夜雨と春歌

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【蝶よ花よ】



「鳶が鷹を生んだと持て囃されて、蝶よ花よと育てられて期待されて、蛙の子は蛙だったって諦められて。おれはただ、ひとでいたかったよ」

 自分の膝に顔をうずめて小さく丸まる夜雨の背中を、肩を、頭を、そろりそろりと何度も撫でる。隣に座ってぴたりとくっついて、ただひたすらにゆっくりと撫でる。
 人の形を失いやすいこの人の、輪郭はここだと教えてあげたかった。あなたはひとだと、ひとのかたちをしているのだと、気づかせてあげたかった。
 傷つきうずくまるこの人は、蝶でなくとも花でなくともただ、春歌の大事なひとだった。

8/8/2023, 3:32:55 PM