。
ごめんなさい。私、貴方が好きよ。でもきっと、言えぬままなのね。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
美しい「蝶」の貴方は、最後まで美しく生きて。
君は父親の名を知らないと言った。母親の顔もよく覚えていないと言った。それでも愛することを忘れなかった。一輪の花に止まる蝶の儚く尊いことを、そして花は何度でも芽吹き、蝶は再び蛹から蘇ることを知っていたから。
#蝶よ花よ
「お姉っちゃん! 見て見て、またママが買ってくれたの」
そう言って妹は、わたしが欲しいものを見せた。
「お姉ちゃん、買って貰えなくてかわいそ! やっぱりさ、ママの言う通り、"出来の悪い子"は与えられないんだから、お姉ちゃんも頑張ってね」
妹の精一杯の励みの言葉は、少しひねくれていて、母の思想を受け継いだものだと実感する。受け継ぐことができなかったわたしが淘汰されるのは当然のこと。
自分に思想が似ているものを好み、異なった価値観を持つものを排除する。妹だけを愛でて、わたしには形だけの世話をする。わたしを、可哀相だと、不当だと思う人間も在るだろう。ただ、わたしはもう愛でられることを嫌悪してしまうから、妹が不憫で不憫で仕方なくなる。
自分が受けた子育てを、そのまま我が子にする人がほとんどだと言う。母はきっと、区別される子育てを受けたのであろう。どちらの立場かは知る由もないが。
「お姉ちゃん? どうしてそんなに行動しないの? ママに睨まれちゃうよ。わたしママには笑ってほしいんだけど、お姉ちゃんはそう思わないの?」
親に無駄に甘やかされて育った人間が、大人になれる気がしないのは、わたしだけだろうか。程よく愛でられるのは非常に快いものではあるが、妹に対する母のそれは、過剰であるように感じてしまう。
それでも、わたしは母に愛でてほしいと偶に思ってしまうのだ。
#蝶よ花よ
蝶よ花よ
高校三年の夏は暑さで前も見えない。
空はカンカン照りで、わたしの黒髪を痛めつける。
オシャレでも出来たら、外に出てもいい気持ちになるかもしれない。自信のなさから服を着る勇気が無くなってきた。
"ネット恋愛なんて、だめだよね。会ったこともない人好きになっちゃった。彼に会えるわたしになれてないよ。"
不貞腐れ、萎むわたしを見て、負のオーラを嗅ぎつけた猫が、体を擦り寄せてきた。柔らかい肌触りと、ただただ無垢な愛を感じ、ひたすらに涙を零した。
今のわたしは、明日のわたしに期待をすることはできない。きっと変わらずわたしは今日の私のままなんだろう。いつかこの涙が、わたしに染み込んで綺麗になれたらいいと思う。蝶よ、来てくれてありがとう。
【ただの日記】
最近ちょっと事情があって、メンタルがぼろぼろずばばばばーんってなりがちだったんですけど、自分の心を蝶よ花よと育てることもきっと大切なことなのではと思う今日この頃です。美味しいもの食べたりね(ご飯最高!)、きれいなもの見たりだとか。私は本屋に行くのが好きです(急な自己語り)。本屋ってなんか落ち着くんですよねー昔から常に家に本がいっぱいあったからかな?
話が脱線しましたが、まーね、疲れてたら休むっていうのが1番いいって言いますよね。しかししかし私いつも休むってなるとあぁみんなは一生懸命やってるのに自分はだめだなぁって思っちゃうんですよね(仲間だったら握手!!)。でも最近思ったんですよ。私から見た他人は他人であって、私が「他人はこうなのにー…うおうお…」って考えても私の自己自体は何も変わらないんですよね。他人って憧れって感じであって(素晴らしい人っていっぱいいるよね)自分と比べるべき対象ではないのではって最近思いました(この人すごいなーって素直な気持ちでみる。けど自分の内にも同じものを無理には入れなくていいみたいな感じ)。うーん感情を日本語にまとめるって難しい……まあ、最近思ったことでした!
蝶よ花よ、そんなことは望まないから。
せめて少しの愛情だけでも欲しかった。
……まあお手本のような毒親との母子家庭だった俺は、あの女が逮捕されるまで口にするのも憚られる虐待をされていたんだけれど。
心の拠り所だった幼馴染みに助けられて、精神的にも回復したと思った矢先、アンタは俺達の輪の中にすんなりと入ってきて。
嗚呼、いや、それだけなら良かった。別にアンタのことは嫌いじゃなかったから。
でも。
クリスマスの日、何気なく作ったカップケーキを渡したとき、彼女は酷く喜んで。
そして誰よりも、何よりも酷いことを言った。
「ありがとう。……なんだか、サンタさんみたいだね」
自分は貧乏だったから、サンタなんて来たことない、と。
ふざけんな。
俺だって来たことねぇよ。
そこそこ金持ちの俺の家とは対照的に、彼女は貧乏な家系の生まれだった。
けれど、それでも。アンタは愛されてる。いくら生活が苦しくたって、家族からの愛を知ってる。
金持ちの家で育ったけれど、俺はそんなの知らないから。…だから。
それがどれ程幸せなことなのか、蝶よ花よと大事にされてきたアンタには分かんないんだろうな。
自虐気味に笑う彼女を、あくまでも少しだけ、憎しみの籠った目で睨み付けた。